凶悪犯罪者バトルロイヤル 第94話

「よしたまえ。騒ぎを大きくしたって、いいことは何もないぞ。君たちも早く帰りたいのだろう?」

 グランドマスターはそう言って、頭から湯気を飛ばす宅間守を抑えた。彼らの争いに興味はあるが、今日、二人を引っ立てたのは、それが理由ではない。彼らの戦いはあくまで、湿度高いあの町の中で行われなければならない。

「確認をさせてもらう。宅間くん。君は、アカギ青年が起こそうとしている事件の計画を、事前に聞かされ知っていた。そのときは冗談だと思って、けしかけるようなことを言ってみたりもしたが、まさか本当にやるとは思わなかった。事件当日、君があの場所にいたのは、あくまで偶然である。それでいいね?」

「・・よくできた作文やの。最優秀賞を授与したるわ」

 宅間が、肩を振るわせて笑う。

「A・Sくん。君も、何らかの方法で、アカギ青年が事件を起こすことは、事前に知っていた。匿名のメールを利用してアイデアまで持ちかけたが、それは君の便利屋の宣伝目的のダイレクトメールだった。アカギ青年が事件現場に乗ってきた車両、及び、逃走車両を運転したのは、便利屋として、客の依頼に答えただけである。これでいいね?」

「そういうこーとーに、しておーけばー。PUFFY、好きやったなー」

「・・わかった。あとは、私のほうでなんとかしておく。二人とも、ご苦労だったな」

 頭が痛い。まったく、頭が痛い。

 不思議な話がある。働きアリの中には、三割程度の割合で、まったく働かないアリがいるそうだが、その怠け者のアリだけで新しい群れを作ると、七割のアリが急に働きだし、逆に、働くアリだけで群れを作ると、三割のアリが急に働かなくなる、というデータである。

 刑務所でも、同じことがいえる。娑婆で同じような犯罪を起こして刑務所に入れられたはずの受刑者が、なぜか刑務所の中では、仮出所を早く勝ち取る模範囚と、懲罰ばかりを繰り返して満期出所になる受刑者に分かれてしまう、ということだ。

 バトルロイヤル参加者にも、同じ現象が起きている。真面目にカタギの仕事をし、怪しい人物と付き合ったりしない優等生と、働きもせず(能力や適性の問題もあろうが)、シャバでも悪さを繰り返す問題児に分かれ出している。前者の代表が、加藤智大、市橋達也、N。後者の代表が、宅間守、A、宮崎勤である。

 頭が痛い。まったく、頭が痛い。ここで彼らを甘やかせば、のちのち、もっと大きな事件を引き起こしたりはしないか。だが、宅間とAは、ここで処分するにはあまりに惜しい人材である。線引きというのは、まことに難しい。

「マスター、大変です」

 秘書のアヤメが、突然、ノートパソコンを持って、取調室に入ってきた。

「こんなものが・・」

 PCの画面に映し出されていたのは、YouTubeの動画。現場からの逃走にまんまと成功し、どこかに潜んでいるらしい、アカギであった。

「一億三千万の国民のみなさん、こんばんは。俺がアカギだ。いきなりだが、俺はあんたらに失望している。特アや前政権を敵に仕立て、過激な言動をとることで国民を昂揚させ、それによって国内の経済問題の不備を誤魔化して、弱者からの搾取を正当化する法律をしれっと実現させようとしている現政権を支持し、票を与えたあんたらにね。勝ち組は仕方ない。だが、負け組のくせに現政権に投票したあんたら、バカじゃないのか?本当に、失望したよ」

 演説をぶつアカギ。ボイストレーニングでも受けたのか、その声はよく通り、表情、仕草や照明効果も、よく計算されている。そして、映像を通しても伝わってくる、年に似合わない独特の風格。これを無知な衆愚が目にしたら、コロッといってしまうかもしれない。

「バカなあんたらの目を覚ますために、俺は聖戦を展開する。お台場での事件は、その初戦にすぎない。もっとでかい花火を、これから上げてやる。俺の目的は、現政権の転覆。そして、今から読み上げるブラック企業の覆滅だ」

 画面の中のアカギが、独自に編纂したらしい「ブラック企業リスト」を読み上げ始めた。「ク夕三」「ユ二ワ口」を筆頭に、過労死やそれに準ずる労働災害を起こした企業の名が、百も読み上げられる。この中に、メディアが報じている、アカギの父親の命を奪った企業も含まれているのだろうか。

「これから、今のリストに上がった企業の重役を、無差別に殺す。片っ端から殺す。生きている価値もない人でなしを、この世から駆除してやるんだ。バカなあんたらが何を言おうが、俺はやる。人でなしどもの血の一滴が枯れるまで、殺し続ける。俺は捕まらない。目的を達成するまではな。人でなしのみなさん。夜道を歩くときは、せいぜい後ろに気を付けることだ」

 言ってアカギは、撮影機材を爆弾で吹っ飛ばした。パフォーマンスのためだろうが、それだけ軍資金に余力があるということだ。これはなにか、もっと大きな政治的勢力が、彼の味方をしているのかもしれない。

「ふふっ・・。ふははははははははははぁっ!」

 音声で今の演説を聞いていた宅間守が、けたたましい笑い声を上げ始めた。

「はっははは。ああおもろい。貴様ら金持ちが貧乏人をイジメすぎた結果がこれや!ざまあみさらせ!ああおもろい!貧乏人から富を奪い去れば、代償に命を奪われることを、とくと思いしれや!」

 宅間の口舌から迸る邪悪な気に、それなりに修羅場を潜り抜けてきたつもりのグランドマスターも、圧倒される。

 あの事件から、十二年の月日が流れた。しかし、事件は風化せず、この男の怨嗟は、二十一歳の若者に火をつけ、その業火は日本中を飲み込もうとしている。

 おそらく、今後しばらくの間は、一国の総理大臣以上に有名な名前となるだろうアカギの起こす事件は、大会の趨勢にも何らかの影響を及ぼすに違いない。

 頭が痛い。だが、どこか楽しみな気もする―――。

「宅間くんとAくんを、車の方へ。彼らの希望する場所で降ろしてあげてくれ」

 グランドマスターが配下に命じ、宅間とAが護送されていった。これから、政府への釈明を行わなければならない。手間ではある。が、彼らのため、自分の何よりの楽しみのため、労力を惜しんではいられない。

 グランドマスターは、最近はまっている「ファンタ・グレープ味」を飲んで喉を潤したのち、受話器を取った。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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