凶悪犯罪者バトルロイヤル 第93話

 S県の山中―――。
 ここに、バトルロイヤル参加者の研修施設、及び、大会運営における第一支部がある。
 
 クローン技術により現代に復活した参加者たちは、ここで一年間の研修を経て、蘇った脳に、生前の記憶を叩き込まれるのである。無論、各参加者には個室が用意されており、大会前に顔を合わせるような手違いは起きてはいない。

 参加者たちの生前の情報については、委員会のリサーチチームが総力を上げて調べ上げ、可能な限り忠実に復元するようには務めた。が、やはり限界はあり、古い参加者、特に資料が少ない比較的マイナーな参加者については、どうしても完璧とはいかなかった。

 が。今、グランドマスターの目の前で、鋼鉄の椅子に縛りつけられている男は違う。

 男が罪を犯したのは、クローン復帰者の中でも新しい部類の、今から12年前。事件の余波は大きく、男に関する書籍の数は100を超え、資料も豊富である。男の記憶を復元するのには、労力らしい労力はほとんど費やさなかった。

 男の名は、宅間守。現在、参加者中最多、四人の命を奪っている男である。

「おう、おっさん。久々やのう」

 委員会の戦闘員によってアイマスクを取られた宅間が、グランドマスターの姿を確認し、不敵な笑みを浮かべて言った。

「おっさん、か・・。私は実年齢では、君よりも若いのだがね。まあいい。とにかく、今日、私は、君から色々な話を聞かなければならない。わかっていると思うが、君が面倒を見ていた、アカギという青年が起こした事件に、君がどこまで関わっていたかについて、だ」

「殺すなら殺せや。どうせオマケの人生や。ヤルことはしっかりヤッたし、悔いはない。死ぬことは、びびってない」

「そう結論を急ぐな。私とて、穏便に済むのならそうしたいのだ。だが、アカギ青年が命を奪った高校生カップルの両親は、政府の要人でね。知っての通り、政府の関係者には、大会の情報は伝えてある。君が犯行現場の近くで間中くんを殺してしまったものだから、彼らに関連を疑われてしまったんだよ」

「なんや。ほんで、ワシがあの小僧をけしかけたのを知られてしもうたんか」

「いや。まだそこまでは、把握してはいないようだ。それに、君の言動自体、教唆になるかは微妙なところだしね。ともかく、彼らに弁明するためにも、事実関係を明らかにしておきたいんだよ」

 厄介なことになってしまった。こんなことなら、宅間が大田区にて「授業」を始めた段階で、注意を促しておけばよかったと思う。まあ、あの青年――アカギの世間への憎悪は、宅間に出会った時点ですでに燃え盛っていたのであり、宅間はそれに、ほんの少し油を注いだに過ぎないのだが。

「事実関係、ねえ・・」

 くっくっくっ、と、癇に障る笑い声を漏らし始めたのは、宅間の隣で、やはり同じように鋼鉄の椅子に縛り付けられている、途中参加の参加者―――A・Sである。

「僕が、仕事を終えて寛いでいるところをいきなり乱暴な扱いされて、犬を引っ張るようにここに連れてこられたのも、何らかの事実関係を確かめるためですか?」

「そういうことだな。アカギ青年が逃走の際に、君が乗ってきた車を使用したことと、君が現場から立ち去る際に、アカギ青年が乗ってきた車を使用したこと。これについて、納得のいく説明をしてもらいたいものだな」

「場合によっては、死刑もありうる、と?」

「いいから、早く答えたまえ」

 なにかこちらを弄ぶような口調。加藤智大がこの男を毛嫌いするのも、わかる気がする。

「大したことやあらへんですよ。僕が彼に車の代行運転を頼まれた。新しい車を持ってきてほしい。そして、自分が乗ってきた車を回収してほしい。便利屋として、その依頼に応えただけです」

「・・それで話が通るとでも?私の情報が正しければ、アカギ青年に車両を交換するアイデアを持ちかけたのは、どうやら君のようなんだがね。匿名のメールでそれを伝えたようだが、発信記録を調べれば、だれが送ったかなんてすぐわかるんだよ。君は、アカギ青年の企みを、何らかの方法で事前に知っていたね?」

「そんなぁ~、人聞きの悪い・・といいたいとこやけど、マスターさんを騙せるとは思えんし、素直に白状しますか。確かに僕は、彼の企みを知っとりました。どうやって知ったかについては、企業秘密ということにさせてください。まあ、しかし、胸が躍りましたわ。これは、十数年前、僕や、隣におる、宅間の兄さんが起こした事件以来の祭りになるってね」

 Aが、隣に座る宅間に視線を投げた。

「まあ、案の定、あの騒ぎですわ。ネットもテレビも新聞も、あの事件の話題で持ち切りでしょ。ちょっと小細工かまして、うちのNちゃんと彼の約束を妨害して、ホンマよかったですわ。ねえ、兄さん」

「・・あ?」

「いやー、見てましたで。うちのNちゃんと、兄さんの立ち合い。鬼神の強さとは、ああいうのを言うんやなあと、感心しましたわ。本当なら、加藤智大くんもあの場に呼びたかったんやけど、万が一、松永さんとこの王子様を傷物にしてしまったら、僕がシバかれてしまうんでね。今後の楽しみにしときますわ」

「何をごちゃごちゃいうとるんや、貴様!」

 関西出身の大物犯罪者二人の間に、一触即発の空気が流れる。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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