凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十三話

 加藤智大は、重信房子、松永太、正田昭とともに、タクシーに乗り込んだ。

「前上さんが、人材を発見したそうです。渡辺清です」

 松永さんが、僕たちに出動の理由を告げた。

 参加者名鑑を捲る。渡辺清・・・・60年代に起きた、娼婦連続殺傷事件の犯人だ。

「役に立ちそうかしら」

 重信さんが問う。

「そうですね。若いですから、戦闘力はそれなりにあるでしょう。ただ、データを見る限りでは、社会性がかなり低そうですが・・。まあ今は猫の手も借りたい時期ですから、一応、会って話してはみます。不要だと判断したら、殺して金を奪い取りましょう」

 拳に力が入った。殺すとなれば、僕の出番だ。

 先日、ついにバトルロイヤル参加者に死亡者が出たとの知らせが、携帯のメールで届いた。死んだのは、仙台老夫婦強殺事件の堀江守男と、ラブホテル殺人事件の藤島光雄。戦いのうねりの中に、僕はもう確実に巻き込まれているのだ。

 重信さんがチームに加入してから今まで、僕は彼女からマンツーマンでの戦闘訓練を受けている。授業は武器の基礎知識、フォーメーションなどの座学に始まり、白兵戦の実習、銃撃戦の実習、筋力トレーニングと、みっちり五時間続く。もともと体力には自信があった方だけど、ここ最近、身体が一層引き締まってきたような気がする。

「加藤君。エネルギーを補給しておきなさい」

「は、はい」

 僕は重信さんに命ぜられ、シザーバッグからカロリーメイトを2本取り出して食した。これから殺し合いをするかもしれないということで神経は昂ぶっており、正直、食欲はまったくなかったが、さっきまで激しいトレーニングをして疲労した身体では、100%の力は発揮できない。栄養補給と休息、適度なストレス発散は、鍛錬にも増して重要だと、重信さんは言っている。

 「あの人」は、僕を擦り減らすだけで、安らぎを与えてはくれなかった。幼少期は娯楽も規制され、床にぶちまけられた食事を食べさせられたこともある。重信さんは違う。常に僕のことを考え、僕がベストの力を発揮できるようにしてくれる。彼女の気持ちに、応えなくてはならない。

「到着したようね。いきましょう」

 僕たち四人は車から降り、マンションの螺旋階段から、小さな児童公園の様子を双眼鏡で伺っていた前上さんと合流した。ベンチに腰掛けてタバコを吸っている風体の悪い男が、渡辺清らしい。

「作戦を確認します。大勢で行っては相手を刺激してしまいますから、まず、松永さんと加藤君が二人で行って交渉にあたる。仲間に引き入れられればそれでよし。交渉が決裂したら、松永さんは相図を送ってください。それに合わせて、私たち三人が一斉に攻めかかります」

 僕たちは頷いた。一斉に攻めかかるといっても、みんながマンションから公園に辿りつくまでは、早くても十秒はかかる。それまでに松永さんを守るのは、僕の役目だ。

 松永さんと僕は、ゴミ箱から週刊誌を漁って読み始めた渡辺清に近づいた。

「お初にお目にかかります、渡辺清さん。私、松永太と申します。こちらは加藤智大くん。バトルロイヤルの参加者です」

「・・ああ?あああ??な、なんだとぅ!」

 参加者、という単語を聞いて、激昂してベンチから立ち上がり、ナイフを抜く渡辺清。僕もシザーバッグに手を伸ばすが、松永さんはストップのサインを送る。

「単刀直入に言います、渡辺さん。私たちは、ともに戦う仲間を求めています。一人で行動していては今後の戦いが厳しいことは、あなたにもわかるでしょう?私たちと組みましょう。一緒に、勝ち残りを目指しましょう」

「う、うるせえっ。んなこた知らねえんだよっ!俺が欲しいのは金だけだっ。仲間になってもらいてえなら、百万よこすか、女とヤラせろやっ!」

「渡辺さん。気が動転しているのはわかりますが、どうか落ちついて、私の話を聞いてください」

「黙れやぁっ。ぶっ殺されっぞっ、くらぁっ!」

 渡辺清が吠えたけりながら、松永さんに切りかかっていった。咄嗟に、僕がタックルを喰らわせる。渡辺清は、2Mくらい吹っ飛んでいった。ここで松永さんが合図を出す。本当は、タバコに火をつける動作を合図と決めていたのだが、今回は緊急時ということで、大きく手を振って合図を出した。

 渡辺清は素早く立ち上がると、今度は真っ直ぐ僕を狙って切りかかってきた。滅茶苦茶に振りまわされるナイフをかわしている内に、重信さん、前上さん、正田くんが公園に到着した。

 武器を構えようとする三人を、僕は手で制した。大丈夫。この程度の相手なら、僕一人で始末できる。みんなを危険に晒すまでもない。

「死ねエエエいっ!」

 僕は渡辺清が横に薙いだ腕を掴み、脇固めに入った。

「いでででででっ!」

 渡辺清が取り落としたナイフを、遠くに蹴飛ばす。そこで脇固めを解いた僕は、素早くダガーナイフを構え、渡辺清の頸動脈目掛けて刃先を滑らせた。

「うぎゃああああっ」

 渡辺清は首筋から大量の血を噴き出させながらも、生への本能で、地面に転がるナイフに向かって走っていく。行かせはしない。僕は渡辺清の背後から、腎臓を狙って突き刺した。人体の急所や内臓の位置は、重信さんからみっちり教わっている。

 ナイフが背中から滑り込み、渡辺清は糸の切れた人形のように崩れ落ち、動かなくなる。戦闘不能状態に陥ったようだ。遠からず、命も失うだろう。

「加藤君、見事な戦いでした。初陣でこれだけの動きを見せた人間は、革命戦士の中にもいませんでしたよ」

 僕はなにも答えず、水道の水で手を洗った。血は流れ落ちても、後味の悪さは消えてくれない。

 また、人を殺してしまった――。

 重信さんに褒められても、ちっとも嬉しくなかった。

 バトルロイヤル参加者、現在97名。
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流石は加藤戦士。素晴らしいナイフさばきです。
しかし彼はなぜその恨みを母親に向けなかったのでしょうか?
あの宅間でさえ父親をやればよかったと公言してたというのに。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!


大いなる疑問ですね。
僕も数年前から大量殺人者について研究していますが、
彼らがなぜ無関係の人間に牙をむけたのか、
その理由がいまだにわかりません。
僕が同じ立場ならば、絶対に直接恨みのある人間を56すのですが。

今後も研究を進め、謎を解明していきたいと思います。

小説、すごく面白いですね。

松永は話術や恐怖で人を支配・コントロールすることにもの凄く長けていて、その点では非常に高い知能を持っているんでしょうね。

ただ、一般的な利口さ・賢さや先見の明のようなものはそれほど高くないように思います。
起こした犯罪が破滅的で、ある意味で考えなしの不合理なものだからです。

松永グループは粒揃いなので今後の展開が楽しみです。

No title

>>うどんさんコメントありがとうございます!

ふむふむ。
松永の人物像については、確かにそう思える部分もあります。
僕も昔はそう思っていました。
ただ、ここ最近、少し別の考えが浮かんでいます。
それについては、いずれ本編で触れたいと思います。

さっそく!

さっそく、読み直しの続きです。
十一~十三話まで、纏めて読みました。

やっぱり、面白かったです~!!!
こうして年月が空いても、楽しく読めるってすごいですよね。(*´ω`*)

二次創作的じゃないですけど、松永一派も他の軍にしても、大都会でどんな風に過ごすのかなぁ?と想像が膨らんだり..、
それもまた読んでいる中での楽しさの一つです。

再開の目処か立っていなくても(もちろん再開は、いつまでも楽しみに待ってはいるのですが..)、こうして読み直していくのもなかなか楽しいですね!!!

松永の回は自信たっぷりのナルシスト風で、、きらいじゃないです。(笑)
おさらいがてら、また読み直していきますね。




No title

蘭さん

 バトルロイヤル中止の経緯については、私の中でひとつのトラウマになっていてどうしようもない感じですね。今もキツイですけど、あの頃は本当に書いても反応してくれる人もほとんどいなくて、書くのが苦痛でしかありませんでした。あれを味わったら、ちょっとやそっとのことで再開しようとは思えませんね・・。

 極端な話、カネにならない小説はゴミクズと一緒です。今はとにかく、自分の作品を世に出すための最短距離を突っ走ることしか考えていません。いつになったら報われるのか。本当にしんどい毎日です。

津島さんへ

今晩は!
返信ありがとうございます。

今、しんどいのですね...。
バトルロイヤルに関しては、もし未完のままであっても、
私は良いと思います。ラストまでを色々と想像できて楽しいですし。
感想をもらえないのに書くのは大変ですもんね…。お察しします。

その当時は、私自身は精神的なことで長期入院もしていました。
感想をマメに書きに来られなかったこと、悔やんでます...。

新しい作品も、はりきってスタンバイしていますので☆
(昔より、PCでも見に来る頻度も増えてきました。)
新作アップゆっくり楽しみにしていますよ~!!!
どんなお話しなのかな…今からワクワクしています。(*'ω'*)

No title

蘭さん

 昔はコメントが全然来ないと愚痴を書いたら逆切れして説教してくるようなヤツもいましたからね。反応がないならここで書く意味はまったくないと本当のことを言ってただけなのに。そういう人たちが、私が愚痴をやめたらコメントしに来てくれたかどうかといえばまったく来やしません(そもそも説教は名無しが多かったですけど)。ようは何にもリアクションしないで読むだけの自分を正当化したいだけかと。思い出すとマジでムカついてきます。

 私を認めてくれない世の中への恨み。私にこの道を歩ませることを余儀なくさせたある一人の女への恨み。今の境遇への恨み。

 今も昔も、恨みが一番の原動力です。そのステージから、四年も脱却できていません。爆発寸前なのを、皆さんからのコメントでかろうじて堪えている状態ですね。

津島さんへ

なるほど…。世の中には色々な人がいますからね~…
ましてやお説教なんて、ムカつくのも無理もないですよ…。

そうですか!(^^)!そういった感情も書く原動力になっているなら、
良いんじゃないでしょうか!微力ながら、応援していますね。

不安定なお天気で体調も崩しやすい時期です、
体調には気をつけてくださいね。また遊びに来ます(*'ω'*)
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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