凶悪犯罪者バトルロイヤル 第90話

 台場地区の交通の要衝、テレポートブリッジの窓から、ガンダム像を眺めていたNの心臓が氷結した。

 アカギ?アカギが、10代半ばから20歳くらいの少年たちを率いて、カップルを襲撃している。轟く銃声。逃げ惑う男女の悲鳴。拳銃を持ったアカギが、配下になにかを命じると、彼らは、カップルの衣服を剥ぎ取り始めた。

なに、これは。いったい、なに?

「さあ、時代の扉が開く瞬間や。祝福のときやで」

 リーダーのAが、愉快そうに目を細めて言った。

「Aさん・・あなたまさか、知っていたの?」

「なにが?」

「彼が・・アカギくんが、あんなことをするって!」

 Aは薄ら笑いを浮かべるだけで、何も答えようとしない。私は重ねて問う。

「騙したのね。戦闘だと言って私を呼び出して、アカギくんとの約束を邪魔したのね」

 罪悪感に、胸を締め付けられる。アカギは私に救いを求めていたのだ。自分を止めてほしかった。最後の希望を、私にかけてくれていた。なのに、私はそれに応えることができなかった。いや、会ったところで、どこまで彼に応えられたかはわからない。でも、もし顔を合わせていたら・・彼と話ができていたら、何かしらの努力はできたはずだ。少なくとも、今、アカギがこの場に現れることはなかった。

「嘘はついてへんで」

 Aは、私の方を見ようともせず言った。

 そうなのである。確かに、Aは嘘をついてはいない。今日の我々のターゲットである日高夫妻は、実際にガンダム像の前に姿を見せているのである。だが、どうも腑に落ちない。うまくいえないが、なにか、すべての出来事が、この男の手の平の上で起こったことではないか、という気がするのだ。

 だが、今はそれを考えている場合ではない。私は、Aの横っ面を引っぱたいてやりたいのを抑え、駆け足でテレポートブリッジを降り、ガンダム像へと走って行った。

 私が到着したころには、現場には地獄絵図が展開されていた。全裸に剥かれた女と男に武器を手に持ったアカギの配下が、代わる代わるに挿入している。アカギの配下たちの眼は血走り、異様な光を帯びている。なにか、薬をキメているようだった。

「アカギくん。あなた、自分が何しているかわかっているの?」

 黒光りする銃身を、蹂躙されるカップルへと向けているアカギが、ゆっくりと私の方に顔を向けた。底冷えのするような眼。まともな人間のそれではない。いや、生者のそれではなかった。人一人を殺めた自分が、何人もの凶悪犯罪者を目の当たりにしてきた私が、思わず戦慄するほどの眼である。

「・・ご両親のことね。あの二人が、あなたのご両親になにかをしたのね」

 じっと口を引き結んでいるだけのアカギに、重ねて問うた。

「・・いや。こいつらは、父さんの死と、母さんの病気には、直接の関係はない」

「え?なら、どうして」

「無差別に 殺すところに 意味がある。 とある無差別殺傷犯が、生前に残した句だ」

 どこかで聞き覚えがあった。誰だったかは忘れたが、きっとバトルロイヤル参加者の中に、その人物はいるのだろう。

「本当に恨みに思ってるやつを殺ってしまったら、単なる私怨で片づけられてしまうじゃないか。それでは意味がない。勝ち組を無差別に殺すことで、俺はもっと大きな敵と戦っているのだと、世間の連中が勝手に思ってくれる。そうすれば、事件が大きな話題になる」

「なによ、それ。革命家でも気取っているつもりなの?」

「少し違うな。俺の家族を殺したのは、社会だった。復讐する対象がたまたま社会だったというだけで、いわゆる世直しがしたいわけじゃない。そんな崇高なもんじゃないんだ」

「・・よく、わからないけど・・。どうして人を殺してまで、社会に復讐したいなんて思うのよ。世界を憎むなら、自分一人、誰もいない場所で、ひっそりと暮らしていればいいじゃない」

「・・なぜ俺が、この世界から逃げるように、息をひそめて生きるんだ?」

 アカギが目を剥いて、私の額に銃口を押し付けてきた。おそらく、もう、何を言っても無駄だろう。この男はもう、遥か遠いところに行ってしまっている。行かせてしまったのは、私だ。

「・・失せろ」

 従うしかなかった。これ以上の説得は、アカギを逆に燃え上がらせてしまうだけだろう。巨大なる憎悪の前に、私は、あまりに無力である。

 ガンダム像の前を去ろうとしたところで、大事なことを忘れていたのに気付いた。日高夫妻。そういえば、敵が近くにいたのだった。

 私は、周囲に視線を巡らせた。さすがに、すぐ近くにはいなかった。カップルの強姦現場から半径十メートル以内には、日高夫妻だけでなく、誰の姿も見えない。

 日高夫妻の姿を確認したのは、ガンダム像から二十メートルほど離れた、屋台の近くだった。彼らが私に気付いている様子はない。夫妻の傍には、復帰年齢21歳の間中博巳が控えている。一人で攻めても、勝てる望みはない。

 夫妻から視線を離さず、Aのところに帰ろうとした、そのときだった。フードコートの方向から、二人の男が群衆をかき分け、疾風怒濤の速度で、日高夫妻に突進していくのが見えた。前を走る長身痩躯の男の手には短い槍が、後ろを走る男の手には短刀、いわゆるドスが握られている。

 アカギが再び発砲した音、被害者のカップル二人の阿鼻叫喚、そして、短槍を持った長身痩躯の男の咆哮が、狂気の三重奏を奏でた。

 なに・・なんなの。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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