凶悪犯罪者バトルロイヤル 第89話


 台場駅でゆりかもめ線を降りた宅間守は、「ダイバーシティ東京プラザ」の施設内の喫煙所の窓から、有名な等身大ガンダム像を見下ろしていた。

 6月8日。今宵この地で、殺戮の宴が繰り広げられる。憎き高学歴のエリートが、社会の最下層に位置するガキどもによって屠り去られる。その瞬間の快感たるや、どんな名画を観ても味わえないほどの凄まじさに違いない。火照りを止めるため、今日は昼からソープランドを3軒も梯子してしまった。

「宅間さん。あの情報はマジなんすかね」

 傍らの金川が、ガンダム像と自分に、交互に目をやりながら尋ねてきた。

「さーて・・な」

 昨日のことだった。宅間の携帯に、一本の電話がかかってきた。

 ―――今宵、ダイバーシティのガンダム像前に、日高夫妻が現れる。夫妻は、金をたんまりと持っている。供の物は、間中博巳一人だけ。襲って金を奪うなら、絶好のチャンスである―――。

 情報提供者の名は、A・S。かの有名な、神戸連続児童殺傷事件の犯人のガキである。

 情報が本当なのか。また、提供者が本当にA・Sなのか。真偽はわからないが、別に情報を信じて損をすることはなにもない。金は角田のオバはんからたっぷりともらっており、特に難儀しているわけでもないから、なにもなければないでいいし、もし本当に夫妻が現れるようなら、新しく購入した武器である、このジャベリンの錆にしてやるだけだ。

 ジャベリン――。投擲用の短槍。短槍といっても、リーチは1・5メートル程度あり、一般的な日本刀などよりは長い。ならば、軽さに勝るこちらの方が、小回りは上である。長物ではないから運びやすく、屋内戦でも使いやすい。投擲用の名の通り、飛び道具としても使える、極めて汎用性の高い武器である。

「あ、あの・・すいません、ちょっと、トイレに・・」

 遠慮がちに申し出てきたのは、角田のオバはんから貰ったパシリの、上部康明である。

「おいおい、またかよ上部」

 金川が呆れるのも、無理はない。上部がトイレに行くのは、お台場に到着してから、これで五回目である。

「もういつ来るかわかんねえからよ、我慢してろよ。どうせ尿意がするだけで、チョロっとしか出ねえんだからよ」

「で、でも・・もれそうなんですよ!」

「なに!お前、口ごたえすんのか」

 気色ばむ金川。確かに、これが戦場なら、漏らしてでも持ち場を離れることは、許しはしないが・・。

「行かせたれや。そんかわし、2分で帰ってこいよ」

 橋田に裏切られた件で、自分も学んだ。反省し改善することを知らない自分だが、己の欲望のためとあらば、話は別である。これより始まる血の宴を目にするという、何よりの楽しみの前に、謀反を起こされて、気分を台無しにされてはたまらない。

「あっ。宅間さん、あれ!日高夫妻っすよ。情報は本当だったんだ」

 金川の指さす方を見ると、確かに、恰幅のいい中年夫婦と、若く、鋭い目つきをした男の三人組がいる。まぎれもなく、今朝写真で確認したばかりの、日高夫妻と間中博巳だった。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。腕時計を気にしつつ、キョロキョロとあたりに視線を飛ばしている。いずれにしろ・・。

 よう現れた。血の宴を見ながら、貴様らも殺したる。オマケで、殺したる。
 
 さらに、上部がトイレから戻ってきたころには、アカギたちが狙っている、サツキとヘイゾウが姿を現した。なんというか。まあ、どちらも、己の学歴を鼻にかけた、憎たらしいツラをしてけつかる。あんなツラをしているだけでも、万死に値するというものだ。自分で手を下せないのが、なんとも悔やまれる。

 サツキとヘイゾウが、ガンダム像の前で、手を握り合い、見つめ合った。そのまま、唇を重ね合わせる。

 おうおうおう。エリート様が、はしたないマネをようするものやのう。それとも、ワシらみたいな低学歴がする路チューは、人目を弁えないケダモノの行為やが、お前らエリート様の路チューは、誰もが羨み足を止める、スリリングな甘い接吻というわけか?

 おお、今度は腰に手を回しよった。きっと今頃、ヘイゾウとやらの股間の棒はおっ勃ち、サツキとやらの股間の森はびしょ濡れの洪水状態になっとるのやろう。ワシらみたいな低学歴がするセックスは、本能任せのケダモノじみた粘膜の触れ合いにすぎぬが、お前らエリート様のするセックスは、選ばれた種を未来に残す、崇高なる行為というわけか?

 宅間の憎悪と憤怒のボルテージがMAXにまで高まろうとした頃、全員お揃いの、深緑色の戦闘服に身を包んだ、アカギたちが、停車したワンボックスカーから降りてきた。真打登場である。

「・・小僧は、テラスから弓で狙撃や。鳥の巣頭。お前は、現場でワシの後方支援をせい」

 作戦を簡潔に支持し、宅間はジャベリンを入れた釣竿ケースを担ぎ、施設の外へと出ていった。

 今宵、ワシはまた、人を殺す。だが、主役ではない。今日の主役は、ワシの一番弟子や。隠居の身であるワシは、草場の陰からひっそりと弟子の活躍を見守りつつ、オマケでちょこっと人を殺すだけや。

 出しゃばりすぎず、若い者の引き立て役に徹する。悪くない。むしろ快感だった。アホの精神科医からは、問題解決能力は小学生レベルなどと診断されたワシだが、ワシもワシなりに、年を取ったということか。

 トカレフの銃声が轟いたのを合図に、宅間はジャベリンを抜き、弾かれたように、ガンダム像に突進していった。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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