凶悪犯罪者バトルロイヤル 第87話

 大田区の駐車場。通算20回目の「授業」を終えた宅間守は、携帯ゲームをするフリをしながら、教え子たちの計画に耳を傾けていた。

「ヘイゾウとサツキがデートに行く日がわかった。場所は、お台場のベイエリア。もうまどろっこしいことはしねえ。自分の身を守ることは考えるな。あいつらが一番盛り上がってるところを狙って、ぶち殺す。殺してから犯す。あえて衆目の眼前でやる。社会にメッセージを放つためにな。決行は、6月8日だ」

 ガキども――我が使徒たちが聖戦に挑む日が、よりによって「あの日」とは。これが因果というものだろうか。復帰年齢37歳、前世と合わせて41年の月日を生きた自分だが、女の味も知らなかった頃のような、鼓動の高鳴りを感じずにはいられなかった。

「ヘイゾウの父親は、元与党の参議院議員で、今日の格差社会を推進してきた第一人者だ。サツキの母親は与党の現役国会議員で、生活保護問題に切り込み、セーフティネットの破壊を目論んでいる。弱者切り捨ての社会を作り上げようとしている奴らが一番大切にしているものを、この世から消してやるんだ。弱者から富を奪いすぎれば、その代償に命を奪われる。それを奴らに教えてやる」

 使徒たちのリーダー格、21歳のアカギの、迸るような言葉に、10人を超す使徒たちが、目を輝かせて頷く。

 アカギの父親は、元ブラック企業の社員であり、薄給で酷使された末に、過労で命を失った。雀の涙ほどの賠償金はすぐに底をつき、困窮した母親はアカギと薬物による無理心中を図ったが、失敗。現在、植物状態で病院の治療を受けているという。

 格差社会を人一倍恨むアカギは、高校には進まなかったものの、独学で、化学、歴史、戦闘術など、あらゆる知識を身に着け、また弁舌に磨きをかけ、町の不良たちのカリスマ的存在となった。

 アカギはこの若さにして、かつての自分と同じ境地に達している。すなわち、未来を見ていないということだ。希望、幸福。それらの言葉が、自分には縁のないものと決めつけてしまっている。

それが得られるとするなら、この世を覆う大いなるまやかしをぶち破ったとき。「非才、無才には、せめて実直な精神だけを養ってもらえばいいんです」などと、童貞に純粋な愛を養えと言っているのと同じくらいに不可能な、人間を人間とも思っていない暴言を吐き、国民を都合のいい言葉で洗脳し、弱者の希望、幸福をはぎ取ろうとしている連中を、まとめて地獄に送ったときだけである。と、決めつけている。

可愛い奴である。誇るべき、自分の一番弟子。事件を起こしてやって、心から良かったと思える。

 以前、金川のアホから、現在、ネット世界では、自分の起こした事件が偉大なる業績と讃えられており、自分を英雄と崇める者たちが増殖しているとの話を聞いたが、こうして実物を目の当たりにしてみると、その実感が湧いてくる。

 暴力。それは世を変革するため、自分のメッセージを多くの人間に伝えるため、もっとも手っ取り早く、有効な手段である。

 自分が事件を起こすまで、反貧困のプレカリアート運動などをやってきた連中の言葉に、まともに耳を傾ける連中がいたか?生まれつきどうしようもなく社会に順応できない人間がいることを知ろうとする連中が、今までいたか?このクソみたいな社会が、自己責任論などという、強者が弱者を納得させるために作り出した、けったくそ悪い洗脳的な思想などでは救えないところまで来ていることを、わかろうとする連中がいたか?

 答えは、否である。それらのことは、自分が起こした事件と、それからちょうど7年後・・加藤とかいうガキが秋葉原で事件を起こしてから、ようやく語られるようになってきたことだ。

 世を変革するため、投票やデモ活動が無駄とは言わないが、あまりに時間がかかりすぎる。時間がかかってからでは遅いのである。臆病者どもがウダウダやっているうちに、勝ち組どもは社会の制度を固め、弱者が容易に反乱を起こせないような仕組みを作ろうとしている。

 爆弾を投げ込むしかないのである。自分や加藤とかいうガキが起こした事件だけでは、まだ数が足りない。数は多ければ多いほどいい。圧倒的な暴力で既存の枠組みをぶち壊さなければ、新しい世などを作ることはできない。破壊もせずに創造をしようなどという考えが、そもそも甘いのである。人間社会の摂理に反しているのである。

 まあ・・。自分が事件を起こしたときは、そこまで考えていたわけではなかったのだが、後から冷静に己の所業を振り返ってみれば、そういう意味があったのだということがわかる。

 自分の役目・・水面に石を投げ込み、波紋を起こす役目は終わった。これから、大波が押し寄せるのである。今、本当の意味でのオマケの人生を手に入れた自分は、ぬるま湯の中からそれを見届けるだけだ。

「必殺、必中。俺たちを散々痛めつけてきた奴らを、地獄に送るぞ!」

「おおっ!」

 アカギが、どこで手に入れたのか、モノホンの拳銃・・粗悪な中国製ではなく、本場ロシア産のトカレフを2丁と、警棒式のスタンガン3本、そして・・自前で作ったらしい爆弾2つを、大胆にも駐車場のアスファルトの上にぶちまけた。それを目撃されて捕まるようなら、自分にはそもそも、大事を成し遂げる天運がなかったということ。この若者は、そう腹を括っているらしい。

「よし。ではこれより、実戦訓練に移る。68のおっちゃん、監督してくれるな?」

「んー・・?ああ、戦争ごっこやな。それやったら、面白そうやけ、見たったるわ」

 自分が恍けたようにそう言うと、アカギがフッと白い歯を見せた。

「よし、お前ら!やるぞ!」

「おおっ!」

 ええ感じや。ええ感じになってきた。ものごっつ、ええ感じや。

 行け、我が使徒らよ。

 行け、変革の申し子よ。

 貴様らの痛みを、地上に振りまけ。

 怒りで世を壊せ。

 腐りきった大地に、毒々しい地獄の仇花を咲かせるのや。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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