凶悪犯罪者バトルロイヤル 第11話

「ぶわははははははははは」

 午前のヨーガを済ませ、昼食を摂るべくリビングに入った麻原彰晃を、関光彦の大笑が迎えた。

「どうした、光彦。なにがそんなにおかしいのだ」

「だ、だって、これ・・・こんなん見たら誰でも笑うでしょ」

 関光彦は、五日前にヨドバシカメラで購入した、ノートパソコンを見て笑っているようだ。なにが映っているのかと後ろから画面を覗くと、インターネットの動画サイトで、懐かしい映像が再生されていた。

「しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこー♪あーさーはーらーしょーこー♪」
 
「わはははははははは」

 スピーカーから流れているのは「麻原彰晃マーチ」。オウム全盛期に布教のため利用していた、いわゆる「オウムソング」の、最も代表的な曲である。

 聞いたのはおよそ十五年ぶりになるが、自惚れでもなんでもなく、よく出来た曲であると思う。自分の歌唱力はともかく、フレーズが非常に耳に残り易く、覚えやすい。リズムは単純で、子供にも容易に演奏できるのもポイントである。実際、サリン事件の頃などは、全国の小中学生が、リコーダーや鍵盤ハーモニカでこの曲を演奏している光景が目撃されている。自分は、同時期に活躍していたアーティスト、安室奈美恵などよりも、ずっと人気の歌手だったのだ。

「しょしょしょしょしょしょしょしょーこー♪」

 今度は、「魔を祓う尊師の歌」である。先の「尊師マーチ」もそうだが、同じようなメロディと自分の名前を繰り返すことにより、抜群の刷り込み効果を誇る名曲だ。

「ぶふっふははははは。しょしょしょしょって。連射しすぎでしょ」

 椅子から転げ落ち、腹を抱えて爆笑する関光彦。音楽を歌唱力でしか評価できない小僧には、この曲の素晴らしさはわかるまい。

「わーたーしーはーやってないー♪けーっぱーくーだー♪」

 お次は、「エンマの数え歌」である。これは、一連の事件で自分に疑いの目を向ける警察やマスコミに対しての弁解のために作られた曲であると勘違いしている者が多いが、実際には事件が公になる以前に作られた曲であり、地獄に墜ちた魂のストーリーを歌った曲である。

「ぶふふっ。ぶふっごえっ。潔白はねえだろ。ぶふっ。この顔で」

「こ、こら、光彦。いくらなんでも、笑い過ぎだろう」
 
 かつて自分が世に残した作品を目にすることで、全盛期の自分を知らぬ信徒たちが自分のヒストリーを学んでくれればいいとは思ったが、それが自分を軽んじる方向に向かってしまうとしたら問題である。フレンドリーシップは大事だが、ケジメはつけておかなければならない。

「でも、一番の傑作はやっぱこれかな。残酷な尊師のテーゼ。ぶふふっ」

 麻原は首を捻った。そんな曲は、作っていなかったはずだが。自分が逮捕された後、自分を慕う信徒が作った曲だろうか。

「ざーんーこーくな天使のように♪しょーねーんよ神話になーれー♪」

 声に聞き覚えはない。やはり、自分の逮捕後にオウムに入信した信徒のようだ。しかし、その歌唱力はズバ抜けている。聞くものの心を強く打つ、天女の歌声だ。素人のレベルではない。高学歴のエリートをも魅了したオウムの教義の素晴らしさは、芸能界にまで波及していたのか。ちなみに、歌詞に合わせて流れているアニメーションは、オウム真理教サブカル制作チーム「MAT」が制作した「超越神力」だ。

「ぎゃははははは。これマジで面白え。歌詞とアニメがシンクロしすぎだろ。とくに、窓辺からやがて飛び立つ♪のところで、尊師が空中浮遊しながら窓から飛び出していくところとか。ひいっひいっ。腹筋がねじ切れる。つか尊師、自分のこと美化しすぎ。めっちゃお目目パッチリやん。ああおもしれえ。勝っちゃんと菊ちゃんがバイトから帰ってきたら、さっそく観せてあげよう」

 無礼を窘めようとした麻原だったが、寸前で思い留まり、言葉を飲み込んだ。信徒とこうした形で信頼関係を結ぶのも、悪くないのかもしれない。

 信徒に自分を神聖なる存在と認識させ、圧倒的なカリスマをもって統治する方法は、たしかに強固な結びつきを生むが、それを維持するのには凄まじい神経を使う。たとえば以前のマントラ・イニシエーションでの一件のように、信徒の前で生理現象を見せることにすら気を使わなければならない。

 ただでさえ常に命を狙われるストレスに晒されている中で、屁一つこけず、エロ本の一冊すら読めないというのは、精神衛生上、健全とはいえない。それならば、端から人間らしさを表に出して信徒に接していた方が、いい結果を生む気がする。

 即断即決。それで行くことに決めた。神の座に君臨するのは、バトルロイヤルに勝ち残りを決めてからでいい――。

「ふふふ。俺の歌を、気に入ってくれたようだな。正と清孝にも、是非観せてやりなさい。そうだ。今度、みんなでカラオケ大会を開くとしようか」

「マジで?よっしゃ!じゃ、そのときに備えて練習しとこーっと。しょしょしょしょしょしょしょしょしょーこー♪」

「こら、光彦。しょ、が一つ多いぞ。しょしょしょしょしょしょしょしょーこー♪だ」

「あ、いっけね。よーし、もっと頑張って、尊師みたいに上手く歌えるようになるぞ!」

 束の間のブレイクタイム――。
 戦いを制するためには、こういう一時も重要だ。
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

どーでもいいんだけど、しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこは尊師マーチじゃなくて彰晃マーチですぅ
尊値マーチはそんしーそんしーそしそしそんしー

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます

訂正しますw

かつては大組織を率いていただけあって
なかなかの大人物ですね麻原という男は。
まあワガママ放題やってたら人も惹かれない
でしょうね。
現実世界の麻原は廃人同然だそうですけど
やはり死ぬのが怖いのでしょうか?
オウム平田の裁判で死刑囚も証人喚問の対象に
なるそうですが麻原にも証言して欲しいです。
むしろそうするべきです。

No title

>>3番コメさんコメントありがとうございます!

 麻原の状態については、かつては麻原は病気を装っているという見方が主流でしたが、最近は、十年以上も詐病を続けるなど不可能であるという意見が強くなっているようです。僕もそう思いますね。そんなことをしていたら、それこそ本当に発狂してしまうように思います。

 麻原という人物はカリスマ性があっただけではなく、非常に包容力に満ち溢れており、とても親しみやすい性格であったようです。恐怖で人を縛りつけていた松永とは対極の洗脳法ですね。

麻原のそうした部分を少しでも表現できれば、と思います。

この回バトル初期で特にすき
『残酷な~』は韓国版の空耳FLASHが一番印象に残ってるなぁw
超越神力MADは素材自体が高クオリティだからか良作が多いね
リンク先のやつはつい最近になって見つけたマイブーム

No title

ちゃんむくさん

 懐かしいです。

 たぶん当時の制作班がMADを見たら黒歴史と思うのでしょうが、作っているときは必死で、恥ずかしいものを作っているとはまったく気が付かないものです。

 この回は二年以上たった今でも結構見れる回ですね・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR