凶悪犯罪者バトルロイヤル 第85話

 異次元空間に迷い込んだのではないかと錯覚するような眼前の光景に、加藤智大は息を呑んだ。

 脳天を割られて悲痛な叫び声をあげている藤波和子。出血の量から、もう長くはないだろうことがわかる。可哀想だが、仕方がないことだ。勝者が出れば、敗者も出る。生き死にという、正当化のしようがない結果で出る分、資本主義の競争よりもずっとシビアだが、フェアな争いではないかと、最近ではそんな思いも抱くようになっていた。けして肯定はしないが。

 問題は、その勝者である。なんでコイツらは、昔話のコスプレをしているのか?なんで宮崎勤は、大事なものを、食い込みからはみ出させているのか?この光景をうまく処理する思考回路は、俺の脳にはない。頭が痛くなりそうだった。

「あ。英雄加藤だ。かっこい~。一緒に写真撮ってもらってもいい?」

 山地由紀夫が少年のような笑顔を浮かべ、俺に近寄ってきた。なんだコイツは。こんなにイケメンのくせに、変態なんかやってんなよ。宮崎みたいな、いかにもなヤツが変態やってるより、こういう一見爽やかなヤツが変態やってると、余計に不気味に見える。

「じゃ、宮崎くん、撮影担当ね」
 
 宮崎勤にカメラを渡し、桃太郎の格好をした山地が近づいてくる。全身の毛が逆立ち、皮膚が粟立った。

「よ・・よせよ!」

 肩を組んで来ようとした山地を、思い切り振り払った。

「なにを怒ってるんだい?そうか、お腹がすいているんだね。さあ、このきびだんごを召し上がれ」

「ふ、ふざけんのもいい加減にしろっ!なんなんだよ、てめえは!」

 俺は山地が差し出したきびだんごを弾き飛ばし、全身から殺気を発しながら、警棒を構えた。少しは警戒するかと思ったが、その後の山地の行動に、俺は頭が真っ白になった。

 ヘラヘラ笑いながら、己の鼻くそを擦り付けようとしてきたのである。間一髪で躱したからよかったが、動揺は生半なものではなかった。

 我が軍団では、私闘は禁じられている。殺意を持たない相手を、こちらから攻撃してはいけないと、重信さん、松永さんの2トップから厳命されている。山地がそれを知っているはずはない。俺の逆鱗に触れ、殺される可能性があることをわかっていて、こういう行動をとっているのだ。かといって、宅間守のように、死を恐れていない、というわけでもないだろう。何故、こんな挑発的な行動をとってきたのか?いや、挑発する意図もないのかもしれない。何を考えているんだ?理解不能。俺の目の前にいる男は、本当に地球上の生物なのか?あまりのことに完全に毒気を抜かれ、怒りも湧かなかった。

「・・おい、宮崎。お前に、これを届けに来た」

 もう、さっさと用件を済ませて帰りたい。俺はバッグの中から、届け物を取り出した。

「三種類の薬を持ってきた。まず、これがバイアグラだ。もっともポピュラーなED治療薬で、単純な勃起力では最大の効果が得られる。ただ、作用が現れるのが、服用から一時間とやや遅いのが欠点で、また、食事の影響を受けやすく、胃袋が空っぽでないと最大限の効果が発揮できない。その点を解消したのがこのレビトラで、即効性があり、満腹状態でもそこそこの効果が発揮される。ただ、単純な勃起力では、バイアグラにやや劣る。最後にこのシアリス。これの特徴は、作用が長持ちすることで、服用後36時間も勃起力が維持される。その代り、効き目はもっともマイルドになるが。用途と好みに合わせて使え」

 いったい、なんで俺がそんな説明をしなければならないんだ。あまりにも馬鹿らしかったが、仕事であるからにはやらなければならない。自分の生真面目な性格が恨めしかった。

 宮崎は、とくに感謝の言葉も述べずに、俺がテーブルに置いた薬箱の中から、三種類の薬を全種類取り出して、一錠ずつ飲んだ。突っ込みもしない。どうでもいい。いっそのこと全部を一遍に飲んで、心臓発作で死んでしまえばいい。

 俺は室内を写真に収め、部屋を後にした。松永さんからは、可能な限り現場に居座って、一部始終を目に収めておくように言われたが、とても無理だった。これ以上この空間にいたら、本当に頭がおかしくなってしまう。そっちの世界に行くのは、ごめんだった。

「た・・助けて・・・助けて・・・」

 藤波和子が、俺が誰かもわからず、助けを求めてくる。応えてはやりたい。俺は女嫌いではあるが、美人には弱い。俺のように、自分がモテないことを自覚している男は、いわゆる十人並みからブスの範疇に入る女には、容姿が劣るくせに自分を相手にしてくれない不満から嫌悪感を示すが、一歩抜けた美人となると、自分には縁がないものと思っているから、こちらをあからさまに愚弄してきたりしない限りは、嫌ったりしないのだ。

 虫の息の藤波から視線を切って、俺は部屋を後にした。チンチロリーン、という間抜けな電子音が、背後で響く。山地由紀夫が、俺の後姿を無許可で撮影したようだが、気にしない。もう、こいつらには関わりたくない。心底から、関わりたくない。
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加藤くん(´;ω;`)今回はまた一段と、大変な思いをしましたね…。
ある意味、惨劇の舞台www
今回も思わず笑っちゃいました><
あと、山地「悠紀夫」です…(ポソッ)
私も何度か(検索するとき)入力まちがえたことありますよ(;´д`)
その世代にしては(近いですが笑)、悠紀夫くんって、レトロな名前な気がします~。なんとなく♪

No title

>>蘭さん

あ、ほんとですね。
いつから間違えてたんだろ。
こういうのって、一度それが自分の中で真実になると
まったく疑問に思わなくなっちゃうから不思議ですね。

ちょっと宣伝活動にも、もう一度力入れてみますかね。
小説サイトへの投稿も、最近完全にやめちゃってたんですけど、
もう一度やってみます。
とにかく、なんとかせんといかんので。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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