凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十話

 
 有楽町の繁華街。牛丼チェーン店「すき家」で食事を終えた宅間守は、金を払わずに店外へと飛び出していった。無銭飲食である。
 
 無銭飲食を働いたのは、娑婆に出てから、これでもう五回目だ。バトルロイヤルの参加者が娑婆で犯罪行為を行うことが禁止されているのは、クローン復活者対象の研修施設にいた頃、委員会の連中から耳にタコができるほど言い聞かされていたが、自分には関係なかった。

 参加者の体内には特殊なGPS装置が埋め込まれており、その行動は全てが筒抜けになっているはずだが、今のところ委員会の連中が自分を処分しにくる気配はない。微罪ということで、黙認されているのか。はたまた、自分の犯罪者としてのランクがあまりに高いことから、特別扱いされているのか。

 宅間を追って、男性の店員が、カラーボールを手に店外へ飛び出して来た。たかだかアルバイト店員のくせに、クソ真面目に仕事しおって。いまいましい青二才が。もし自分が、賞金十億を賭けた戦いに参加する身でなかったら、社会の不条理をわからせてやるところだ。

 184㎝、75㎏。無駄肉の一切が削ぎ落とされた肉体は、敏捷性に優れている。宅間は瞬く間に、店員との距離を広げていく。やがて店員の姿は完全に見えなくなった。

「ドアホがっ。ざまあみさらせっ!」

 宅間はタバコを咥え、すれ違いざま、通行人が白い目を向けるのも構わず、煙を撒き散らしながら歩いた。よもや自分が再び娑婆の往来を歩く日が来ようとは。研修施設から出て二週間が過ぎた今になっても信じられなかった。

 しかし、どいつもこいつも、平和ボケしたのほほんとしたツラをしている。いい大学を出ていい会社に勤めていても、中卒で無職のどうしようもない男に喉を切り裂かれて一瞬で人生が終わってしまうこともあるなど、頭の片隅にも思い描いていないというツラだ。

 こいつらは十二年前、自分が事件を起こしたときも、自己責任、自己責任といって自分を嘲笑ってきたのだろう。人に偉そうなことを言える身分であるのかどうか、自分の命で試してもらおうか。人に自己責任論を説くくらい隙のない人間なら、当然、通り魔に殺されないために、常日頃警戒心を持って道を歩いているはずだし、咄嗟の事態にも対応できるよう身体を鍛えているはずだ。

 体内でマグマのごとく湧く破壊衝動。いつも自分を突き動かして来た、呪わしく狂おしい感情。それを鎮めたのは、グランドマスターが約束した、十億円の賞金の話だった。あの胡散臭いおっさんの言う事を、全面的に信用しているわけではない。だが、自分がこの社会で生きていくためには、その話に縋らなくてはいけない事実は、悔しいが認めなくてはならない。

 自分は死んだままでもよかったというのに、まったく余計なことをしおって。またあのときのように、派手な花火を打ち上げて潔く散ってやるのも一興ではあったが、まあ、事の真偽が明らかになってからでも遅くはない。それまでは精々、娑婆の空気を満喫するとしよう。

「なあ姉ちゃん、ちょっとこれから飲みに行かへんか?」

 宅間は、すれ違った会社帰りのOLに声をかけた。長身で精悍な顔立ちをした宅間のナンパ成功率は高く、二十人に声をかければ一人くらいはお持ち帰りできるのが常ではあったが、けしてナンパが好きなわけではなかった。そんなまどろっこしいことをするより、脅して無理やり犯ってしまった方が手っ取り早い。

 宅間を無視し、早足で駅へと歩いていくOL。カッと頭に血が昇った。お高くとまりおって。思い知らせてやろうか、クソアマが。

 OLの後ろ髪を掴んで引き摺り回そうと、手を伸ばした、その瞬間。宅間は自分に向けられた殺意に気がつき、周囲に視線を巡らせた。獣の臭いがぷんぷんする。人間をやめた者にしか発することのできない氷のオーラが、自分に近づいている。

 宅間は咄嗟に、近くのビルの隙間に身を隠した。奥へと進み、壁に背を向ける。対複数戦を想定してのことだ。ここをねぐらにしているらしい薄汚れたホームレスが、驚いた目で自分を見ている。ホームレスをいたぶるのは趣味の一つではあるが、今は構っている暇はない。

 しばらくして、中肉中背の男二人組が、自分に向かって歩み寄ってきた。手にはそれぞれ、出刃包丁と鉄パイプを持っている。

「なんやあっ、おどれらはっ!」

「宅間守だな?悪いが、死んでもらう」

 ワシの恫喝に、まったく怯むそぶりを見せない。間違いない。こいつらは、バトルロイヤルの参加者や。ならば、殺るしかない。

 ワシは、けして勇敢ではない。勝てない戦はしない主義や。むしろ小心で臆病者といっていい。だが、ワシはそれを恥とは思わない。なぜなら、それこそが、獣として正しい姿だからや。

「ちょ、ちょう待ってや。ワシ生き返ったばかりやし、まだ死にとうない。有り金全部わたすから、勘忍してえな」

 勝つためには恥も外聞も厭わない、形振り構わない姿。これもまた、獣として正しい姿や。
 
 自分が命乞いをすると、二人の男は露骨に殺意を鎮めた。バカな奴らどもや。そんな甘ったれが、よく死刑になどなれたもんや。

「ドアホがっ!ひっかかりおって!」

 財布を抜くと見せかけてポケットに入れた手から、ファイティングナイフを取り出した。猫だましを喰らったように怯んでいる男の腹部を突き刺す。くの字に折れて倒れる男。素早く刃を抜き、返す刀で、もう一人の男の喉笛に切っ先を通した。シャワーのように噴き出す鮮血。自分に凭れかかるように倒れる男を突き放した。

「救いようのない奴らや。金なんぞ、風俗と競輪でとっくに使い果たしとるんじゃ」

 宅間は、白の地が血で真っ赤に染まったシャツを脱いだ。ギリシャ彫刻のような肉体が露わになる。陸に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えている二人のポケットから財布を抜きだすと、もう彼らには目もくれず、裸のまま町へと歩き出した。ホームレスが、心臓発作でも起こしたように目を見開いて自分を見ている。

「どけやっ!」

 ホームレスの顔面を、サッカーボールのように蹴飛ばした。嫌な音がした。死んでしまったのかもしれない。どうでもよかった。アイツらは、誇りも意志もない、動物や。自分を虐げて来た社会に復讐もできずに、惨めな姿を晒してただ生きているだけの、動物や。そこらを這いまわっているゴキブリを潰すのと、大して変わらん。そんなことでいちいち罪悪感など感じていたら、人間などは殺せない。

 宅間はタバコに火を付け、街中へと出た。
 運動後の一服は、格別の味だった。

 バトルロイヤル参加者、現在98名。
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No title

宅間戦士キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
まさに真打ち登場ですね。
死刑になっても全く反省せずにさらに悪事を重ねる宅間戦士。
彼をみて残虐だ冷酷だという者は正しい。
アホだバカだという者は間違っている。
私はそう思います。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

宅間と加藤はいずれ出会うことになるでしょうね。
敵として出会うか、味方になるのかはわかりませんが、
この二人が出会うのは宿命です。

絵を描いてらっしゃるのですね。ぜひ拝見したいです。

こうしたジャンルを流行らせる方法ですが、僕は不謹慎だからといって、自信なく、コソコソとやっていては流行らないと思っています。
批判は当然あるでしょうが、逆にどんなジャンルであろうと批判が無いと伸びないと思いますし。万人に好かれる作品なんて、一部ジブリアニメか黄金期ジャンプ作品くらいのものです。

暗黒小説やバイオレンス映画など、人間の負を描いた作品は、アメリカほどではないですが日本でも固定のファンはいますし、そんなに異端でもないと思いますよ。作り手が少ない分、在野の人間にとっては世に出る足がかりになるとも思います。

お互い創作活動頑張っていきましょうね!

No title

>>2番コメさんコメントありがとうございます!

僕は近現代の犯罪者で、宅間守ほど一本筋の通った悪党を知りません。世界でもトップクラス、もしかすると創作の世界を合わせても上位争いを繰り広げるかもしれません。

もはや善悪を超越した存在ではないかと思います。

死んだ2人にも細かな設定があったらいいなと思います 映画のバトルロワイアルみたいね

↑ に が抜けてました 正しくは 映画のバトルロワイアルみたいにね です

No title

>>ホモ太郎さんコメントありがとうございます!

そうですね、細かい設定というのは紙数の関係で難しいのですが、
名前くらいはどこかで出そうと思います。

最終的にはメインキャラ7~10名、割と頻繁に登場するサブキャラ20~30名、他雑魚キャラ、くらいで落ち着かせる予定です。あんまり話広げすぎると収拾つかなくなりますし。

そろそろ本格的に戦闘の方も書いていこうと思います。

まさに獣。

宅間守..まさに獣ですね!!!
宅間の獣らしさがよく描かれている、
楽しい回でした。
創作に登場しても本当に濃いキャラクターしてますよね..。好きなキャラクターとしては上位にあります。宅間氏にはハングリーに生き残ってほしいと思います!!!

No title

蘭さん

 久々にコメントを頂いたのでここまでを読み返しましたが、基本的な書き方のスタイルについては今とさほど変わっていない印象ですね。

 バトルロイヤルについては、公募目的の作品に比べて自由に書けて楽しかったという反面、完結させるということをまったく想定せずに書いていたのは反省点です。再開の目途が立たないので余計にそう思いますね。少しでも「纏める」という意識で書いていたら、中断時点でもまた違った状況になっていたと思います。

 犯罪者の考察に関しては、当時まだ無知だったころの印象と比べると非常に面白いものがありますね。特に勉強して印象が変わったのは山地由紀夫ですが、加藤智大なんかは、荒らしへの対抗という法廷での主張も本当だと思う一方で、行動をみれば、やっぱり当初の報道にあった、彼女が欲しかった、コンプレックスがあったというのも嘘ではないんじゃないの?と思ってみたり。当時に比べ、 単眼視ではなく複合的な目線で人というものをみれるようになりましたね。

 バトルロイヤルを書いていた当時に比べ、人、世の中というものへの理解というのはかなり深まった。そこは私の成長だと思いましたね。

津島さんへ

コメント返信ありがとうございます。

なるほど(*'ω'*)
きっとバトルロイヤルの執筆の後の色々な経験が、
津島さんご自身の成長にも繋がっていたのですね☆

過去作品でも良ければ、またコメントしたいと思います。
今度はある程度、読み進めてから纏めて書かせてもらおうかな?

犯罪マニア…と自称できるほどのレベルじゃないんですけど、
それでもコアなファンの一人なので、バトルロイヤルも大好きですよ。
また、楽しみに読ませてもらいますね。(^^ゞ





プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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