凶悪犯罪者バトルロイヤル 第九話

 
 加藤智大は、予期せぬ男との接近遭遇に困惑していた。
 
 宮崎勤。ちょうど僕が物心ついた頃に、埼玉県で幼女連続殺人事件を犯した男。当時、僕が住んでいたのは首都圏から遠く離れた青森だったけど、女の子の同級生の保護者は、みんな恐々としていたのを覚えている。僕が事件を起こした直後に死刑が執行されたそうだけど、まさか生きて顔を合わせる日が来るなんて。

「ど、どうするんですか?松永さん」

「これは宮崎さん。お初にお目にかかります。私、松永太と申します」

 松永さんは僕の問いには答えず、一人宮崎勤のテーブルに向かって行った。大丈夫なのか?万が一のときにはすぐに飛びかかっていけるよう、心の準備をした。

 松永さんはしばらく世間話をして、宮崎勤の緊張を解した後、本題に入った。

「宮崎さん、私たちの仲間に加わりませんか?世界中の犯罪マニアに名を知られた伝説的シリアル・キラーのあなたが我が軍に加わってくれれば、これほど心強いことはありません。あなたの狂気性は才能なのです。ダイアの如き煌びやかなその才能を、我が軍で存分に発揮してみませんか?」

 僕のときと同じ、褒め殺し戦術だ。もしかして、同類と思われているのか?だとしたら、なんとも心外な話だ。

「あ・・あ・・」

「どうしました、宮崎さん」

「あの・・・ボールペンを・・」

 ボールペン?何を言っているんだ、この男は。

「ボールペンですか。どうぞ、お使いください」

 宮崎勤は、松永さんが差し出したボールペンをひったくるようにして受け取ると、テーブルの端によけられていたノートブックを開き、一心不乱に絵を描き始めた。

 唖然呆然。なんなんだ、こいつは。前上さんも重信さんも、かける言葉もなく凍りついている。ただ一人松永さんだけが、冷静に、宮崎勤の挙動を観察している。

「できた!ゴーリキ・ベース・サファイアの完成だ!」

 破顔一笑。宮崎勤が突如、今までとは一変した、明るく大きな声を発した。満足げな表情でノートブックを支給品のリュックサックに仕舞うと、松永さんに礼も言わずにボールペンをテーブルに置きっぱなしにしたまま、ここにはもう用は無いとばかりに立ち去ろうとする。

「待てっ!」

 行かせるか。お前の命は、ここで終わりだ。

「よしなさい、加藤君」

 ダガーナイフを抜いて宮崎勤に突進しようとした僕を制したのは、重信房子さんだった。

 重信さんが僕たちのチームに加わったのは七日前。松永さんと二人、五反田で人材探索をしているときに、偶然出会ったのだ。

 松永さんの説得でチームに加わることを承諾した重信さんに対し、松永さんは続けて、ある要請をした。その言葉を聞いて、僕は仰天した。重信さんに、チームのリーダーになってくれというのだ。

 確かに重信さんは日本赤軍の最高指導者で、統率力においては、参加者の中に並ぶものが無いほど優れている。インテリで、実戦経験も豊富だ。十年ほど前までは一般社会で生活していたのだから、まるきりの浦島太郎というわけでもない。個性の強い犯罪者たちを纏めていくリーダーとして、十分な器量を持っているとは思う。

 けれど、総合力を考えたら、けして贔屓目でもなく、松永さんの方が一枚も二枚も上手のように思う。その松永さんが重信さんに従えというのだから、一応は言う通りにしているが、どうにも解せない部分はある。なにか狙いがあるのだろうが、僕にはそれはわからない。

「今はまだ、他の参加者と争うべき時期ではありません。さっきの松永さんの話を聞いていたでしょう?私たちがまず考えるべきは、いかに他の勢力を出しぬいて新宿歌舞伎町に経済的基盤を築くかです。こんなところで戦力を損耗したらどうするの」

「す、すみません。軽率でした・・」

 能力では松永さんより下と思えても、重信さんには重信さんで、有無を言わさず人を従わせる威圧感がある。かなりの美人でもあるのが、そのカリスマ性にさらに花を添えている。

「宮崎さん、あなたに、現時点で我々と行動をともにする意志がないのはわかりました。ただ、私はあきらめません。私の携帯電話の番号です。気が変わったら、いつでも連絡ください。待っています」

 宮崎勤は、松永さんが手渡した名刺をポケットに無造作に突っ込むと、会計を済ませ、店を後にしていった。あいつはこれから、僕たちの敵になるのか、味方になるのか?今の時点ではわからない。ただわかっているのは、あの男が、地球外生命体よりもなお理解不能な生物ということだけだ。

「さあ、我々も行きますよ。会議の続きは、Aホテルで行いましょう」

 松永さんの言葉で、重信さん、前上さんが、椅子から腰を上げた。四人そろって会計に行くと、松永さんは、当然割り勘だと思って財布を出そうとする僕らを手で制し、支給品ではなく、自分で買った長財布からお札を取り出す。

 松永さんの仕草は一つ一つが優雅で、一切の隙を感じさせない。犯罪を起こす前は会社を経営してそこそこに成功し、女性にも大層モテていたそうだけど、それも頷ける。なにかにつけ嫉妬深い僕だが、ここまで次元の違う人には、妬む気も起こらない。

 会計を終えて外に出ると、松永さんは先頭を重信さんに譲り、自分は後方に退いた。松永さんの隣、道路側を前上さんが歩き、僕はそのさらに後ろを歩いた。

 このフォーメーションは、誰に命令されるでもなく、僕自身が提案したものだ。後ろから襲撃を受けた際に100%反応できる勘を持つのは僕だけだし、前から襲撃を受けた際にも、僕の脚力ならば、十分重信さんを守ることができる。

 僕には、松永さんのような知力も、重信さんのような統率力も、前上さんのような猟奇性もない。だが、僕には戦闘力がある。戦闘力なら誰にも負けない。この戦闘力で、みんなの役に立ってみせる。

 ただ、この人たちの命を守ることが―――それは自分も含めてだが―――それが正しいことなのかどうかは、僕にはわからないが。
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No title

まさに一触即発の展開ですね。
加藤戦士の本領が発揮されています。
もしかして加藤は重信に何かこう母性的なものを感じているかもしれませんね。
重信は年齢的に彼の母親とは一回り上の世代でしょうが加藤は彼女に惹かれているように思います。
母親が糞すぎたせいで彼は幼少期に充分な愛情を受けることができなかった。
そんな彼が重信に惹かれるのもわかるような気がします。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

加藤智大が重信に母性を求めているのはあるかもしれませんね。

加藤の母親は典型的な自己愛人格障害者でした。
人の親になっても、いつまでも自分がお姫様。
子供すらも下僕のように思っていました。

そんな母親に育てられたからといって大量殺人を犯していい理由にはならないという意見ももっともではありますが、僕はむしろ、よくあんな親に育てられて25歳まで事件を起こさなかったと思います。

加藤智大の事件を、加藤本人だけを責めて終わらそうとしている人間。そういう人間が、第二、第三の加藤を作り出すのだと思います。

No title

深夜の読書タイムです(*'ω'*)

この回も懐かしいですね!
お会計時の、紳士・松永のシーンが何か好き。(笑)
加藤智大は忠実で真面目ですね…。
そういう面も、松永太はお見通しなんでしょうね。

改めて読み返してみても、重信軍が好きですね…。
その最初の回という事で、けっこうお気に入りです。

PCから長々、失礼しました!

No title

重信房子はこの中ではグループのリーダー格になってしまうでしょうね。
日本赤軍事件は時代背景も大きかったと思いますがとんでもない事件でしたね。
組織が完全に狂っていきましたからね。
日本赤軍は女性のメンバーが多かったのが印象的ですね。
永田洋子がいましたからなかなか女性でトップになるのは難しかったでしょうね。
松永太も重信房子の対応には丁寧に接していますね。
侮れない相手なので注意しないといけないと思っているのでしょうね。
宮崎勤が松永に礼も言わずに店を出ていくコミュ障さが気に入ってしまいました。
人との経験が乏しいとある場面でどうしていいか分からずにパニックになってしまうんですよね。
感謝の気持ちはあるのですが言葉にしないので相手に誤解を与えてしまう可能性大ですね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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