凶悪犯罪者バトルロイヤル 第78話


 宅間守は、蒲田のナイトクラブ「ダークスフィア」に、面倒を見ている不良少年グループの顧問的な立場として招かれていた。

 宅間が大田区において主催している「塾」の生徒は日に日に数を増し、現在では一日に10~15名を安定して集めるまでに規模を大きくしていた。元々は、ちょっとそこら辺にいる粋がり兄ちゃんみたいな可愛いものだった彼らは、宅間の教えのお蔭で、強姦、強盗、放火などの重犯罪を鼻歌を歌いながらやってのける、立派な外道へと成長していた。

 不良どもが身に着けたのは、悪事の知識だけではない。宅間と過ごす時間によって大きく変化したのは、彼らの用語でいう「一般ピープル」との距離感だった。

 今どきはヤクザも大卒などと言われるように、「不良=落ちこぼれ」という時代ではなくなった。学業やスポーツで優秀な成果をあげている者が、裏では非行や乱れた性生活をしているケースは珍しくもない。ファッションにおいても、特別ワルでもない若者が髪を染めピアスを嵌めたり、逆にどうしようもないワルが、地味なシングルのスーツを着てメガネをかけているようなことも普通である。

 とはいっても、それは単に境目が曖昧になっているというだけで、やはり傾向として、貧困家庭で育った者や、学業やスポーツで落ちこぼれた者が悪に染まりやすいのは変わったわけではない。宅間が授業をするようになってから起きた変化というのは、家庭環境にも恵まれ、成績も良好な「ちょっと不良ぶってみたいだけのガキ」が篩にかけられ、本物の「悪のエリート」だけが、グループに残ったということだ。

 それまで、「人間はみな平等」だの「生まれたところや皮膚や目の色で一体この僕の何がわかるというのだろう」などといった、優しい言葉で飯を食っている商売人どもに洗脳されて、「自分も頑張れば成功できる、幸せになれる」と無邪気に信じていたガキが、絶対に越えようのない違いに気が付いた。努力だの、自己責任だの、勝ち組が負け組を納得させるために生み出した言葉に、ずっと騙され、殺され続けていたことに気が付いた。

 「みんなみんな生きているんだ友達なんだ」が大嘘だったことに気が付いた不良どもは、「一般ピープル」との縁を断ち切ったどころか、敵視し始めた。今は同じ学び舎で席を並べていても、十年、二十年後、奴らは自分たちから搾取する側に回る。それは諦めよう。社会というものはあまりに巨大であり、十代のガキが吠えたところで、簡単には変わらない。ならば、奪われる前に奪う。これに尽きる。

 どうせ貴様らは、俺たち落ちこぼれのことを、同じ人間とは見ていないのだろう。見世物小屋の珍獣のようなものだと思っている。だから、こちらが檻の中から尻尾を振って愛想を振り撒いている内は可愛がるが、分を弁えずに同じ生活空間に入ってこようとすれば、途端に迫害を始める。反抗し牙を剥いたら、それ見たことかと、嬉々と顔で殺しにかかる。

 競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、こちらを同じ人間ではないと思っているから、何をしても、何を言ってもいいと思っている。クソみたいにプライドの高い競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、えてして、自分たちが日ごろ見下している下等生物にもプライドがあるということを理解できない。絶対に反撃されない、鉄格子を隔てた向こうから、こっちを攻撃している気になっているのである。

 愚かな競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもに、思い知らせてやろう。貴様らが力を得る前に、痛めつけ、あわよくば殺す。せめて、絶対に消えない傷を。体に、心に刻んでやる。それだけは、必ず約束する。
 
 宅間がそう口にしたわけではないのだが、宅間の教えを受けるうち、不良どもに、明らかにそうした思想が芽生え始めていた。その証拠に、今、ナイトクラブで不良どもが打ち合わせをしているのは、近辺の学区では一番の美少女であり、成績も優秀で才色兼備と名高いサツキと、毎年東大合格者を多数輩出する名門高校「竹中学園」の中でもトップの優等生、ヘイゾウのカップルを、殺して犯す計画だった。

「奴らの生活パターンと通学経路は、調べがついている。それぞれが塾から帰宅する午後十時ごろ、二手に分かれて奴らを拉致した後、例の廃墟で合流し、ヘイゾウの目の前でサツキを犯す。そのあと、殺して山に埋める。ってな計画なんやけど、どう思う?68のおっちゃん」

 自分を虐げてきた社会への復讐、憎き高学歴どもを皆殺しにする願望が、こんな形で再び叶えられるとは思わなかった。宅間はタバコに火をつけ、紫煙を深々と吸い込んだ後、おもむろに口を開いた。

「悪くはないが、面白くもないな。別々に行動しているところを拉致るんやない。二人が一緒に行動しているところを拉致るんや。デートをしているところがええな。幸せの絶頂を味あわせた後に、地獄のどん底に突き落としてやるんや。落差が大きければ大きいほど、絶望も大きくなる。悲鳴の聞き心地も、違ってくるというものや」

「なるほど・・さすが、68のおっちゃんだ。デート中に襲うのは簡単ではないだろうけど、やっぱり悪事は、ハイリスク・ハイリターンでなんぼだよね。よし、それで行こう。サツキとヘイゾウのスケジュールを、徹底的に洗うんだ」

 悪事を相談するときの不良どもの顔は、実に活き活きとしている。
 それでいい。もっと恨め。貴様らをそんなにした奴らを、もっと恨め――。
 ワシの後継者となれ。

「あ。言っておくが、今のワシの言葉は、全部独り言やからな」

 そこは重要だ。こいつらは人を殺して逮捕されても、少年法とやらに守られ、せいぜい十年か二十年食らうだけで済むが、自分はそうはいかないのだから――。

「わかってるよ。68のおっちゃん。おっちゃんに迷惑はかけないよ」

 聞き分けのいい子供たち。可愛ええ奴らや。こんなええ子らを、誰が不良と呼んだのか。

 十数年前、自分が蒔いた種はすくすくと育ち、大輪の花を咲かせようとしている。宅間は満足気な笑みを浮かべ、店に来て二本目のタバコに火をつけた。
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目の前で煙草吸われるのは不愉快なのに、小説では喫煙シーンが好きです渋い~~~!!!

改めて小説の方にコメントします><
やっぱり津島さんが描く宅間さん(シリアス版)は、渋いなぁ~~~大人の貫禄がありますね。宅間さんはシリアスにもギャグにしても、本当に良いキャラですよね・・・!!!


No title

>>蘭さん

犯罪者にしても堅気にしてもそうですけど、
多少のネタ的要素があった方が人気出る傾向ありますよね。
起こした事件が凶悪で、ぐうの音も出ない鬼畜なのに、
ちょっとクスっと来てしまうエピソードもあるから、麻原彰晃や宅間守は人気なんだと思います。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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