凶悪犯罪者バトルロイヤル 第77話

 
 麻原彰晃率いるバドラは、小田急小田原線の経堂駅前を訪れていた。

「おう、お前たち。今日もいたのか」

 麻原が話しかけたのは、世田谷区の公立中学校「黒龍中学校」に通う、少年少女のグループだった。現在、時刻は深夜の1時。塾帰りにしても遅すぎる時間であり、中学生が出歩くには相応しくない。

「んだよ。今日も来たのかよ、尊師」

「ウゼエんだよ、尊師」

 生意気な口を叩きながらも、子供たちの表情は麻原を歓迎する風であり、彼らが普段、親や教師、警官に向けるような敵意は感じられない。

 近ごろ麻原は、世田谷の学区において、大人たちから見放された非行少年を導く「夜回り尊師」としての名声を高め始めていた。具体的には、週に2~3度、深夜に駅前や不良の溜まり場を訪れ、そこにいる子供たちに声をかけ、帰宅を促して歩くのである。

 麻原がこうした活動を始めた背景には、一般人の武装勢力を味方につけたい、という思惑があった。パッと思いつくのはヤクザだが、いかんせん割高である。無論、こちらに入る利益も巨大ではあるが、それはこちらが彼らの期待に応えている間だけの話。こちらがヘマをして、パワーバランスが崩れた瞬間、ヤクザは共生者から捕食者へと姿を変える。

 ヤクザに一度餌として認識されてしまえば、もうあとは骨の髄までしゃぶり尽くされるだけだ。リスクを冒さず、低コストで働いてくれる一般人の武装集団として、麻原は街の不良少年を味方につけることを思いついた。

 麻原の掲げる地域密着政策とも合致するこの方針がうまくいけば、戦略、戦術の両面において、選択の幅が大きく広がるのは間違いない。また、地域の大人たちからの印象も良くなり、お布施の額が増えることも期待できる。数週間前、新加入の信徒、小田島鐡男に薦められて視聴した、神奈川県で夜間高校の教師をしていた人物の動画を観て、猿真似で始めた活動だったが、いい方向に成果が期待できそうだった。

「お前たち、腹は減っていないか?ガストに行くなら、連れていってやるぞ」

「ええー、またガスト?もう飽きたよ。どうせだったら、安楽亭くらいに連れて行ってよ」

 これまで麻原は、飯を奢るのと引き換えに子供の帰宅を促す方法をとっていたのだが、そろそろ限界が近づいてきたようだ。いつの時代も、子供というのは、大人が甘やかせばどこまでも付け上がる生き物である。このまま同じ手を使っていけば、要求する飯のグレードがどんどん上がっていくのは、間違いなかった。

「ははは、そうか。飽きてしまったか。まあ、俺も金持ちというわけではないのでな。ファミレス以上となると、なかなか難しいな・・うっ!?イタタタタ」

 会話の途中で、麻原はいきなり大げさに顔をしかめ、わざわざアディダスのジャージパンツを半分脱いで、ガーゼを貼った左の尻をアピールし、痛がってみせた。

「いやあ、昨日、とある高校の生徒がヤクザと揉め事を起こし、それを助けるために組事務所に乗り込んだところ、尻の肉をナイフで切れば赦してやる、と言われたものでな。本当にやってやったんだが、そのときの傷が痛んで仕方がない。まあ、俺のこんな尻の肉などと引き換えに、子供が助かるなら、安いものだがな。はっはっは」

 いつまで経っても「そのお尻、どうしたの?」と聞いてくれない子供たちに対し、麻原は必要以上に細かく、怪我をした経緯を説明して見せた。

 麻原が手本とする神奈川の元教師が、生徒が暴力団から足抜けするのと引き換えに小指を一本差し出したエピソードをパクった今の話は、言うまでもなく、デマカセである。実際には麻原の傷は、今朝、散歩をしている際に、電柱に立小便をしていたところ、いつもその電柱にマーキングをしている犬に吠え掛かられてしまい、驚いて尻餅をついた際に、道路に落ちていた石で痛めたものだった。

「そんなミエミエの嘘はつかなくていいよ。尊師の汚いケツなんて、見たい奴がいるわけないじゃないか」

「な・・・っ」

 麻原が、子供たちの予想外の返事に絶句するのを見て、麻原が怪我をした本当の理由をしっている関光彦が、ため息をついている。なにかもう、フォローを入れてやるのも、ツッコミを入れてやるのも恥ずかしい、といった感じである。

「くっ・・おい、タケシ。お前、イジメをやっていたことがあるか?」

「イジメ?三組のキョウに、よくタバコを買いに行かせたり、関節技をかけたりしているけど、あれもイジメになるのかな?」

「いいんだよ。昨日までのことは、みんないいんだよ」

 麻原が放った、神奈川の元夜学教師の名言のまるパクリに、場の空気が、通夜のように静まり返った。

 クソガキどもめ、自分の熱い思いがわからないとは。こいつらはきっと、自分の認める神奈川の元夜学教師ではなく、某議員の元教師に感化されるタイプに違いなかった。

 まったく、理解できない。あんな、暑苦しい体育会系のノリについていけない生徒はすべて否定してかかる、文字通りヤンキーにしか需要のない教師の、どこがいいのか。もしかして、中学生の夜遊びを咎めないどころか、積極的に連れ出そうとする、某漫画のDQN教師を信奉する輩か。理想の教師像を「金八先生」と信じてやまない麻原には、許せないことだった。

「・・・なんだかわからないけど、尊師が必死だから、帰ってあげるよ。またね」

 どうやら、麻原の誠意は伝わったようで、子供たちは帰路についていった。これもまたよし。勝負は過程ではなく、結果で決まる。どんな手を使ってでも、関光彦に呆れられようと、目的を果たせればそれでいいのだ。

「よし、光彦。俺たちも帰るぞ」

「結果オーライだからいいけど、カッコつけないでよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃない」

 バトルロイヤル制覇に、大きな力を貸してくれる存在――。
 一般人の武装勢力を味方につけたバドラは、一強体制をさらに固めていく――。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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