凶悪犯罪者バトルロイヤル 第74話

 スカーフキッス控室。松永太は、加藤智大ら仲間とともに、ロープで四肢を拘束され椅子に縛り付けられた、裏切り者の尾形英紀を囲んでいた。

「Nさん、無事に帰れた?そう、よかった。今回のことは、申し訳なかったわね。私が至らないばかりに、怖い思いをさせてしまって・・」

 重信房子が、Nに電話をして詫びている。アクシデントの際、すべての責任を被ってくれる便利な存在である。

「松永さん、重信さん、すいません・・。八木茂から、破格の条件で寝返りの誘いを受けて、つい・・。心を入れ替えて軍団のために働きますんで、どうか許してください」

 尾形が、聞いてもいない裏切りの理由をペラペラと喋った。

「いくらで誘われたんですか?」

 哀願する尾形に、松永は期待を持たせるような優し気な口調で問うた。

「前金100万の、成功報酬200万です。前金にはまだ20万くらいしか手をつけていないです。全額納めますから、軍資金にお使いください」

 早くも勘違いを起こした尾形が差し出してきた、現金が保管されたコインロッカーのキーには目もくれず、松永は八木軍の財力を推量する。我が軍を含め、まだ多くの勢力がじっくりと力を蓄えることに専心している中で、300万もの金をポンと出せる資金力。立地を考えれば、いずれは我が軍が上に行くにしても、現在の資金力は、互角か向こうのほうがやや上なのかもしれない。そして――それだけの金を出すほど、八木は我が軍を目の敵にしているということ。

 八木茂――。いつかは、雌雄を決さなければならない相手。早いか遅いかの違いだけだ。いいだろう。戦いの舞台に立ってやる。「麻原包囲網」計画を進めながら、一方で八木を倒す。なめているわけではない。自分はつねに、全体を見ている。先々のことを見据えて行動している。片手間で八木軍と戦い、そして倒す。それが最善の策なのだから、その道を行くだけだ。

「松村くん、カギを。お金はみなさんで等分してください」

 功労者には酬いる。人を大事にしなければ、第二、第三の尾形がいつ出てくるかわからない。

「ありがとうございます。これから誠心誠意、みんなのために・・」

「なに勘違いしている。誰が君を許すと言った」

 松永の冷厳な一言で、尾形の変形した顔が凍り付いた。

「裏切り者を処刑する。松村くん、前上さん、あれをお願いします」

 松永に言われて、松村と前上が車から持ってきたのは、松永がこの日のために選りすぐった、オリジナルの「拷問グッズ」である。

 松永の心は、遠足のバスに乗る少年のようにウキウキとしていた。待ち侘びていたこの日。今までは加藤らに経験値を積ませる目的もあり、まともな戦いばかりをしてきたが、ようやく自分の趣味を優先できる機会が巡って来た。単に己の性癖を見せつけるだけではない。裏切り者がどんな酷い目にあうかを見せることにより、再発を防止する、趣味と実益を兼ねた、一挙両得の殺戮ショーが始まる。

「さて。では始めますか。今回は初心者の方もいらっしゃいますから、まずは入門コースから行きますかね」

 料理教室の講師のように言って、松永は、尾形の頭に防火性のゲルを塗ったシャンプーハットをつけ、その上から灯油をかけた。そして、ライターの炎を近づける。

「やめて・・・」

 ボコボコの顔を恐怖に歪ませる尾形の哀願を無視し、松永は尾形の頭髪に着火した。

「あああああああああああああああああああああっ」

 咎人を断罪する地獄の業火が、尾形を焼く。その叫び声はあまりにも悲痛だが、自分の心に響くことはない。自分には、人と痛みや悲しみを共感する能力が欠落している。命乞いの類は、自分の嗜虐心に火をつけるだけだ。

「はははは。これは愉快だ。まるで人間ローソクだな」

 鎮火した後の尾形の頭髪は、荒野のようになっている。焼け焦げた髪の毛が発する耐え難い臭いが控え室に充満し、皆が吐き気を催す中、一人興奮しているのが、前上博である。

「はああ・・・松永さん・・首を絞めさせてくれないか・・お願いだ・・」

 シリアル・キラーと窒息フェチが一人の人間に宿った悲劇。開けてはならないパンドラの箱を、開けてしまったようだ。

「まあ、焦らないでください。すぐに殺したりはしませんから。夜は長いですから、腹ごしらえでもしましょうか」

 調理場から軽食が運ばれたが、松永と前上以外に手を付ける者はいない。歴戦の女傑、重信房子ですら、これから起こる残虐ショーに恐々としている。

「おや。君もお腹が空いたのですか?仕方ありませんねえ」

 薄ら笑いを浮かべながら、松永はついさっきまで自分が使っていたフォークを、尾形の左目に突き刺した。絶叫、絶叫、絶叫。松永はフォークを180度回転させ、眼球と眼窩を繋ぐ神経を根こそぎ切断し、眼球をくりぬいた。

「さあ、おいしそうな目玉が取れましたよ。ほら、食べてください。お父さんお母さんから貰った大切な目玉なのだから、また自分の体の一部にしないと」

 三国志の英傑が残した、なんとも壮絶な理屈を用いて、激痛で失神している尾形の口腔に、松永は無理やり眼球を押し込んだ。

「うっ・・・すみません、ちょっと、俺はこれで・・」

「私も・・・」

 加藤智大が口を抑えて控室を去ると、畠山鈴香、松村恭造があとに続く。自分の残虐行為で人がひくのは変態冥利に尽きるのだが、まあ、無理に参加を強要しても仕方がない。残った者で、続きを楽しむとしよう。

「あれ?寝ちゃったんですか。いけませんねえ。食べてすぐ寝たら牛さんになってしまうと、小さいころにお母さんから教わらなかったのですか?」

 松永は食卓の上のタバスコを、尾形の、目玉がくり抜かれて空洞になった眼窩に注ぎ込んだ。目玉の無くなった眼窩から、涙と一緒にタバスコがあふれ出てくる。尾形の悲痛な絶叫が、松永の耳にはサラ・ブライトマンの歌声よりも心地よく聞こえる。

「うぎい・・むぎい・・ぐむう・・がっ・・・がっ・・」

 虫の息の尾形は、もはや何を言っているかもわからない。まだ、余興は始まったばかりであり、試したいことはいくらでもあったが、ここで死なれて、前上博にへそを曲げられてもかなわない。

「そろそろ、楽にしてやりますか。トドメをどうぞ、前上さん」

 大トリを譲られた前上が、瞳を爛々と輝かせて獲物に歩み寄り、首に両手をかけた。尾形の、余ったもう一つの眼球がせり出し、隻眼の蛙のようになる。細くなった気道からヒュー、ヒュー、と酸素を貪る声は徐々に小さくなり、やがて完全に消え去った。

「ふうっ・・ちょっと、トイレに・・っ」

 これから、両の掌に残った余韻を噛みしめながら、欲望の落とし子を放出しに行くのだろう。前上の背中を見送り、松永は、ロゼのボトルを開けた。

「ご一緒に、どうですか?」

「・・いえ・・。先に、ホテルに帰ります・・」

 最後まで室内に残っていた重信に声をかけたが、彼女もまた、そそくさと消えてしまった。松永は苦笑し、グラスに注いだ、真皮を思わせる色合いのロゼを飲んだ。

 めくるめく処刑ショーの閉幕。自分の欲望を満たすとともに、ここまで、爽やかで人当りのよい表の顔で心を掴んできた仲間たちに、自分の違った一面を見せることもできた。成果は上々。今度は、八木茂――。あの男の惨めで憐れな屍を見れたなら、今よりもっと美味い酒が飲めることだろう。

 ロゼのボトルが半分ほどになったところで、松永は立ち上がった。まだ酔えはしないが、これ以上、この部屋の空気を吸うのは限界だった。屍は美しいが、糞尿の臭いは耐え難い。前上の趣味に付き合ってやったことによる弊害。この程度のことも計算に入れられなかった自分のミス・テイク。

 屍を回収しにくる委員会には、清掃も依頼しなければ。いや、Aの便利屋に仕事を与えてやるのもいいか。

 灯りの消えた室内に尾形の屍を残し、松永は、明け方の歌舞伎町へと消えていった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

松永が、杉下右京口調な件。
右京さんの口調で拷問。怖すぎる…!

しかしオモロい。
長文だし、読み手を選ぶ文章なんだと思う。だからイイ文章なのにブレイクしない。
オツムのイイ人間にしか理解されないんだと思う。

広く浅い小説がイイかもしれんよ。もち、今のシリーズ終えてからお願い。

オツムのイイ連中は毎日楽しみにしている。

No title

>>けつのすさん

今の時代、「慇懃な口調で相手を追い詰めるキャラ」を書くと、どうしても杉下右京に変換されちゃいますねw
僕も書いていてこれ右京やんと思っていました。


ネット小説に向いてないとは、他の読者の方には指摘されましたね。

ネットで人集めている小説って、文章は基本的に軽く、内面描写や比喩表現、雑学の紹介などほとんど省いてます。それじゃ小説じゃなくて脚本だろ!・・とまでは言わずとも、その中間くらいの文章が向いているみたいなんですね。

それと、99%の割合で、既成の作品の二次創作です。スラムダンクの続き~だの、エヴァンゲリヲンのなんちゃらかんちゃら~みたいな。これは実名の犯罪者を登場させていますけど、ストーリー自体はオリジナルですからね。

ただ僕の場合、いわゆる趣味でやっている人と違って、その先を目指しているというのがあるんで、そういう、ネット小説向けの文章っていうのに迎合するわけにもいかんのです。文章の書き方ってくせになりますし、本当に商業紙で書くためには、やっぱりそれなりの文章を身に着けないといかんし、それでアピールしていかないといかんのです。また、二次創作したいような作品ってのもないんですよね。そこも問題です。


このスタイルで人気が出なければ、それまでかな。
という風に、考えています。
人を集められなければ、当初の狙いである
出版社へのアピール材料にはなりにくいですけど、
評価してくれる方はちゃんといますしね。
続けていれば、いつかチャンスは巡ってくる。
そういう風に考えて頑張ります。
実際、ブログ始めたことによって、醜形が治ったり、
鬱も緩和したりで、いいことありましたし。

これからもよろしくお願いいたします!

今回もソッコーで読んだくせに(笑)感想書くのが遅くなりました><

今回は松永パートで、きっと尾形は殺される前にお仕置きされるんだろう・・・と予想はしていたんですが、その予想を遥かに上回る過激さでした・・・!!!

凶悪犯について調べるようになってから、グロ耐性はまぁまぁ・・・、
文章なら殆ど大丈夫になって来たんですが、この拷問の様子を想像すると本当に怖い~・・・。

他の凶悪犯達さえも松永に退いていってしまうなか、前上だけ興奮していて可笑しかったですwww
まさかここで、前上がいい味出してくるとは・・・!!!

あと加藤くん、鍛えてるとはいえ、
何だかんだでデリケートだから心配です・・・(´;ω;`)

私も一度二度、画面から離れては、恐る恐る読み進めましたよ(笑)

松永の口調は、実際には、北九州弁(~っちゃ、とか、ラムちゃん語みたいな?)だったのかな?
とも思うんですけど(^-^ゞ
特にシリアスなシーンでは北九州弁でなく標準語の方が、冷酷な松永には似合いそうですね・・・!!!
北九州弁って、少し調べたんですが、博多弁にも似ていて可愛らしい言い方が多いんですよね(*^^*)

No title

語尾が「~っちゃ」で電気属性の松永さんはラムちゃんだったんでうね・・・・・・・・♪

No title

>>蘭さん

松永太は多分九州弁だったでしょうね。
少年時代から一貫して九州を活動拠点にしていますから。
まあ、地方の人が標準語を使う分には問題ないし、
なにより僕が九州弁を勉強するのが大変なんで(北村一家くらいなら翻訳ソフトで出来るけどメインキャラは無理)標準語で行きますw

あと、こんな小説書いていていうのもなんですけど、僕、グロ耐性全然ないんですよ。血なまぐさい系、スカトロ系、生き物系全部無理。

でもその中でも微妙な違いはあって、たとえば虫なら、ムカデやクモはフォルムがカッコイイから全然大丈夫。あと、基本的に単機で行動してるなら平気です。ヤスデの大量発生とか、湿った石の下とか、大群でこられるときついんですよね。

あとスカトロ系ですけど、いわゆる「聖水」はいけます。いや飲んだことはないんですけど。キレイな人限定ですけど。でも茶色いのは無理。まあ金次第ですね。ってな感じですw

>>フムフム

松永太と宅間守はタメ齢だかいっこ違いだかなんだよね。
同世代に生まれた二人だけど、起こした犯罪はまるで対象的。
この二人の邂逅はあるのだろうか。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR