凶悪犯罪者バトルロイヤル 第73話

 張り詰めた空気が流れるハイエースの車内。味方だと思っていた尾形英紀さんが、なぜ私に刃物を向けるのか。思考がミキサーで掻き回される。

「・・・ホミカを降ろしてあげて」

 私は、努めて冷静に言った。

「ほう。胎は据わってんだな。さすがに素人じゃねえや」

「聞こえなかった?ホミカを降ろしてあげて」

「だめだ。ちょっとでも動いたら、命はないものと思え」

「これは監禁よ。バトルロイヤル参加者は、一般人に危害を与えたら処罰されるんでしょう?早くホミカを解放しないと、命がないわよ」

「はっ。お前、何言ってんだ?監禁罪はな、被害者側が監禁の事実を認識していない場合はグレーゾーンなんだ。今、お前の友達はどうしてるよ?」

 ホミカは私の膝を枕に、すやすやと寝息を立てている。尾形の言っていること――完全なハッタリとも思えない。Aの起こした放火事件から考えてもわかる通り、グランドマスターなる男は、参加者の犯罪について、意外となあなあで済ませるところがある。尾形がホミカに直接手でも触れない限り、処罰の対象になることはないだろう。

「殺しはよ、ギャラリーがいねえとつまんねんだろ。俺ぁよ、女の怯えている顔を見るのが、何よりも好きなんだ。大好きなお友達をぶっ殺されて泣きわめいているホミカちゃんを見たら、イッちまうかもしれねえな」

 尾形は黄色い歯を剥き出しにして、正視に絶えない笑みを浮かべている。大声を出すべきか?が、その瞬間、ナイフが私の喉めがけて飛んできたら?何を迷っている。汚れた私の命などより、ホミカの安全を第一に考えなければならないのに。でも――私も生きたい。せっかくできた友達。二人で生き延びる方法は、なにかないの?

「さて。じゃ、死んじゃおっか。じゃあねNちゃん、成仏してねー」

 思考をフル回転させた。漆黒の状況を打破するために。すべての情報を脳に総動員した。そして下した、生き残るための決断――。

「てめえ・・・なんのつもりだ」

 私は、眠っているホミカを起こし、我が身を守る盾とした。尾形は私の予想外の行動に、慌てふためいている。

 罪悪感が、自己嫌悪で掻き毟られる。それでも私は、大好きな友達を盾にしている。ドブネズミのように浅ましく、醜い姿を晒して、それでも私は生きようとしている。生きててありがとうって、言ってほしいから。最低、自分勝手――自分への卑罵が、生への渇望に掻き消されていく。

「・・・???ドラエもん??ドラエもんがいなくなっちゃったよ。あのね、ドラえもんがね、両さんに殴られてね、アンパンマンになっちゃったの。ドラエもんはどこに行っちゃったのかな????」

 さっきまで見ていたのであろう夢の内容を、小首を傾げながら語るホミカ。5~6歳くらいの女の子が発するのと同じ周波数の無垢なオーラに、尾形はすっかり毒気を抜かれて、握ったナイフを持て余している。

 脱出のチャンス――。スライドドアに手を伸ばしかけて、止めた。

 脱出?もし逃げ出したとして、残されたホミカはどうなる?失態を犯した尾形が、我を忘れ、腹いせにホミカに危害を加えないとも限らない。そんなことになったら・・。

 私の瞬間の躊躇を、尾形は見逃さない。やに下がりかけていた瞼が吊り上がり、瞳がみるみる内に異様な光を帯びていく。

 慌ててスライドドアを開け、ホミカを連れて外に出たが、一歩遅かった。一瞬で追いついてきた尾形に、後ろから襟首を掴まれ、引きずり倒された。仰向けの体制から見上げる空には、街燈の光を受けて煌めく白刃が見える。万事休すか――。死を覚悟したそのとき、尾形が視界からフェードアウトし、拘束を失ったナイフが落ちてきた。

 ナイフを躱して起き上がり、何が起こったのかを確認する。車体に後頭部をぶつけて呻いている尾形と、ドタドタと走って去っていく肥満体の男性――。救いの神が、現れたらしい。

「ホミカ。ちょっと、目を瞑ってて」

 胸をなでおろしている場合ではない。私は倒れている尾形に駆け寄り、脳天にゴム製のスラッパーを見舞った。革のしなりを利用して破壊力を生み出すスラッパーは、女性でも扱いやすく、強い力を生み出せる護身用具だ。

 静かな夜道に、骨を打つ鈍い音がこだまする。1ダース、2ダース。タコ殴りにされた尾形の顔面が、三倍くらいに膨れ上がったところで、私は攻撃を止めた。

 携帯電話を取り出す。そこで少し迷う。Aと松永社長――。どちらに連絡をしたらいいのだろう。尾形はスカーフキッスの関係者なのだから、この場合は松永社長か。

 電話はすぐに繋がり、わずか15分ほどで、松永社長が配下を引き連れて現場にやってきた。

「大変でしたね。とりあえず、一度店まで来てください。ホミカくんも」

 私は、寿命が一年縮んでしまうのではないかと、こちらが心配してしまうほど心配げな顔を私に向けている加藤店長の運転する車でスカーフキッスに戻り、そこでAに連絡して、迎えに来てもらった。

「明日の勤務は、二人ともお休みでいいですから。しっかりリフレッシュして、また明後日から元気な接客を見せてください」

「はい。お気遣い頂き、ありがとうございます」

 休みといっても、私はAたちと行動しなければならない。安息が得られないのならば、せめて夢に向かって仕事をしたかったのだが、社長命令に従わないわけにもいかない。

「あの・・尾形さんは、どうなるんですか?」

 私は、ボロ雑巾のようになっている尾形を見ながら、なにやらウキウキした様子の松永社長に問うた。

「君はA軍の人間です。あとのことは、我々に任せてください」

 そう答えた松永社長の口角は吊り上がり、悪魔のような形相になっていた。それでもう、これから起きることは想像できた。同情はしない。一つ違えば、私がその立場を演じていたのだから。

 私とホミカはAの運転する車で、改めて自宅マンションへと帰って行った。

 味方のはずの尾形が私を襲った理由、尾形から私を助けてくれた男性の正体・・。
 ホミカを盾にしてしまった私は、一体どこまで堕ちていくのか・・。
 気になることはいくらでもあるが、とりあえず、今晩はゆっくりと休もう。
 明日からまた始まる、血塗られた戦いに備えて・・。
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今回もおもしろかったです(*´ω`*)

津島さん、こんにちは!

以前よりもコメントの間隔が開いてしまい、ごめんなさい~><
数日なかなか、ゆっくり時間とれなくって、感想書きたいのに~~~、
もどかしかったです!!!
でも、毎日、覗いてはいますよっ(笑)

加藤くんの回も、Nたんの回も、
またまた楽しませてもらいました☆

筋力トレーニングのことやキャバクラのお仕事のことも、かなり詳しく下調べされてますね・・・!!!
それもネットで調べたりしたんですかね?(・・;)
もし、ネットで調べたにしても、それを参考に小説で書き起こせるのは、本当にすごいと思います!!!
筋力トレーニングについては、男性の方ならより詳しそうな気もしますが、キャバクラのことまで・・・
津島さんがリサーチ目的でお店に行って、働かれてる女性から聞いてきたんじゃないかなっ☆と思うくらい、リアリティがありましたよ~
><いや、あまりに詳しかったので、変な想像してすみません・・・(笑)

Nたんの回は、まさかの急展開にビックリ!!!でした~!!!
加藤くんは寿命縮まりそうになるし(鍛えてるとはいえ、メンタルのダメージが大きそう・・・笑)、
松永さんかなりこわいですっwww
きっと、ビリビリお仕置きだけでは済まなそうですね・・・!!!
朝からハラハラしながら読んで、後半はつい笑っちゃいました(笑)
謎の人物は・・・もしかして元死刑囚の、あの人かな・・・???
肥満体でかなり地味めな・・・、
もしその人なら、スカーフキッスのお客さんに混ざってても、みんな分からなそう???www
若い女の子かなり好きそうだから、
少女のままのようなホミカたんかNたん指名ですかね???
それで彼女を助けた・・・???
こそこそストーカーしてたけどNたんたちの危険を察知して思わず助けてしまった・・・???
Nたんに顔を見られたら正体バレるからスグに逃げてしまった???
・・・Kかな???
おおお!!!憶測が憶測を呼んでおります!!!(わたしの中でwww)
あっ、もしまだ、ヒ・ミ・ツなら、
無理にバラさないでくださいね♪(笑)

No title

>>蘭さん、こんにちは!

キャバクラは一度しかいったことないんですよ。
結構楽しかったですけどね。
金さえあれば毎日でも行きたいです。

貧乏人がキャバで女をゲットできるなんて幻想は抱いていないんで、どっちかっていうとフーゾクの方をよく利用していましたね。

その時代によく指名してて、メールもしていたりした2歳年上の人がいたんですけど、彼女がキャバクラ勤めの経験もあって、彼女から得た情報が役に立ってますね。あの人今なにやってんだろ。結局店外でヤラせてくれないままどこかに消えてしまった・・(俺のせいじゃないよ)。あとは、本やネットなどの知識ですね。

夜の世界の女の子って、全然普通です。お高くとまってる女は昼の世界にもいくらでもいるし、フーゾクに勤めてる子には、すごく優しい子もいますね。たまにどうしようもなく態度が悪いのもいるけど、あれは多分、客からひどい言葉浴びてるうちにああなっちゃったんだろうな。肉体も精神もハードな仕事で、よく頑張ってると思います。頭が下がります。

ただちょっと抜けてる子が多いのは確かですね。昼の世界じゃ苦労するだろうなっていう。そういう子でも安心して働ける世の中になっていかないといけないんですけどね。

でもフーゾクなくなったら性犯罪激増するだろうし、何より俺が困る。
難しい問題っすね。


筋トレは、僕もともと筋肉質なんで(見せてあげたい)やる必要があまりないんですけど、スポーツは好きなんで、よく勉強していますね。これはネットが多いかな。


そういう知識って、見るだけじゃなくて、書くことによって定着していくんですよね。そういう意味でも、こうやって小説かけてるのはいいことです。

遅くなりました☆

津島さん今晩は!

小説の感想を・・・
その前に前回のお返事から・・・
こちらに書いて気づいてもらえるかな!?><(笑)

キャバクラにもお勤めの経験がある方と、いろいろお話されてたんですね!♪

私も前の職場(事務職)で、
キャバの経験が豊富な後輩がいて・・・、色々と裏話を聞いたりしましたよ♪

その後輩も、いたって普通の女性でしたよ!知り合う少し前に夜の仕事してたと聞いた時は、まさか?ネタなんじゃないかと驚いたくらい。
(お店にいた時のプロフ用の画像を見せてもらい、ようやく信じられましたw)
バンドのファンや漫画好きでオタク気味な後輩だったので、夜のお店はほとんど趣味のための資金づくりだったとかで。

夜の世界も現場の話を聞いてしまうと、やっぱり、イメージがだいぶ変わりましたね~。
ただ、お客さんからチヤホヤされるだけじゃないんですよね・・・。
どんなに笑顔で頑張っててもうまくいかない時もあったり、
一見、優しそうな男性からひどい意地悪ばかり言われたりもするとか・・・。
反対に、強面な男性が、実はすごく思いやりがある方だったり・・・、
「人は見かけによらない」ということを素肌で体感できるよと言ってました(笑)
あと話す前から「好き」とベタベタされたりもあるとか・・・。
後輩は、お金持ちのオジサマ?からいきなり、すぐに店辞めて!とか、
しつこく求婚されて、適当に言い訳して指名でつなぐのが大変だったらしいですwww

聞いてるだけならおもしろいんですが・・・、実際に働いたりしたら数時間でバテちゃいそうです><

昔、接客業(繁華街のカラオケ店、マンガ喫茶の夜勤など)を掛け持ちフリーター(笑)してたんですが・・・、
そこでも個性豊かでユニークなお客さんがかなり居ましたけどね(笑)
夜のお店は、ハイリスク・ハイリターン、飛び込むにはきっと相当な勇気が要りますね・・・。

本当に、いろいろな女性がいろいろな理由で働かれてるんですよね~。
同性から見ても凄い・・・、体を張ったお仕事だと思いますね!!!

たしかに・・・、オトナのお店がほとんどなくなるのは危険ですね><
津島さんも困ってしまいます!!!?
日本は昔から、店舗型が多いようですよね。なかなか、そう簡単にはなくならない気がします・・・!!!

かなり話を広げてしまいました´ω`

そうですよね、ネットでも、気になったことは直ぐに調べられて便利にはなりましたけど、せっかく得た知識も、書いたり話したりしないとなかなか身に付かなそうですね。

私も何か調べたら、メモしようかと思います!!!
最近ほとんどスマホ(ネット中心なので小さなPC状態…)の中での読み書きがメインになってしまってるので・・・><


No title

>>蘭さん

こんばんは!

そうそう、意地悪なこと言ってくる人が多いみたいなんですよ。キャバはともかく、フーゾクって、結構見た目が「?」な子も多いんですよね。やむにやまれぬ事情があってやってるんでしょうけど、客も酔って来る場合が多いもんだから、そういう子に酷い言葉投げかけることがあるみたいです。それで荒れちゃうんでしょうね。僕みたいな弱っちそうなのが来ると、日頃の憂さ晴らしとばかりに、ナメた態度とってくれるんです。

まあ、可哀想なんですけどね。今度そういうのに出っくわしたら、ガーッと言ってやろうと思います。金払ってるんでね。教育のなってない、女の子の質も悪い格安店じゃなく、高級店を利用したいっすね。

確かにキャバもフーゾクも、一時の資金稼ぎにやる子も多いみたいですね。ふつうの女子大生とか。最近は垣根が低くなってきたように思います。

またいきてえなあ。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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