凶悪犯罪者バトルロイヤル 第70話

 
 宅間守は、角田美代子からの要請を受け、配下を率いて駒込の駅前商店街に赴いていた。今日はここに拠点を構える、金嬉老事件の金嬉老、小松川事件の李珍宇のコンビを攻めるのだという。3日前、角田軍はこのコンビから襲撃を受けており、その報復であった。

「なんでわざわざこっちから攻め込むんや。別に、仲間を殺られたわけやないんやろ?ほっといたらええやんか」

「襲われて、何もやり返さないんじゃ、ナメられちまうだろ。そしたら、また次があるかもしれないじゃないか。二度と手出しをさせないためにも、報復はきっちりしとかないといけないんだよ」

 宅間の素朴な疑問に、淡々と答えを返す角田。たしかに一理ある。報復も感情任せには行わないところが、いかにもこのババアらしかった。

「旅館に立て籠もって八十八時間も戦い抜いた金嬉老は、参加者の中では、三菱銀行籠城事件を起こした梅川昭美に並ぶ、籠城戦のスペシャリストや。その金が、子供ながら参加者中屈指の体力を持ち、奸智に長けた李珍宇を従え、このアパートの二階に立て籠もっている。これは、厄介な戦になりそうだよ」

 角田が、名鑑に載った二人の写真を指して言った。

 籠城犯――。確かに、厄介な相手ではある。かの孫子も言っているが、施設に籠る敵を攻めるのは、戦争においては下策中の下策である。施設の入り口は限定されているため、そこにだけ警戒していれば侵入者を簡単に迎撃できるし、長期戦で陽射しや雨に晒されっぱなしの攻撃側に対して、防御側は屋根のある室内で過ごせるため、体力を温存しながら戦うことができる。現代のように破壊力に優れた科学兵器が存在しない中世以前においては、籠城戦は防御側が圧倒的に有利な戦術であった。

 もっとも、一度侵入さえしてしまえば、相手は袋のネズミであるため取り逃しがないことなど、攻撃側に有利なこともないではないのだが、自分がこの戦いに参加したのは角田軍の援軍としてであり、そもそも意識の低い中では、決死の覚悟で施設内まで攻め込んでからようやく発生するメリットなど、無いのと同じだった。

「まどろっこしい。相手は銃を持っているわけじゃないんだろう?なら、こいつで身を守って突っ込めばいいだろ」

 藤井政安がそう言って取り出したのは、機動隊などで用いられる、ジュラルミンの大楯である。なるほどこれで上半身を覆いながら施設に近寄っていけば、大抵の飛び道具からは身を守れる。が・・。

「うわーーーっ、なんだこりゃっ!」

 商店街の路上に漂う悪臭。階段に向かって近づく藤井に向かって、アパートの窓からバケツで放たれたのは、人間のものと思われる糞尿だった。

 殺し合いで糞尿を投げるとはおかしなようだが、馬鹿にしてはいけない。金川が遊んでいるロールプレイングゲームの補助魔法と同じで、相手に嫌がらせをして戦意を喪失させてこそ、弓矢や刀剣での決定力が生きるのだ。実際、糞尿攻撃は、古来よりの籠城戦での常套戦術である。衛生観念の薄い昔だったら、それだけで疫病が蔓延して軍団が壊滅してしまうこともあったほど、強力で効果的な戦術なのだ。

「ね、姐さん、助けて・・」

「バカ、近づくんじゃないよ!」

 黄土色に染まった顔面を悲痛に歪めている藤井は、すっかり戦意を喪失してしまったようだった。

 戦線は膠着した。糞尿攻撃を使ってくるところを見ると、金嬉老とやらは、籠城戦の定石は一通り知っているとみて間違いない。迂闊に手を出せば、糞尿のほかに熱湯攻撃などもあり得るだろう。特殊部隊なみの装備があればそれは防げるが、今度は重たい家具などが降ってきたら、首が折れて一貫の終わりだ。

 宅間たちはひとまず、施設の四方に人員を配して補給を断ったが、これは完ぺきな戦法とはいえない。外部に協力者がいて、宅急便か何かで物資を送ってきたら、妨害のしようがないのだから。つまりバトルロイヤルにおける戦いでは、城攻めにおいてもっとも確実で安全な、兵糧攻めは使えない。

 宅間は思案した。一体、いかなる戦術をとれば、リスクを最小限に抑えたうえで、城を落とすことができるのか。

 火攻めは不可能だ。アパートには、コリアンコンビ以外の住人も住んでいる。一般人に犠牲者が出てしまったら、委員会から処罰されてしまう。ならば同じ理由で、ショベルカーを用いて、外壁ごと破壊してしまうのも無理ということなる。窓ガラスを破壊し、ホースで水攻めにするという手も考えられるが、消防車でも持ってこない限り、室内を水浸しにするほどの水は送り込めないであろう。城内に内通者を誘うことができない限り、このアパートは不落の要塞か。いや。一つ、方法がある。

「おい。目には目を、でいくで。なるだけ強烈な臭いが出るもんを、ありったけ持ってこいや。それと、画鋲や。画鋲を、大量に買ってこい」

 まきびしと異臭攻撃のコンボ。床にばら撒かれた画鋲が、同時に大量に投げ込まれた汚物を撤去することを許さず、敵は地獄を味わうという寸法である。そして一時間後、宅間の命令で、飲食店から出た生ゴミ、有機肥料、自前の糞尿などといったバイオテロ兵器が集められた。

「よし。やれや」

 宅間の指令を合図に、まずは大石が投げ込まれ、アパートの窓ガラスが破壊された。そこから、汚物と、画鋲を詰め込んで厚紙で蓋をしたグラスが投げ込まれる。グラスは室内で砕け、画鋲を床にまき散らす。鼻がもげるような悪臭と、金と李の悲鳴が、同時に漏れ出してきた。

 コリアンコンビはそれから6時間粘ったが、やがて音を上げ、降伏を申し入れてきた。角田は思案した後、二人を、普段は別行動だが、いざというときには角田軍に全面協力させる、傘下団体とすることを決断した。元々この戦いは、最低限、コリアンコンビに恐怖を与え、二度とちょっかいを出してこないようにさせられればそれでよし、という戦いである。両軍の間に、深い遺恨はない。ならば、ここで無駄に殺してしまうよりは、生かして今後の戦いに使ったほうがいい、という理屈であった。

 無論、二人が裏切らないという保証はない。だが、そのリスクを考えてでも、角田のオバハンは、二人を生かすことを選んだ。

 麻原のオッサン率いるバドラ、歌舞伎町に拠点を構える重信とかいう女の一派、池袋の八木とかいうオッサン、北村一家・・。バトルロイヤル開始から三か月余りが過ぎ、大勢力が生まれてきている。つまらん小競り合いでいたずらに人を殺していたら、それら大勢力と戦う力を得ることはできない。参加者は、勝ち残り8人の椅子を争うライバルであると同時に、貴重な人材なのだ・・。

 というのが、角田のオバハンの話。宅間にとっては、今回の戦闘の謝礼、100万円が手に入れば、それでよかった。

 全体戦略になど、興味はわかない。考える気もない。今も昔も、刹那の時を生きるだけの自分には、生き残るために女々しい努力をする奴らの気持ちなど、わかりっこなかった。
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こんばんは☆

宅間さんパート待ってましたー!!!(*´ω`*)

しかし、糞尿が飛んで来るとは・・・、相当おそろしい攻撃><きっと精神的に相当削られますね…!!!

目には目を…、と思案した作戦、窓めがけて物を投げるハラスメント行為は、宅間さんの得意技?ですよねw
しかも、バイオテロ兵器!!!自前の糞尿・・・!!!
きゃー><自前んんちまで・・・
すさまじい!!!圧倒的な破壊力ですねwww

コリアンコンビは殺されはしなかったけど、あそこまでされたら、もはや半殺し状態ですよね・・・(笑)

それから、梅川さんの名前もチラッと出てきて、
そろそろ出番が来るのかな~~~!?って、ワクワクしちゃいました!!!
梅川さん宅間さんと遭遇したりするのかなぁ( 〃▽〃)
・・・それは津島さんのみぞ知る、ですね(笑)
また続きをめっちゃ楽しみにしてますね☆(ノ´∀`*)

No title

>>蘭さん

今回は宅間氏の戦術眼を発揮させたかったです。
宅間氏の親父さんとの戦いは戦術的で面白いんですよ。



 宅間、父、ころし合い

宅「この請求書は高こうつくぞ」

 後日、宅間父宛に大量のエロビデオが届く

父「確かにやつの言った通り請求書は高こうついた」

このインタビュー記事は何度読んでも笑えますw
あの一家ほんとに文学的センスありますw

梅川昭美は早く登場させたいですね。
どんどん大物は出していきたいです。
梅川の篭城戦術も見事なものでしたね。
突発的な犯行だったのに、よくあれだけのことを
思いつくものだと感心してしまいます。
山口組三代目を弾いた男との奇妙な因縁話など、
彼は余談にも事欠きませんしね。面白い男です。

久しぶりですマモッ

>自前の糞尿
>自前の糞尿
>自前の糞尿
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>自前の糞尿
>自前の糞尿
>自前の糞尿














一個ぐらい袋に包んで持ち帰りたいでう(*^.^*)
うんちのツブツブと臭いと味でマモマモが何食べたか分かるかなあ
バナナかな?カレーかな?とろろそばかな?カロリーメイトかな??




刹那の時を生きるマモマモ~~~~~~~~~♪かっこよすぎう(///ω///)♪(///ω///)♪ジュンジュン(///ω///)♪~~~~~~~~~~~~~ういいいいい⌒▽⌒▽⌒マモモ

No title

>>フムフム

お前の変態ぶりにはさすがの俺も一歩及ばぬのう。
そのペースで成長したら一体どうなってしまうのだ
男の子にいたずらしたくなったら俺に言えよ。
俺ならいつでも身体は空いてるからな。
善良な市民に手を出してはいかんぞ。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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