凶悪犯罪者バトルロイヤル 第68話

 物事は、どこで何がヒントになるか、わからないものである。まさか、宮崎勤がプレイするゲームが、謀略の着想に繋がるとは、完全に想定の範囲外だった。加藤智大に、宮崎宅に盗聴器を仕掛けさせたことが、思わぬ形で生きる結果となった。

 そのとき、松永太は、ビジネスホテルの一室にてブルーマウンテンを啜りながら、軍略を練っていた。

 5月2×日。バトルロイヤルが開始されてから、もうすぐ三か月が経とうとしている。まだ焦る時期ではないと思っていたが、近ごろの麻原の勢いを見て、松永は考えを変えていた。

 まさかバトラと宅間軍の間に、友好の兆しが見えるとは思わなかった。最大勢力のバドラと、人員は少ないながら戦闘力において最強の宅間軍が手を結んだら、厄介どころでは済まないことになる。その上、宅間軍はすでに角田美代子軍と同盟を締結している。麻原―宅間―角田のラインが成立してしまったら、対抗するのは不可能だ。

 出る杭は、早めに潰して置かなければならない――。のだが、忘れてはいけないのは、他の勢力から見れば、我が軍団もまた、「出る杭」には違いないということだ。

 オープンから一か月が経ったスカーフキッスは、全国のキャバクラで五指に入る売上を記録した。純利益は1000万円を超えている。経済力においては、参加者中ダントツの№1である。人材には、実戦経験豊富な重信房子に、最強候補の加藤智大がおり、さらに永田洋子と同盟を結んでいるから、戦闘力においても、バドラに匹敵する。参加者の中には、我が軍をバドラ以上の脅威として警戒している者も多いだろう。

 その筆頭が、池袋で「IKB48」を経営している、八木茂である。常々歌舞伎町に進出する機会を狙っているあの男は、暴力団の東の雄、佐野組と手を結んだ我が軍に対抗し、暴力団の西の雄、横山会と手を結んだ。これは両軍に、同盟の可能性が一切なくなったことを意味する。現在は情報戦の段階だが、近々、血で血を洗う抗争の火ぶたが切って落とされるのは明らかだった。

 八木の動向に目を光らせながら、一方でバドラに負担をかけていかなければならない。有史以来、二正面作戦は愚策とされているが、バトルロイヤルには一年という期限がある。八木を全力で潰すためにバドラを完全に放置してしまっていては、八木と戦っている間にバドラはますます肥え太り、一方の我が軍は八木軍との戦いで損耗し、挽回できない戦力差が生まれてしまう。先に本格的に八木軍と事を構えつつ、バドラの勢力伸長を妨害することも、水面下で進めていかなくてはならない。

 幸いにも、まだ、課題を一つ一つ潰していく時間的余裕がある。今のうちに、出来るだけの手を打つ。

 まずは、麻原彰晃と宅間守の同盟を、なんとしても阻止することである。方法は現時点では二つ考えられるが、一つは二人が惚れている、アヤとかいう保育士を利用する手だ。なんとかの陰に女あり、という言葉もある。かの董卓と呂布の仲を引き裂いたのも、女だった。

 が・・・。どうもそれは難しいようだ。まず、生に執着していない宅間はともかく、麻原は女のことで大局が見えなくなるような男ではない。また、アヤは明るく聡明な女である。アヤは麻原と宅間が争うことを好まないだろう。「この女を手に入れるためなら、何でもやってやる」ではなく、「この女が悲しむ顔を見るくらいなら、争いをやめる」と男に思わせる、陽性の気質を持つ女なのである。もっとも、そんな女の気持ちを無視しても我を通すのが犯罪者、特に宅間という男であり、争いの火種に使えないことはないだろうが、優先して考える手段ではない。

 もう一つのは、金で落とす手である。有史以来の謀略の基本。もっとも手っ取り早い方法だ。

 我が軍の資金力を、宅間にちらつかせる。宅間がわが軍に味方すれば、加藤との両輪で、誰も対抗できない戦闘力を獲得できる。

 が、そこで注意しなくてはならないのは、宅間が同盟している角田軍の存在だ。宅間を奪われた怒りで、現在中立の立場の角田が我が軍を完全に敵対視し、総力を上げて攻めかかってくる可能性は十分に考えられる。

 それを見て宅間が心変わりし、Uターンして角田に寝返ってしまったら、大変なことになる。もともと、その信用ならない点を危惧して、自分は宅間ではなく加藤を選んだことを、忘れてはならない。

 何か手を打とうとすれば、必ず問題が発生する。メリットとデメリットを天秤にかけた結果、動くことができない。だが手をこまねいていれば、訪れるのは滅亡のみである。いったい、どうすればいいのか。頭が煮詰まっていたときに、機械に繋いでいた盗聴器から、宮崎勤たちの声が耳に入ってきた。

 「大連合」の結成――。宮崎勤らが、ゲームの中で膨張する麻原軍に打った手だてが、自分に道を示した。

 謀略というのは、深く考えすぎてもいけない。単純でわかりやすく、一見大味に見える作戦ほど高い効果を発揮することも、現実にはあるのだ。部屋の中に引きこもって、チマチマと物事を考えていると、どうも発想が小さく小さくなっていけない。もっと豪快に考えていけばよかったのだ。

 誰々と組んだら誰々を敵に回すとか、小さなことはあえて考えない。味方を増やすことだけを考える。特定の組織の属している者、個人で活動している者をひっくるめ、現在生き残っているすべての参加者に連絡をとる。欲深い者には金をばら撒き、思慮深い者には理をもって説き、麻原彰晃に敵対させる。大連合を組み、最大の敵と、それに与する者を滅亡させる。

 謀略王松永太の最大の計画「麻原包囲網」が、発動しようとしていた――。
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おはようございます♪♪

こんな時間に失礼します><
早起きし過ぎてしまって…(笑)

フムフムさんと知り合えたのは、
津島さんのおかげですからね♪
本当に感謝してます(*´ω`*)
一ヶ月前には想像もしてなかったですから…、そう思うとすごく素敵な気持ちになります☆

私も飽きっぽいというか…、気分にムラがあったりするので、何となく分かりますw小説のネタにしても、ショートストーリー的な内容からポンポン浮かぶ点では似てるかも知れない…。津島さんの方が文章力とボキャブラリーの豊かさがハンパないです。羨ましい…。
やっぱり読書以外にも色々と見たり調べたりして吸収されているんでしょうね(^^)/

今回の松永さんパートはすごく渋くて…!!!きっと宅間さんに目をつけるのかな?と予想してたので…w
予想ちょっと外れた(´д`|||)
作戦についての解説も細かくて、
読み終えるころには松永さんの含み笑いが目に浮かぶようでした><
流石はサイコパス…!!!

ファンレターは…、そうなんですね…、商業用の方でもあんまり貰えないとかあるんですね(;^_^Aさすがにそれは寂しいだろうなぁ…。
お金は…、もし、バトルロイヤルが電子書籍などで有料だったら、幾らか支払ってでも読んでいたと思いますよ!津島さんの作品が無料なうちに読み漁りに来ますぅ♪(笑)
私は感想を書いたり応援するくらいしかできないですけど、少しでもモチベーションupにも繋がれば嬉しいです♪♪

No title

>>蘭さん

おはようございます。

知識はそうですね、ネットが多いかな。基本、あんまり本読まないです。年間50冊いけばいいほうかな。ネットだと、知りたい情報をピンポイントで学べますしね。本当、便利な時代です。

松永パートは、僕あんまり頭よくないんで、途中で何書いてるかわかんなくなっちゃうときあるんですけど、やっぱり楽しいですね。作品全体を俯瞰して見れるのがいいです。

ファンレターに関しては、本当にもらえない作家さんは多いみたいです。十年作家やってて、もらったのは2通なんて人もいるみたいです。僕だととてもモチベーション続かないですね・・。読者の生の声を聞けてこそ、初めて喜びを味わえるというものです。

商業紙で書けるようになっても、読者の方とのコミュニケーション用に、ブログは残しておきたいですね!
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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