凶悪犯罪者バトルロイヤル 第66話

 210年。中国大陸に、三つの国家が建国されていた。

 長安に首都を構え、献帝を擁立し、屈強な涼州の騎馬軍団を従え、天下を伺う宮崎勤国。河北の鄴を本拠に、正史の魏の武将と桃園の三兄弟を中心に天下を伺う、麻原彰晃国。建業に首府を構え、正史の呉の武将を中心に、北上の機会を伺う山地由紀夫国である。

 三国は、正史同様に、互いが互いを牽制し合う三すくみの状態となり、膠着した。しかし、戦力格差は確実に開いていた。肥沃な中原を押さえ、荀彧、程昱、郭嘉など、優秀な文官を抱える麻原軍が、兵力、経済力において抜きん出たのだ。あたかも東西冷戦下において、西が栄え東が自滅していったのと同様に、矛を交えずして、麻原軍が他二国を圧倒し始めたのである。

 焦った僕と山地くんは手を結び、麻原軍を西と南から挟撃することにした。大戦の火蓋が、切って落とされたのだ。が・・・。

 戦局は、1年ほどで決してしまった。無双の豪勇、宅間守を筆頭に、強力な武官を擁する麻原軍は、二国を相手どっても、圧倒的な力を示したのである。

 麻原軍は、西部戦線は押さえにとどめ、南部の山地由紀夫国の領土を刈り取っていく方針を立てた。この戦いにおいて、伝説の軍師、諸葛亮孔明と、平成の大策謀家、松永太の頭脳対決が行われたが、駒の差は明らかである。山地国はじりじりと圧迫され、216年には、すべての領土が麻原軍に併呑されてしまった。

 こうなると、我が宮崎勤国も、もうもたない。洛陽、長安の二大都市を失い、献帝も奪われ、ほうほうの体で西涼の奥地に引っ込むしかなかった。麻原彰晃は献帝を廃帝して自らが帝位に登り、新国家「馬土羅」を建国した。

 もはや天下万民誰の目にも、麻原彰晃による統一が見え始めていた。プロ野球でいえば、シーズン終盤で、首位が二位に十ゲーム差をつけてぶっちぎっている状況である。チーム単位での勝敗が決してしまったとなれば、あとの興味は個人タイトル争いということになる。

 落日の宮崎軍において、正史における蜀の丞相、姜維の如く孤軍奮闘する男・・加藤智大。加藤は魏の勇将、張遼や夏候兄弟を相手に一騎打ちで勝利し、さらに、豪傑関羽と切り結んで敗走させるという、大活躍を見せていた。

 加藤と宅間が戦わば、勝つのはどちらか・・?天下万民の興味は、そこに集約されていった。

 218年、麻原軍が総力を結集した涼州討伐において、その機会は巡ってきた。加藤と宅間、中華最強が決まる瞬間が、ついに訪れたのである。このとき、すでにプレイヤー勢力が滅亡していた山地くんは、コンビニにタバコを買いに行っていた。この戦いが見れなかったとわかれば、さぞ悔しがるだろう。

 一騎打ちは、はじめ、呂布から方天画戟を奪った宅間が優勢に進めていった。加藤も関羽から奪った青龍偃月刀で対抗するが、力の差は明らかで、じわじわと体力ゲージを削られていく。このまま勝負が決まるかと思われたが、突然、加藤の身体から気焔が上がった。戦法が発動したのである。これで体力ゲージは、互角となった。あと2、3太刀で、勝負は決まる。僕と菊池くんは、固唾を飲んで画面を見守った・・が。

 玄関のドアが開いた。山地くんが帰ってきたのではないことは、重量感溢れる足音でわかった。

 僕が、逃げて、という前に、菊池くんは脱兎のごとくベランダに走り、持ち寄ったロープを柵にかけた。アクロバティックな動きで柵を乗り越えると、そのまま地上を目指し、凄い速度でロープを伝って降りていった。さすがは、拘置所の厳戒態勢を潜り抜けて、脱獄を成し遂げた男である。

 地上に降りたった菊池くんは、そこから僕に一礼し、瞬足を飛ばして去って行った。朴訥な印象だったけど、頭の回転は結構早いし、なかなかいい奴だったな。彼は麻原彰晃の軍団に所属しているから、なかなか難しいかもしれないけれど、できたらまた、遊びたいな。

「ただいま、勤さん。あら、ベランダなんかに出て、どうかなさったの?」

「おかえり。いや、いい天気だから、ちょっと外の空気が吸いたくてね」

「こんなに曇ってるのに?変な人ね」

 会話をしながら、僕は菊池くんがかけたロープを回収し、山地くんにメールを送り、緊急事態が発生した旨を連絡した。遊びはお開きとなり、僕は、ゲームの電源を切った。

 そこで、大変なことに気づいてしまった。宅間守と加藤智大・・どちらが勝ったのか、確認するのを忘れてしまった・・。中華最強の豪傑の座は、空位のままで終わってしまったのだ。僕は激しく後悔したが、後の祭りである。

「ねえ勤さん。ちょっとまた、お仕事を頼みたいのだけど、よろしいかしら」

 仕事の依頼は久々だった。前回の仕事のときに、山地くんとの出会いを果たしたのだっけ。

「うん、わかった。それで、どこの誰を殺せばいいんだい?」

「あら、珍しいわね。いつもは何だかんだ言って逃げようとするのに、今日はやけに素直じゃない」

 木嶋香苗が、太陽が西から昇ったのを目の当たりにしたような顔をする。

「僕だって、子供じゃないからね。共同生活の義務くらいはこなすさ」

 仕事は嫌いだ。たとえそれが、殺人であってもだ。
 
 人から命令されることが、嫌で嫌で仕方ないのだ。
 
 だけれど―――。友達と一緒なら。
 
 山地くんと一緒なら、嫌な仕事も、楽しいレクリエーションになる気がした。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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