凶悪犯罪者バトルロイヤル 第56話

 「スカーフキッス」社長室――。松永太と加藤智大は、渋谷での出会い以来の、二人きりの話し合いの場を設けていた。昨日、委員会から全参加者宛てに送られてきたメール――神戸連続殺傷事件のA、西鉄バスジャック事件のT、そして我が「スカーフキッス」期待のニューヒロイン、Nが、正式な参加者として登録されたという知らせを受けての話し合いである。

「信じられません・・・あのNが、まさか・・」

 頭を抱え、唇をわななかせる加藤を、松永は冷ややかに見つめた。

「君には受け入れがたいことかもしれませんが、これは紛れもない事実です。Nの正体は、佐世保同級生殺害事件の加害少女。そして、昨日登録が完了した、バトルロイヤルの正式な参加者です」

「嘘・・嘘だ・・」

 どうやら、相当な重症のようである。加藤がNに特別な思い入れがあったのはわかっていたが、これほどの落ち込みを見せるとは思わなかった。一途で生真面目なのはいいことだが、一年という限られた期間の中で成果を上げなければならない中で、こう一々なにかあるたびに動揺されては困ってしまう。

 松永には、落胆や絶望という感情が、どうにも理解できない。

 歴史に名を残す英雄のように、倒れても倒れても起き上がる、無尽蔵の覇気を持っているというわけではない。暑苦しい体育会系のように、馬鹿みたいに前向きなわけでもない。理由はただ一つ。無駄だから、である。

 人は葛藤を乗り越えてこそ強くなれる、などという言葉を賛美する思考は、松永にはない。葛藤など、無ければそれに越したことはないのである。悩みが多くて得をする職業など、作家や芸術家くらいのものだ。ただ機械のごとく目の前の課題に専心できる人間、結局はそれが社会の中で成功する。何事にも挫けない強い精神を手に入れたい、と願う者は多いだろうが、そもそも、挫けるという人間らしい感情そのものが存在しない松永には、そう願う者の気持ちも、よくわからなかった。

「加藤君、こう考えてはどうでしょう。私たちの手で、Nを守るのです」

「俺たちで、Nを・・?」

「どうも君には、自分に降りかかるすべての出来事を不幸と捉えてしまう癖があるようですが、冷静に整理して考えれば、けしてそうではないことがわかるはずです。今度の件でいえば、Nが参加者として登録されてしまったのは、君にとっての不幸。しかし、Nが縁あって私たちの店で勤めていたことは、君にとっての幸運です。その幸運を生かすなら、君が取るべき行動は、一つしかないはずです」
 
 そもそも、加藤がNと出会わなければ、不幸も幸運もなかったのだが、そこについては考えさせないでおく。

「・・・」

 加藤はギュッと口を引き結び、黙りこくったまま何も喋ろうとはしない。

「決心がつきませんか。ならば、本人と直接、話し合うといいでしょう」

「えっ?」

 社長室のドアが開き、Nと、ベースボールキャップを被った痩せぎすの男――。神戸連続殺傷事件のAが、揃って姿を現した。

「ようこそAくん。私が松永です。こちらが、加藤智大くん。以後、お見知り置きを」

「Aです。初めまして、松永さん。いやあ、写真で見るより男前ですね」

「それは、どうも」

 松永との挨拶を済ませると、Aは加藤の方を向く。運命の年に生まれた超有名凶悪犯罪者同士の、初対面である。

「初めまして、加藤君。Aといいます。よろしゅうに」

 Aが差し出した手を、加藤は握ろうとしない。

「松永さん、どういうことですか?なぜ、彼がNと一緒に・・?」

「Aさんに直接誘われたんです。ともに行動しないかって」

 松永に代わって、Nが自分で説明した。

「本当はお店も辞めようと思ったんですけど、松永社長に慰留されて。バトルロイヤルの戦略に関してはAさんに従うけど、金銭獲得の手段として、お店にも残ることにしたんです」

 加藤に説明するNの口調からは、迷いは窺えない。Aはいかなる殺し文句でNを口説いたのか、洗脳屋として、ぜひとも聞いてみたかった。

「今後、Aくんの軍団と我らの軍団は、同盟軍ということになります。Nは平時はAくんらと行動しますが、スカーフキッスでの勤務時においては、社長の私や、来月から店長に昇格する加藤君の指揮のもとで動くということになります。勤務中に戦闘が発生した場合は、Aくんへの連絡をとらずにNに行動内容を指示する許可も得ています」

 Aが頷く。状勢を理解した加藤の表情から、ようやくに警戒の色が消えていく。

「ってなわけなんで、まあ、仲良くやりましょうや」

 Aが改めて差し出した手を、加藤が今度は握り返す。

「僕らのチームには、西鉄バスジャック事件のTくんもおるんよ。まあ、僕が引きずり込んだんやけどね。僕とTくんと加藤君。同じ年に生まれた、黒い三羽ガラスのそろい踏みやね。あれ、カラスはもともと黒いか。あはは」

 軽口を叩くAを、加藤は生理的嫌悪感を多分に含んだ目で眺めている。あるいは、Nとの関係についての嫉妬もあるのかもしれない。なんとも若いことである。当人には悪いが、少し微笑ましくも映る。

「ちょっと、外の空気を吸ってきます。勤務時間までには戻ります」

 気分がささくれ立ったときの、加藤の徘徊癖が出た。なにか申し訳そうに加藤を見つめるNの視線を辛そうに躱し、加藤は社長室を辞していった。
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Re: タイトルなし

>>蘭さん

松永パートはそうですね、
戦略、謀略について考えることができるのが、書いてて楽しいところですね。
歴史が好きなんで、それが役に立ってます。

松永太という男は典型的なサイコパスです。
サイコパスという人種は、ユーモアセンスがあって、人を楽しませるのが得意なんですが、
目が笑ってないんですよ。ワタミの社長の動画とか観るとわかります。怖いです。

よく見ると異様な人間ということに気が付くんですが、
騙されちゃう人は騙されちゃうんですね。
なんせ口がうまいですから。
加藤智大のような自我が強い人間は、基本的には洗脳されにくいんですけど、
自分を認めてくれる人に出会うとコロっといっちゃうんですよね。
ソースは僕です。

角田美代子の洗脳術は松永に匹敵するものがありますね。
若いころはかなりの美人だったようでもありますし、なんせ両刀使いですしね。

アクセス数に関しては本当に切実です。
読者さまから感想をいただいて、近頃自信めいたものも出てきました。
あとは数が欲しいです。
数字がすべてではないですけど、
やっぱりある程度数字が出せないと評価が得られないんですよ。

とにかく、やるっきゃないです。
今後ともよろしくお願いいたします。


プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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