凶悪犯罪者バトルロイヤル 第55話

 
 麻原彰晃率いるバドラは、ツンベアーズのワタルの妹、イブキが通う、「ドラゴンほいくえん」を訪れていた。

 世田谷区における麻原の名声は日増しに高まっており、麻原は地域のおもしろおじさんとして、保育園や老人会、婦人会などから引っ張りだこだった。それぞれの会合に顔を出すことにはそれぞれのメリットがある。老人会や婦人会では、資金の獲得。そして、保育園においては、若い保育士さんと、仲良くなることである。

「さあみんな、今日は粘土遊びをしますよ~。自分の作りたいものを、自由に作りましょう」

「は~い」

 イブキの所属するかいりゅう組の担任、ショートカットが似合うアヤ先生の声に、園児たちが元気に返事をする。我がバドラの信徒たちも、鼻の下を伸ばしながら返事をした。

 園児たちと一緒に、麻原たちも粘土をこねる。アヤ先生に気に入られようと、みな必死である。

「さあ、みんな出来たかな?あら、イブキちゃん、これはお猿さんを作ったの?よく出来てるわね~」

「ありがとう。これはね、ポケモンのゴウカザルっていうんだよ。強くて器用で、とっても、とーっても使いやすいポケモンだって、お兄ちゃんが言ってた!」

 麻原は瞠目した。麻原には、イブキが作ったものがなんなのか、まったくわからなかったからだ。猿と言われれば猿にも見えるし、犬と言われれば犬にも見える。豚にも、見えないことはない。もしアヤ先生が、あれを犬とか豚とか間違えていたら、幼いイブキは深く傷つき、涙を流しただろう。そうならぬよう、確実にオブジェの正体を看破する眼力。麻原はアヤ先生に、保育士としての高いプロ意識を感じた。

「バドラのみんなも、よく出来てるわね。菊池くんは、お山を作ったのかな?」

「はい。子供時代を過ごした山です。この山を思い出すと、死んだおかやんのことを思い出し、哀愁にかられますね」

「やさしいのね、菊池くんは」

 菊池正が、刑務所を脱走後に、警察と熾烈な逃亡戦を繰り広げていた山のことか。この男を残虐な殺人鬼だと知らないアヤ先生は、労わるような眼差しで菊池正を見ている。母親思いで優しく純粋な心の持ち主というのは、まあ本当のことではあるのだが、菊池の犯罪を知る麻原には、どうも釈然としなかった。

「正田くんは、ロボットを作ったのかな?」

「ええ。幾何学と哲学の融合を目指した、あらゆる意味を包括した・・・」

 何を言っているのか、さっぱりわからない。アヤ先生は、ややドン引きである。これだから、インテリバカはダメなのだ。

「関くんは・・あら」

 関光彦が作ったのは、頂上に丸い岩石が置かれた、二つの山であった。

「えっへっへ。最近、たまっちゃっててさー。やっぱり女は、巨乳がいいよね。アヤ先生のも隠してるけど、かなりの代物だよね?隠されると、逆に見たくなっちゃうなー」

「もう、ふざけてないで、ちゃんと作りなさい!」

 教室内が、爆笑に包まれる。まったく、品のない男だ。うんことしっこを言っていれば笑いが取れる幼児相手だったからよかったものを、場所柄を弁えてなければ、とんでもないことになっていたかもしれない。このあたりは、指導が必要だった。

「尊師が作ったのは・・ええっと、これは、象さんかしら?」

「その通りだ。これは、ヒンドゥー教の神、ガネーシャといってな。あらゆる幸運を、人に届けてくれるのだ。俺とアヤ先生を、巡り合わせてくれたようにな」

 麻原は、俗世に出てから一番の「ドヤ顔」を浮かべた。今の自分ほどに決まっている男といえば、なんたらいうダンスユニットの、元力士のお笑い芸人と同じ名前の男くらいしか思い浮かばなかった。アヤ先生が近い将来、自分の妻となるのは、疑いようもなかった。

「え?これ、象さんだったの?だったら下手くそすぎだよ。俺、さっきから、ちんこ作ってんのかと思ってたよ」

 すべてを台無しにする関光彦の発言が、放たれてしまった。

「ば、ばかもの!何を言っておるのだ!貴様のような不埒な男と、一緒にするでない!」

 激昂する麻原。教室内が、関光彦のとき以上の笑いに包まれる。

「尊師・・失礼ながら、私もあれを作っているのかと・・」

「私もです・・。この前みんなでサウナに行ったときにみた尊師のものと、同じくらいのサイズだったものですから・・」

 関光彦に同意する、菊池正と正田昭。麻原の肉まんのような顔が、真っ赤に染まった。

「き、貴様らは・・。大体、俺のはこんな粗末では・・ああ、何を言っているのだ!」

 どっと沸くかいりゅう組の教室。いったい何事かと、がぶりあす組のマキ先生と、ぼおまんだ組のマサミ先生、さざんどら組のノゾミ先生も、イギリス人園長のシャガさえもが、廊下から覗いている。アクシデントすらもが、求心力アップに繋がってしまう。麻原の勢いは、本物のようだった。

 粘土遊びが終わると、給食の時間となった。子供向けのメニューであり、量は少ないのだが、味はなかなかいい。とくに、一口サイズの豆腐食品「ちょうどのおとうふ」は絶品である。それまで、生ものであることから給食に採用されなかった豆腐を、パック詰めすることにより衛生面の課題を克服し、栄養価は非常に高いが子供には敬遠されがちの豆腐を食べやすくした、画期的な食品である。「奇跡体験!アンビリバボー」で紹介されたこの食品の誕生秘話を動画で観たのだが、麻原は感動して泣いてしまった。食を通じて道徳の授業もできる、給食の歴史を変えた食品といえる。

「うわああああああああん」

 突然、一人の園児が欷泣を上げ始めた。どうやら、「ちょうどのおとうふ」を、床に落としてしまったようだ。

「アイリスちゃん、泣かないで。また来週食べられるから・・ね?」

「やだやだあ!おとうふたべたあいいい!」

 アヤ先生が必死になだめるも、アイリスは、泣き止む様子を見せない。しかし、純正日本人の娘にアイリスと名付けるなど、近頃の親は何を考えているのだろうか。などと、麻原が、己の娘たちにつけたホーリーネームを棚に上げてぼんやりと考えていると、突然、アヤ先生が、自分に懇願するような眼を向けてきた。

「うっ・・・くっ・・・」

 麻原の「ちょうどのおとうふ」は、開封されたばかりである。アヤ先生が何を言いたいかはわかる。しかし・・。

「アイリスよ。明後日、俺の分のプリンをやろう。それでいいだろう?」

「やだやだあ!おとうふがいい!アイリスはおとうふがたべたいの!おとうふじゃなきゃやあだ!」

 麻原は、本気で困り果てた。「ちょうどのおとうふ」を手放すことは、麻原にとって、血肉を切り売りするような痛みを伴う。しかし、ここでアヤ先生にいいところを見せなければ、近々予定している合コンの話が流れてしまうかもしれない。以前のホームランボールの件といい、どうして自分ばかりが、究極の二者択一を迫られなければならないのか。麻原は天を恨んだが、ごく僅か、髪の毛ほどの重さで、アヤ先生の、どういうわけか胸元の目立たぬようデザインされた服の向こうに隠された、巨大山脈を見たい気持ちが上回った。

「アイリスよ、あまりアヤ先生を困らせるでない。俺がちょうどのおとうふを授けてやる。受け取るがよい」

「・・・・そんしのおぢちゃん、ありがとう」

 アイリスは泣き止んだ。人前で堂々と泣ける子供を、これほどまでに羨ましいと思ったことはなかった。

 しかし、麻原が苦渋の決断を下したおかげで、アヤ先生のハートを掴むことには、成功したようだった。この後、麻原たちが保育園を去るとき、アヤ先生は、どらごん保育園の先生たちと、バドラメンバーとの合コンの開催を、今週末に予定してくれた。男所帯のバドラに、可憐なる花が咲いた瞬間だった。

 だが、このときまだ、麻原たちは気づいていなかった。このときの約束が原因となり、かつてバドラと死闘を繰り広げた、恐るべきあの男との、血みどろの戦端が開かれてしまったことを。麻原たちを待ち受けていたのは、花は花でも、毒々しく咲き誇る、仇花であったことを――。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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