凶悪犯罪者バトルロイヤル 第五話

「え・・あ・・・どうぞ・・」

 戸惑い深げに視線を泳がす加藤智大。意志の弱さと、対人恐怖症的な傾向が見てとれる。

 松永太は、加藤の警戒を解きほぐす、太陽のようなスマイルを浮かべながら、席に着いた。

「加藤君は、私のことはご存じでしょうか。加藤君が事件を起こす6年前に北九州で監禁殺人事件を起こして死刑囚となり、今回、バトルロイヤルの大会に参加することになった者です」

「ええ、まあ・・そりゃ、知ってますけど・・」

「それなら話は早い。単刀直入に言います。加藤君、この私と組んで、ともにバトルロイヤルを戦いませんか?私の知略と、君の武力。これが合わされば、どんな参加者も怖くはないはずです」

「え?そ、そんな・・・急に言われても・・」

「君にとっては青天の霹靂だったかもしれませんが、私はバトルロイヤルへの参加が決まった瞬間から、君のことを誘おうと考えていました」

 息を吐くように嘘をつくと評されるサイコパスの自分だが、これは本当のことだった。自分は渋谷に向かう車の中で参加者の名鑑を一通り読んだ時点で、いつかは加藤と接触することを決めていた。

 単純な武力だけなら、加藤よりも優れた者は参加者の中にもいる。

 たとえば、大阪池田小事件の宅間守。しかしあの男は御しがたい。自分も人のことはいえないが、人間というよりは、獣に近い男である。たとえ一時金で従えられても、いつかは飼い主の手を噛むのはわかりきっている。

 たとえば、津山30人殺しの都井睦雄。しかしあの男とは、生きた時代が違い過ぎる。まともなコミュニケーションが取れるかどうか。殺傷方法が、ルールで禁止されている銃撃というのも不安材料だ。単純な殺害数だけなら日本一でも、銃器の使用を制限された環境下で、額面通りの実力を発揮できるかどうかはわからない。

 結論―――自分のパートナーとしてもっとも相応しいのは、この男、加藤智大である。

「カフェの前を通りがかったとき、偶然、君を目にした瞬間、心が高鳴りましたよ。同時に確信しました。私と君が、ゲームを生き抜く最後の8人に生き残ることが、これで確定したことを」

 そう、たとえ計画はすでに出来ていたとしても、それがこんなに早く達成されたのは偶然だった。自分がこの町で車を降ろされたのも、加藤がこの町で車を降ろされたのも、二人が出会ったのも、全ては偶然の賜物。

 高校時代にあの女と出会ったのも、偶然の賜物だった。
もっとも、それから十数年後、あの女を自分の狂気の犯罪を実行する手駒として利用しようと思ったのは、緻密な人間分析と、一から十までの計算によるものだが。

 そして今、自分はこの加藤を、あの女同様に、自分の手駒として利用しようとしている。肝心なのは、この男は既に一度、人の道を踏み外していることだ。まっさらな人間を悪魔に染め上げなければならなかったあのときよりも、洗脳はずっと容易だ。

 天意と人意。出会うべくして出会った、自分と加藤。自分はこの男とともに、戦いを生き残る。

「加藤君。この通り、お願いします」

 松永はテーブルに両手をつき、額を擦りつけた。

「正直、不安でした。自由を獲得できるかもしれないといっても、その確率は十分の一以下。度胸も腕力もない私に、一人で凶暴な犯罪者たちを相手に生き残る自信はまったくありませんでした。しかし、君に出会うことが出来た。学生時代にはスポーツ万能として鳴らした身体能力を持ち、年齢も若く、成人七人の命を奪った実績のある、殺しのプロと出会うことができた。それで私は、百人力を得た気持ちになれたのです。君さえ仲間になってくれれば、私は必ずや生き残ることができる。私は君の力を、切実に必要としているのです!」

 一気呵成に喋った。喋り終えると顔を上げ、真剣な眼差しを加藤に向けた。加藤が生唾を飲み込む。自分の弁舌に引き込まれているようだった。

 この手の繊細な青年は、一見、猜疑心が強く、容易には他人に心を開かないようで、案外そうでもない。誰かに必要とされたい思いが強い人間は、徹底的に褒め殺し、自尊心をくすぐってやれば、淫売女のように簡単に落ちるのだ。

「え・・・あっと・・その・・」

 まだ迷っているようだが、それも次の一手で落ちる。感情に訴えかけて効かなければ、理性に訴えかけるまでだ。

「加藤君、選択の余地はないはずです。考えてみてください。ここで私の誘いを断れば、君は少なくとも当分は、一人で行動することになる。お風呂に入るときも、寝るときも一人だということです。いくら身体能力が優れていても、武器を持っていたとしても、寝込みを襲われたら一たまりもありません。人間は本気で殺そうとつけ狙ってくる相手に、一人では対抗できないように出来ているのです。しかし、私と組めば、少なくともその心配からは逃れられる。安心して、休息を取ることが出来るのです」

 実際には、そうともいえない。その組んだ仲間に、寝首を掻かれないとはいえないのだから。

 しかし、突然の展開の連続に、不安に脳を侵食されているであろう加藤には、これが決定打となったようだ。

「わ・・・わかりました。松永さんと一緒に、行動します」

「ありがとうございます。きっとそう言ってくれると信じていました」

 松永は再び満面の笑みを浮かべ、加藤に右手を差し出す。加藤は右手をチノパンに擦りつけたのち、松永の右手をしっかりと握り返した。

 松永の太陽の微笑みが、氷のほくそ笑みに変わった。

 この右手は自分のものだ。自分はけして手を汚さず、すべての計画を、この男の手によって為す。

 加藤智大、洗脳完了。
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松永戦士が知略に長けた策略家とは…
粗暴犯が大半の死刑囚の中では異色ですね。
そして宅間戦士の名前の登場に嬉しく思います。
加藤戦士はその若さ故に松永戦士の狡猾さに
気付かず弄ばれてしまうのでしょうか?

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

松永太という男は天性の犯罪者です。
あの麻原、宅間にも最低限の人間味はありますが、
松永には、共感できるところ、同情できるところは一切ありません。
正真正銘の悪魔といえるでしょう。
松永を書くにあたって、参考書籍を再読しましたが、改めて寒気を覚えました。

この男を僕のつたない筆力で表現できるかわかりませんが、
それが出来たときには、大きなレベルアップに繋がると信じています。

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No title

>>3番コメさん(HNは公開しない方がいいのかな?)コメントありがとうございます!

お褒めの言葉を頂きありがとうございます!嬉しいです。
犯罪者系二次創作は作り手も少なく、一般の理解はありませんが、コアな人気はありますよね。
クオリティの高いものもあります。麻原の野望、宅間守ふぉーえばーは傑作でした。

商業作品にも実際の事件をモデルにした作品は結構ありますが、
さすがに犯罪者が実名で登場するケースはないですからね。
やはり実名で書くと感情移入の度合いが違います。

3番コメさんも創作活動していらっしゃるのですね。
よろしければ今度作品の方拝見させて頂けたらと思います。
色々意見を出し合っていけたら楽しそうですね。

今後ともよろしくお願いします!

No title

「偶然、君を目にした瞬間、心が高鳴りました」・・・!!!
よくサラサラと言えますよね・・・、思わず苦笑いしてしまいました。

四話に続いて好きな回です~

もし松永が宅間守とのコンビだったら、もっと恐ろしかったですね!
まあ、その前に、宅間氏がコンビを組まないかな・・・?

昔は読み落としていた様な部分もあって、
読み直し、かなり楽しいです!(^^)!

コメントのお返事は出来ればで構いませんので・・・
よろしくお願いします(*'ω'*)

No title

松永のようなサイコパスは自分の支配下におくことができる人間を見分ける能力がずば抜けているのでしょうね。
会話能力や知能はかなり高いのではないでしょうか。
容姿や愛想が良ければ尚更騙されないとは言えないかもしれません。
加藤から見て真逆のタイプでしょうから魅力的に思えても無理はないと思います。
松永からすれば洗脳は容易いでしょうね。
松永と加藤のコンビは最初は問題なくやっていきそうですが徐々に松永の本性が出始めていくことになるのが怖いですね。

No title

seasky さん

 来週の土曜スペシャルで松永と緒方の息子がテレビ出演するそうですね。普段、テレビを観ないもので宮崎勤の回は見逃してしまったので今度はしっかりチェックしたいと思います。

 松永という人物は詐欺など働くくらいですから頭は良かったのでしょうが、過去のエピソードをひもとくと、女を口説くためだけに自分の会社の社員と即席のバンドを結成するなど、知性派とは程遠い滑稽なエピソードも出てきます。

 麻原と同じで、羞恥心という感情が麻痺していたところがあったのでしょう。一度思いついたことは躊躇なく最後までやり遂げる。バカと天才は紙一重というのはこういうことを言うんだと思います。

 自分の子は親ばかと言っていいほど溺愛した麻原と違い、松永は己の子にはまるで無関心で、処分することも考えていたというのは酷い話です。こんどの土曜日は楽しみですね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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