凶悪犯罪者バトルロイヤル 第53話

 
 スカーフキッスを出たNは、A・Sを名乗る男に連れられ、新宿の裏稼業ご用達の喫茶店「ルノアール」に入った。ホテルに直行を覚悟していたNには、拍子抜けの展開である。すぐに体の関係を求めないことで、誠意をアピールしているつもりなのだろうか。私としては、ちゃっちゃと済ませてもらったほうが、楽でいいのだが。

「女性の身体に欲情する、という感覚が、よくわからんのよ。医療少年院でいろいろプログラムを受けて、ぼんやりと、そんなようなものが芽吹いた気もしたのやけど、外に出たら元の木阿弥になってしもうたね」

 Aが、私の感情を見透かしたように言った。男女問わず、性欲がまったくないマイノリティが存在することは知っている。そして、そうした人間は概して食欲や睡眠欲など、生物的欲求全般に欠けている場合が多い。170㎝前後あるAの身体は、同年代で、筋肉質の加藤さんと違い、ガリガリに痩せている。

「医療少年院で、散々に体育をやらされたのやけどね。一日スクワット2000回とか、あんなん拷問やで。それでちょっとは筋肉もついたのやけど、出所したとたんにこの通りよ」

 また、Aが私の心を見透かす。職業柄、洞察力には長けていると自負していた私をして瞠目させるAの読心術。というより、長年起居を共にしてきた兄に、なんでも見通されているような・・。この男は、いったい何者なのだろうか。

「君も帰って休まなあかんやろし、本題に入ろうか。君は今、この東京を舞台にした、殺し合いゲームが行われていることを知っとるかな?」

 それから一時間経ったとき、私の思考は迷宮の奥を彷徨っていた。私も名前を知っている有名凶悪犯罪者たちが、獄から出で、またクローンとして再生され、都内を舞台に、現金十億円と自由を賭けて殺しあっている・・。そしてその中には、私が勤めている「スカーフキッス」のスタッフも含まれているというのだ。

「妄想で、でたらめなことを言わないで。松永社長や、加藤チーフが、そんな・・」

「容姿を変え、簡単には気付かれんようにはしているけどね。君かて、言われてみればそうかと思っとるはずやで。血生臭いあの匂いばかりは、娑婆の垢に塗れたとて、そう簡単には落ちんからね」

 返す言葉もなかった。私のよく知るあの二人の顔は今や、同名の死刑囚の肖像と、完全に一致していた。

 続けてAは、自らの正体を、少年犯罪史上最も有名な、あの神戸児童連続殺傷事件の犯人と名乗った。私が事件を起こした年に医療少年院を出所した彼は、現在、30歳。確かに年恰好はそれぐらいに見えるが、まさか、そんなことが・・。

「バトルロイヤルの噂を聞いて、いてもたってもいられなくなった僕は、責任者に、途中参加を申し入れたんよ。そして条件として提示されたのが、正規の参加者を殺し、椅子を自らの手で勝ち取れということだったんでね。言う通りにしてやったんよ。一週間前、上野公園で火災があったやろ。あれ、僕の仕業なんよ」

「そんな、まさか・・。だってあの事件では、一般の人も大勢亡くなったじゃない」

「そうやね。バトルロイヤルのルールでは、参加者以外の一般人には、なにがあっても手を出してはいけないことになっとる。それがどんな外道であってもね」

「だったら・・!」

「あそこに火を放ったあの時点では、僕はまだ正式な参加者ではなかった。従って、バトルロイヤルのルールに抵触しない。そして、バトルロイヤルの参加者となった時点で、僕は法の外の住人となった。これで警察に追求されることもない。完全犯罪が、成立したわけやね。バトルロイヤルの責任者は苦い顔をしとったけど、結局は、ホームレスの命よりも、僕がゲームに参加することの方に価値を認めてくれたね」

「そんなことを言ってるんじゃない!どうして・・どうして、そんな酷いことを・・」

「酷いこと、ね・・。そうとも思えんのやけど、一応、大義名分はあるよ。奴らは、一般人の女の子を拉致して性の玩具にしとったんよ。その女の子を救出してくれと、女の子の両親から依頼を受けてね。それで現地調査に行ったら、なんとビックリ、バトルロイヤルの参加者が三人も暮らしとったのよ。お小遣いをゲットできて、バトルロイヤル参加の椅子も手に入る。このタイミングでこんなおいしい仕事が入るなんて、天が僕の決断を祝福しとるとしか思えんよね。それで行ったのはいいけど、やっぱり、そう物事はすべて完璧にはいかんもんでね。参加者の一人を殺したところで、何人かのホームレスに姿を目撃されてしもうたんでね。全員を確実に殺すのは諦めて、あわよくば、くらいの考えで、火を放ったんよ。結局参加者には逃げられて、ホームレスだけが三人も死んでしもうた。ま、それが彼らの運命やったんやね」

 Aは、カラカラと笑って言った。罪悪感という感情を、母親の腹の中に置き忘れていったとでもいうような態度である。

「椅子は三つ必要やった。放火事件の前に、すでに一つは確保しとったから、残りはもう一つ。僕の専門分野の先輩と後輩にとられそうやったけど、ギリギリで間に合ったわ。ついさっきな。ほれ、そんときの返り血がまだついとる」

 Aは、首筋に残る赤茶けた血痕を指さして言った。

「まったく難儀したで。一方的に狙う立場とはいえ、三人を殺すというのはとんでもない重労働や。君のためにやったことやで。感謝せえよ、ホンマ」

「私のため・・って・・?」

「三つの椅子に座るのは、僕と、西鉄バスジャック事件のT・S。もう一人が、君。T・Nちゃんや」

 Aの掠れた笑い声に、脊髄を戦慄が駆け抜ける。悪魔が、私をけして抜けられぬ地獄に誘っていく。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

そういえば、スカーフキッスってスカーフトゲキッスからとった??笑

No title

>>1米サン

はい。とげキッス最近あんまり使ってないなあ

No title

すみません・・・・・ここに書かせてください・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








宅間守精神鑑定書何回も読んで何回も泣いてます・・・・・・・・・





マモマモの人生・・・・・儚すぎる・・・・・・・・・・・・・・・





マモマモの泣き顔とマモマモの笑顔を想像してます・・・・・・・・




マモマモずっとひとり?・・・・・・・・ずっと・・・・・・・・・・・・




マモマモキューキュー泣いてるマモマモを慰めてあげたかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・………………………………………・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモにバナナあげたいよ・・・・・・カレーもつくってあげたい・・・・・とろろそば食べさせたいよ・・・・・・・・・・




マモマモのお腹の中の赤ちゃん大切に育てたいよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモの薄ら笑い私も見たかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモ切ないよおおおお・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモのMRI画像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモの脳みそ切ない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモの脳みそあったかい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモの言葉ひとつひとつが突き刺さる・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモは純粋だったから生きていけなかったの・・・・・・・・・・・・・




マモマモ・・・・・・・生き辛かったね・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・




マモマモとひとつになってマモマモの気持ちを共有したいよ・・・・・




マモマモを幸せにしたいよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモの中あったかいよ・・・・・マモマモの心みたいにあったかい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




マモマモはほんとは優しい人だって私知ってるよ・・・・・・・・・・・・




マモマモごめんね・・・・会えなくてごめんね・・・・・・・・・・・・・・・・





マモマモ好き・・・・・・・マモマモ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














守・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






守ってあげたかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






抱きしめてあげたかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







守・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


























ごめんね・・・・・・・・・
助けてあげられなくて































うfぼっぇお

No title

>>フムフム

お、もう読んだん?
俺もこれから読むわ。
そんなに愛せる人がいてお前は幸せやな。
俺も糞を食ってもいいと思えるほどに愛せる女に出会いたいもんやな。
クソをひりかけたい女は何人かおるがな

気になってAmazon見たら31日入荷予定になってた<宅間守精神鑑定書
他のショップも既に入荷待ち…読みたい人多いんだね予約しとけば良かった
横レスすいません

No title

>>5コメさん

宅間氏の人気は色褪せないですねえ
語り継がれる犯罪者ですな
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR