凶悪犯罪者バトルロイヤル 第48話

 

 麻原彰晃が北村ファミリーに監禁されて、今日で3日目。今晩8時に、身代金の受け渡しが行われる予定だった。

 麻原は、食事を掻き込む。生き残るために、食ってやる。どんな環境だろうと、負けはしない。どんな食事だろうと、憎き敵の作る食事だろうと、食ってやる―――。

「あんた、どれだけ食うのよ。ウチの子供たちと同じくらい食ってるじゃない。自分の立場わかってる?」

 昼に出されたカレーを丼三杯、軽く平らげた麻原に、北村母が呆れた調子で言った。

「いや、すまぬ。マハー・ニルヴァーナの料理にも勝る、あまりの美味だったのでな」

 世辞ではなく、北村母の作る料理はうまかった。カレーなどは、誰が作ってもそこそこの味にはなるものだが、北村母の作ったものは絶品だった。カレー以外にも、昨日はベトナム風春巻き、その前はミックスフライ定食を食べたのだが、どれも、下手な店で食べるより、よほどうまいものばかりだった。

「あら、上手なのね。なんなら、帰るときにレシピを持たせてあげましょうか?」

 レシピと言わず、北村母に、バドラに移籍してもらいたかった。その容姿は人間離れしており、とても目の保養になるような代物ではないが、この料理の腕は魅力だ。料理以外にも、家事全般できるし、男所帯のバドラに、今もっとも求められている人材――

「その代わり、身代金2000万に加えて、200万円を、アタシに個人的に払ってもらわんとね。マハ・ニルヴァーナの料理に勝るレシピなら、それだけの価値はあるでしょう?」

 ――商売っ気さえなければ。

 その後は、北村兄弟が、次々と開けては、「まずい」と捨てていく菓子などを食いつつ、「スーパーニュース」を観た。上野公園で、大規模な火災があったらしい。ホームレスが何人か焼死したのだという。原因は、放火か。まったく、酷いことをする奴がいるものだ。

 そして、受け渡し時間が近づいてくる。

「よし。行くばい、麻原尊師」

 巨漢の息子たちに両脇を抱えられ、麻原は車に乗った。道中、麻原の脳裏を、不安がよぎる。2000万を用意するなどと言っていたが、本当に可能なのか?どうにも信じられなかった。信徒たちのことだから、札束の両端だけ本物の一万円札で、中には、最近みんなでよくやっている「人生ゲーム」のお札を挟むとか、やりそうではないか。そんなバカなことをすれば、逆上した北村兄弟に殺されてしまうのは確実だ。信徒たちを信じても、大丈夫なのだろうか・・。

 車が、受け渡し場所に到着した。葛西臨海公園前である。18:56。指定時刻まであと4分と迫っているが、バドラの信徒たちの姿は見えない。麻原の胸に不安が募る。自分は、見捨てられたのではなかろうか。

「ふっふ。捨てられた子犬のような眼やね」

 北村父が、笑って言った。返す言葉もない。自分は今、猛烈な寂しさに襲われている。今は、信徒がきっちり言い値を払ってくれるかとかはどうでもよく、とにかく、信徒たちがここに来てさえくれればよかった。みんなが自分を心配していることを、証明してほしかった。

 誰かに愛されたい。必要とされたい。自分のその感情は、ただの構ってちゃんの次元ではない。宗教団体の教祖たる自分にとって、魅力を否定されるということは、死活に関わる問題である。学歴も才能も体力もない自分は、人を操り、利用することでしか生きていけないのだ。今も、そしてこれからも。こんなところで魅力を否定されているようでは、バトルロイヤル制覇後、オウムを超える巨大宗教団体を作ることなど、できはしない。

 しかし、麻原の思いとは裏腹に、時間は無情にも過ぎていく。携帯のデジタル表示が、19:00に切り替わった。

「なんばしよっとね、あいつらは。麻原尊師。ちょっとかけてみてくれんね」

 言われなくても、そうするつもりだった。断じて、受け入れるわけにはいかない。渋滞が発生しているとか、電車が遅延しているとか、なんでもいいから、言い訳が聞きたかった。

 1コール、10コール、20コール・・。信徒すべての携帯に電話をかけてみたが、応答する気配はない。諦めるしかないのか。この上はプライドをかなぐり捨て、北村ファミリーに命乞いをしようと、地に膝をつきかけた、そのときだった。

「・・・・こー・・しょーこー・・」

 彼方から、歌が聞こえてくる。自分を讃えるあの歌が、聞こえてくる。一人や二人ではない。七人の信徒だけではない。もっと、もっと大勢の人たちが、あの歌を高吟している。

「しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこーあーさーはーらーしょーこー」

 ツンベアーズの子供たちと、彼らが集めたのであろう小学校の同級生が、輪になって、自分や北村ファミリーを取り囲んでいる。その数、ざっと100。輪は徐々に収縮していく。彼らの放つ歌声が、確実に大きさを増し、耳に入ってくる。

 子供たちの輪が、直径およそ10メートルほどにまで収縮した。真ん中に麻原と北村ファミリーを囲み、バドラの信徒たちの指揮に合わせ、「麻原彰晃マーチ」を合唱する。

「な、なんね、これは・・」

 北村ファミリーの顔に、焦りが見える。素行不良を叩かれたときの、某平成の大横綱さながらに――ちゃんこを食らう時や稽古で流す汗とは違った質の、冷たい汗をタラタラ流している。

「しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこーあーさーはーらーしょーこー」

 四面楚歌ならぬ、四面オウムソングである。なかなかのプレッシャーだ。鬼気迫るものがある。麻原は感心していた。一般人をけしかけて、直接参加者の肉体にダメージを与えるのはルールで禁じられているが、ただ歌を歌うだけならば問題はない。宅間守と戦ったときのワタルのように、一般人が自主的に動いたのであれば尚よしだ。一般人の有効活用法である。麻原は、このアイデアを思いついた者には、二週間、3時と9時のおやつの量を二割増しにしてやることを決めた。

 やがて、子供たちとは関係のない、一般の通行人までもが、足を止め始めた。周囲に、瞬く間に人だかりができる。

「ちっ・・命拾いしたばいな、麻原尊師」

 プレッシャーに負けた北村ファミリーが、車に乗り込んで行った。クラクションを鳴らすと、子供たちが道を開けた。車は猛スピードで去っていく。

 バドラの信徒たちが、自分を取り囲む。子供たちから、歓声が沸き起こる。一般の通行人たちも、雰囲気で何かを感じ取ったのか、惜しみない拍手を送っている。

「尊師~。無事でよかった~」

「こらこら、涙と洟で、服が汚れるではないか」
 
 胸に飛び込んできた菊池正の頭を撫でながら、麻原は言った。

「まったく、みんなに迷惑かけて。これからは、どこに行くときも、俺から離れちゃだめだよ。なんのためのボディーガードだと思ってるの」

 関光彦が、頬を膨らませながら、しかし、目には涙を浮かべながら言う。

「さあ、尊師。家に帰りましょう。M-1グランプリ2003のDVD、みんな結果をググりたいのを我慢して、待っていたんですよ」

 勝田清孝が、ちょっと邪悪な笑みを浮かべて言った。もしかしたら、こっそりと結果をググっているのかもしれない。賭けの対象は、お小遣いか、おやつか、家事当番の免除か。何かはわからないが、麻原は自分の負担を減らすため、あとで勝田に結果を尋ねてみるつもりだった。

「よし。みんな、家に帰るぞ!」

 麻原は力強く言って、100人を超える信徒と子供たちを引き連れ、東京湾沿いの夜道を歩き始めた。
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No title

津島さんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



1 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2013/05/18(土) 02:41:02.93 ID:tUp4T2L7T!● ?PLT(12001) ポイント特典
2001年6月に発生した大阪教育大付属池田小の校内児童殺傷事件で、宅間守元死刑囚(04年執行)を精神鑑定した医師が近く、
鑑定書のほぼ全文を掲載した一般書を出版することが17日、分かった。「自分の命は何十万人の命より重たい」
「(亡くなったのが)8人程度で(死刑は)割に合わない。納得できへん」などの生々しい言葉が記されている。

鑑定医が鑑定書そのものを出版するのは、01年に幼女4人連続誘拐殺人事件の宮崎勤元死刑囚の例がある。
しかし03年の個人情報保護法施行後はないとみられ、波紋を広げそうだ。

http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013051701002300.html



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No title

あっ、そのニュース知っとる!
早く読みたいよね~。

精神鑑定っていうより、宅間氏が自分の思想を一方的に語った内容になりそうだね。それのほうが興味深いけど。

俺も予約しとく!

No title

また遺族がああじゃないこうじゃないと言い出しそうですね。
やつらは自分を何様だと思っているのでしょうか。
国からの補償が4億円まだまだ金欲しいよこせってな感じでしょうか。

No title

>>3番コメさん

うーん。
でもよく考えると、池田小事件の遺族にとっては、
金でしか溜飲を下げる方法がないのも事実なんですよね。
判決は死刑っつったって、当の宅間氏が死刑を望んでるんですもんね。ほかの判決、たとえば無期刑とかを望むにしたって、八人も殺して死刑にならないなんて前例を作ったら、裁判がフリーダムになっちゃいますし。

結局、宅間氏のいうように、自殺の手助けしたようなもんなんですよね。
ってな事情があるんで、がめついと言うのは酷な気がします。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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