凶悪犯罪者バトルロイヤル 第四話

 僕の名前は加藤智大。今から五年前、社会を震撼させた、無差別殺傷事件の犯人だ。僕は今、渋谷の町を歩いている。渋谷。リア充の町。見渡す限り、幸せそうなカップルで溢れている。

 僕はこの町が大嫌いだ。グランドマスターを名乗る男が僕を車から降ろしたのが、よりにもよってこの町だ。「あの町」で降ろされるよりはマシだったのかもしれないが。

 どいつもこいつもが、僕を憐れんでいるような気がする。やめろ。そんな目で、僕を見るな。
女がいるのが、そんなに偉いのか?若い女であることが、そんなに偉いのか?

 僕にだって、モテ期はあった。小学校高学年から中学時代にかけてだ。そんな時代にモテたって、何にも嬉しくはない。

 僕は顔は悪かったけど、勉強はできた。スポーツも万能だった。中学までは、男にも女にも人気だったんだ。

 人生が狂いだしたのは、県下一の進学校に入ったところからだ。中学時代は常に学年トップの成績を走り続けていたのが、本当に頭のいい奴らの集団に入った途端、たちまち落ちこぼれに転落だ。学生時代は頭のいいヤツよりもスポーツができるヤツが尊敬を集めるけど、貴重な昼休みを全部自習に費やしちゃうような進学校のスクールカーストはちょっと違う。僕に取り柄といえるものは何もなくなった。

「お前ら、弱い奴らの中じゃ強いだろうが、強い奴らの中じゃ下の下じゃ」

 何とかいうボクサー崩れみたいなチンピラが、テレビでそんなことを言ってたっけ。努力しないDQNならともかく、なんで僕がこんな思いをしなきゃいけないんだ。

 進路を決める時期がきた。同級生の九割九分九厘までが四大に進む中、僕だけが、自動車関係の短大に進んだ。もう、競争競争の人生から降りたかったからだ。

 だけど未練は残っていた。学歴コンプレックスはずっと僕に付き纏った。無論、顔面コンプレックスもね。整形でも出来てれば人生変わったんだろうけど、金を溜めることはできなかった。友達のいない僕は、金を食う娯楽でしか心を慰めることができない。孤独でいるってのは金がかかるんだよ。

 そして僕は派遣労働者になった。僕らを「自己責任」と蔑む老人たちを養うための年金、本来福利厚生の一環であるはずが、なぜか本来の家賃よりも高い寮費。もろもろ差っ引かれて、雀の涙みたいな手取り給料。たったの十万円ぽっちで、どうやって人生設計を立てろってんだ。

 派遣会社では、派遣労働者を現場に送り込むことを「タマを込める」というらしい。派遣先会社の帳簿では、派遣労働者への給料は、人件費ではなく材料費にカウントされているらしい。僕たちは、人間じゃないってわけだ。

 派遣は人でないのなら、法を守る必要もありませんね。

 僕を受け入れない社会への憎悪、僕をこんなにした人間どもへの憎悪が膨れ上がっていった。そして僕は、事件を起こした。

 当然、世論からは袋叩きにあったが、ネットでは一部・・いや結構多くの人間が歓喜した。僕が事件を起こしたことで、派遣労働者の悲惨な待遇を、社会が問題視し始めたからだ。僕を「神」「英雄」なんて呼んでいる人たちもいるらしい。
 
 こんな形で再び人気者になるなんて思わなかった。それほど数は多くないみたいだけど、若い女の子のファンすら付いているらしい。なんていう皮肉だろう。僕はもう、女性の手には触れることもできないのに。

 だけどその状況が変わった。グランドマスターを名乗る男のお陰で、僕は娑婆に出ることができた。だけど今、僕は、それがそんなにいいことじゃなかったような気がしてきている。

 なまじ外の世界に出て、女の子に手が届くところにいる分、それができない自分の立場が身に染みる。それができる奴らへの嫉妬が渦巻いてどうしようもない。拘置所の中にいた方が、かえって諦めがついてよかったんじゃないか。

 気分悪い。ムカムカしているのに、腹は減る。牛丼屋に入ろうと思った。だけどその瞬間、前を歩いてきたカップルと目が合った。牛丼屋の中では、もっさいオジサンや、僕と同じモテなそうな若い男が食事をしている。カップルが牛丼屋の中を見て、動物園の動物を見ているような侮蔑の笑みを浮かべた気がした。

 僕の気のせいだったのかもしれない。だけど僕の中では、それが真実になった。牛丼屋に入るのはやめて、カフェに入った。カップルがうようよしている中、僕は一人でコーヒーを飲みながら、サンドイッチを食べた。僕の中では、僕は食事をとりながら、恋人を待っている設定になっている。
腕時計をちらちら見たりして、周囲にもそれを印象付けようとしている。

 だけどそんなことしたって、どうせ不細工な僕が恋人を待っているなんて、誰も思っちゃくれないんだ。なんだか虚しくなってきた。

「加藤智大くんですね」

 突然名前を呼ばれて、身体に電流が走った。ここ四年くらい、僕はずっと番号で呼ばれてきた。久しぶりすぎて、思わず緊張してしまった。

 僕に声をかけてきたのは、40歳くらいの中年男性だった。歯が綺麗で、笑顔が眩しい。僕の嫌いなイケメンの部類に入る男性だ。だが、目が怖い。凍てつくような視線だ。爬虫類みたいな目というか、瞳に一切の感情が宿っていない気がする。

「お初にお目にかかります。私、松永太と申します。ちょっとお話よろしいですか?」
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面白いです。加藤戦士の心情を上手く描写していらっしゃる。松永戦士との出会いがどのようなストーリーを生むか見ものです。

No title

>>1番コメさんコメントありがとうございます!

嬉しいです。
小説にコメントを頂けるのは別格の嬉しさがありますね。

加藤智大は僕と結構、精神的波長が近いので描写が楽でしたw
年齢も近いですし。日記も残してくれましたしね。
あの男は現代の大詩人です。

僕には小説の才能はありません。面白い小説が書けるか、自信はありません。ただ一生懸命書いていきます。それだけはいえます。

愛読よろしくお願いいたします!

こんにちわ(^^)
2chからたどってきました!2chでは『午後の電子レンジ』というハンネなのですが、覚えていらっしゃいますかね??

それから、
こちらのブログを一通り読ませて頂きました。
また小説は個人的にはかなり好きな部類で、毎回楽しませて頂いています。
主さんのできる範囲で構\\\\\\\いませんので、楽しんで書いてみてくださいね。


また機会があればコメしたいと思います!では…!

今回も面白かったです この面白さで100ページあれば400円で買います

No title

>>午後の電子レンジさんコメントありがとうございます!

2ちゃんねるの方に感想を書いて頂いてありがとうございます!
お返事したいのはやまやまだったのですが、こちらのコメント覧を
盛り上げたい気持ちが強く、スルーしてしまいました。
申し訳ございません。
ちなみに、あのスレッドを立てたのは僕ではないのですよ・・。
スレ主さんがどんな方なのか気になりますねw

今後ともよろしくお願いいたします!

No title

>>ホモ太郎さんコメントありがとうございます!

100ページ400円ですか・・!
それはちょっと評価されすぎのような気もw

小説の方は、同時進行で別の作品を書いておりまして、脳の疲労の問題から毎日は更新できないのですが、できるだけ早いペースで書いていこうと思います。

よろしくお願いいたします!

No title

>>あさんコメントありがとうございます!

リンク?
2ちゃんねるにURLを貼ってまわったことをおっしゃっているのでしょうか。

そのようなことを言われましても、現状、それがもっとも有効な宣伝方法であるのは事実なのです。

ただ、批判は重く受け止めます。これからは少なくとも貼る板、貼るスレはしっかり吟味したうえで宣伝していこうと思います。

なので具体的に、どの板の、どのスレを見てここへ来たのか、
教えて頂ければ幸いです。

申し訳ございませんでした。

No title

ここまで読みました。
だんだん面白くなってきました。
テンポの良い文章で、読みやすいです。
完結まで、がんばってください。

No title

>>しのぶもじずりさん

来てくれたんですね、ありがとうございます!うれしいな。
そうですね、第三話までは、設定の説明に重きを置いてるので、
物語については、本気はここからです。よろしくお願いします!

好きな回です。

読み直してのコメントです。

やはり加藤智大はシンクロ率が高いのでしょうか、描写が細かくて、楽しいですね。

松永がいきなり現れたのは、夢中で読んでいた当時も、とても印象的でした。
あれから4年も経つんですね~・・・

この回、けっこう好きです。時代は少し違いましたが両者とも興味深い死刑囚だからです。興味は持ちつつも実際に見たら寒気がしそうですがね!

松永などは、こうして物語に出てくるだけで寒気がしますよホント・・・いろいろな意味でトラウマ級ですね。

続きもまた楽しみに読ませて
もらいますね。٩(* 'ω' *)و
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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