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犯罪者名鑑 北九州監禁殺人事件 1

じゅんこ

 
 緒方純子

 緒方純子は昭和37年、福岡県久留米市安武町の豊かな旧家の長女として産まれました。

 父親の誉(たかしげ)は民間企業に勤めたあと農協に入り、事件当時は副理事を務めていました。厳格を絵に描いたような性格で、仕事では勤勉。娘二人も厳しくしつけ、純子の妹の理恵子の友達が家に遊びに来たとき、「勉強をしないなら帰れ!」と怒鳴り付けたこともありました。

 母親の静美は民間企業に勤め、美人で賢く、夫の誉を立てる良妻と評判でした。家事、育児の合間に農作業も手伝うなど一日中働き、誉にとっても自慢の妻でした。

 純子より3つ下の妹、理恵子は活発な性格で、高校生になると両親に内緒で男の子と遊んだりすることもあったようですが、純子は真面目一辺倒で、男の子と付き合うこともなく、制服や髪型も学校の規則通りにしていました。純子は短大を卒業すると幼稚園の先生に、理恵子は専門学校を卒業して歯科衛生士になりました。

 純子は子供好きで、保護者にも丁寧に接するなど、幼稚園での勤務態度は良かったようです。周囲の誰もが、純子もちゃんとした男性と結婚して自分の家庭を持ち、順風満帆な人生を送っていくと信じて疑いませんでしたが、短大二年のとき、自宅に一本の電話がかかってきたことから、地獄への扉が開かれてしまいます。

 「ふとしちゃんやけど、覚えとる?高校時代に借りた50円を返したいんやけど」

 「緒方の家にどまぐれた(不良)は一人もいなかった」と言われるほど、周りには謹厳実直で通った一家が、一人の男――松永太と関わったばかりに「全員抹殺」の運命を辿ることになってしまいました。

 松永太

 純子に比べて、松永太の育った家庭については詳しいことはわかっていませんが、母親や祖母に甘やかされて育てられたこと、布団販売店を営む父親は見栄っ張りな性格で、暴力団と交際があり、また松永の母親にたびたび暴力を振るっていたという話が伝わっています。松永が女性を暴力で支配するのは、もしかするとこの父親から受け継いだ性質だったかもしれません。

 小、中学校では大して勉強もしないのに成績が良く、バレー部でキャプテンも務めるなど、一見優秀な生徒でしたが、自分を大きく見せるようなことばかり言ったり、ウソを平気でつくので、教師からの評価は必ずしも良いものではありませんでした。1年生のときに参加した弁論大会で3年生を打ち負かして優勝するなど、弁舌のうまさと声の大きさはこの頃から際立っていました。

 高校に進んでからは風紀委員を務めていましたが、2年生のとき、家出少女を自分の部屋に泊めたことが発覚し(おそらくはおしゃべり好きの松永が自分で周囲に言いふらした)、男子校への転校を余儀なくされます。

 卒業後は大学には進まず菓子店に就職しましたが、わずか10日ほどで退職し、家業である布団販売店を継いで経営者となった松永は、3年後には「松永商店」を「ワールド」の名で有限会社にします。その2年後には「ワールド」を株式会社とし、5000万円の融資を受けて実家の敷地内に3階建てのビルを建てるなど、気鋭の若社長として活躍しているようでしたが、「ワールド」の実態は、詐欺商法を繰り返すとんでもないものでした。

きたきゅうしゅ


 株式会社「ワールド」 

 20歳で純子と再会したときの松永は仕立ての良いスーツを着て高級車を乗り回し、大層羽振りが良く見えたそうで、また自宅敷地内に3階建てのビルを建てたときには300人もの人数を集めて盛大な新築祝いを行ったそうですが、そうした派手な金遣いは松永の過剰な見栄からくるもので、実際の「ワールド」の経営は自転車操業そのものでした。

 従業員にタコ部屋で共同生活をさせ、薄給で散々こき使い、飛び込み営業で高額な布団セットを販売させる。商品が捌けなければ家族に売れ、友人に売れと営業マンに圧力をかける。そこまでは昔のブラック会社にはよく見られた光景ですが(許されないことですが)、松永はさらに、布団を売れない社員や、自分に反抗的な社員に対し、空手チョップや四の字固め、踵落とし、そして「通電虐待」などの暴力を振るっていました。

 通電はもともと、「ワールド」の従業員の一人が戯れに電気を流す器具を作り、酒の席でみんなに見せびらかしていたものでした。初めに造られた器具は、電池の両端に接触した電線の被覆を剥がし、剥き出しの銅線に触れるとピリッと電気が流れる程度のものでしたが、松永はそれに異様な関心を示し、独自に威力を上げる改造を施していきました。

 通常において、詐欺で金銭を得ようとする知能犯の性質と、弱者をいたぶることに興奮を覚える性的サディズムは一人の人間の中に同居することはありません。詐欺を働くような人間はたとえその延長として殺人を犯すことがあっても、それはあくまで最終手段としてであり、また人を必要以上にいたぶることはしません。快楽殺人者は金銭欲よりもむしろ自己顕示欲を全開にし、殺害方法へのこだわりは強くとも、金を得るために手間のかかることはしようとしません。

 松永太は天才詐欺師としての側面と、シリアル・キラーとしての側面を併せ持つ、世界にも類をみない犯罪者でした。詐欺と連続殺人の両方をやってのけた犯罪者としては、「復讐するは我にあり」の西口彰がいますが、西口が殺人についてはかなり雑な面が目立ったのに対し、松永の殺害方法は恐ろしいほどに綿密であり、また松永は「通電」をはじめとする虐待を、「金主」と呼ぶ人間から金銭を得ることに巧みに利用していました。

 天才詐欺師の側面とシリアル・キラーの側面を両立し、尚且つそれが密接に連携している松永は、まさしく犯罪において悪魔に選ばれた男でした。

 ワールド時代の松永にこんなエピソードが伝わっています。

 契約を交わしたあとに支払いを渋る客の家に、松永は従業員を引き連れて乗り込み、客を散々に罵倒する。客を責めるのはもっぱら従業員で、松永は途中までは黙って聞き役に徹し、ときに客の言い分に同意したり、荒ぶる部下を止めるなどして、客に自分の味方であるかのように思い込ませる。松永に気を許し始めた客が仕事がないことを打ち明けると、「ならうちで働けばいい」と客をタコ部屋に押し込めて、2年間、タダ働き同然に働かせる。

 このように、初め善意を装って相手に近づき、相手が自分に心を許し始めたのを見て取ると、今度は一転して相手の落ち度を突き、相手に負い目を抱かせ、自分の要求を飲ませる方向に持っていくのは、松永が緒方家の人々を洗脳にかけた手法と酷似しています。

 「ワールド」時代は松永の原点ともいうべきもので、松永はこのとき学んだ口先三寸と通電虐待のノウハウを強化し、緒方家をはじめとする様々な人から財産をだまし取っていったのです。

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 サイコパス

 上記のような手法で、松永は「ワールド」時代、約1億8000万円を荒稼ぎしたといいますが、「ワールド」は結局、松永30歳のときに9000万円の負債を残して倒産しました。

 松永は大変頭の切れる男だったのは事実ですが、彼の才能はあくまで詐欺師どまりでした。そもそも彼が本当に有能な男であれば布団販売会社の経営に成功し、あのような凶悪犯罪は起こさなかったでしょう。

 サイコパスは経営者の中にも一定数いると言われています。確かに多数の人間を動かしてビジネスを成功させるには、ある意味、人を道具としてみる感覚というのも必要なのかもしれません。それが会社の経営を軌道に乗せ、多くの従業員に高い給料を支払い、十分な休養も与えて幸福な生活を送らせるという方向に行くのであれば必ずしも否定されるべきものではないでしょう。

 しかし、中には従業員を不当に低い賃金で酷使し、自らは贅沢な暮らしをするという経営者もおり、こうしたブラック企業が社会問題化し、総力をあげて撲滅させるという方向に向かっていることは、我々は良く知るところです。

 松永太は稀代のサイコパスといわれる犯罪者ですが、では、普通の人間が松永のようになってしまう可能性はまったくないのか。

 松永の持つ強欲、見栄っ張り、といった資質は程度の差はあれどんな人間も持っているもので、ウソをついたことがない人間もこの世にはいません。日本ではついこの間まで体罰を推奨する風潮があり、ブラック企業やパワハラも絶滅したわけではありません。

 例えば誰にも善人として知られ、従業員を家族のように思う経営者が、傾いた会社を何とか存続させようとした結果、自らも死ぬほど働いたうえで、従業員に無理を強いることがあったとする。従業員からみて、それはサイコパスが私腹を肥やすのと何が違うというのか。確かに経営者に悪意はありませんが、会社の存続のためだ、俺も我慢しているんだからと行為を正当化している分タチが悪いともいえる。

 そもそも我が国には、国家間の戦争に勝つためという名目で国民に「欲しがりません勝つまでは」の我慢を強い、特攻で若い命を無益に散らせた過去がありますが、犠牲になった人々からみれば、当時の日本という国そのものが松永太だったと言えなくもないのではないか。

 松永は本当に特別なモンスターなのか。条件さえ揃えば、普通の人間がサイコパスのような行為に走ってしまうこともあるのではないか。

 また、事件の共犯者である緒方純子は自らの家族を手にかけた殺人者ですが、同時に、松永の暴力の被害者でもあり、また松永とかかわる前の純子は普通以上に善良な人間でした。普通の人間が松永のようなサイコパスに目をつけられたとき、どうやってその魔の手から逃れたら良いのか。

 この記事ではそうした視点からも、事件を追っていきたいと思います。
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松永と似た犯罪者には「関根元」「八木茂」がいましたが、こう言ってはなんなんですが八木や関根のほうが大物的な感じがしましたね。
松永と言う男は確かに頭は切れたようですが、八木や関根のような目に見える結果を残した訳でもなく、ケチなスケコマシと言う印象なんですよね。

No title

松永太を採り上げて頂きありがとうございます。
北九州監禁殺人事件は日本の犯罪史でも最悪な事件ですね。
あまりにも酷い事件だったので当時の報道は少ししか出来なかったそうです。
このような事件をたった一人でやってのけた松永太という人間はとんでもない犯罪者ですね。
緒方純子は松永太と出会ってしまったことで人生を狂わせられた被害者だと思います。
善良な緒方一家も巻き込まれてしまったというのが本当に恐ろしいです。
肉体的にも精神的にも相手を支配する能力はワールド時代にすでに出来上がっていますね。
松永太は表面上では親切な人物だったような気がします。
裏の顔を知らなかった人からすれば驚きだったでしょうね。
サイコパスは魅力的と言いますから注意が必要ですね。

No title

GGI さん

 北九州監禁殺人事件がその二人と違うのは事件の猟奇性もさることながら、加害者が己の快楽から、殺害とは無関係に被害者を痛めつけたこと、被害者同士に人間関係が存在し、加害者である松永が秩序の頂点として被害者たちを操っていたという点ですね。

No title

seasky さん

 当時はあまりの猟奇性から報道規制がかかった事件でしたね。この事件は遺体を滅却するという方法で完全犯罪まであと一歩手前までいった事件でしたが、バレずに最後までやりおおせたという例もあったのかもしれませんね。

 この後解説しますが緒方一家というのは善良な常識人であるがゆえに、世間体を非常に気にする人たちでそこを松永にうまく突かれてしまった形でしたね。口がうまい人間というのはロジカルを組み立てるのがうまい人間で、純朴な緒方家の人々は松永の作り出したストーリーにうまくはめられ、そうするしかないと思わされてしまいました。

北九州監禁殺人事件

ずっとこの事件の事、
気になってました。

松永太って、女を騙す能力高いし
頭の回転速い人ですよね。

リア充気質なのに
何故あそこまで凶悪な事件を
起こしたんだろう。
金は欲しくても
殺し合いまでさせる必要あったの?

最近松永の息子さんが
ザノンフィクションに出たり
ユーチューバーを
されてるみたいですよ。

気になって最近見ています。

No title

あやか さん

 どの道何らかの問題は起こしていたのでしょうが、度を越えた欲望と見栄、人をいたぶることに快感を覚える性癖、どちらかがなければ殺人までは犯さなかったのかもしれません。前者だけであればただの詐欺師どまり、後者だけであれば普通の会社にもたまにいるイヤなヤツ程度で済んでいたのかも。
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