FC2ブログ

犯罪者名鑑 市橋達也 2 (2007年3月~4月)


1はし

 fast step

 JR上野駅で電車を降りた市橋は、顔を変えることを思いたち、コンビニで裁縫道具を買い求めました。鼻に針を刺し、切り分ける前のチャーシューのように糸でグルグル巻きに縛って、小鼻を細くしようとしていたのです。

 激痛に耐え手術をし、マスクをして痕を隠した市橋は、ディスカウントショップで野球帽、靴、リュックサック、安売りのスナック菓子を大量に買い、早朝になると、JRの秋葉原駅に入り、また電車に乗り込みました。

 関東地方の、人気のない駅で電車を降りた市橋は、図書館で新聞を開きました。市橋についての情報はまだ載っていませんでしたが、二年前に事件を起こして逃亡していた女の犯罪者についての記事が目にとまりました。女は逃亡中に整形手術をしており、この記事を見て、市橋は逃亡するには整形を続け、顔を完全に変えるしかないと思い至ったようです。

 続いて市橋が購入したのは、英単語が録音されているUSBを聞くための単四電池でした。

 逃亡犯の身の上となっても、人には生きる活力が必要なのは確かであると思いますが、市橋がこの期に及んで英会話の学習に拘ったのは、いずれは海外に脱出することを考えていたのでしょうか。それとも、単に習慣をやめられなかっただけなのでしょうか。

2はし


 放浪

 2007年3月末から4月の市橋は、電車で関東各地の、人口が少ない地域を放浪していました。住居もない市橋は眠気と疲労で混濁とした思考の中で移動を続けており、また、電車の中ではいつも顔を下に向けていたせいで、この期間、彼の記憶は判然とはしていないようです。

 印象に残っているのは、電車に乗っていたとき、居合わせた女子高生から「変装しているみたい」と囁かれたことでした。この頃の市橋は常に帽子とメガネとマスクをつけて、顔面の露出をできる限り抑えていました。そんな恰好は逆に怪しまれる気もしますが、警察の職質を受けなかったのは、やはり人通りの少ない地方だったからでしょう。

 ある民家の車庫で横になっていたところ、帰ってきた家主の車に轢かれたということもありました。市橋は、「大丈夫ですか?」と声をかける家主に謝って民家を離れましたが、リュックサックを忘れたことに気付き、来た道を戻ります。

 人のいいことに、家主は市橋のリュックを元の場所に置いたままにしておいてくれました。所持品を失う危機を逃れた市橋は、さらに牧歌的な田舎道を歩き続けます。

 逃亡犯は一人の例外もなく、常に誰かに見られているという心理に陥るそうですが、一面畑の、人通りなどまったくない道を歩いていても、市橋は人の目が怖くて仕方なかったそうです。上空を飛ぶヘリコプターが自分を探しているのではないかと怯えるほど臆病になっていた市橋は、頻繁にゴミ箱を漁ったり、ホームレスと服を取り換えるなどして、姿かたちを変えながら放浪していました。

 食料はなるべく残飯や農家のビニールハウス、スーパーの試食品売り場などから調達するようにしていました。腹も減っていたでしょうが、このときの市橋は夜も昼もなく歩き続けていたことで、とにかく眠くて仕方がなかったようです。春先で、昼間にはTシャツ一枚で歩けるほど暖かい日もありましたが、まだ夜は寒く、ロクに眠れない市橋は、ボーッとした頭の中で、いつもリンゼイさんにすまない、申し訳ないと謝っていたといいます。 

 新聞でリンゼイさんの遺族の記者会見が開かれた模様を見てから、一層、自分のしでかしたことの重大さ、リンゼイさんへの申し訳なさを募らせたと言いますが、出頭するつもりにはなれず、死ぬこともできず、市橋は当て所の無い旅を続けていました。

加藤



 北へ


 静岡県に入った市橋は、事件前、福岡県に住む友人に、「近々遊びに行っていいですか?」とメールを送っていたことを思いだし、南に向かうことは危険と判断して、一路北を目指すことを決めました。

 東京駅から新潟、そして本州最北端の地、青森へと到着した市橋ですが、春先でも雪が降る青森の寒さは想像を超えていました。ホームレス仲間から衣類、食料などを分けてもらうなどしましたが、(この、市橋のホームレスに対するコミュニケーション能力の高さは気になるところです。自分から話しかけていったのか?ホームレスの方が路上生活素人の市橋に気さくに接していたのか?)青森の厳しい夜の寒さは凌げませんでした。

 体調不良から激しい頭痛に見舞われるなどし、この環境ではとても暮らせないと判断した市橋は、職を得ることを考えて求人誌を開きます。電話ボックスから目ぼしい求人に応募しますが、どの会社でも、入社には最低限、携帯電話が必要だということを言われて断られ続けました。

 選挙の街頭演説で、青森の求人倍率が全国でワースト2位だということを聞いた市橋は、青森で職を得ることは無理かもしれないと考え、ドヤのある大阪を目指すことを決断しました。

 驚いたことに、この時点で市橋の鼻には、セルフで整形手術をしたときの針がまだ刺さっていました。針を抜いた市橋は、さらに下唇を薄くするためにハサミで自ら唇の一部を切り落とし、電車で大阪へと向かいました。 

 余談になりますが、出身の青森、事件当時に働いていた静岡、事件現場となった秋葉原と、この時期の市橋には、一年後に事件を起こす加藤智大とのニアミスがありました。創造力を膨らませれば何か小説も書けそうですが、ここでは先に進んでいきたいと思います。

西成



 西成
 

 新潟、京都を経て大阪へとたどり着いた市橋は、西成のあいりん地区を目指しました。

 1,500円~3,000円程度の値段で利用できる簡易宿泊所が立ち並ぶあいりん地区は、高度経済成長期に建築現場で活躍した日雇い労働者たちに利用されていましたが、現在では都会の真ん中に現れたネットカフェに取って変わられ、行き場をなくした高齢のホームレスがたむろする地域となっています。ちょんの間で有名な飛田新地も近く、街には独特の雰囲気があります。

 一晩野宿してハローワークへと出かけた市橋ですが、そこは小便や酒、たばこの臭いが酷く、一目みて心身に異常をきたしているとわかる人種が集まっていました。

 普通の人でもショックを受けるような光景を目の当たりにし、27歳まで働いたことがなく、坊ちゃん暮らしを送ってきた市橋はすっかり意気を挫かれてしまいました。一人の男に、「いい話、しただろ。だから寝ている間、小便かけるなよ」などとわけのわからないことを言われ、とてもここでは働けないと思った市橋は、西成で職を求めることを諦め、本州を離れて四国へと向かうことを決めました。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

市橋は自分で針と糸を使って整形手術をしながら逃亡するというのは凄いですよね。
過酷な環境で路上生活を続けていくのは心が折れてしまいそうです。
捕まるかもしれないという恐怖心も常にあったと思うので睡眠も十分に取れなかったでしょうね。
放浪していく中で市橋は生き延びるために逞しくなっていますね。
どこまででも逃げ続けてやろうという気持ちだったのでしょうか。
市橋の事件は加藤の事件と近い時期にあったのですね。
逃亡していたのもあってかなり前の事件と思っていました。
身を隠すために西成で生活しようと思い付いたのは良かったのですが劣悪な環境に圧倒されてしまったのですね。
市橋は逃亡犯ですが精神は正常なので周りを見て無理と判断したのでしょう。
市橋は必死に逃亡しているだけなのに文章にして読むと市橋の観光日記のような気になってしまうのが面白いです。

No title

市橋が逃亡中に英会話の勉強をしていたのは有名な話ですが、海外逃亡も視野に入れて偽造パスポートの入手も目指していたなんて話も聞きます。まあ海外逃亡を計画していたのは事実かも知れませんが、リンゼイさんへの彼なりの贖罪もあったのかもしれません。

私個人としては、市橋が働いていたことは少し意外な印象です。市橋は27にもなって就労の経験がなく、両親も「あの子は死を選ぶだろう」とまで言ってましたから、自殺したか、小池俊一のように誰かに匿ってもらっているのではないかと(恐らくは彼女)踏んでいました。

一体何が市橋をそこまで突き動かしたのでしょつか。

市橋の事は詳しく無かったので、記事を作って頂いて嬉しいです。 
外国人女性好きなのは初めて知りました。ら、私は性欲が強く(日本人女性も好きですが)外国人女性好きなので、一概に他人事といえないところがあります。
ただ学生時代は成績優秀で運動も得意ななのは私とは正反対です。彼に限らず例えばおい小池こと小池俊一もそうですが、日本で何年も逃亡生活を続けるのは相当な能力がいるのでしょうね。

No title

seasky さん

 ホームレスという環境と極度の緊張で睡眠は満足に取れなかったでしょうね。
 市橋が加藤ゆかりの地を訪れていたのは不思議な偶然を感じますね。
 このときは働くことを諦めましたが、長旅の果てに結局働くことを選び、肉体的にも精神的にも逞しくなっていくんですよね。医者のドラ息子が逃亡犯という極限の状況に置かれることでここまでになったのは皮肉というより他ありません。

No title

GGIさん

 リスクが高く、裏社会の人間と接触した形跡もないので計画としてはなかったでしょうが、希望的観測としては海外脱出も考えていたかもしれませんね。

 誰かを頼らず、働いて逃走資金を稼いでいたのが同じ逃亡犯の福田和子と異なる点ですね。さらに市橋が面白いのは、それまで働いたことのない典型的金持ちのドラ息子だったという点です。

 金持ちの息子で歯科医でもありながら町工場に潜伏していた本山茂久に少し似ていますね。

No title

テュール さん

 世界的にかなり民度の高い人種とみらている日本人が起こした事件ということでイギリスでも注目を浴びた事件でしたね。
 海外の女性は日本の女にはない素直さがあっていいですね。大柄な女性も多いですが180㎝の市橋なら並んで歩くのもまったく問題はなかったでしょうからね。
 狭い日本国内で逃亡を続けるのが相当に難しいですね。市橋の場合はもう5年は逃走期間が延びた可能性はあったのですが・・。
プロフィール

asdlkj43

Author:asdlkj43

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
凶悪犯罪者バトルロイヤル
凶悪犯罪者バトルロイヤル
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR