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外道記 改 15

翌日曜日は、桑原を連れて、にんにく大魔人の捜索のため、ヤツの現在の住処とみられる地蔵山に登ることになっていた。

 駅前で集合した俺たちは、まずは情報収集のため、駅前の商店を訪ねる。

「よう、婆ちゃん。今日は、ハゲデブオヤジは見た?」

「おお・・・。今朝も、孫のクラブをみながら、食べ物を買って、地蔵山の方に入っていったねえ。私に、そのチャンチャンコ素敵ですね、とか、わけのわからないことを言っていたねえ」

 精力を極限にまで高め、野獣と化したにんにく大魔人には、七十歳を越える老婆すら、「女の子」に見えているのである。

 老婆から情報提供を受けた俺は、桑原とともに、勇んで山の中へと、足を踏み入れていった。今日は登山ということで、俺は昔の派遣先で返却し忘れてそのままになっている、黄土色の作業服を着ていた。桑原はいつものツナギ服ではなく、迷彩の軍服姿である。

「あっ。アニキ、あそこ見てください。オオヒラタシデムシの幼虫が、すげえ速さで走ってますよ!うおっ!あっちでは、節の部分が黄色くなった一センチ級のダンゴムシが、落ち葉を食っています!おわわわっ、スギヒラタケだっ!アニキ、お腹すいてても、これは食べちゃだめですよ!」

「うるせえな・・・んなもん、みたくねえし、食わねえよ・・・」

 山道は滅多に人が立ち入らないためか、倒木などがそのままにされ、水はけも良くないため、昆虫類やキノコが至る所から顔を出している。人間の女が放出する糞尿、悪臭といった方面のグロテスクには性的興奮を覚える俺であったが、動植物方面のグロテスクは守備範囲外であり、恐怖でしかなかった。

「あっ!アニキ、あれを見てください!」

「やだよ・・・。さっさと行こうぜ」

「あれはっ!あれはヤバいですよ!」

 桑原がしつこいので、桑原が指さす方向に視線をやってみると、そこには虫ではなく、四体の地蔵が並んでいた。おそらく、これが地元民に地蔵山と呼ばれる所以なのだろうが、妙なことには、普通は六体で並ぶ地蔵が、二体欠けて四体しかいなかった。確かに、地蔵の身長は三十センチほどで、大人の男であれば何なく持ち運べるほどの重さであるにしても、一体誰が、何の目的で、こんな地蔵を持ち去ったというのか?

「アニキ、見てください。こんなところに、ハートチップルの袋と、金剛鳳凰丸のビンが落ちています。これは、にんにく大魔人が落としたものではないでしょうか」

 地蔵が置かれている周辺は休憩所のようになっており、ベンチに座って休むことができる。おそらくにんにく大魔人は、愛する「いちご」に会う前に、ここでおやつを食べ、勃起エネルギーを増幅していたのだろう。

「あの野郎、俺の愛する地元の自然を破壊しやがって・・・。許せん!」

 粗暴な桑原に環境愛護の精神があったとは意外であったが、彼がにんにく大魔人を何がなんでも見つけ出そうとする決意は、これでより強くなったようである。

 さらに山道を十五分ほど進むと、古びた山小屋が見えてきた。木造の一階建てで、壁面は朽ちかけてキノコが生え、関西の野球場のように、蔦が垂れ下がっていた。曇った窓からは、積み上げられた布団や、ひっくり返ったのようなものが見えている。どうやらここは、物置小屋か何かに使われているようだ。

「こりゃ、何かがありそうだな・・・うおっ!」

 足元の注意をおろそかにして山を登っていると、突如、何かを踏んですべり、前につんのめってしまった。同時に、鼻毛が干からびそうな悪臭が漂ってくる。足もとを見ると、足が何本もある、わけがわからない虫が二十匹くらい、ワーッと逃げ散っていくのが見えた。

「な、なんだってんだよ・・・」

 全身に走る悪寒に耐えながら、桑原と一緒に、もう一度足もとをよく見みてみた。

「こっ・・・これは、糞だっ!アニキは、糞を踏んだんですよ!」

 俺が靴で潰したことによって、無数の落ち葉に塗りたくられた、茶褐色の物体。踏んだ瞬間、足に伝わった柔らかい感触。辺り一面に広がる悪臭。確かに桑原の言う通り、俺が先ほど踏みつけたのは、まぎれもなく、何らかの哺乳類の糞であるようだった。

「こんなところまで犬や猫が入ってくるとは思えないし・・・。クマでもいるんですかね・・・?」

「いや・・・それにしては、一か所にこんなに沢山の糞があるのはおかしくねえか?」

 よく見ると、糞は一つではなく、山小屋の周りを取り囲むように、十個以上も落ちていた。時間が経って表面が干からびており、臭いは強くはないが、どれも大きさは、フライドチキン一ピースほどはある。これを全部、野生のクマがしたものというなら、こんなに一か所に多数の糞が集まるというのは不自然な話である。

 結論――目の前の山小屋の中に、一定以上の大きさの生物が定住している。おそらくその生物こそが、にんにく大魔人が妊娠させた女、「いちご」ではないだろうか?

「山小屋の中を、調べてみようぜ」

 俺はいざというときの盾とするため、桑原を前に歩かせ、生い茂る草木をかき分けて、山小屋の扉へと近づいていった。ボロボロに塗装が剥げた茶色の扉には、鍵はかかっておらず、半開きになっている。ノブを掴み、引っ張ろうとした桑原がその手を止め、鼻を摘み、手を横に振って、「ヤバい」とジェスチャーした。

 山小屋の中から漂う、肉食獣の檻のような悪臭・・。侵入者を全力で拒むかのようなその臭いは、あたかもカメムシやスカンクが、外敵を退けるために刺激臭を発しているような危機感、あるいは悲壮感に溢れていた。

 臭いとくれば、俺の出番である。桑原と交代して先頭に立ち、ノブを引っ張ろうとしたが、扉の隙間から漏れ出てくる声を聴いて、思わず手を止めてしまった。

「いちご・・・・いちご・・・・いちご・・・・」

 いちご―――にんにく大魔人の愛する女の名を繰り返し呟いているのは、まぎれもなく、かつて俺の子を二人も産んだ四十四歳の女、ゆかりであった。

「どうしたんすか?アニキ・・・」

 押し殺した声で、桑原が尋ねる。どうしたもこうしたも、俺自身、目の前の現実をどう受け止めていいのか、整理ができない。

 恐る恐る、少しだけ開けたドアの隙間から、中を覗いてみる。山小屋を埋め尽くす布団やガラクタの中に、ちょこんと座る女は、俺が知るゆかりに比べれば随分痩せているが、身にまとっている赤いお姫様ドレスや、肉厚で一重の瞼の奥に覗く細い目、プロボクサーのパンチを貰ったようにひしゃげ、鼻毛が何十本も飛び出した鼻、口角から耐えず涎を垂れ流す半開きの口、脂に塗れてギトギトと光った、海ゾウメンのような髪は、まぎれもなくゆかりのものだった。

 山小屋の外に無数に転がっていた糞は、おそらくほとんどゆかりのもので、何個かはゆかりにエサを運んでいる、にんにく大魔人のものだろう。今から約三か月前、にんにく大魔人の部屋から逃亡したゆかりは、何日かの旅の末、この地蔵山の山小屋へと逃げ込んでいたのだ。

 ゆかりの身体は、最後に見たときに比べ、半分ぐらいに痩せているが、腹だけは以前と同じように膨らんでいる。ゆかりの周りには、にんにく大魔人が運んできたと思われる菓子パンの袋やバナナの皮などが散乱しているから、貧困国の子供のような栄養失調に陥ったわけではないだろう。おそらくは、妊娠・・・時期的に考えて、にんにく大魔人ではなく、俺の子を身ごもっているのだ。

 肥満で気づかなったが、ゆかりは俺の下から逃亡した時点で、すでに子宮内に命を宿していた。直前に見せていた、異常な食欲はそのためであった。そしてにんにく大魔人は、子供を身ごもったゆかりのため、「たまごクラブ」を参考にしながら、妊婦に優しい食品を届けていたのだ。

「けんじ、たつや、ゆかりの子。けんじ、たつや、ごはんのじかん」

 ゆかりが気味の悪い声で呟きながら、ガラクタの山の中に手を伸ばした。腕をあげた瞬間、生命の力強さを感じさせるような、黒々と生い茂るわき毛が覗く。

 ゆかりがガラクタの山の中から取り出したものを見て、俺は息を飲んだ。それは紛れもなく、山道の休憩所から消えていた、二体の地蔵であった。

「けんじ、たつや、ゆかりの子。けんじ、たつや、ごはんのじかん」

 ゆかりが、赤いお姫様ドレスを脱ぎ、顕わになった、垂れさがった乳房を絞り、「けんじ地蔵」と「たつや地蔵」に、乳を与え始めた。出産が近づいているのか、ゆかりの乳からは芳醇な母乳が、ビャクウッ、ピルピル、ビャクウッ、ピルピルと勢いよく迸っている。柔らかな笑みを浮かべる地蔵の顔は、たちまち濡れそぼった。

 ゆかりの顔には、太っているときには目立たなかった深いしわが刻まれ、脂ぎった髪には、白いものも増えているようである。近頃はアンチエイジングブームで、通常なら閉経を迎える年齢であっても、四十歳ぐらいにしか見えないような容色を維持している女も多いことを考えれば、ゆかりの年齢は、六十歳を越えているようにも見える。還暦を越えた女が、大量の母乳を噴射している光景は、さながら妖怪物語のようで、いかにも壮絶であった。

 お地蔵様を己の子に見立てて母乳で濡らすとは、なんとも罰当たりな女であるが、あるいはゆかりは、若き日の釈迦が修行で疲弊して倒れた際、村娘スジャータの乳粥を飲んで回復したというエピソードを知っているのであろうか?いくら悟りを開き、煩悩に惑わされなくなった釈迦とて、三か月以上も身体を洗っておらず、ヴァギナから肉食獣の臭いを発し、飛び出させた鼻毛に付着する鼻くそを何気なしにパクっと食べてしまう、知的年齢十歳、実年齢四十四歳、見た目年齢六十歳の女の乳では回復はせぬと思われるが・・。もし、そんな毒汁のようなもので回復するとしたら、俺くらいであろう。釈迦と違って煩悩にまみれた俺は、山小屋の壁に押し付けられた股間が熱くなるのを抑えられなかった。

「アニキ、一体どうしたんですか。小屋の中に、一体何が・・・うわっ!!」

 俺の肩ごしに小屋の中の様子を覗いた桑原が吃驚し、尻もちをついた。俺のようなアブノーマルな性癖のない男にとっては、ゆかりの姿は異常も異常。裏社会で修羅場を潜ってきた桑原でさえも、猛烈な悪臭を発する妊娠した中年女がお姫様ドレスを着て、地蔵に母乳を与えている光景などをみたときは、腰を抜かしてしまうのだ。

「けんじ、たつや、いちご、けんじ、たつや、いちご、けんじ、たつや、いちご、けんじ、たつや、いちご、けんじ、たつや、いちご・・・・」

 侵入者の存在に気付いたゆかりが、パニックに陥ったのか、突如、己の息子の名を連呼し始めた。生意気にも、胸元を両手で覆っている。

 俺は、今すぐにでも小屋に飛び込んで、ゆかりのお姫様ドレスを引き千切り、雑菌がうようよといる、舐めたら腹痛必至のヴァギナにむしゃぶりつき、ゆかりの陰毛で培養された菌を甘い母乳で流し込んでタンパク質の補給をした後、「マカパワーX」「金剛鳳凰丸」「超竜爆発」「オットビンビンAAA」を一気に飲んでいきり立ったものをゆかりの股間に差し込み、残った雑菌のお掃除をしつつ、子どもが入ったボテ腹が揺れるのを眺めながら射精をしたい衝動を抑え、桑原を連れて一時小屋から離れ、作戦会議に入った。

「アニキ、なっ、なんなんすか!あれがにんにく大魔人の女房、いちごですか?いくらにんにく大魔人でも、あんなのとセックスできるんですか?あれで勃つとか、人間じゃないですよ!」

「そこまでは、言い過ぎだろ!」

 人にあらずとまで言われ、つい、怒気を露わにしてしまった。

「え?なぜ、アニキが怒るんですか?」

「いや・・。それより、あのいちごは、うまくすれば、莉乃をこの世から葬り去るのに使えるかもしれねえぞ」

 数か月前・・・「頭のおかしい魔人から、みんなに守ってもらっているワタシ」を演じるという莉乃の目的によってズタボロに傷つけられ、その莉乃を装った俺のメールによって存在意義をも否定され、トドメのように、自分が生身の女を前にしては勃起できない身体である事実を突きつけられたにんにく大魔人は、人生に絶望し、命を断つ決意をして、地蔵山に入った。しかし、にんにく大魔人はそこで、生きる希望――女体と出会った。

 にんにく大魔人が出会った女体は、実年齢は四十四歳、見た目年齢は六十歳を越えている。しかし、にんにく大魔人は、あともう間もなくで「ヤラミソ」になってしまい、贅沢を言っていられる立場にはない。もし、にんにく大魔人が社会と繋がっている状態であれば、あんな化け物を妻とすれば、周囲からの嘲笑を浴びるのではないかと危惧するところかもしれないが、幸いというべきか、海南アスピレーションの寮を飛び出したにんにく大魔人は現在、ホームレス状態にある。汚い女体を有難がって抱いていたからといって、馬鹿にするような人間は、誰一人としていないのである。

 何とかは三日で慣れる、などという言葉もある。にんにくを沢山食べ、精力を高めているうちに、彼の目には、六十歳を過ぎているようなホームレス女が、「女の子」に見えるようになってきた。

 山小屋にいた「女の子」は、腹に赤子を宿しており、満足に身動きが取れない状態だった。「女の子」は、あんなことやこんなことをしても、簡単に逃げられる状態ではないのである。

 「女の子」は悪臭を放っていたが、もともと「女の子」の内縁の夫であった男によれば、それは「女の子」が性的に興奮していることを表すフェロモンということであった。「女の子」のおっぱいは、ひしゃげて垂れ下がってはいるものの、まあまあ大きく、しかも甘い母乳まで噴射する。

 にんにく大魔人は、名前のわからず、会話も通じない「女の子」に、ひとまず、彼女が口癖のように呟いている、「いちご」という名前をつけることにした。それは奇しくも、己がかつてお世話になったAV嬢と同じ名前であった。「女の子」――いちごちゃんは、にんにく大魔人にとって、まさに「エンジェル」であった。

 そして、ここが肝心であるが、にんにく大魔人は、いまだ「いちご」の身体を貫いていない可能性が、極めて高い。 

 にんにく大魔人が街で紛失し、女子高生に拾われたメモの内容からは、にんにく大魔人は、「いちご」をレイプするのではなく、あくまで、合意の上でのセックスに拘っていることが伺えた。「いちご」がにんにく大魔人をどう思っているのかわからないが、あの「子供が欲しいというまで手をださない」という一文から考えても、にんにく大魔人は、他人の子を宿したままの、今のいちごを抱く気にはなっていないのではないか。

 にんにく大魔人が「いちご」とセックスができていないもう一つの根拠は、にんにく大魔人は、駅前の商店の、七十歳を過ぎた老婆が着たチャンチャンコを褒めていることだ。「いちご」よりも三十歳近く上の七十過ぎの老婆すら、性の対象である「女の子」に見えるほど飢えているというのは、にんにくを沢山食べているだけでは説明がつかない。そんなことは、長い間性器を刺激しておらず、極限まで快楽に飢えている場合にしか起こりえないはずだ。

 おそらく、にんにく大魔人は、海南アスピレーションの寮で純玲に抜いてもらってから今までの約二か月間、にんにくや「超竜爆発」などの精力剤の摂取により作った精液を、まだ一度も放出せず、ずっと溜め込んでいるのだ。そんなに溜め込んでいれば、自慰行為をせずとも、精液は夢精により放出されたり、精巣の中でほとんど死に絶えてしまっているだろうが、少なくとも射精によるオルガスムスは、三か月近く味わっていないのは確実である。

 にんにく摂取のみならず、禁欲もすることにより、性欲が極限にまで高められたにんにく大魔人が、この人目に触れぬ山小屋に、かつて惚れて惚れぬいた女、莉乃がいるのを見てしまったら――?イカ臭きペニスを刺し込むのは、必然ではないだろうか?

 莉乃を犯さなくてもいい。むしろ、にんにく大魔人が莉乃を犯さず、いちごへの純潔な愛を貫いてくれた方が、結末はより悲惨なものとなる。

 自分といちごの「愛の巣」と思っていた山小屋に、他の人間が立ち入ったとわかったらば、にんにく大魔人は、行政の人間にいちごを連れていかれることを恐れるであろう。いちごは、三十年間、女に飢えて飢えて飢え続けたにんにく大魔人がようやく見つけた、大事な大事なエンジェルなのである。エンジェルの身体を散々貪りつくした後というなら、行政に引き渡してもいいかもしれないが、にんにく大魔人はまだ、エンジェルには指一本触れておらず、童貞のままである。

 いちごを連れて逃げようにも、寮を飛び出してしまったにんにく大魔人には、身重のいちごを連れていくあてがない。せっかく見つけた、エッチなことし放題のミルクエンジェルをなにがなんでも失わぬために、今度こそにんにく大魔人は、莉乃を殺すことを選ぶのではないか。

 行政云々を抜きにしても、莉乃は、人間、宮城利通に引導を渡し、性欲に全てを支配された怪物、にんにく大魔人に変えた張本人なのである。人間であることを辞めさせられた女に、生きる希望であるいちごまで奪われそうになれば、にんにく大魔人は、「鬼」と化すのではないか――。

 莉乃をこの地蔵山におびき出すのは、そう難しいことではない。四方八方にアンテナを張り巡らせ、唐津にいいところを見せるためのネタを探している莉乃に、劣悪な環境の山小屋で、大きなおなかを抱えながら途方にくれている「いちごちゃん」のことを教えれば、莉乃は唐津の手を引っ張って、スキップしながら山道を上ってくるはずである。

 にんにく大魔人が抱くであろう危惧に反して、莉乃がいちごを行政に引き渡すことはないだろう。せっかくの唐津へのアピール材料を、自ら手放すはずがない。しかし、そんな事情は、にんにく大魔人の知るところではない。

 いちごに食料などの支援物資を運びに来た莉乃に、何度も「愛の巣」を踏み荒らされて、にんにく大魔人の怒りはとうとう限界に達する。あの女は、自分にこの社会でまともに生きる道はないと「引導」を渡しただけでなく、死ぬために入った山の中で見つけた希望、いちごまで奪おうというのか――?

 自分のストレス発散のために、さんざモテない男を愚弄し続けてきた莉乃は、忌み嫌う「雑菌でぶおじさん」の、悲しみの刃によって屠られるのである。

「なるほど・・・。面白そうっすね」

 俺の計画を聞いた桑原が、腕を組み、顎に手を当て、感心したように頷いてくれた。

「だろ。そんでよ、もっといいこと考えてんだけどよ・・・」

 俺は持ってきたリュックサックの中から、小型の赤外線カメラと、盗聴器を取り出した。

「なんすか、これ?なんでこんなもん持ってるんです?」

「女便所とかに、仕掛けるためだよ。お前、コイツを小屋の中に仕掛けてこいよ。にんにく大魔人が、莉乃を犯すか、ぶち殺すところ、見てえだろ?」

 無論、目的はそれだけではない。あわよくば、にんにく大魔人と「いちご」が織りなす、「超劣等東洋種族製造計画」をこの目に収めたいという願望もあった。

「そりゃ、見たいっす!でも、変態であるアニキが自分でやった方が、失敗がなくていいんじゃないすか?」

「変態じゃねえよ。実はよ、アイツは元、俺の女だったんだよ。俺が散々暴力を振るっていたから、逃げられちまったんだ」

 いちいち誤魔化すのも煩わしい。止めどもない興奮の前では、もはや、自分の特殊性癖を晒すことも、恥とは思わなかった。

「え?アニキ、あれとセックスしてたんすか?やっぱり、変態じゃないですか・・・」

「じゃあ変態でいいよ。とにかく、俺は昔、アイツのことを散々甚振ったから、俺が来たとわかれば、アイツは身重の身体を推してでも逃げてしまうかもしれないだろ?お前だったら、まずその可能性はない。だから、お前やって来いよ。場所とか、角度とか、俺が部屋の外から指示するからさ」

「なるほど、そういうことなら、俺がやるしかないっすね。では、行ってまいります!」

 桑原は勇んで小屋の中へと入り、俺が外から身振り手振りで指示をするのに従って、ガラクタの山の中に、監視カメラと盗聴器を仕掛けるのに成功した。作業中は、ゆかりに対し、「あなたを助けに来たんですよ」「我々は役所の人間ですからね」などと声をかけさせ、また非常食のカロリーメイトを与え、ゆかりを安心させるための言葉をかけさせるのを忘れなかった。ゆかりの警戒心さえ解けば、身重のゆかりがどこかへ逃亡する心配はなくなる。

「それじゃ、いちごさん、また来ますからね~」

 長居は無用。これ以上いたら、俺はゆかりの背中にできた汗疹を齧り取り、それを口の中で、ゆかりの足の爪に挟まる黒々とした垢と混ぜ合わせ、さらにゆかりとディープ・キスをすることで、ゆかりの歯槽膿漏でうんこの臭いがする口の中に移し、汗だくになったゆかりと、汗だくになりながら絡み合い、ゆかりのヴァギナのお下劣な臭いを俺のペニスに移動させつつ、射精をしたい衝動を抑えることができない。俺はカメラと盗聴器を仕掛け終えた桑原とともに、下山を始めた。

「しかし、いちごを見つけることはできましたが、にんにく大魔人を見つけることはできませんでしたね。あの商店の婆ちゃんの勘違いか、行き違いになっちゃったんですかね」

「まあ、そのおかげで山小屋にカメラを仕掛けることができたし、莉乃を殺す作戦も思いついたんだから、いいとしようじゃねえか」

 禍転じて福となす。あのとき、俺の下から逃げたゆかりは、莉乃殺害の可能性を運んで戻ってきた。己に都合の良い、キレイな世界しか目の中に入れずに生きてきた莉乃は、この汚わいと汚臭に塗れた山小屋で、終焉の時を迎えるのだ。

「ところで、アニキ、さっきから電話鳴ってますよ」

 桑原に言われて、俺はポケットの中で振動するスマートフォンを手に取った。メールが、知らぬ間に十六通も届いている。莉乃殺害が現実味を帯びてきた興奮で、まったく気づかなかった。

 送信者は、すべて同じ人物――東山。内容はほとんどが、なぜ返事を寄越さない、電話に出ろ、といった意味のないもので、要件が書かれているのは、最初の一通だけであった。

――俺の過去の犯罪がばれた。俺はもう終わりだ。

 本文に添付されているURLを辿ってみると、それは匿名掲示板のあるスレッドに繋がっていた。一九九×年、同級生女子メッタ刺し殺害事件の犯人の現在――というのが、スレッドのタイトルである。スレッド内では、丸菱運輸の集合写真と、東山の中学時代の写真が公開されており、居住している地域、体格、職業、家族構成などの事実関係は、すべて真実であった。

 東山の個人情報をネット上に流出させた犯人は、他ならぬ俺であった。東山を、莉乃と唐津への復讐に使うことを決断した俺は、業者から五万で仕入れた他人名義の携帯電話を用いて、匿名掲示板にスレッドを建て、東山の個人情報を書きこんだのである。

 労働組合の連中を説得して、東山を助けてやることは、十分に可能だった。それは俺にしかできないことであり、そうしてやれば、東山は俺に深く感謝して、気持ちよく金を吐き出してくれるようになるのはわかっていた。わかっていて、俺は敢えて、東山を見捨てた。のみならず、俺は東山を更なる窮地に追い込む一手を打った。

 今、俺が何を差し置いてもやらなくてはいけないのは、莉乃と唐津への復讐だ。今、ここで世間に対してケジメをつけなくては、俺に未来はない。東山からいくら金を引き出しても意味がないのである。二兎を追う者は一兎をも得ずの諺に従ったわけだが、問題は、俺が捨てた一兎は、少しの努力で確実に手に入った一兎だったのに対し、俺が求めている一兎は、多大な努力をしなければ手に入らない一兎であるということである。

 俺にギャンブルを決断させたのは、唐津に舞い込んだ、海南アスピレーション正社員の誘いであった。唐津は労働争議に決着がつき、契約期間が終了したら、すぐさま丸菱の倉庫を去ってしまうだろう。唐津がいなくなれば、当然、莉乃もすぐにいなくなる。奴らの契約期間が俺と同じなら、残り一か月弱。奴らが俺の手の届く範囲にいる、ごくわずかな間で奴らを仕留めるためには、悠長に構えている暇はなかった。

 百九十センチ、百十キロ。悲しみの巨人、東山を「暴力装置」として利用する計画――。やるべき作業は多くはないが、簡単ではない。とにかく、できる場面で、できる仕事を、一つ一つ片付けていくしかない。

「なあ。東山の個人情報がネットに流れちまったみたいなんだけど、お前、何か知らねえか?」

 俺はさっそく、東山の個人情報を流した犯人が俺であるという疑いを回避するための芝居を始めた。

 今現在、俺と肩を並べて、一緒に山道を下りている男。俺が知る限りでは、現在、北関東に住み、丸菱運輸の倉庫で働いている東山円蔵が、十八年前、首都圏の中学校で、同級生を三十回以上も刺して殺した少年Aと同一人物であることを知っているのは、この男しかいない。東山の俺への疑いを逸らすために、容疑を被せるのに最も適当な相手がいるとしたら、それはこの桑原ということになるが、俺にそこまでの意図があるわけではない。 

 あれだけのパワハラをしてきた男である。海南アスピレーションで、労働組合を結成して戦ってきた派遣スタッフだけでなく、いまどこで働いているかもわからない何百、何千という人間から、深い恨みを買っているはずだ。犯人探しをしようとしたら、それこそキリがないだろう。わざわざ罪を被せることなど考えなくとも、東山が俺にたどり着く可能性は皆無に近い。俺が桑原に東山の危機を教えたのは、ただ単に、俺は何も知らないという芝居を打っているだけである。

「え!東山先輩の過去が!」
 
 大層驚いた様子で、桑原が、山小屋から回収してきた、剥きたてのバナナを取り落とした。
「なるほど・・・・ようやく東山先輩の凄さに、世間が気づき始めたってことですね。そっかぁ、ついに東山先輩も全国区かぁ~」

 特に、東山を心配する様子もみせない桑原。悪事を勲章として生きてきた桑原にとっては、東山の後ろ暗い過去が明らかになったことは、東山の栄光が明らかになったのと同じことになるらしい。

「まさか、おめえが・・・?」

「え?そんなわけないじゃないですか。東山先輩の凄さに世間が気づいたのはうれしいですが、そういう過去がバレたら、世間で不自由な暮らしを送ることになることくらい、俺にだってわかってますよ」

 一応、アレとソレはちゃんと弁えていたようである。桑原の前で芝居を打った俺は、続いて、東山に自らの「潔白」をアピールするため、地蔵山の麓まで降りてきたところで、東山にメールを打った。「今、どこにいるのか」という問いに対し、返ってきたのは、「名古屋だ」という返事。東山の家からだと、新幹線で三時間はかかる距離である。さっき気づいたばかりで、もうそんな遠くにまで行ってしまっていたとは。相変わらず、気が動転すると、頭より先に身体が動いてしまう男である。
 
―――世の中では様々な事件が起きている。山里愛子が殺された事件は、もう十八年も前のことだ。お前が特定されたといっても、「祭」になるかまではわからない。大して燃えないうちに鎮静化する可能性もある。嫁や職場の連中にバレてないならまだ平気だ。天むすでも食って気分を落ち着けて、今晩中には帰ってこい。明日、明後日にでも会って、今後のことについて話し合おう。大丈夫、俺はお前の味方だ。
 
 なんとか東山を励ますメールを送ってみたが、東山の杞憂は大きくなるばかりのようで、怖い、俺は終わりだ、不安だ、などといった、意味のない内容のメールが、次々に届いてきた。

 本人が心配している通り、東山の過去が身内にばれれば、東山は完全に破滅である。この世間の中で、ずっと生きづらさを抱えてきた者――さながら、大海原に放り込まれた淡水魚のように生きてきた俺には、東山が錯乱する気持ちがよくわかる。

 自らに全てを委ねる妻子と、好き勝手に威張り散らせる職場。弛まぬ努力により、ようやく安住できる空間を――大海原の中に、小さな淡水のプールを作り上げることに成功した東山には、もうそのプールから出て生きていくことは考えれられない。今更すべてを失い、一からやり直すくらいだったら、人生そのものを終結させることを選ぶだろう。

 人生を終結させるといっても、ただ自殺するだけじゃ能がない。それでは、お前が世間に負けたことになってしまう。どうせ死ぬなら、自分をずっと虐げてきた世間に、せめてもの一矢を報いてから死ね――。

 東山という暴走車両に「道」を示すと同時に、いくつかある目的地の中から、うまく唐津と莉乃のところまで誘導してやる。

 東山が、己の人生が終焉を迎えると悟ったとき、せめてもの道連れに殺したいと思う相手――順当に考えるなら、それは他ならぬ俺であろう。俺はあの中学時代の出来事を、「生存競争」であったと解釈しているが、東山が同じように思っているとは限らない。一方的な被害者意識にとらわれて、世間一般的な見方と同じように、ただのイジメであったとしか思っていないかもしれない。むしろ、その可能性の方が高いだろう。

 世間に個人情報が流出したことに関して、奴はほかに相談する相手もいないから俺にメールを送ってきているが、東山は俺のことを、けして友人とは考えていないはずだ。もし、東山が世間に一矢を報いる手段として、本当に殺したいヤツに復讐することを考えるなら、ヤツは間違いなく、俺を狙ってくるはずである。

 東山が、この世でもっとも恨む人間――復讐の対象を、短期間の間に、俺から唐津と莉乃にすげかえなくてはならない。困難な作業ではあるが、やってやれないことはない。

 マジックのタネは、もちろん、労働組合の活動である。少年時代の東山が魂を込めて取り組んでいた、「君を守り隊」を思い起こさせる活動を展開する莉乃と唐津を、東山は激しく敵視している。中学時代の自分が倒したかった敵の立場を、今現在、他ならぬ自分自身が演じているという「矛盾」に耐え切れず、苦悶に喘いでいる。莉乃と唐津が東山を刺激し続け、逆に、俺が東山を擁護するような態度をこれから取り続けていけば、復讐の優先順位が入れ替わる芽は、十分にある。

 にんにく大魔人・宮城。少年A・東山。二匹の悲しき怪物が、今、冷たい檻の中にいる。二匹の怪物は、長年に渡って世間の連中から差別を受け、酷い生きづらさを抱え続け、ついには檻の中へと閉じ込められ、殺処分を待つ運命となってしまった。

 怪物に麻酔銃を打ち込んで檻の中へと追いやったのは、他ならぬ俺であるが、怪物は自分に直接手を加えた俺を憎むばかりで、自分が本当に恨むべきは、長年にわたって自分を虐げてきた世間であることに気づいてはいない。今、俺が檻を開けたら、二匹の怪物は俺に襲い掛かってしまう。

 俺はこれから、二匹の怪物に調教を施し、手綱をしっかりと握って、怪物が本当に襲うべき相手――怪物をここまで追い詰めた、この世間の代表者のところへと、誘導しなければならない。俺などではなく、唐津と莉乃の喉笛を引きちぎり、腸を食い破るのでなければ、怪物たちの怨念は成就できないことを、しっかりと教えなくてはならない。

 悲しき怪物どもが殺処分される日時は、刻一刻と迫っている。急がねばならない――。
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非公開コメント

とうとうゆかりを発見しましたね。
いちご=ゆかりだったのですね。
にんにく大魔人に保護されなんとか
生き延びていたみたいですね。
にんにく大魔人は精力がつく食べ物をたべオナニーもしないで射精しないで数ヶ月も我慢できるところが凄いですね。
東山の過去をネットに流し蔵田もいよいよ勝負にでましたね。
上手く東山、にんにく大魔人の怒りの対象を唐津、莉乃に持っていけるといいですね。

No title

まっちゃん さん

 にんにく大魔人は可哀想ですが性欲に飢えたキモ男を書くのは一種の癖になりそうです。ホームレスの女が生きていくのは本当に過酷でシェルターに入らないならほとんど男に頼らないと生きていけないそうですね。私も三十の坂を上り始めましたが数か月射精を我慢するのはさすがに無理ですね。戦場の兵士などの性処理にも興味はありますね・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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