第二章  凋落した元エリート   大人を舐めた小娘にお仕置きのオヤジレイプ

          
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「はア」

 休憩所のベンチに腰を下ろした後藤文義は、今日何度目になるかわからない、深い溜息をついた。

 隣を見れば、同じラインの作業者である派遣社員、間島慎吾が、ニヤニヤ笑いながら、スマホの画面を眺めている。

「間島くん、なんだか最近、楽しそうじゃん」

「え?そうすかね」

「なんか、いいことあったの」

「いやぁ、はは・・」

 慎吾は答えを濁したが、慎吾より十八年も人生経験が長い四十九歳の後藤は、彼の上機嫌の理由が、同世代のラインリーダー、川原美都との仲にあることくらい、とっくに感づいている。

 慎吾が川原美都とヤレたのか、どこまで進んでいるのか・・。そんなことはどうでもいいし、知りたいとも思わない。

「はぁ・・・。こっちは笑顔なんて、無理したって出てこないよ。身体はキツイし、今月も給料はカツカツだしさ・・」

 この工場で働くのがつまらなくてつまらなくてどうしようもなく、この工場で働いている自分が嫌いで嫌いで仕方がない後藤は、慎吾と川原美都との仲について深く詮索はせず、ただ己の愚痴を吐いた。

「せめてまだ若けりゃあ、希望もあるけどさぁ。羨ましいよ、間島くんの若さが」

「僕、もう三十一歳ですよ」

「三十そこそこなんて、いくらでもやり直せるって。俺はもう、棺桶に片足突っ込んじゃってるけど、間島くんにはまだ先がある。ここは社員さんは優しいし、居心地が良いのはわかるけどさ。どっぷり浸かっちゃうと、抜け出せなくなるよ。ここにいるより、正社員の仕事を探してみなよ」

「はは・・。ご忠告ありがたいですけど、僕、そういう生き方は諦めてますから・・」

 年寄の常で、他人の人生に干渉しようとする後藤の言葉を、慎吾は軽く流した。そういえば慎吾は、プロの小説家を目指しているということを言っていた。

「はぁ・・・。なんで俺、こんなとこにいるんだろうなぁ。ちょっと前まで、でっかい家に住んで、でっかいビルの上の方で働いてさぁ。蟻んこみたいに地上を蠢く人間を見下ろしてたのに」

 大きく溜息をついた後藤は、これで何度目になるかわからない自慢話を、二十五歳で正社員の仕事を辞めてから、ずっと派遣の仕事を転々としていたという慎吾を相手に繰り広げた。

「昔は良かったよ。若手のペーペーでも、結果残せば、臨時のボーナスが百万くらいポンと出てさぁ。週末はお姉ちゃんのいるお店で、ボトル何本も開けてさぁ。こんなクソ暑い夏は無理して働かずに、軽井沢あたりでバカンスを満喫してたりさぁ」

 後藤が武勇伝を語るのを、慎吾は苦笑いでいなし、缶コーヒーをグッと飲み干して、作業場へと帰っていった。

「はぁ・・・・・」

 過去の自慢などしても、虚しさが募るだけ。わかってはいても、生まれた年にバブルが崩壊した人生の後輩に、自分の時代がどれだけよかったかをひけらかすのをやめられない。

「信じてねぇみたいだけど、ほんとなんだよ・・・。ほんとに俺は、こんなところで燻ってる男じゃないんだ・・・」

 この世界、誰にも詮索されないのをいいことに、煌びやかに脚色した虚構の経歴をひけらかす者は珍しくはないが、後藤の言葉に嘘はない。

 後藤は派遣会社に登録する三年前までは、大手証券会社で部長職を務め、四十代で年収八百万を稼ぎ出す、正真正銘のエリートサラリーマンだった。

 順調だったキャリアにケチがついたのは、通勤に利用している地下鉄内での痴漢行為が原因だった。

 会社では部下を顎で使い、郊外の家で妻と三人の子供を養い、ゴールデン・レトリバーも飼っている。世間的に見て恵まれた境遇にある者が、なぜ痴漢などするのかと疑問を抱く者は、失うものが大きければ大きいほど、危ない橋を渡るスリルが高くなるのを知らない者である。

 一歩間違えれば地獄行き。その、紙一重の感覚がたまらないのだが、本当に地獄に行ってはどうしようもない。

 被害者とは示談が成立したのだが、会社で上に行くため、多くの同僚を強引なやり方で蹴落とし、部下に過剰な競争を強い、恐怖政治的に支配していた後藤は人望がなく、あんな破廉恥野郎とは働きたくないと、周囲の猛抗議を受けて失脚した。

 大手証券会社に勤めているという唯一の取り柄を、よりにもよって痴漢などという愚行によって失い、一日中、家でゴロゴロしている後藤に、妻と子供は愛想を尽かし、ゴールデン・レトリバーも連れて、妻の実家に揃って帰っていった。

 一家の大黒柱を、ATMの代わりとしか思っていなかった人間たちが出ていくのはせいせいしたが、休んでいる期間中、一日三回も散歩に行くなど熱心に世話をしていたおかげでよく懐いていた犬と別れるのは寂しかった。

 自分の能力は、どこに行っても評価されるものだと思っていたが、四十を過ぎてからの再就職活動はまったくうまくいかず、とうとう、非正規の派遣労働をするしかなくなった。 

 派遣会社から提示された就労条件は、目まいがするほど酷いものだった。

 時給はたったの一一〇〇円、ボーナス、昇給、退職金は一切なし。証券会社時代には、月に八万円まで支給されていた交通費は、上限なんと一万五千円。

 後藤が社会に出たころには、フリーターといえば、スキルの向上は見込めず、長く勤めても給料は上がらない代わりに、時給はそこそこで、会社に縛られない気楽な働き方であるというイメージだったが、現代のそれは、生かさず殺さず、ジワジワと真綿で首を絞められる、苛斂誅求の土百姓のようなものに様変わりしていた。

 いまの若いヤツらは、こんな条件で働くのを当たり前だと思っているのか?

 つい一年前まで自分の勤めていた会社と製造派遣の、天国と地獄、いやそれ以上の差を味わい、後藤は初めて、自分の犯した罪の大きさを思い知らされた。

「はぁ・・・今日も働いたなぁ・・・」

 一日の仕事を終え、ぐったりしてアパートに帰ったとき、慎吾と同じ年頃の、スーツ姿の男が、後藤の部屋のインターホンを押しているのが目に入った。

「なにか・・・・?」 

「あ・・。すみません、現在、正社員の方を対象に、節税対策をオススメしておりまして」

 後藤が話しかけると、男が自分の会社名も名乗らず、営業トークを開始した。

「はあ」

「失礼ですが、正社員の方でいらっしゃいますでしょうか?」
「いや、派遣ですけど」

「その、派遣というのは、正社員として、他社に派遣されているという形でしょうか」

「いや。非正規の派遣だけど」

「あ、では結構です」

 やり取りはそこで終わり、どこぞの会社の若造は、早足でアパートの階段を下りていった。

 そのときはそこまで気にならなかったが、テレビを観ながら安焼酎を煽っているうち、さっきの若造の対応に、段々とムカついてきた。

「なんだよ。バカにしやがって」

 開口一番に、正社員かどうかだと?

 正社員でないとわかった瞬間に、あ、結構ですだと?

 むこうも仕事だったとはいえ、正社員かそうでないかだけで、人間の価値まで決められているかのような若造の対応に、後藤は腸が煮えくり返った。

 自分がこんな立場でいることを、心底恥ずかしい、情けない、惨めなことだと思っている。だが、それを人に言われるのは許せない。

 若い頃には、こんな気分になった時には手ごろな女に連絡を取って、ベットの上で発散していたものだが、今じゃそんな元気も湧かない。

 まったくの自業自得なのだが、痴漢が原因で社会的地位を失ったことがトラウマになっている後藤は、以来、性的に不能となっていたのである。

「ちくしょう・・・こんなはずじゃなかったのによぅ・・・」

 ここが、後藤文義という男の終着駅なのか?

 今の境遇と、本来あるべきはずだった現在との差を思い、後藤は涙にくれた。


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 定時間の間際、ライン作業が終わって清掃をしていると、ラインのサブリーダー兼作業者を勤める二十二歳の正社員、児玉愛が、ラインリーダーの川原美都と雑談しているのが耳に入ってきた。
「美都センパイ、彼氏、今日もウキウキでしたね」

 愛のいう彼氏というのは、美都のラインの作業者である慎吾のことであり、彼氏というのは、美都に好意を抱いているのが周囲に丸わかりである慎吾と、慎吾に惚れられている美都を揶揄しての言い方である。

 いつもと違うのは、「彼氏」との仲をからかわれた美都が、まんざらでもなさそうに頬を緩め、片足を浮かせていること。

 あの様子だと、もしかしたら美都と慎吾は、本当に付き合っているのかもしれない。

 しかしそんなことは、性的に不能で、欲求すらなくなっている後藤には、どうでもいいことだった。
 
「ねぇ美都センパイ、聞いて聞いて。今日、休憩所にいったとき、オッサンたちが、職場の女子を格付けしてたんですよ。もしこの工場で総選挙をやったら、あの子は何位で、あの子はあの子より上だとか下だとか。信じられます?私、ふざけんなって頭きちゃった。お前らが決められる立場かよって。偉そうに女の子のことを話す前に、鼻毛ぐらい切ってこいっつーの」

 仕事ができないだけでなく、最低限の身だしなみも整えて来られない「ダメおっさん」を、辛辣にこき下ろす愛の言葉に、四十九歳の後藤は思わずギクリとした。

「後藤さんも聞いて。今日ね、オッサンが・・名前なんて言ったか忘れたけど、口の端にカレーの跡つけたオッサンが、なんかニヤニヤしながら、私に、愛ちゃん、最近太った?とか言ってきたの。マジムカついた。愛ちゃんとか馴れ馴れしく呼ぶなっつーの。しかも、今のってセクハラですよね。私、派遣の管理者に訴えちゃおうかな」

 おっさんを毛嫌いする愛だが、四十、五十代の派遣社員の中でただ一人、後藤のことだけは、「こちら側」の人間と見做しているようで、敬愛する美都センパイと同じように、いつも親し気に話しかけてきてくれる。

 普通の中年男が、二十代前半の女性に好印象を抱かれれば、少なくとも悪い気はしないのだろう。だが、性的に不能で、欲求すらなくなっている後藤には、若い女の放つフェロモンを浴びるのは、むしろ苦痛でしかなかった。

 おまけに、「ダメおっさん」をこき下ろすとき、唇をワナワナと震わせる愛の顔は、どことなく、後藤が落ちぶれるキッカケとなった痴漢の被害者の、あの若いOLによく似ており、後藤はそれを見ていつも、怯えた子猫のように背中を小さく丸めてしまうのだ。

 四十九歳の後藤が心を寄せるのは、むしろ愛から蛇蝎の如く忌み嫌われている、「ダメおっさん」たちの方である。

「はぁぁ。今朝も膝の痛みがヤバかったから、仕事休んで病院行こうとしたら、管理者のヤツが、休んでもいいけど、そのかわりクビ覚悟しといてね、とか脅してきやがんの。そりゃ当欠は良くないのはわかるけどさ、そんな血も涙もない言い方ってねえよな」

「今日、新しく入ったラインでさぁ。リーダーのヤツが、もっと正確にやれとか言ってくるから、ゆっくり、慎重にやってたらさ、こんどはもっと早く手ぇ動かせとか言ってくんの。どっちだって言うんだよな。結局、難癖つけて、俺を追い出したいだけなんじゃないか」

 週末、飲み屋に集まった四十、五十代の派遣社員たちが、飲み放題の発泡酒を煽りながら、口々に会社への不満、愚痴をこぼした。

 下っ端同士でつるんで、酒の席でくだを巻く。証券会社時代はずっと、そんな慣れ合いはまったくの無駄であると思って、誘いがあってもなるべくパスするようにしていたが、出世を諦めた今の後藤には、そこが妙に居心地よく感じられた。

「それでもまぁ、あの会社の人たちは基本、いい人たちだけどさ・・。アイツだきゃぁ許せねえ。後藤さんと高野さんのラインにいる、児玉愛」

 四十六歳の井川が、グラスをテーブルに叩きつけて叫んだ。

「いつも俺のことを、ゴミみてえな目で見やがってよ。すれ違うときとか、露骨に避けてきやがって」

「ぼ・・ぼくもこの間、作業で使う冶具を、投げつけるように渡された・・・」

 四十八歳の益子も、井川に合の手を入れる。

「あの女・・・俺というもんがありながら・・・クソが・・・」

 四十歳の高野だけは、なぜか、愛とは違う人物に反感を抱いているようである。

「でも後藤さんは、あの子に気に入られてるよね。俺たちと何が違うんだろう」

 五十一歳の田口が、不思議そうに、また、少し羨ましそうに言った。

(教えてやろうか。髭を剃り、鼻毛を切り、毎日きちんと風呂に入って、服を洗う。当たり前のことを、当たり前にやればいいだけだ・・・・)

 口にしかけて、言葉を飲んだ。

 誰にでもできる簡単なことがどうしてもできない人間は、本当にいる。彼らに「正論」をぶつけたところで、それは後藤の自己満足になるだけで、彼らにとっては、心の痛みにしかならない。そうなってしまうのは、彼らが根っからの悪人なのではなく、彼らの脳の構造の問題なのだ。

 それがわかったのは、自分が同じ立場に堕ちてからのことだった。

 見込みのないと判断した部下は、精神的に追い詰めるだけだった。できない人がどうしてできないのか、どうやったらできるようになるのか、考えることもしてこなかった。ダメな人間は何をやってもダメなんだと決めつけて、いいところを探そうともせず、切り捨ててきた。

 だから、今、自分はここにいる。

「・・・・別に、そんなことないですって。俺もあの子にとっては、同じ汚いおっさんですよ」

 後藤は田口に、事実とは真逆のことを言った。

 派遣の「おっさん」連中を毛嫌いする一方で、後藤に対してだけは好意的な児玉愛は、雑談の合間に袖口を掴んできたり、手を握ってきたり、背中を叩いてきたりなど、積極的にスキンシップを取ってくることもあった。

 愛が、派遣と正社員の壁を壊し、一線を越えようとしてきている。元妻帯者の後藤がそう感じるのは、けして自惚れなどではない。

 しかし、不能で欲求すらない後藤は、彼女の想いには応えられない。

 それどころか後藤は、百五十センチ半ばの小柄で、全体に肉付き少なく、前髪を揃えたボブカットに、メタルフレームの丸眼鏡をかけた児玉愛の容姿が、自分が社会的地位を失うキッカケとなった、あの地下鉄の若い女とよく似ているという理由で、半ば憎しみにも似た感情すら抱いていた。
「一番は児玉だけど、あいつもムカつくよなぁ。間島慎吾。仕事は真面目にやらねえで、女の尻ばっか追いかけやがってよ。リーダーの川原さんにメロメロのくせして、同じ派遣の、平林さんのことも飲みに誘ってるの見たぜ」

「この前、うちのラインに応援に来た時も、散々に足引っ張りやがってよ。どうもアイツは、世の中を舐めてるとこがあるよな。こんど飲みに呼んで、説教してやるか」

「あの野郎・・・。いつかぶっ殺す・・・」

 愛への憎しみを吐き出し終わると、「ダメおっさん」たちは、彼らより一回り世代が下である後藤のラインの作業者、間島慎吾のことをディスり始めた。

 彼らは、毎日唇を引き結び、歯を食いしばって仕事をしている自分たちよりも、いつもヘラヘラして、サボり癖のある慎吾の方が、社の人間と良好な関係を築いているのが気に入らないようである。
「あいつ、俺たちと違って、川原さんから頼まれない限りは、残業も休出も嫌がるから、なんでかって聞いてみたらさ。小説家目指して、家で小説書いてるんだって。あんな頭の悪そうなヤツが、小説家になんかなれるわけねえのにな。無駄な頑張り、お疲れさんだよな」

 慎吾を見下す五十一歳の派遣社員、田口が、虫歯を限界まで放置して、神経が壊死した真っ黒な歯を剥き出しにして笑った。

 後藤からみれば、リスク承知で、自分が本当になりたい小説家を目指して執筆に励んでいるという慎吾は、よくやっていると思う。少なくとも、挑戦してコケたヤツをあざ笑うことで、自分が何もしないでいることに意味を持たせようとしているだけの連中に比べれば。

「中学を出てから、仕事を選ばず、身を粉にして働いてきた。出世も結婚もできなかったけど、後悔はしてないよ。麦は踏まれるほど強くなるっていうじゃないか。間島みたいな、半分ニートみたいなヤツより、ずっと実りの多い人生だと思ってるよ」

 誇りにするのは、上司の厳しいシゴキに耐えたとか、キツい重労働をこなしてきたということばかりで、理不尽な消耗を避け、人の見えないところで努力をしている人間のことが、ただ楽をしようとしているだけにしか見えない。

 交通費を浮かすために、毎日二駅分歩くというようなことなら頑張るのだが、その時間と労力で、何か勉強でもした方が有意義ではないか、とは考えられない。本当に自分の身になることをする「努力」と、身に降りかかる困難を、歯を食いしばって「我慢」するだけのことを、混同して考えている。

「ったく、やってらんないよな。チャラい若造ばかりが気に入られて、頑張ってる俺らがノケモンにされるんだからな」

 他人に厳しく自分に甘い。物事に対し、常に否定から入る。

 慎吾にもそういうところはあるが、おっさんグループたちが違うのは、肯定を一切しないこと。どんな人間にも一つくらいはある良い所を敢えて褒めようとせず、批判するときだけ口を開く。照れが邪魔するのか、内心、悪からず思っている相手にすら、なかなか賛辞の言葉を口にできない。

 この飲みの場では、「そういう人間同士」の集まりだからうまくいっているが、彼らが一歩、仲間の輪から外に出れば、それはそれなりの扱いを受けることになる。

「なぁ、後藤さんも、何かが間違ってるって思うだろ?」

「・・・・・ええ」

 後藤も、同じだった。

 証券会社時代、後藤が指揮していた部署はいつも空気が張りつめ、息が詰まるようだと言われていた。能力は買われていても、人に好かれず、特定の友人は一人もいなかった。

 俺が俺がのスタイルが男らしく映ることもあるのか、女にはそこそこモテたが、どの恋も長続きはせず、結婚までいった女にも、新しい依存の対象である子供が生まれた瞬間、相手にされなくなった。

 己の輝ける場所にいたときはそれで何も困らなかったが、すべてを失うと、「愛されない」ことによる生きづらさが身に染みる。

 けして、根は悪人ではないのだが、感情の伝え方が下手なせいで、人から必要とされる喜びを得られない、不器用な男たち。

 児玉愛には受け入れられ、慎吾のことを内心高く評価していたとしても、後藤が心を寄せるのは、あくまで「ダメおっさん」たちの方である。

 自分も何かが違えば、過去の栄光すらなく、社会に出たそのときから、彼らと同じ、暗く冷たい、地を這うような人生を歩んでいたかもしれなかったのだ。そのように思うと、心の中に、なにやら義憤めいた感情が湧いてくるのを抑えられなかった。

「・・・やっちゃいますか」

 この哀れな男たちに、たった一度でも、自分の運命に抗ったという証を残してやりたい。

「・・・やっちゃいますか、児玉愛を」

 下を向きながらボソリと呟いた後藤に、酒の席の視線が一斉に集まった。


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 飲み放題のサービスタイムが終了したあとも、「おっさんグループ」は解散せず、近所の児童公園に場所を移して酒盛りを続けていた。

「確かに児玉愛はムカつくけど・・・でもそこまでしなくても・・・」

 みんなで、児玉愛をレイプしませんか――。

 後藤の思い切った提案に、おっさんグループの連中は、揃って難色を示した。

 威勢がいいのは口だけで、実際には何もできない。失うものなど何もないくせに、いざとなると、たちまち思考が守りに入る。模範的な底辺労働者である彼らは、この期に及んでも、「やらない理由」を探し出すことに躍起になっていた。

「女を集団で手籠めにするなんて、最低の男がすることだよ・・。いくら落ちぶれても、俺は人としての矜持までは失いたくないね」

「俺たちは金も力も女もないけど、こうして、気の合う仲間がいるじゃないか。けして、負け組なんかじゃないんだよ」

 とうとう、そんな少年漫画の登場人物が口にするような、噴飯ものの言い草まで飛び出した。

 そうやってトシだけ食って、彼らはこれからもそのつもりでいる。

「・・・どこかだよ。こんな年収二百万生活の、どこが負け組じゃねえって言うんだよ。お前ら、往生際が悪すぎるぞ」

 普段は慇懃な口調の後藤が、突然、語気を強めて言うのに、オッサンたちの丸い背中がビクッと震えた。

「お前ら、本当にそれでいいのか?これまでずっと負け続けで、児玉愛みたいな若い女にバカにされて、これからも負け続けで、本当にいいのかよ」

 メビウスの輪に囚われた彼らを、今こそ救い出さなければならない。

 レイプ犯の汚名を着ることをビビるオッサンたちを戦士の集団に変えるためには、まず、女が男と同等の権利を得るに至った現代の社会において、若い女である児玉愛は、けして近世以前の女のように、か弱く、非力な存在などではない、ということを力説しなければならない。
「今日の勤務の、定時間際のことだ。児玉愛は、お前らが、児玉愛と親しくしようとして投げかけた、愛ちゃん、最近太った?という言葉を、セクハラであると決めつけた」

 セクハラ。児玉愛が、何気なしに放ったその言葉が、後藤の頭の中にずっと引っ掛かっていた。
「セクハラ。その言葉は、もとは組織の中で力を持った男が、職務上の特権を利用して、弱い立場の女に性的な嫌がらせをするのから守るために作られた言葉であるはずだ。それを児玉愛は、たった一一〇〇円ぽっちの時給を稼ぐために、ボロボロになった身体を引きずりながら働いている、お前らのような弱いオッサンの心を踏みにじるために使っている。おかしいとは思わないか?安定し、待遇の恵まれた正社員であるばかりか、女として庇護の目でもみられている。児玉愛のどこが、お前らより弱い、セクハラの被害者なんだ。児玉愛が、弱いお前らをセクハラ呼ばわりするのは、逆に向こうのパワハラじゃないのか?パワハラの被害を、ただ辛抱我慢するなんて、くだらないと思わないのか?」

 辛抱我慢。優良企業の正社員ではなく、人に好かれる方法も知らず、努力という概念も存在しないオッサンたちには、それしか生き方がないのかもしれない。だが、くだらない。

 生かさず殺さずの金で酷使され、人の尊厳まで踏みにじられても、男は黙って辛抱我慢。 
まったくもって、くだらない。

 辛抱我慢。そんなものを金科玉条として生きるくらいなら、世の中に仇花を咲かせ、潔く散った方がマシなのだ。

 公園のベンチの上に立って、コンビニで買ったサラミソーセージをマイクのように握り締め、後藤はヒトラーのように自分に陶酔しながら、一世一代の大演説をぶっていた。

「セクハラという言葉は、確かに、たった一言で男に致命傷を与えられる、拳銃のように便利で強力な武器だ。だからこそ、使用者側のモラルが求められなければならない。武器というのは、まともに立ち向かってもけして敵わない強者に、本当の危機に追い詰められたときにしか抜いてはいけないもののはずだ。それを、武器など使わなくても勝てるような弱者にまで、やたらめったらにぶっ放していれば、その弾丸は、いつか自分に跳ね返ってくる。そいつをあの女に、思い知らせる。俺たちで、児玉愛をレイプするんだ」

 塾帰りの高校生が白い眼を向けるのをよそに、ベンチの上に立ち、サラミを握り締めて熱く吼える後藤の手に、いつしか、自分が破滅するキッカケとなったあの若い女の、尻のやらかい手触りが蘇ってきていた。

 破滅のリスクと引き換えに味わう女の肉の感触は、普通に女を抱く何倍も、何十倍もの快楽を、後藤の掌に与えてくれた。

 いま、失うものは何もないという状況で若い女に触れたとしても、あのときのスリルは味わえないだろうが、あのときとは別の衝動が、後藤を突き動かしている。

 あのとき、警官に連行されていく間際に見た、痴漢の被害を訴えながら、どこか勝ち誇ったような女の顔が、後藤はずっと忘れられないでいる。

「これまで言ってなかったが、俺は三年前まで、ある大手の証券会社で働いていた。クビになった理由は、痴漢容疑だ。やってしまったことへの後悔はある。だが、被害者の女に対して、申し訳ないと思う気持ちはない。なぜならば、男女がすでに同じ権利を得ているにもかかわらず、肉体的に男より弱いという理由で、庇護の目でも見られている若い女は、オッサンである俺より、社会において強い存在だからだ」

 たまたま出来心というわけではなく、常習犯だった男が、己の過ちを反省もせず、痴漢の被害に遭わせた女性を、あろうことか逆恨みし、復讐を誓っている。

 自分の精神病理を専門的な言葉でいえば、反社会性パーソナリティ障害というものに当てはまるのだろう。

 常に自分本位で、他者への思いやりに欠け、良心の呵責に苛まれない。合理的な思考が社会的成功に結び付く場合もあるが、自制心に欠けるため、失脚に繋がるようなトラブルを引き起こしやすい。

 その反社会性パーソナリティ障害の持ち主が、生まれついて奴隷の鎖に繋がれ、抗う術も知らなかった男たちの心を揺り動かし、奮い立たせる。強大なものに、せめて一矢を報いたという証を残してやる。

「負けることが恥なんじゃねえ。負けたままでいることが恥なんだ。このまま終わるな。お前らを虐げてきた世の中に、せめて一矢を報いてやれ」

 後藤が熱く、力強い言葉を投げかけるうち、オッサンたちの死んだ魚のような目が、活き活きと輝き出し、その瞳に赤々とした炎が灯っていくのがわかった。

「世の中とはなんだ?世の中とは、若い女のことだ。町に出ろ、辺りを見渡せ。文化も経済も、すべて若い女を中心に動いているじゃないか。世の中を牛耳っているのは、東大出の官僚でも、ふんぞり返った政治家でも、ましてや資産家でもねえ。どこにでもいる、若い女たちだ。奴らに最大の屈辱を与えることこそが、世の中に復讐するってことだ。若い女にとって、最大限の苦痛とはなんだ?それはDV彼氏に叩かれるのでも、お局様にいびられるのでもねえ。脂に塗れた汚いオッサンにちんぽをぶち込まれ、ザーメンを注ぎ込まれることだ」

 証券会社時代は、どちらかというと、理詰めで淡々と追い込んでいく論法を得意とするタイプだった。商談やプレゼンの場ではそれで結果を残せたが、部下を扱う上では逆効果となっていたようで、他部署の人間からはいつも、後藤の部下はいつも表情に喜怒哀楽がなく、ロボットのようだと言われていた。

 あの頃の自分に足りなかったのが何だったのか、今ならよくわかる。理屈はデタラメでも、勢いで押している今の方が、よほど人の気を惹きつけ、心を掴んでいるではないか。

「後藤さんの、言う通りかもしれねえ。いい子ちゃんなんかやったって、ちっともいいことねえじゃんか。このまんま終わるんだったら・・いっそ・・・」

 頭の天辺が禿げ上がり、赤らんだ素肌が露出して亀頭のようになっている四十六歳の井川が、腕を組み、深く頷きながら言った。

「後藤さん・・・。ぼく・・・ぼく・・・女性の身体を、知らないんです・・」

 腹が妊婦のようにせり出し、いつも半病人みたいな青黒い顔をした四十八歳の益子が、どんぐり眼から大粒の涙をこぼしながら、こちらが聞いてもいないことをカミングアウトした。

「俺だって、似たようなもんさ。女ってヤツは、男を顔と収入だけでしか判断しないんだ。でも・・俺らにだってあんだよ、性欲ってのがさ。俺たちだって、人間なんだぜ。いくつになっても女とヤリたい、人間の男なんだ。それをセクハラなんて言いやがってよ。ちくしょうがよぉ」

 歯の五十パーセント以上が抜け落ちるか、真っ黒になって使い物にならなくなっている田口が、地面を叩きつけながら言った。

「よくも、俺の女を・・・。あのクソガキ・・ぶっ殺してやる」

 よくわからないが、なにやら、児玉愛以外の人物に憎しみを滾らせているらしい高野は、そこで席を立ち、家に帰ってしまった。

 去る者は追わず。後藤は黙って、同じのラインの作業者、高野の背中を見送った。

「ここに残ってるヤツは、みんな俺の同士ってことでいいんだな」

 後藤が問いかけると、河童禿げの井川、太鼓腹の益子、口腔崩壊の田口の三人は、後藤から目を逸らさずに頷いた。

「よし。俺に任せろ。黙って俺についてこい。お前らに、一生に一度しかない、極上の快楽を味合わせてやる」

 人の道を踏み外そうとしている後藤の背中を、二つの動機が後押している。

 自分の足元を掬った、若い女への復讐。

 運命に流されるばかりで、抗うことを知らなかった男たちに、人生にケジメをつけさせてやる。

 それは、か弱い女に対する、中年男の醜い逆恨みなのだろうか。

 否。

 これからやろうとしていることは、今、世の中でもっとも弱い立場に置かれるオッサンが、本当に力を持った若い女に挑む、聖戦なのだ。

 まだ、ギリギリ身体が動く内にしかできないことがある。

 若い女に、もっとも忌み嫌われる存在だからこそ、できることがある。 

 日本でもっとも有名な予備校講師の名言が、夜の公園に集った、四匹のオッサンたちの脳裏にこだましていた。

                       
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――後藤さん、お待たせしてすみません。いま、仕事片付いたんで、そっちに向かいます。

 時計の針が垂直になるころ、児玉愛からLINEのメッセージを受け取った後藤は、コンビニで立ち読みをやめて、愛との待ち合わせ場所である、工場の近くの児童公園へと向かっていった。

 正社員と派遣社員、二十七歳の年齢差という高いハードルを乗り越え、若い女とデートの約束を取り付けた。児玉愛が、後藤に好意を抱いているのは、これで確定的となった。

 こんな冴えない後藤を好きでいてくれている愛を、これから、彼女が毛嫌いする「ダメおっさん」たちの、性の慰みものにしようとしている。

 情の薄い後藤にして、罪の意識に胸を締め付けらないかといえば嘘になるが、それが卑劣な犯行を思いとどまる理由になることはなかった。

 児玉愛は、信頼していた男に騙され、「ダメおっさん」たちに犯されても文句を言えないほどの大罪を犯してしまったのだから。

 昨日もいつもの飲み屋に集まり、おっさんグループと、「出陣式」を行った後藤は、「同士」井川、田口、益子に、過去の経歴を話させていた。非正規の中年が得意とする虚構ではなく、彼らの偽らざる、本当の経歴である。

――社会に出たら超就職氷河期で、大学まで出たのに、ブラック企業にしか就職できなかったよ。月に三百時間も働かされて、身体も心もボロボロになってさ。家で休んでいる俺に、親戚連中は、冷たい目を向けるだけなんだ。もう、誰の言うことも信じられないよ。

 唇をわなわな震わせ悲憤を訴えたのは、戦国時代に日本を訪れた宣教師のように頭頂部の禿げ上がった、四十六歳の井川である。

――中学のときイジメに遭って、人が怖くなった・・・。

 たった一言、絞り出すように言って涙をこぼしたのは、妊婦のように腹のせり出した、四十八歳の益子である。

――無遅刻無欠勤で真面目に仕事しても、誰にも褒められない。みんなに愛されるのはいつも、仕事は適当で、しょうもないことばっかり言ってるヤツなんだ。明るくないことは罪なのか?明るくなれる理由が一つもないのに、どうやって明るくなれっていうんだよ・・。もうこんな人生、ウンザリだよ・・・。

 悲哀を語り、海より深いため息をつくのは、おっさんグループで最年長の五十一歳、虫歯、すきっ歯、擦り減った歯だらけの口腔崩壊を起こした田口である。

 彼らは、それぞれの理由から社会のレールを滑り落ち、非正規の派遣社員として働く身の上となった。

 たとえ不甲斐ない身の上でも、おっさんたちにだって、尊い人生があったのだ。それを踏みにじった児玉愛を、後藤は許しはしない。

 苦労知らずの小娘が、いくら自分に好意を寄せようが、不能の後藤はピクリともしない。後藤が心を寄せるのは、ともに長い年月、人生の荒波と戦ってきた、同世代のおっさんたちである。

 仕事が終わったあと、一度アパートに帰り、証券会社時代に着ていた、海外ブランドのスーツを着込んできた後藤は、スマホのカメラで己の顔を写し、頭髪が乱れていないが、ヒゲの剃り残しがないか、鼻毛が出ていないかをチェックした。

 昔のような眼光はないが、代わりに男の深い哀愁を帯びた目。歳の割に十分な量感をキープした、オールバックの短髪。薄い唇が冷たい印象を与えるが、ホームベース型のハッキリした輪郭と突き出た頬骨は、引っ張ってくれそうな男の頼もしさを感じさせる。 

 自分で言うのもなんだが、ルックスはいい方だと思う。しかし、これから愛を手籠めにするのは、画面に映る「ナイスミドル」ではなく、蝶よ花よと持てはやされる若い女とは極北に位置する、汚いおっさんである。

 人生が完全に詰んでしまった男たちに、たった一度だけでも、己の運命に抗ったという証を残してやる。それは不能で欲求も枯れた後藤にとって、自分が若い女と身体を重ね合わせるより、ずっと気持ちのいいことなのだ。

 身だしなみチェックを終えると、愛が工場の方から、公園に向かって、自転車で走ってくるのが目に入った。

「ハア、ハア。遅くなって、すみません。着替えるのに、思ったより手間取っちゃって・・」

 濃紺のサマースーツ、膝頭までのスカート、安物だが品のいいシルバーのネックレス。二十七歳年上の男に合わせ、大人びたファッションに身を包んできた愛が、息を切らせながら後藤に頭を下げた。 

「いえ。児玉さんが来てくれて嬉しいです。さあ、行きましょうか」

 後藤も愛に恭しく頭を下げて、公園の外に止めてある車へと、愛を導いた。車種がデートには似つかわしくないハイエースであることを、愛が訝しむ風はない。

「すみません、助手席に、コーヒーをこぼしてしまって。後部座席の方に乗ってもらえますか」

 愛が、何も疑うことなく後部座席に乗り込んだ瞬間、後藤は携帯を取り出し、井川の番号にコールを鳴らした。

 ハイエースの後方から、公園の倉庫の裏に隠れていた三匹のオッサンたちが駆けてくるのがバックミラーに映っているが、ステアリングに手をかける後藤の横顔に熱い視線を注いでいる愛は気づいていない。

「はァいひゃ~っ」

 ポン中になった猿のような声をあげて、三匹のオッサンたちが、一斉にハイエースの後部座席になだれ込んできた。

「ひぃ~」

 扉を閉めると、後藤世代が夢中になった特撮の怪人のような奇声をあげて、河童禿げの井川が、スーツの上から、愛の小ぶりな胸を揉みしだいた。同時に、後藤が車を発進させ、地獄のドライブが始まった。

「なっ。なに、あなたたちっ、いや、いや、いやあぁっ」

 歓喜からどん底に叩き落とされる愛。自分を破滅させた若い女への復讐と、後藤と傷を分かち合う「嫌われオッサン」たちに悦びを提供してやれる二つのカタルシスに、人気のない山中に向かってステアリングを駆る後藤の血潮は熱く滾っていた。

「・・・・・・・」

 生まれて初めてまともに触れる女体に、肥満体の益子は声も出ないほど夢中になり、その構造を確かめるように撫ぜている。口腔崩壊の田口も、スカートをめくり上げ、労働の汗をしっぽり吸ったパンティを、目を血走らせながら夢中で嗅いでいた。

「おい田口さん。どんなニオイがするよ」 

「・・・・は。レモンの果汁のようなニオイと、ヨーグルトを拭き取ったようなニオイがするであります、部長」

 作戦の決行に先立ち、後藤は三匹のオッサンたちに、自分をかつての役職である、「部長」と呼ぶことを義務付けていた。これまで同僚だった男たちに突然命令するには、呼び方を変えて、ケジメをつける必要があった。

「おう。そしたら、今度はパンティを脱がせて、まんこのニオイを直に嗅いでみろよ」

 田口が後藤の指示で、愛の腰骨の辺りに手をかける。後藤とベッドに入ることまでは想定していなかったのだろう、愛のパンティは、子供が履くような、ディズニーのキャラクターものだった。

「イヤァッ・・やめて・・・。どうして、こんなことするの。やめて、やめてよぉ」

 愛が身をよじろうとするが、井川と益子に両脇を抑え付けられて動けない。ディズニーのパンティが足元までずりおろされて、割れ目の淵に薄く毛の生えた、川茂のような愛の秘部が露になった。

「う・・。レモンとヨーグルトに、カツオの叩きのような香りが加わって・・・なんともミステリアスなニオイであります」

 益子と同じ童貞か、風俗でしか女の経験がなかったのであろう田口は、生身の女のにおいに衝撃を受けて、汗でぬかるんだ愛の秘部に、毛穴の開いたイチゴのような鼻を押し付けたまま固まってしまっている。

 フリーズしているのは、愛の両脇を抱えている二人も一緒だった。

 真性童貞の益子は仕方ないが、河童禿げの井川にしても、勢いがあったのはオッパイを揉むところまでで、車が発進してから暫く経った今は、愛の肩を掴む手も震え、どうしていいかわからないといった風に目を泳がせている。

 長年、言われたことだけやっていればいい仕事ばかりしていたせいか、自分で考えて行動できない、指示待ち人間になってしまっている。どうやら、コイツらには一から十まで、後藤が指図してやらなければいけないらしい。

「後藤さん・・どうして、こんなこと・・・」

 潤んだ目を向けてくる児玉愛。後藤の心には、さざ波ひとつ立たなかった。

「お前が散々、コイツらをバカにしやがったからだろうが。人生の先輩へのリスペクトが足りない、世間知らずのメスガキには、キッツイお仕置きをしてやらなきゃな。おい田口。コイツのくっせえマンコを、キレイにお掃除してやれよ。井川は上半身を裸にして、ナマ乳を揉んでやれ。益子はキスだ。お前の熱いベーゼを、たっぷりと浴びせてやれよ」

 後藤の指示を受けて、地蔵のように固まっていた三匹のオッサンたちが、弾かれたように動き出した。

「は・・ぶ・・・く・・・・じゅぱっ・・・じゅもっ・・・・・」

 淫臭に咽そうになりながら、田口は普段、自分たちを犬の糞でも見るかのような目で見てくる女の汚れた部分を、夢中で舐めた。

 愛のスーツを脱がし、これまた安物の、子供っぽい白のブラもはぎ取った井川は、ハフッハフッと興奮した息を吐きながら、硬そうな乳房に、伸びた髭がザラザラした頬を擦り付けた。

「つ・・・つ、つ、つ、はァっ・・・ふ・・・く、く、く、はァっ、はァっ」

 キスをするときに、なぜか、呼吸を完全に止めてしまっているらしい益子は、一回ごとに大げさに息を吐き出しながら、嫌がって顔を逸らそうとする愛の品の良い唇に、ガサガサした己の唇を何度も押し付けた。 

 失われた青春を取り戻そうとしているかのように、二十二歳の女体を貪る三匹のオッサンたちのエネルギーは、ステアリングを握る後藤の背中にも、ヒシヒシと伝わっていた。

「イヤ・・・やめて・・出してぇ・・・助けてぇ」

 悲惨なのは、グロテスクな容姿の中年男たちに、身体を好きにされる愛である。きめ細やかな肌に触れてくる指のぬめった感触と、Tシャツの汗染みから立ち昇る鼻をつんざく臭気に充てられ、不快感のあまり、顔が捻じれたようになっていた。

「ぼ。ぼ、ぼ・・ぼくも、おっぱい・・・揉みたい。井川さん、代わって」

「・・・・もう少し。ちょっと待って」

 次第に、この状況に慣れてきたオッサンたちが、後藤の指示を待たずに動き始めた。雄の本能が、長年の習慣を超越し始めたのだ。

「い、井川さんだけ、おっぱい、ずるいよ・・。僕だって、僕だって、モミモミするんだぁっ」

「まだ、だめだっ。これはおれの、おれの、おれのおっぱいだぁっ」

 愛のおっぱいを巡って、益子と井川が、怒鳴り合いのケンカを始めた。

 田口はといえば、揉める二人を意にも介さず、もう、すっかりニオイも落ちたであろう牝の部分を、いまだ夢中でクンニリングスし続けている。

 可愛そうなのは、欲望に支配された中年男の間で板挟みになった愛で、眼鏡の奥の目には、もういっぱいに涙が溜まり、形のいい小鼻からも洟が垂れていた。

(それがどうした・・。醜いオッサンどもだって、お前と同じように、涙を流すことを知っていれば、こんな目には遭わなかったんだ)

 後藤は、一瞬湧きかけた仏の心に、すぐ蓋をした。 

「おまえら。喧嘩すんなら、今すぐ車を降りてもらうぞ」

 後藤が低い声で言うと、おっぱいを巡って争っていた益子と井川はハッと黙って、後藤の指示を仰ぐように、ドライバーズシートの方を向いた。

「女は一人しかいねえんだ。仲良く、譲り合って弄らないとダメだろう」

 赤信号で、後藤は後部座席に首を回して言った。

「は、はい。すみません」

「ごめんなさい。僕がワガママでした・・」

 後藤の叱責に、井川、益子が素直に頭を下げる。

「わかったならいい。そしたら次はよ、お前らも裸になって、女の肌の感触を、全身で味わってみろよ」

 後藤が命じると、三匹のオッサンたちは、愛の身体からいったん手を放し、汗で変色したTシャツ、ブリーフ、トランクスを、次々に脱ぎ去っていった。

 ハイエースの中に、酔っ払いが路地裏に吐いた汚物のようなニオイが充満する。オッサンたちに服を脱ぐように指示したのを後悔したが、もう遅い。

「きゃああああああああああっ」

 同じ男でも顔を背けたくなる醜い裸体を顕にしたオッサンたちに、愛が車体を揺らすような凄まじい悲鳴をあげるが、燃え上がったオッサンたちは怯むことすらなく、次々に、剥き出しにした性器を愛の肢体に擦りつけ、性の悦楽を貪り始めた。

「うう・・・うぅ・・・・む」

「あ・・・・おぉ・・・・ゥ・・」

「お・・・・・こォ・・・ほっ・・・」

 異臭を放つ醜悪な中年男たちが、狭い車の中でひしめき合い、奇妙な呻き声をあげながら、寄ってたかって、見め麗しい若い女に、見苦しい半勃ちのものを擦り付ける。

 地獄絵図以外の何物でもなかった。 

「いっ。いっいっいっやぁぁっ、うぅぅぅうおっ、ォォッ」

 何かが爆ぜたように、愛が唸るような悲鳴をあげた。

「うー、うー、うーっ。うっうっうっうぅぅおぉぉっ。ぅうぅぅうぅわあァァっ」

 醜い悪臭親父に身体を好き放題にされる屈辱。この先、一体どうなるのかという不安。好きな後藤に裏切られた悲しみ。

 何もかもが混ざり合った愛の悲鳴は凄絶だったが、人であることをかなぐり捨てて決死行に望んだ、四匹のオッサンたちの心に響くものは何もない。

「いやァ、女の身体ってのはいいモンだなぁ。あったかくって、やわらかくってよぉ。元カノよりも、なんだか母ちゃんを思い出すぜ。なぁ、益子さん」

「ぼ、ぼく。こんなの、初めて。この、この、かわいい顔をみてると、心がキュンキュンする。おっぱいもおしりも、こんなにプリプリしてて・・・。ねぇ、田口さん」

「首筋や腋からは、植物園にいるような甘いニオイがして・・・おまんこからは、きのこ園の腐葉土が醗酵したようなニオイがして・・・。おしりの穴に指突っ込むと、うんこのニオイがついて・・。あ、足のニオイとかは、俺と変わらなくて・・・。お・・・女のニオイって、奥が深い・・・」

 これが初めて、あるいは、かなりのブランクを経て、若い女を抱いたオッサンたちが、思い思いの感想を述べる。

「いやぁぁぁっ。やアだぁアっ、うぅォっ、うぅォォッ。アァァァッ」

「・・・お前が身体を蹂躙されるその痛みは、コイツらがお前に酷い言葉を浴びせられ、心を踏みにじられる痛みと何も変わらない。天罰だと思って諦めろ」

 聞き分けのない子供のように騒ぎ、助けを求めるように、ドライバーズシートに悲痛な眼差しを送る愛を、しかし後藤は冷厳に突き放す。

「お・・・・おぶ・・・おぉ・・・」

「ムオ・・・フ・・・あぁ・・・・・」

「うぬ・・・は・・・・むはぁ・・」

 若い女の柔肌に、官能の呻きを漏らす中年男たちが纏わりつき、生温かい法悦の吐息、胃の中の腐敗臭を含んだ唾液を擦り付ける。

 緊張もあったのか、服を脱いだ時点では、ぶよぶよした幼虫のようだったオッサンたちのペニスが、やがて、硬く大きく膨れてきた。

「よし・・・入れてみよっかな」

 勃起すれば、竿に刺激を与え、溜まったものを出したくなるのが、男の性というものである。まず、真っ先に隆々となった井川が、愛を対面座位の形で抱きかかえ、挿入を試み始めた。

「やぁぁぁぁっ、やぁぁぁっ、うゥゥわぁぁぁっ」

「くっそ・・・ここじゃ、どうにも・・」

 揺れる車の中で、抵抗する女に挿入するのは、想像するほど簡単なことではない。

 なかなか貫くことができず、業を煮やした井川は、やがて、射精できれば何でもいいとばかりに、愛の太ももや横腹、乳房などに、竿を擦りつけ始めた。

「おっ。これいいっ。これいいぞォほォっ。ホウホウッ」

 サルがマスターベーションのやり方を探るように、闇雲に愛の身体に竿を擦り付けていた井川は、やがて愛の正面に立ち、愛の腋で剛直を挟み込んで、疑似挿入を味わうことを覚えた。

「ホウホウッ、ホウホウッ」

 雄の爆発が近づいているらしい井川が、河童禿げの頭頂部と仮性包茎の亀頭を、それぞれ凶悪なニホンザルのように赤らめて、興奮の雄たけびをあげた。

「う、う、う、うっぴどぅ~っ」

 奇妙な声とともに、まずは井川が、第一号となるザーメン弾を、愛の顔面、首筋、胸に放った。

「う、う、ぁ・・・う・・ァ・・・・」

 汚濁を浴びせられた愛から四肢の力が失われ、声をあげる力さえ奪われて、糸の切れたマリオネットのようになっていく。これまで、同じ生物だとすら思っていなかったのであろう醜いオッサンの命の温かみが、愛の心を真っ二つに折ったのだ。

 醜いオッサンたちとて、自分と同じ赤い血が流れ、両親がおり、世の中の矛盾と戦い、必死に働いて生きてきた人間である。

 自分の倍も生きてきた、尊厳のある人間を、これまで、クサい、汚い、オヤジだなどといって愚弄してきた報いを、今受けている。己の罪の重さを、もっとも忌むべき体液の温もりを感じることによって、愛はようやく悟ったのである。

「よし、着いたぜ」

 井川が絶頂を極めるのとほぼ同時に、後藤はサイドブレーキをかけ、ハイエースを停車させた。
 誰も訪れることのない、山中の廃工場。これから、ここでゆっくり時間をかけて、脂ぎったオッサンどもに、愛を犯させてやる。

「さぁ、次はどっちだ。準備ができた方から先に、ぶち込んでやれよ。ここじゃ狭くてうまくできないなら、外でヤッたっていいんだぞ」

 後藤がいうと、愛の手をオナホールにして、余った皮に恥垢の溜まったペニスを扱いて大きくした田口が、恐怖に震える愛を、車外へと押しやっていった。

「よ・・・よし。エッチするぞ」

 開け放たれたスライドドアから、熊も猪も逃げ出してしまいそうな、獣の凄まじい臭気が飛んでいく。

 田口は地面に突き落とした愛にのしかかっていって、まず、虫歯菌のたっぷり巣食った口で、乳頭に浮かぶサーモン・ピンクの蕾をムチュっちゅうと吸い立てた。

「た、たぐちさん、頑張れぃ・・・」

 射精の余韻に浸っている井川が、車中から田口にエールを送る。後に控える益子は、愛の裸体を眺めながら、男の武器を戦闘態勢にしようと、必死に扱いている。

「へ、へひ、へひ。入れるぞ。入れちゃうぞぉ・・・・あ、あれ・・・」

 田口が、もはや抵抗を諦めてダッチワイフのようになっている愛に、正常位で挿入を試みようとするが、ブランクが長いせいか、なかなか位置を探り当てられないらしい。

「あ、あれ?ここか?ここだったかな・・?」

 高校生や大学生の童貞ならともかく、歯抜けの五十路男が、入り口がわからず戸惑う様などは、滑稽であり無様でしかない。腹の下に組み敷かれた愛の顔は、恐怖に青ざめていた。

「た、たぐちさぁん。諦めたら、そこで試合終了だぞぉ」

 したり顔で何かを引用して若い者に説教するのを得意とする中年男が、世界で一番有名なバスケット漫画の名言を放ち、仲間を鼓舞する。

「おっ。は、入った!お!お!お!」

 果敢なトライが実り、とうとう五十年選手の先っぽが、愛の肉洞窟の入り口を捉えた。

「ひ・・・ぎ・・ィッ・・・」

 入れた田口が歓喜に咽び、入れられた愛が苦痛に顔を歪める。

 ハイエースの中では、射精後の倦怠感に浸りながら見守る井川が拍手を送り、益子は出番に備え、いまだに萎れたナメクジのようになっているペニスに、必死に喝を送り続けている。

「はひっ、はひっ、はひぃ。はぁ、はぁ、はぁ」

 指揮を取る後藤が見つめる前で、田口が途中で何度も抜けながら、ぎこちなく腰を使って、絶頂へと昇りつめていく。だが、先に達したのは、田口ではなかった。

「うっうっ・・・うっ・・・」

 ハイエースの中で、モノを大きくしようと頑張っていた益子が、つい力あまって、柔らかいままイってしまったのだ。

 第二号のザーメン弾は、愛の身体には一滴も触れず、ただ、助手席の後ろを汚すことになってしまった。

「あはは。益子さん、ちんちんフニャフニャのままイッちゃったじゃん。歳のせいで、衰えちゃってるんじゃないの。童貞を捨てる前に衰えちゃった、衰えちんちんだぁ」

 一部始終を見ていた井川が、自分もうまく入れられず、腋まんこを使って射精したのを棚に上げて、益子の醜態を愚弄した。

「ち・・・違うよ。いつもだったら、もっとビンビンなんだ。え、え、え、えーぶい見るときは、もっとビンビンに、ほんとにビンビンになるんだから」

 井川に馬鹿にされて意地になり、射精を終えたフニャチンをなおも扱き続けている益子に、自らも勃起不全を患っている後藤は、憐憫の眼差しを送った。

 勃起不全が加齢による肉体的衰えだけで引き起こされると思ったら大間違いで、初体験を迎えた男性が緊張のあまりに勃起できなくなったり、経験豊富な男であっても、レイプやAVの撮影など、特殊な状況下に置かれたときには、突発的にモノが役に立たなくなるということはよくある。男性器というものは、女が思っている以上にデリケートなものなのだ。

 女と同じか、それ以上にデリケートな男を、散々に愚弄した愛を、後藤はけして許しはしない。
 痴漢で逮捕されて以降、自分が味わった以上の地獄を、オッサンをバカにする愛に味合わせてやる。

「下の口に突っ込めないからといって、悲観することはない。もっと大きくて入れやすい穴があるだろうが」

「そうだよ。上と下で、一緒にやろうよ。益子さん」

 マグロ状態の愛に下半身を打ち付けていた田口が、「ウ」という呻きとともに無事昇天すると、怒張の回復した井川が、益子の手を引いて、愛に第二ラウンドを挑みかかった。

「ホウホウホウ、ホウホウホウ・・」

 井川がまた、怒り狂ったニホンザルのような声をあげながら、地面にへたり込みながら大きく口を開け、歯槽膿漏特有の排便めいた口臭をハアハアとまき散らしている田口のおやじ汁がたっぷり注がれた蜜壺を突きまわした。

「お・・ふ・・あぁっ。いっ・・いいぞっ・・あぁっ」

 キツく閉じられた愛の口をこじ開けて、ちょうど、仰向けになっている愛とT字を描くような形で萎びた海綿体を強引にねじ込んだ益子が、愛の顔面を押しつぶすようにしてぎこちなく腰を振り、疑似セックスの快感を味わい始めた。 

「どうだよ益子さん。気持ちいいか?」

 サイドウィンドゥから、自分の指示通りに動いてくれる部下を眺め下ろしながら、後藤が訊いた。
「はぃ・・・。次々に湧き出してくる唾があったかくて。女の子の、お風呂に浸かってるみたいですぅ・・・。これもすべて、後藤さんのお陰ですぅ・・・」

 バスケットボールが入っているかのような腹で愛の顔面をプレスする益子が、やに下がった顔をこちらに向けてきた瞬間、後藤の全身に、八百万の神が一辺に降りてきたかのような衝撃が走った。 
(これだ。俺に足りなかったのは、これだったんだ)

 誰かのために――。

 自らの栄達ではなく、ともに働くみんなの笑顔を見るために仕事をする。

 それが、こんなに気持ちの良いことだったなんて知らなかった。

 これをもっと早く知っていたら、自分の現在地は、間違いなく変わっていた――。

「ハァハァ・・。あぁ可愛いなぁ。生気が宿ってないのに、君の顔は、なんでこんなに可愛いんだろう。ねぇ笑ってみせてよ。笑った君は、もっと可愛いんだから」

 ピストン運動に疲れた益子が、愛の口から、半勃ちにすらなっていないモノを引き抜き、目の焦点の合わない愛の頬を掴んで、ムチュッ、ムチュッとキスをしながら言った。

「ガハハハッ益子さん、そいつは無理な注文ってもんだろ。おっ。出るっ、出るぞっ」

「あっ。待って。待って井川さん。一緒にっ、一緒にイこう」

 益子がバナナスラッグを愛の口にまたねじ込み、カワイイ愛のボブヘアを掴んでイラマチオした。

「おゥ。益子さん、一緒にっ、一緒にイこう。ホウ、ホウホウ」

 若干、ピントのズレたことを言いながら、井川と益子が、雄の頂点を目指して駆け上っていく。

「うっぴどぅ~」

「うっうっ、うっ・・・・」

 歓喜の雄たけびをあげながら、二匹のオッサンが同時に、愛の上の口と下の口にオヤジ汁を注ぎ込んだ。



                        5

 
(やり遂げた・・・。俺はやってやったんだ)

 後藤の人生を崩壊させた若い女に、生きるのがイヤになるほどの苦痛を味合わせる。後藤の復讐は、ここに成し遂げられた。現代社会で不当に虐げられるオッサンたちを率い、若い女が社会のシステムの頂点に君臨する歪な世の中に一太刀を浴びせ、オッサンがすべてを支配する悠久の形に戻してやったのだ。射精以上のカタルシスに、後藤は酔いしれていた。

「よし。井川さん、益子さん。スッキリしたなら、こっち来て一杯やろうや」

 後藤は、シャバでの最後の晩餐のために用意した酒とツマミを廃工場のコンクリート床にあけ、娘のような歳の女に種付けを完了した三匹のオッサンたちを呼び寄せた。

 星空の下、野獣の欲をすべて発散しきった中年男たちが酒盛りを始める。

「あーあーあー。俺たちのセクハラザーメンが、おマンコとお口から溢れ出しちゃって。ケッヒッヒ」

 今晩からしばらく、酒とマトモな飯にはありつけない生活を余儀なくされるということで、ツマミのメニューは普段よりも奮発しているが、それよりも何よりも、目の前に仰臥し、二つの穴から、気泡をプクプクとさせる白濁を垂れ流している愛の姿こそが、オッサンたちにとっては最高の肴だった。

「しっかし、後藤さん様々だよ。俺らだけだったら、とてもじゃないけど、こんな大それたことしようなんて思わなかったもんな」

 勧善懲悪のストーリーの主役となった後藤に、オッサンたちの、惜しみない感謝の目が注がれる。コンビニで買った酒を、こんなにうまいと思ったのは初めてだった。 

「愛ちゃんにも、感謝しなきゃなぁ。愛ちゃんのおマンコのお陰で、俺ら、こんなに気持ちよくなれたんだもんなぁ」

 雨降って地固まる。

 すべてのわだかまりを捨てて、愛にも感謝の眼差しを送る三人の顔は、スターウォーズ・エピソード6のラストシーンで肩を寄せ合う、オビワン、アナキン、ヨーダの三人のように穏やかだった。
「ふわァ・・・。俺、もう眠くなってきちゃった」

「僕も・・・・」

 宴もたけなわとなると、アルコールが回って、食欲が満たされた三匹のオッサンたちは、めいめいハイエースに帰って休み始めた。

 満腹と酩酊のせいだけではない。オッサンたちが口にしていたツマミには、催眠導入効果の強い精神安定剤が混ぜてある。

 人生の最期に、人の役に立つことができた。もう、この世に思い残すことはない。

 後藤がトランクから、練炭と七輪を取り出そうとした、そのときだった。

「パパ・・・パパ・・・・」

 放心状態でいたはずの愛が、益子の精液を口の端からこぼしながら、後藤に哀願するような顔を向けていた。

 後藤は反射的に、ミネラルウォーターのペットボトルを持って、愛の傍に駆け寄っていった。

 水で口をゆすがせると、揉みくちゃにされてつるがひん曲がり、レンズの抜けてしまったメガネの奥から、愛が潤んだ眼で、後藤を見上げてきた。 

「・・ごめんなさい。ごめんなさい、後藤さん」

「ごめんって・・」

 集団レイプの被害者である愛に、なぜか謝られている。

 自分が酷い目に遭わせた愛の予期せぬ反応に、後藤は戸惑っていた。

 同時に、己の内から湧き上がってくる奔馬のような熱い感情が、後藤を突き動かす。

「おい、洗ってやろうか」

 頷く愛の秘裂にミネラルウォーターを流し、指で擦って、オヤジどもの痕跡を落としてやると、愛が「ア」と哭いて、ピクリと身体を震わせた。

「そのままじゃ風邪引いちまう。ちょっと待ってろ。服を取ってきてやるから」

 可哀想な女のために、何かをしてやりたい。

 こんな気持ちになったのは、初めてのことだった。

 これまでの人生で、女を心から愛し、女のために生きたいと思ったことは、一度もなかった。身の回りの世話を任せるためだけに結婚した妻はもとより、実の娘に対してすらも、けして失いたくない、というほどの情を抱いたことはなかった。

 しかし、後藤はいま、後藤しか頼れる者がいない状態にある目の前の若い女を、心底愛しい、助けてあげたい、と思っている。

「・・どうした。着ないのか?」

 車内から持ってきたスーツに、なかなか袖を通そうとしない愛に訊くと、愛は突然、全裸のまま後藤に抱きついて、身体を擦り付けるようにしてきた。まるで、三匹のオッサンどもの残滓を、後藤で拭い去ろうとするように。

「ふわぁ・・・あったかい・・・。後藤さんの胸の中、とってもあったかい」

「う・・・・な・・なんていうか・・・ごめん。ごめんな」

 しっかりと密着して、心臓の鼓動を後藤のみぞおち付近に伝えてくる愛を、後藤はどうしていいかわからず、ただ謝り、抱きしめた。

「私の家は、小さいころにお父さんが亡くなって・・・。お父さんに、ずっと憧れがあったんです。前に付き合っていた人も、親くらいに歳の離れた人だった。でもその人には家庭があって・・」

 後藤に抱擁され、少し落ち着いてきた愛が、己の身の上と、これまで後藤に抱いていた、本当の思いを語り始めた。

「後藤さんと初めて会ったとき、すぐにわかった。この人は私とは違う、本当の競争の世界で生きてきた人だって。もうそのときから、夢中だった。今は傷ついた心を休めているだけで、この人はいつか、こんな地方の工場からは離れて行くんだろうなって思ってたから、食事に誘われたときは、本当に嬉しかった」

 児玉愛は母子家庭の出身で、ファザコンの気がある娘だった。

 とすれば、愛の「ダメおっさん」への嫌悪は、普通の若い女がオッサンを毛嫌いするのとは違って、期待外れに終わったオッサンへの、愛憎半ばする感情からくるものだったのかもしれない。

 自分は今まで、とんだ感違いをしていたのではないか。

「ねぇ後藤さん。後藤さんは、愛を懲らしめるために、こういうことをしたんでしょ?ねぇそうでしょ。そうだって言って」

「・・ああ」

 秘所も顕わに、潤んだ目を向けて詰め寄る愛に、後藤は何か、圧倒されるものを感じていた。 
  
「ねぇ・・・私、このままじゃ帰れない。後藤さんで終わらないと帰れない。だからお願い。ねぇ後藤さん、私を抱いて・・・。抱いてくれたら、今日のことは、全部なかったことにするから。警察に言ったり、絶対にしないから。だからお願い。ね・・・」

 好きな後藤に、ダメおっさんに汚された身体を清めて欲しいのだという愛。

 世の中には、ガードが堅い反面、一度好きになった男にはとことん盲目で、いかなる仕打ちを受けても肯定的に捉えるという女がいるのは知っていた。だが、ここまでとは。

 騙されて、好きでもないダメおっさんたちに肉体を嬲られて。それでも、こんな一途な思いを貫けるものか?

 後藤の中で、女という生き物に対し、これまでになかったリスペクトの気持ちが生まれていた。

「・・・・もう、オッサンどもを見下したり、悪口を言ったりしないか?」

「しません。私は、もう二度と人を見下したり、悪口を言ったりするようなことはしません」

「オッサンたちにも、他の作業者と同じように接するか」

「はい」

「よし。じゃあ、抱いてやる」

 後藤がスラックスをおろすと、愛が、「アァッ」と、歓喜の法悦を漏らした。

 ボクサーブリーフも降ろして、ボロッとまろび出たペニスは、半勃ちになって、ヒクヒクと震えている。少し前まで、扱いてもピクリともしなかった勃起不全のペニスが、二十二歳の女体に反応している。
 この娘が好きだ。この娘を一生守りたい。この娘とエッチしたい。この娘と子供を作りたい。この娘に、自分の一生を捧げたい。

 様々な情欲が止め処なく溢れ、死に絶えていた海綿体に血液を送り込んでいく。

(俺は・・・生まれ変わったのかもしれん)

 これまで、情というものを抱いたことのなかった人間に、ある日突然、人の心が芽生える。後藤の場合、そのトリガーとなったのは、誰かのために行動する喜びを知ったこと。そして、「許される」という、強烈な安堵感を味わったことだった。

 すべて、愛のおかげ・・・。

「そこで仰向けになって。舐めてキレイにしてやる」

 後藤は己の海外ブランドのスーツを、土埃や小石で汚れたコンクリートに敷くと、その上に愛を寝かせ、ミネラルウォーターで口をゆすいでから、愛の肌に舌を這わせていった。

「アゥ。アァいやアッ。スゴッ、こんなのって・・アァヤァ」

 太ももの内から、わき腹にかけて、ツーッと愛撫してやっただけで、愛はビクッビクッと凄まじい反応を見せた。

「アン。ア、後藤さん・・後藤さ・・」

 へその周りを指でなぞるようにしながら、よく手入れのされた脇嵩と、小高い双丘の天辺に浮かぶピンクの蕾をチロチロと舐め上げてやる。

「好きぃ。もう好きぃ。好きぃ・・だから・・。ハッ・・アウ、ア・・」

 さらに、濃厚な舌攻めが秘所にまで及ぶと、愛はとうとうエビ反りを見せた。

「待ってた。ずっと待ってたから・・・」

「待ってた?何を」

「後藤さんの・・・」

「そうか。だったら、俺のを舐めて、大きくしてくれ。児玉さん」

「愛。愛って呼んで」

「おう、愛ちゃん。そら、やってくれ」

 今度は後藤が仰向けになり、勃ちかけたものを、愛の前に突き出した。

「ォ・・・オゥ・・オォ・・・絶品だな、こりゃ」

 陰嚢の裏から、筋を舐め上げるようにし、右手の指で竿を扱き、左手の指で睾丸をコリコリとしながら、舌先で亀頭を刺激する愛のフェラチオに、後藤はついさっきまで不能だったのが嘘のような快楽の呻きを漏らした。

 次に愛は、七分勃ちくらいになったものを根元までぐっぽりと飲み込み、音を立ててディープスロートし始めた。

 ずっぽ、つぶっ、じゅぽっ、ぐぷっ、ぬっぽ、がぽっ。

 流石に年上の既婚者と付き合っていただけあり、愛の奉仕は纏わりついてくるように濃く、激しかった。

「あぁ・・。後藤さんの、硬くなってきたぁ・・・」

 太ももの付け根まで生え広がる、鬱蒼とした密林の中に直立する肉塔が、雄のムンとした熱気と臭気を立ち昇らせ、愛の表情が蕩けていく。

「よし。もうそろそろいいだろ・・・」

 愛が欲しそうに眺めてくるのに応え、後藤はむくりと起き上がると、十分に女体を貫ける硬度となったモノを握りしめ、狙いを定めた。

「ハッ・・ク・・・ハゥン」

 濡れ具合を確かめるように、亀頭でクレヴァスを撫ぜると、愛はそれだけでも物凄い反応を見せる。悍ましく、不潔なオヤジペニスに突きまわされるという衝撃の体験が、二十二歳のまだ淡い媚肉を、普通では有り得ないくらいに敏感にしてしまったのかもしれなかった。

「行くぞ・・ゥ、ンン・・・・」

 井川と田口のモノで慣らされていたお陰で、突き入れた途端に、肉槍はズブゥ、と一気に奥まで沈んでいった。

「ア、オ、ア、ア、アァァァゥッ」

 掌にすっぽり収まるBカップの乳房をやわやわと揉み解しながら腰を使うと、愛はもう吼えた。

「ウン、ヤアッ、ヤア。ア、アァッ」

「おおぅッ、締め付けてくるじゃないか。いいモン持ってるな、あぁ」

 主導権を握るや否や、あっという間に往時の感覚を取り戻した後藤は、愛の太ももをグッと持ち上げ、松葉崩しの態勢から剛刀を送り込んだ。

「ア。アァアアアァン、ご、ご、後藤、さんの、すっごいっ。いい、すっごいっ」

「まったく、二十二のガキとは思えない乱れ方だな。前のオッサンと、どんな変態プレイしてたらこうなるんだ、んん?」

 卑語を投げかけながら、後藤は結合部が上から丸見えになるようにイヤらしく開脚させて、小娘のうねる媚肉を剛棒でこねくり回した。

「自分で動いてみるか」

 後藤が愛の下に入り、騎乗位の形になると、愛は汗でワカメのように額にへばりついた前髪をかき上げ、後藤の恥骨にふくらかな下腹を打ち付け始めた。

「ア・・ゥ・・・ゥ。ア・・アァッ」

 後藤が反り立たせる肉塔で自らの媚肉を攪拌するようにぐなぐなと前後にロデオしたかと思えば、次には腹の下の男のヘソの周りを撫ぜながら、八の字を描くように腰をグラインドさせる。昔、接待で行った高級ソープ嬢もかくやという腰使いに、後藤は「ウムゥ」と唸った。

「ァ、ァァッ、後藤さん、あっいいっ、いいっ」

 愛が壊れて、使い物にならなくなった眼鏡をかけ続けているのが、なんとも言えず劣情をそそる。しばらく、主導権を若牝に委ねて体力を回復した後藤は、腰を浮かせ、杭を思い切り突き上げた。

「ア、ア、アオオ、アオオオ、オゥホォッ、奥、奥まで来てる、きてるゥっ」

 小柄で童顔な愛には信じられないような乱れ方が、後藤を瑞々しい精気で満たしていく。

「二十二歳が、そんな吼え方するかっ。なんてヤラシイ女だっ」

 だが、その淫蕩の気があったお陰で、ウブな生娘だったら舌を噛み切って死んでいたかもしれない三匹のオッサンの汚辱に耐え、こうして後藤と繋がることができた。愛をここまで開発した、前の男様様。人に対する感謝の気持ちを、四十九にして知ることができた。

「おいっ、俺のザーメン欲しいかっ。愛の子宮に、俺のザーメンをぶちまけて欲しいかっ」

 四十キロそこそこの愛をピンポン玉のように浮かせながら、後藤は叫んだ。

「入れて、きてぇ、ぶちまけてぇ。ご、後藤さんのっ、ザ、ザーメン、もらい、たい・・・」

「よし。じゃあ、場所を移すぞ。ヌ。グゥッ・・・・」

 後藤は駅弁スタイルで愛を持ち上げて、繋がったまま、三匹のオッサンたちが眠るハイエースまで歩き、スライドドアに背中を押し付け、突き上げた。

「ア、アアッ、後藤さん、ここはイヤぁっ、ここヤなのぉ」

 ドアが閉まっているのに、車内からは、ストレスから睡眠時無呼吸症候群に陥ったオヤジたちの大きな鼾が響いてくる。先ほど、生き地獄を味わった車の中で、生き地獄を味合わせたオヤジたちの鼾を聞きながらするのが、愛にとって気持ちよかろうはずもない。だからこそ、変態的な欲求を刺激される。

「心配せんでも、薬と酒の相乗効果で、どんなに騒いでもコイツらは目を覚まさん。思う存分、ヤリまくろう」

 ドライバーズシートのドアを開くと、後藤の時代に隆盛を誇った暴走族を超える爆音が、耳孔に雪崩れ込んでくる。

「ねぇ後藤さん・・ここやっぱやだぁ。さっきのとこでしましょう」

「悪いなぁ。俺はここじゃなきゃぁ、ザーメン出せないんだよ」

 ドライバーズシートを目いっぱい後ろに倒し、対面座位の形で、後藤は愛に突き上げを食らわせた。

 車内には粘膜の擦れ合う音が響いているが、後部座席に折り重なるようにして眠る井川と田口、助手席でドアに凭れかかりながら眠る益子は、まったく目を覚まさない。

「うぷっ。ォ。ォ・・・」

 オッサンたちの鼾の爆音と、汗と加齢臭の混じったニオイに耐えかねた愛が、突如胃液を吐き出し、フサフサとした毛の生い茂る後藤の胸を汚した。

「どしたぁっ、オッサンたちを、もうキモイなんて言わないんじゃないのかぁ」

「だって、だって・・・」

「こんなくっせぇゲロしやがって。オッサンたちより、お前の方がよっぽど汚ぇじゃねえか」

「だって、だって・・。ごめんなさい・・・アムゥ、アムァッ」

 嘔吐感と快感の狭間にいる愛の、グチャグチャになった口を吸い、スッパイものをもらいながら、小柄の身体を上下に揺さぶった。

「アン、アン、ア・・・」

 地獄に花を――。

 愛の嬌声が、オッサンどもの鼾を掻き消し、後藤の鼓膜を慰撫すると、後藤のペニスにもムズムズと射精感が湧きあがってきた。

 亀頭が爆発しそうなほど盛り上がり、雁首が愛の中で、ぐぐぐっと持ち上がっていく。

「おっ、おっ、おゥ出るぞっ。欲しいか、欲しいか、欲しいかっ」

「欲っしぃっ・・・後藤さんのザーメン、いっぱいちょうだいっ」

「欲しけりゃくれてやる。だが約束しろ。このザーメンもらったら、もうオッサンを二度とバカにしねえって」

「しない、しない、バカにしなアい。だからア」

「オオぉぉぉアッ」

 世間知らずの小娘に、断罪の白弾が撃ち込まれていく。不能になってから、自慰も夢精もなかったが、ずっと作られ続けていた子種が、ビャグッ、ビャグッと二十二歳の子宮に注ぎ込まれ、愛も牝の絶頂を迎えて痙攣した。


                      6

 あれから一週間――。

「後藤さん、なんだか最近、楽しそうっすね」

 休憩所のベンチに腰掛け、ニヤニヤと笑いながら、スマホの画面を眺めている後藤に、後からやってきた慎吾が話しかけてきた。 

「え?そうか」

「最近、愛ちゃんとタメ語で話すようになりましたね。もう、飲みとか行ったんですか?」

「あ?ああ・・。まあ、な」

 スッとぼけたように答えたが、後藤のご機嫌の様子が、二十七歳下の女性社員との仲にあることは、慎吾にもお見通しのようである。

「いよぉし、働くぞぉ」

 休憩が終わり、ライン作業が始まった。後藤の隣の工程を担当する愛は、すでに持ち場に戻って、後藤の工程の応受援をしている。

「あ、ごめん・・」

「いいんです。私が勝手に早く戻ってるだけだから。休憩は作業者の権利なんで、気にせず、ゆっくり休んでください」

 愛は笑顔を向けてそう言ったが、後藤はいそいそと手袋を嵌めて、愛に任せていた作業を再開した。

 何事もなかったかのように、これまで通りの日常が、これまで通りに続いている。まるで夢でも見ているかのようだが、目の前で起きていることは、紛れもない現実である。

 あの後、後藤の運転する車で山を下りた愛は、約束した通り、警察に被害届を出すことはなかった。後藤のことも、井川、益子、田口の三匹のことも、然るべき場所に訴えることはなかったのである。

 かといって、愛がその後、後藤に肉体関係を求めてくるということもなかった。この辺り、女心というものはまことに複雑であるが、あの日までは盛んにスキンシップを取って、後藤が欲しいという自分の思いを訴えてきたはずが、今はパタリとそれが止んで、せっかくLINEのIDも教えたにも関わらず、向こうからデートの誘いが来ることもなかった。

 むしろ困っているのは、あれ以来、すっかり回春して、夜ごと下腹部の疼きに身悶えするようになってしまった後藤の方だった。

 しかし、あんなことをしてしまった手前、調子に乗って愛を誘うわけにもいかず、愛とのたった一回のセックスの思い出をおかずに、右手で愚息を扱く日々を強いられていた。 

「後藤さん、何だか最近、作業の手際が良くなりましたよね」

 前工程で材料の流れが止まり、手が空いたときに、愛が後藤に話しかけてきた。

「前までは後藤さん、五分に一回くらいは手を止めて、あぁ・・とか、うぅ・・・とか、オッサンっぽく苦し気に呻いてたのに、それもなくなったしね」

 愛の隣の工程を担当する慎吾が、からかい気味に言ってきた。   

「作業は良くなったけど、でも・・・。後藤さんが輝く場所は、ここじゃないと思うんで、あんまり、長居はしないでくださいね」

 愛が笑みを浮かべながら、しかし、少し寂し気に言った。

 もちろん後藤とて、これで終わるつもりはない。

 手を染めたのは、けして許されない卑劣な犯罪行為。しかし、あの日、自分の中で、何かが変わったという自覚がある。

 自分ではなく、誰かの笑顔のために働く喜びを覚えた。人に感謝し、思いやることを知った。

 今度は、違う結果になる気がする。

 後藤文義の人生を、ここで終わらせない。必ずやチャンスを掴み、再起を果たす所存である。

 でも、もう少しだけ、このままで――。

 女神のような彼女の傍で、働いていたい。

 勤務が終わると、後藤は井川、益子、田口、「三匹のオッサン」たちと、みんなが初めて一つになった近所の児童公園で酒盛りを始めた。

「今日仕事でさ、ラインリーダーから、井川さん、最近、笑顔が増えてきましたね、なんて言われちゃったよ。なんだかやたら調子よくってさ。自分でも怖いくらい」

「ぼ、ぼくも・・。最近、よく、褒められる・・・」

「最近、妙な身体の重さがなくなったんだ。風呂入るのだって億劫じゃないから、最近は毎日入ってるし。だからかな。女の人たちから、イヤな顔されなくなった」

 すでに酔いが回って、茹で蛸のようになった三匹のオッサンたちが、それぞれ、自分の好調ぶりを報告し合った。

 己の運命に抗い、リスク承知で、若い女という、現代社会の支配者そのものに一撃を食らわせた。自分が生かされているのではなく、自らの意志で生きているのだという実感が、枯れ果てていた中年男を蘇らせ、人生そのものまで好転させたのだ。

「それもこれも、後藤さんと愛ちゃんがいてこそだ。二人がいなければ、俺は今ごろ、あの工場にいなかったかもしれないんだ」

「お、おれ、あの日以来、若返っちゃって若返っちゃって。昨日なんか、DVD見ながら、二発も抜いちゃったよ」

「ぼ、ぼくも。もう朝なんか、痛いくらいで・・・」

 下半身の絶好調ぶりも報告し合う三匹のオッサンたちの視線が、公園の入り口に吸い寄せられていく。

 視線の先にいたのは、身体にフィットした黒のTシャツとスキニー姿の、児玉愛だった。

「お疲れ様です。みなさん、ここで飲んでたんですね」

 普通の女性が、二生分三生分かかっても味わえるかわからないトラウマを味わったことを微塵も感じさせない笑顔で、愛が普通に、オッサンたちの群れに混ざってきた。

 あの日の出来事は本当はなくて、集団催眠にかかっていただけではないだろうか、という疑問が、後藤を襲う。

 しかし、事実は言葉よりも雄弁に、あの日確かに、痛烈な体験が、男と女に人生を変えるほどの意識改革をもたらしたことを物語る。

 確かにあの日以来、後藤を含むオッサンたちは心身の調子が改善され、愛がオッサンどもをコケにしたりすることもなくなったのである。

「あの。私いま、喉渇いてるんです。一杯、頂いていいですか?」

 愛が、買ってきたばかりで、表面に水滴をしたたらせている缶ビールを指さして言った。

「ああ・・・どうぞ」

「ありがとうございます」

 愛がプルタブを開け、喉を鳴らして、缶ビールを一気に飲みほした。

「はぁ・・・・。ごちそうさまでした。それじゃ、来週に備えて、みんなゆっくり、身体を休めてくださいね」

 泡のついた口を拭い、最後に飛び切りの笑顔を浮かべて、愛が言った。

 夕陽に向かって去っていくその後ろ姿は、恋心を抱くのも畏れ多いほど神聖だった。

「女神・・・いや、天使だ」

 後藤の言葉に、三匹のオッサンたちが深々と頷いた。 
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No title

今作は続き物ではなく同じ舞台で主人公を変えて4話という形式かな
悪魔車行よりレイプ描写のシコリティが上がってて実用性もすこぶる高いと思います
なぜか主犯と被害者は和姦というアダルト作品特有のご都合展開と思いきやこのサイトでは稀少な皆にっこりグッドエンドで読後感が爽快だった
愛ちゃんさんの台詞で抜け出すのが難しいとされる非正規労働に対し「~あまり長居はしないで下さいね」という後藤への思いが現実的なのが良かった

No title

OKB さん

 和姦エンドというのはルールなのか私もよくわかりませんが、官能小説ではそれが定番のようですね。官能小説を沢山読んでいると、もしかするとストーリーをちゃんと考えるのは無意味なのかと思うときもありますが、ただヤッて終わりというのはどうも自分の中で締まらないので後日談も書きました。

 気持ち悪いオッサンは実物を沢山みてきましたし、私の嫌いな説教厨のテイストも入れてみたのでノリノリで書けましたね。

No title

今回の物語はとても面白かったです。
まさに窮鼠猫を噛むですね。
後藤が三匹のオッサンを目覚めさせたことで後藤自身にも過去の人生とは違った大きな変化が起きましたね。
話の流れ的にバッドエンドになるかと思いきやまさかのグッドエンドでしたね。
愛もおっさん連中に人として接するようになりましたし三匹のオッサンも清潔感が出てきて性格もポジティブになっていますね。
エリート社員だった後藤がつい魔が差して痴漢行為に走ってしまう部分は人間の闇を描いていますね。
手に入れて失うものが大きければ大きいほどスリル満点でついしてしまいたくなるのは人間の心理としてあるのでしょうね。
井川、益子、田口の過去の人生を書き足すと一層面白くなりそうな作品ですね。

後藤は本当下らないことで派遣に堕ちましたね。
他の三人のおっさんは完全な人生の敗北者ですね。
いくらおっさんでも最低限の身なりはしてなくては女に馬鹿にされ軽蔑されても文句は言えないような気がしますが、愛みたいな女も確かにムカつきますね。
益子が童貞で他の二人が童貞にけがはえたていどなんて人生詰んでますね。
田口が口腔崩壊を起こしているんですよね?
確かに現実の派遣の奴って歯が無い奴って結構いますね。
四人のおっさんで愛をレイプしてその後体調が改善されたのは良かっですね。
愛が警察に訴え無かったのはやはり後藤の男としての魅力からなんでしょうか?
とにかく結果的に全てよい方に向かったみたいなので良かっですね。
後藤のこの後が気になりますね。

 「日本でもっとも有名な予備校講師の名言」のくだりには思わず笑ってしまいました。 
 レイプシーンでは女の性的魅力と虐げられた男達の怒り、そして女を手にした喜びが見事に表現されている様に思いました。また最後に後藤たちと愛が仲良くなったのは驚きました。愛は根は悪くない女性の様ですね。

第2章読みました。正直僕は数ある犯罪の中でもレイプというのが一番嫌いなんですが、この話の読後感にはほとんど嫌悪感を感じませんでした。それどころか不思議なさわやかな感じさえしました。

その理由の大半はやっぱり女の子の魅力による所が大きいと思います。ひどい目にあわされた男を好意を持っていたとはいえ、許したという懐の深さやラストのビールを飲み干す所なんかはレイプ物なのに痛々しさは感じられませんでした。まあ3人のおっさんのレイプシーンが思いの外ソフトだったこともあるかも知れませんが。
後、個人的なことを言えば最後の後藤とのからみは愛のあるセックスでもよかったかなと思いました。後藤も彼女には救われてたみたいだし。

No title

悪魔車行番外編のような趣ですね。ブ男三人がうごめく車内はまさに地獄絵図という感じです。最後は和姦からなんだか和やかでさえある感じになったのが意外に思えました。雨降って地固まるという感じなのでしょうか。

No title

まっちゃん さん

 オッサンの描写は非正規の派遣労働の経験者ならかなり納得していただけると思っています。現実にもキモ系男優が美女を犯すAVが一定の需要がありますがそこらへんをどう評価していただけるかですね。

 痴漢で捕まるのは意外と社会的地位が高い人が多いらしいですね。警察官ってパターンも結構あるみたいですし。やはりスリルなんでしょうね。

No title

seasky さん

 短編は少ない文量で多数の情報を伝えなくてはいけないので長編を書くより難しいと感じますね。官能小説の場合あんまりストーリーに凝りすぎてもいけないようですが何とか最低限辻褄の合う形にはできたのかなと思います。大団円のラストは官能のお約束でもあるみたいですが今後の話も書く上で全体のバランスも考えてそうなりましたね。

No title

テュール さん

 予備校講師の名言は汎用性高すぎですね。おっさんたちは私のサイトに昔よくいたキモイ説教くそオヤジを想像したらよく書けましたね。

No title

ばかがいこつ さん

 大人しい女性を襲う卑劣漢は許せませんが神山みたいな女をとっちめるレイパーはどんどんやってほしいですね。

 レイプは激しいものではなく「キモさ」を重視したものとなりましたが、その辺が官能小説という分野でどう評価されるかですね。

 一応犯罪行為ということで、後藤が最後ちょっとした罰を受けた方がいいかと思い、愛とはあれ以来ヤレないということにしました。

No title

NEO さん

 NEOさんにかつてアドバイス頂いた通り、五年修行を続けてきて行き着く先はもしかしたら官能なのかという気はしています。ある程度型にはまることで書きやすさが全然違うんですよね。

 官能特有の文体を学びながら、自分の味がどこまで評価されるかですね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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