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外道記 改 8

                         8


 宮城蒸発は東山の口から聞いたのだが、派遣スタッフの中に、奴の行方を気にする者はいなかった。宮城が嫌われていたからというわけではなく、ただ単に「ありがち」なことだからである。

 派遣スタッフが、会社に連絡もなく突然フケることなど、珍しくもなんともない。直接引導を渡した立場でありながら、俺もすぐ宮城の存在など忘れてしまっていたのだが、あるとき海南アスピレーションの社員であり、丸菱運輸の担当営業を務めている吉沢からかかってきた一本の電話により、あの偽善豚男の記憶が脳裏に深く蘇ってくることとなる。

「あ、もしもし、蔵田さん?明日の土曜日予定ない?」

「・・・・いや、一日暇だけど」

「蔵田さん、ふとっちょの宮城くんが飛んじゃったのは知ってるよね?それでさ、同じ寮のよしみで、部屋を片付けてやってほしいんだよ。もちろん、バイト代は出すよ。丸菱の時給、八時間分でどう?」

 まだ借金を返し終えたわけでもなく、けして余裕があるわけではない俺に、たかだか部屋の片づけだけで、八千円強の金が貰える仕事は魅力的である。それに、あの豚男の部屋にも、個人的な興味はある。俺は会社の頼みを二つ返事で引き受け、程なくしてやってきた吉沢から鍵を受け取り、宮城の部屋へと上がった。

 二十四インチのテレビ、冷蔵庫、座卓、パイプベッド。寮の備品は、特に持ち出されていない。ボランティア関係の資料、食器、布団など、私物もそのままである。借金はないであろう宮城が身一つで失踪するとは不自然であるから、もしや自殺したのだろうか。だとするならば、やはりあの男は底なしの間抜け、腰抜けである。

 今この世の中で自殺など、何の意味もない。自殺などしたところで、誰もそいつには関心を向けないし、場所や方法によっては、迷惑だなどと吐き捨てられるだけである。どうせ同じ迷惑なら、昔不快な思いをさせたヤツに一矢報いてから死ななければ、それこそ犬死にしかならない。

 大手の派遣会社を軒並みアウトになり、最後の篩のような底辺派遣会社に流れ着いたような派遣難民に、まともな人生を送ってきた奴はいない。宮城の場合は、おおかた前の職場でも、己の言葉に陶酔したあの調子でボランティア活動をアピールするなどし、周りの顰蹙を買っていたのであろう。また、言うまでもない話だが、あの容姿のせいでも、何かと苦労していたはずである。

 俺は確かに宮城に引導を渡してやったのかもしれないが、最後にほんの少しばかりの力で蹴飛ばしてやっただけで、宮城の心の屋台骨は、とっくの昔にボロボロに朽ち果てていた。あの男には、莉乃以外にも、復讐すべき人間は沢山いたはずであった。人生に絶望して死ぬなら死ぬで構わないが、なぜそのときに、自分に屈辱を味合わせたヤツを道連れにしようとしないのか?

 相手から受けた屈辱が、人から同情されるような真っ当な恨みか、逆恨みか、そんなことは関係ない。仮に自分が恨んでるヤツの方が正しいのだとすれば、そのときは正義ごと憎めばいいだけの話だ。

 生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い詰められているのである。世間の価値観など、この際どうでもいいことではないか。今までずっと、望みもせぬのにこんな競争の世界に産み落とされ、理不尽な運命を受け入れて生きてきたのである。死ぬときぐらいは、何が正しいかではなく、自分がどうしたいかで物事を考えればいいではないか。

 本当に言いたいことも言わず、やりたいこともやらずに、自分はキレイな心を持っていましたなどと、まったくの嘘っぱち、痩せ我慢、しかも自分以外の誰も思っていない、褒められもしないことを誇りに、女とセックスもせず死んでいった・・・のかもしれぬ宮城の人生を思うと、悲しいを通り越し、呆れて溜息しかでなかった。

 とはいえ、所詮は他人事である。あの偽善豚男が自殺していようがいまいが、俺にはどうでもいい。俺が気になるのは、着の身着のままで出ていったこの部屋で、宮城は最後に何をしていたのか、である。

 自殺するにしても、あの几帳面な宮城が、部屋の片づけをすることもなく、家を飛び出したのだ。何か、思いもよらない事件が発生したのではないか。メールの件以外で、宮城が発作的に死を決意するような、とんでもない何かが・・・。

 「名探偵蔵田」となった俺は、宮城失踪の真相を探るべく、現場の状況を丹念に調べた。座卓の上には、ボランティア関係の資料、ノートパソコン。それと、飲みかけの茶が入ったコップが二つ置かれてある。誰か、来客があったのだろうか。

 キッチンへと向かってみる。流しには、味ポンとラー油が付着した皿、また、とろろ芋のようなものが付着した丼が置いてある。一週間のレシピがびっしりと記されたメモ帳が貼ってある冷蔵庫の中は、納豆、ニラ、ニンニク、山芋など、やたら精のつく食べ物が多い。

 フローリングの床を調べてみる。掃除がよく行き届いていて、塵ひとつ落ちていないようだが、ただ一つ、ベッドから二メートルほど離れたテレビの下に、なにか牛乳でも零したような白いシミがついているのが気になる。

「これらの状況から考えられるのは・・・・」

 俺は中学時代、女が体育を欠席した日にちから女の生理周期を逆算し、特定の日になると東山に女の家付近のゴミ箱を漁らせ、戦利品を得て性欲を満たしていた時期に発揮した知能を駆使し、宮城がこの部屋で最後にとった行動を推理した。

「・・・・・わからん」

 さすがの俺でも、これほど情報が断片的では、謎を解くことなどできはしない。考えるだけ無駄であった。

 珍しく頭を使ったせいで、疲労してしまった。部屋の片づけに入る前に、少し休憩しなければならない。ベッドに腰掛けたそのとき、俺は座卓に置かれた資料の下に、何か明らかにボランティアに関係ない、花とかハートのイラストが描かれた名刺が置かれていることに気が付いてしまった。

 手繰り寄せて見てみると、それはデリヘルの名刺であった。二十九歳の大人の男の部屋に置いてあるものとして、それは珍しいものでも、おかしなものでもなんでもないが、この部屋の主は、あの堅物の宮城である。

 気になってどうしようもなくなった俺は、さっそくその業者に連絡を取り、名刺のさよこなる嬢を呼び寄せた。あの宮城が、おそらくは生涯で唯一抱いた女を、同じこの部屋で俺も抱いてみたくなったのである。

 三十分ほど待って、玄関でさよこなる嬢と対面した俺は、心臓が止まりそうになった。誰あろう純玲が、そこに立っていたのである。

「ごめん、違うの、ごめんね」

「・・・・・どういうことか、説明してみろ」

「私は最低な女だ、もう死んだ方がいいんだ」

 取り乱した純玲は、寮の通路から飛び降りようとする。安アパートの二階から飛び降りたところで、簡単に死ねるわけもない。本気で飛び降りようとしているわけではない。極めて問題解決能力が乏しい純玲には、トラブルが起きると安易な行動で他人の同情を買うことで、不利益を回避しようとする癖があった。

「いいから。怒ってはいねえよ。なんでデリヘルなんかに勤めているのか、冷静に説明してみろ」

 自分が女がいても風俗を利用する以上、女が風俗に勤めていても浮気にはならないというのが、俺の持論である。男にはカネで簡単に性欲を発散させる方法が用意されており、女には身体ひとつで、真っ当な勤め人では到底稼げないカネを稼ぐ方法が用意されている。まことに素晴らしい関係であり、これを批判するのは、飢えた男でも抱かないような、身体に一文の値打ちもつかない女だけである。

「遅刻の連続で、時給を一割減らされちゃって・・・。副業で稼がないと厳しいんだよ。実際に相手をしたのはまだ十人くらいだよ」

「そうか・・・けど、こういうのって、身内バレしないように、入店時にNGエリアとか申告するもんじゃねえのか?」

 業界のことに多少詳しい俺は、素朴な疑問をぶつけた。

「お店に入ったのは、重治さんと会う前だったから・・・。さすがにこの寮に来たときはびっくりしたけど、一回目で大丈夫だったから、今回も大丈夫だろっていう甘えもあって・・・。いつかは店に言おうとは思ってたんだけど、ついつい忘れちゃってて・・・」

 物事を先延ばしにする癖と、妙なところでポジティブというか、危機意識が欠落しているのも、ADHDの典型的特徴である。自己管理がまったくできないのだ。

 こういう女が借金をし始めたらもう大変である。「何とかなるさ」と思っているうちに、雪だるま式に多重債務に陥って、首が回らなくなる。デリヘルからソープへと落ちて、行きつく先は、危険な生本番ありの裏風俗だ。

 こういう人間には、生活を共にして、ある程度管理してあげる人間が必要である。俺も自己管理に関しては人に偉そうなことは言えないが、相互に監視し合うことはできる。

 だらしない人間同士が一緒になっても、共倒れになるだけだ――そんな風に冷めた決めつけをするヤツは、そいつが勝手に一人でいればいいだけ。マイナスとマイナスを足せばもっとマイナスになってしまうのかもしれないが、マイナスとマイナスをかければ、逆にプラスになるのである。

「わかったよ。俺が会社に頼んでなんとかしてやるから、そのかわりデリヘルはもうやめろ。今までのことはいいよ」

 俺はさっそく東山にメールを送り、東山の口から、海南アスピレーションに純玲のペナルティを解いてもらうように頼ませた。上得意先の丸菱運輸の責任者、東山からの頼みである。海南アスピレーションが聞かぬわけはなかろう。

「もう落ち着いたか。落ち着いたなら、宮城とのプレイ内容を説明してみろ」

 嫉妬深いこと無類の俺であったが、自分の女を抱いた男が、自分よりも容姿の面で劣っていれば、まったく嫉妬心は湧かなかった。宮城とは客と風俗嬢の関係であり、愛情などはないと安心できる。哀れなブサイク男に施しをやったのだという、与える者の優越感に浸ることもできる。そんなことよりも、童貞宮城の初風俗での立ち居振る舞いを聞く方に興味があった。

「最初は、宮城さんの方がキャンセルするかと思ったんだけど、宮城さんは、どうぞ入ってくださいって、平然と私を招き入れたの。HPには上半分の顔写真しか載せてなかったんだけど、宮城さんは私だと確信して予約したみたい。気味が悪かったし、とにかく無心でやろうと思ったんだけど、なんだか宮城さん、にんにく臭くてひいちゃった・・。部屋中に納豆の臭いがするし、本人は消臭剤をまいたり、ブレスケアを食べたりして気を使ってるみたいだったけど、全然消しきれてなくて、ほんときつかった・・」

 流しや冷蔵庫から発見された、精力を高める食品の数々は、どうやら初の性行為時に、フルパワーを発揮するためのものであったらしい。そこまで硬度に拘るなら、本番なしのデリヘルよりもソープに行けばいいという話だが、三十路近くになって初めて風俗を利用した宮城には、その方面の知識がなかったのだろうか。

 それとも、宮城にとって重要だったのは、純玲を抱くということだったのであろうか。俺へのささやかな復讐のつもりであったか、純玲が職場で、宮城にまともに接してくれる唯一の女であったからか。宮城がいかなる思いで純玲を抱いたのか、いかなる手段でその滾る性欲を発散させたのか、純玲の話を聞いて、俺の興味はますますそそられた。

「とりあえずシャワーを浴びて、ベッドに行ったんだけど、宮城さん女を知らないのか、どうしていいかわからないみたいで・・・。私の方から、何がしたい?て聞いてみたら、手をつないで、キスがしたい、て言ったときは、ちょっと可愛かったなあ・・・」

 宮城が莉乃としたかったのも、初心な少年が思い描くような純情恋愛、プラトニック・ラブだったのであろうか。それが悪いとは言わないが、然るべき年齢でその段階を通過できなかったのは、悲しいことである。

「そのあと、私がリードする形でプレイに移ったんだけど、宮城さん緊張してたのか、いつまで経ってもアレが硬くならなくて・・・。気づいたらプレイ時間も過ぎちゃって、結局延長することになって・・・」

 気の小さな男性が、初体験や、懲役などを経て久々に女を抱くときに、緊張してモノが役に立たなくなることはよくあるらしい。このストレスと不摂生の社会で、男性の勃起力そのものも落ちているという。日常から女に相手にされないストレスに塗れ、初体験に緊張しきった宮城のペニスは、精力をつける食品の数々をもってしても勃たなかったのである。

「宮城さんも焦っちゃって、それがますます良くない影響があったのか、延長しても全然勃起しなくて・・・。それで苦肉の策で、宮城さんが普段観ているAVを観ながらしてみることを提案してみたの。宮城さんはそれに素直に従って・・・この作品を観はじめたの」

 純玲がベッドの下に潜り込み、DVDのパッケージを取り出した。一人暮らしにも関わらず、AVをわざわざベッドの下に隠す癖が抜けていないとは、よほど親が干渉的で、それがトラウマになっていたのだろうか。

 DVDのタイトルは、「いちご百パーセント!みるく一番搾り」。明るい家庭を築くことを夢み、子孫を残す欲求が強かった宮城は、母乳に執着があったらしい。もしかすると、ゆかりの母乳を見たときの宮城は、俺の行為を非難しながら、実は密かに興奮し、部屋に帰ったあと、あれを思い出しながら自慰に耽っていたのであろうか。想像すると、俺も興奮を禁じ得なかった。

「それで、宮城さんがベッドに座った状態で、AVを観ながら、私が宮城さんのアレを扱いてたんだけど、やっぱり全然硬くならなくて・・・。しまいには、結局柔らかいままイっちゃったの。でもそのとき出た精子の量が凄くて・・テレビのところまで飛んで行って、もうミサイルみたいに、ビュンビュンって・・。あんなのAVどころか、エロ漫画でも見たことなかったら、びっくりしちゃった」

 テレビの付近にあった、白いシミの正体が判明した。精液が飛ぶのは量の問題だけではなく、極度の快感で小便と精液の射出をコントロールする機能が破壊され、精液と少量の小便が一緒に出てしまうことも原因となって起こる現象だそうだが、とにかく、ニラ、ニンニク、山芋、納豆の力で強化された宮城の睾丸は、容量ぎりぎりの、凄まじい量の精液を作り出していたようである。

 以心伝心というのか、ちょうど話の途中に、桑原から電話で、性に纏わる自分のエピソードの紹介があった。

「アニキ、聞いてください。俺がオナニーを覚えたのは、小学校四年生のときでした。なんとなくチンコをいじくってたら、ピュッとかいって白いのが出て、ちょっと怖かったけど、気持ち良かったから続けるようになったんですが、そのころは性教育もまだだったから、チンコをいじくる行為をなんて言ったらいいのかわからなくて困ってたんですよ。別に他人に言う必要はありませんが、自分で納得する必要はあるじゃないですか。最初は仕方ないから、よし、あれやるか、みたいな感じでやるしかなくてモヤモヤしてたんですけど、小五の性教育で、精子という言葉をやっと覚えて、それからは精子出し、と言って誤魔化すようになりました。その後しばらくして、精子出しをちょっとカッコよくして、セイシングって言うようになったんです。よし、寝る前に一発セイシングやるかって。それでも違和感は拭えなかったんですが、その頃読んだエロ本に、オナニーっていう単語が書いてあって、ああこれはオナニーっていうのか、とようやく納得することができてスッキリしました。何が言いたいかというと、性教育はもっと早くやるべきということです!聞いてくれてありがとうございました!」

 近頃、桑原は自分が子供のころ、人に相談できなくてモヤモヤし、結局は自己解決したエピソードをよく俺に紹介してくるようになったのだが、俺はそれに嫌な顔をせず付き合っていた。頭の中にずっと抱えていたモヤモヤがすべて晴れたとき、桑原の頭には素晴らしいアイデアが浮かんでくるかもしれないのである。莉乃、唐津を痛い目に遭わすにあたって、何よりも知恵を欲する俺には、桑原の頭脳は貴重だった。

「それで・・・宮城がイった後は、どうなったんだ?」

「うん・・・。出すものを出してスッキリしたようだったから、シャワーを浴びて帰ろうとしたんだけど、宮城さんには不満があったのか、なんかいきなり、説教をし始めたのね。さすがに自分がデリを利用しておいて、デリヘル嬢をやめろとはいってこなかったけど、あの豚ババアのことで、ちょっと・・・」

「ゆかりのことか?なんて言ってたんだい?」

「私と重治さんが付き合うのはいいけど、あの女性のことはどうするつもりなんだって・・。一応聞かれたから、いずれは新宿あたりのホームレスにあげる予定だって、重治さんが言ってたことを伝えたら、あなたたちは女性を何だと思ってるんだ!とかキレ始めて・・。聞かれたから答えてあげたのにキレられて、私もムカッとしたから、私も女なんですけど・・・・。って呟いてやったら、うおーーっとか大声で叫んで、服を着て出て行っちゃって・・・。それきりまだ帰ってきてないのは、何か事故にでもあったのかなあ・・・」

 宮城失踪の真相が、すべて明らかにされた。おそらくは童貞喪失を夢みて、当日に向けコンディションを整えていた宮城は、いざ生身の女を目の前にしたとき、普段はコチコチに硬くなるブツがまるで役に立たないという衝撃に茫然自失し、ついには錯乱してしまったのである。

 莉乃に酷い言葉を浴びた一件で、宮城は大きな心の傷を負ったであろう。女と愛のあるセックスをすることを、もう諦めていたかもしれない。しかし、風俗すら満足に利用できないとは、哀しすぎるではないか。この哀しい男に見向きもしないばかりか、事実上トドメを刺した莉乃に対し、俺もモテない男の立場から強い憤りを覚え、何が何でも潰さねばならないという決意を改めて固めるに至った。

「・・・私、やっぱりデリはやめない」

 すべてを話し終えた純玲が、いきなり唇を歪めて呟いた。

「いきなり何を言い出すんだよ」

「自分ばっかり楽しい思いして・・。あのカマトトババアを痛めつけるとかいって、結局は仲良くしちゃってるじゃない」

 純玲が言っているのは、近頃俺が莉乃と、親しげに話していることであろう。今までずっと、俺が女のことで嫉妬をすることはあっても、女が俺のことで嫉妬をすることなどないと思っていた。俺に魅力を感じ、俺のことを独占したいと思ってくれる女がいるのは、どこまでも嬉しいものである。

「それは作戦上のことだと言っただろう。機が熟したら、アイツには必ず思い知らせてやるさ。なに嫉妬してんだよ」

「だって・・・・だって・・・・」

「おい、どうした」

「もう復讐とかやめようよ。二人でどこか、遠い街に行って、新しい人生を始めようよ。重治さんには私がいるよ。昔あった嫌なことは全部忘れて、これから二人で、幸せを一杯集めながら生きようよ。ねえ、そうしよう」

 泣き崩れる純玲は、俺が莉乃を痛めつける目的に協力を申し出たときからずっと抱えていたであろう本音を口にした。莉乃への復讐に協力するとは、俺に無理に合わせただけの話であり、純玲は本当は俺と二人、過去を忘れて幸福に生きることを望んでいたのである。

 純玲が俺を大事に思ってくれるのは嬉しい。だが、女が大事に思っている俺が、本当の俺とは違う俺であるというのは問題である。純玲が好きなのは本当の俺ではなく、純玲が理想化した俺であるというのでは、いつかはボロが出るというものである。純玲が理想化した俺に近づく努力をすればいいではないかという考えもあるが、残念ながら、女のために自分を曲げるようなことは、俺にはできない。

 莉乃と唐津を憎まない俺など、俺らしくもない。過去の不快な記憶をキレイさっぱり忘れて生きる俺など、俺らしくもない。この先ずっと一緒にいるためにも、純玲には、本当の俺を理解してもらわなければならない。俺のすべてを受け入れてもらい、俺が唐津と莉乃への復讐を完遂しなければ、純玲との幸福な人生もないことを理解してもらわなくてはならない。

「俺が莉乃と唐津を痛めつけようとするのは、けして後ろ向きなことじゃねえぞ。お前と幸福な人生を手に入れるために、絶対にやらなくちゃいけねえことなんだ。俺が、俺を受け入れないこの世間と折り合いをつけるためには、アイツらにきっちり、ケジメをつけなきゃいけねえんだ」

「ケジメをつける?どういうこと?」

「俺も何もしないで、文句ばっかりピーピー言ってたわけじゃねえ。自分がこの社会の中でまともにやっていけないことがわかって、それだったら、自分なりの道でなんとかやっていこうと、色々足掻いてはきたんだよ。頑張るっていうなら、普通に資格とか取って就職目指せって言われるかもしれないけど、俺はそれじゃダメなんだ。他人と同じことやってたんじゃ、どうやっても、幸せになれる気がしねえ。俺にとっちゃ、人と変わったことをやる方が、遥かに安定して、長続きする道なんだよ。だけど俺には、どんなに頑張っても、レールの外で成功できるような才能も運もないことがわかった。無駄な足掻きばっか続けているうちに、こんな年齢になっちまった。このまま生きてたってしょうがねえ。最後に、恨みつらなるこの世の中にどでかい糞をぶち撒けて、死刑にでもなんでもなってやろうと思ってた。そんなとき、俺の目の前にお前が現れた。こんな俺を愛してくれる、ずっと一緒にいてくれるというお前を手に入れることができた。俺にも、人として当たり前の幸せは与えられるんだとわかった。それがわかったのに、いつまでも死刑とか喚いててもしょうがねえし、世間を恨むばかりでも仕方ねえとは思ってる」

「だったら・・・・」

「人はそれぞれ、自分の人生に対する期待値ってもんが違う。欲しいもんが何でも手に入る大富豪でも自分を不幸だと思ってるヤツはいるし、食うや食わずの貧乏人でも自分を幸せだと思ってるヤツもいる。期待値ってのは、他人から我慢しろとか、納得しろとか説教されたりすることでは変わらねえもんだ。お前という女を手に入れられたことは、確かに良かったとは思っている。だが、経済的には、俺が今でも世間の平均より下にいることは間違いねえし、この先底辺から抜け出せる可能性もねえ。女と出会っただけで納得して、受け入れて生きられるヤツもいるのかもしれねえけど、俺はそれだけじゃ納得できないんだ。俺がこの先、ずっと底辺暮らしを受け入れて生きていくには、この世間に・・・この世間の風潮を有り難がって生きてる連中に、どでかい糞までいかなくても、指先についた糞を塗り付けてからじゃなきゃならねえ。やられっぱなしじゃいられねえんだ。せめて一矢を報いてからじゃなきゃ、俺はこの世間と折り合いをつけて生きていくことはできねえんだよ。だから俺は、莉乃と唐津を痛い目に遭わせなきゃならねえんだ」

 ひとしきり語り終えたとき、喉はカラカラになっていた。誰かに対し、自分の内に抱えた思いをこんなに一生懸命説明したのは、生まれて初めてのことだった。自分の話を一生懸命に聞いてくれる人がいるというのは、紛れもなく、幸せなことである。俺がこの幸せをずっと守っていくために、俺は強大な世間との闘争に身を投じなければならないということを説明し終えると、純玲は鼻をすすりながら、大きくうなずいた。

「全部を理解することはできないけど、私は重治さんを社会に繋ぎ止めるために全力を尽くすよ」

「ありがとうな・・・。落ち着いたようなら、デリヘル業者に退職の連絡を入れて、一緒に宮城の部屋を片づけようぜ」

 純玲を納得させると、俺は純玲にも手伝わせて、宮城の部屋の片づけを始めた。それほど汚れてもいない宮城の部屋ならば、作業自体は半日もかからず済むはずである。俺の本当の楽しみは、宮城の部屋を家探しし、何か笑えるモノを見つけ出すことにあった。

「さっそく見つけたぜ」

 几帳面な宮城は、小さい頃からの思い出の品を、段ボールにまとめて、押し入れにちゃんとしまっていた。通常こうしたものは、実家に置きっぱなしにしている場合が多いはずであるが、俺のように実家がすでにないのだろうか。それとも、わざわざ一人暮らしのアパートに持ってくるほどに思い入れが強いということなのだろうか。箱を開けると、中からは小中学校で使っていた教科書、卒業文集などが続々と出てきた。

 俺はまず、もっとも興味深い中学校時代の卒業文集を捲ってみた。文は人なりといい、文章には、それがたとえ四百字詰め原稿用紙一枚程度のものでも、その人物の特色が出るものである。宮城の生い立ちを詳しく検証すれば、もし宮城が生きていたとして、ヤツを利用する方法が見えてくるかもしれない。俺は名前順の関係で、全生徒のトリを飾っている宮城の作文を、純玲とともに、食い入るようにして読んだ。

 
―――俺の思い出  

                 三年三組  宮城利通

―――中学に入学したとき、俺の夢は、サッカーで全国優勝することだった。決意を胸に、毎日練習に励む中で、二人の親友ができた。竹里と中岡だ。満開の梅の木の下で、おれたちはアクエリアスの入った紙コップを乾杯し、「世田谷第一公園の誓い」を交し合った。

 世田谷第一公園の誓いとは、三国志の劉備、関羽、張飛が若き日に交し合った、「桃園の誓い」を気取ったものであろう。「我ら入部した日は違えども、願わくば同年同月同日に辞めん」とでも宣言したのだろうか。それならば三年生の夏まで部に所属していれば自動的に達成されるが、果たしていかなる結末を迎えたのであろうか。

―――毎日同じメニューの練習をしていた俺たちだったが、一年の夏ごろから実力に開きが出始めた。主な原因は、食生活にあった。身長を伸ばそうと沢山食べた結果、俺の身体は横や前にも大きくなってしまったのだ。結果、スピード面に課題が生まれた。すでに上級生に交じって試合に出ていた竹里と、次期レギュラーと目されていた中岡に、俺は遅れを取ってしまった。

 物は言いようという言葉があるが、ただ太ったことをここまでもっともらしく書ける中学生もあまりいないだろう。都合の悪いところを誤魔化す詭弁の才能はある男だったのかもしれない。

―――冬、新人戦で惨敗した後、竹里はカラカラと笑いながら、前日、オナニーをしてしまったせいでスタミナが落ち、思ったような活躍ができなかったと言っていた。強がっていたが、俺には竹里が本当は落ち込んでいることがわかっていた。俺は竹里を慰めた。みんなが竹里を責めても、俺は絶対に責めないと言ってやった。

 どうして、人の恥を、一生モノの文集に書き残すようなことを平気でしてしまうのか?宮城が当時から、自分が善人であることをみんなにアピールするためには、人の気持ちなどまったく考慮しなくてもいいというスタンスであった証明である。

―――三年になった。竹里はますますうまくなり、県の選抜チームにも選ばれた。中岡もレギュラーとして活躍した。俺は試合には出られなかったが、俺は二人に、ベンチから精一杯声援を送った。誰よりも大きな声で声援を送った。試合に出ているみんなが飲むアクエリアスを作るときも、しっかり分量を量り、誰よりもうまいアクエリアスを作るよう心掛けた。グラウンドをならすときも真剣にやり、後輩たちからトンボの達人と呼ばれた。みんなに褒められていたわけだから、レギュラーになっても、特に印象に残らないヤツより価値があるものだと思っている。そして最後の大会を終え、引退した。俺はこの三年間を忘れない。

 大仰な書き出しで始まったわりに、ずいぶんとスケールの小さな結末である。最後の方が駆け足なのは、本当は大した思い出などなかったに違いなく、おそらく竹里と中岡にも、新人戦でオナニーがどうのこうのの事件があった当たりから敬遠されていたのであろうが、仲が良かった時期だけを抜粋し、親友と明記して文章に残してしまうとは大した根性である。

 宮城は自分が「補欠の鏡」であったことを誇りにしているようだが、運動部などは、試合に出られるかどうか、出て結果が残せるかどうかがすべてではないのか?成果を試す場も与えられないのに、毎日長時間拘束され、ボロボロになるまで身体を酷使するなどというのは、はっきりいえば、時間の無駄である。アクエリアス名人、トンボの達人などと評価されたことを理由に、補欠のまま三年間を過ごした自分にレギュラー以上の価値を置くなど、ウォシュレット付きの洋式トイレに対して、穴からゴキブリの這い出すぼっとん便所を、他人が座った便器に尻をつけなくていいという利点だけを理由に、優れている、勝っていると主張するような、無茶苦茶な理屈だ。

 勝者がいるところには、敗者もいる。三年間補欠に甘んじているのが悪いことではない。だが、それはほろ苦い思い出として記憶されるべきものであり、誇りにするべきものではないはずである。

 宮城に限らず、毎年、部活動が一段落する時期になると、最後の大会でレギュラー争いから漏れた選手が、試合に出られなくてもチームに貢献する方法はあると、レギュラーを妬まずに、チームのために声を振り絞って応援したとか、裏方に回ったとかいうエピソードがテレビなどで取り上げられるが、なぜ、ああいうのを無理やり美談にしようとするのだろうと疑問に思う。就職面接などでも、その手のエピソードがアピール材料として使われることもあるという。勉学を犠牲にして部活に励んだ学生を救済する意味ではいいことだろう。だが、評価するところを間違えてはいないか。

 彼らが素晴らしいのは、試合に出られなくてもチームに貢献する方法はあると、レギュラーを妬まずに、チームのために声を振り絞って応援したことでも、裏方の仕事を頑張ったことでもない。ボロボロに屈辱を味わって、プライドを叩きのめされ、一時はそのスポーツそのものや、一緒に汗を流した仲間を憎んだこともあるであろう、その挫折した経験こそが、彼らの財産なのではないか。

 挫折――どれだけ取り繕ったところで、彼らが経験したことは、こっぴどい挫折である。努力は報われなかったのだ。その悔しい経験をしたことが、何より素晴らしい。死ぬほど悔しい思いをしたからこそ、負けて傷ついた人間を労わることができる。仲間を妬み、嫉み、恨む、という醜い感情を知っている。知っているからこそ、その醜い感情をコントロールできる。同じ醜い感情に囚われたものを、救ってやることができる。変に美化したり、大人の理想を押し付けるのではなく、そういう現実に経験した感情を、もっと評価してあげればいいではないか。

 なぜ、無理やり美談にしようとする?なぜ、こっ酷い挫折を味わい、仲間を妬み、嫉み、恨んだ事実から、目を逸らさせようとする?負けること、躓くことは、悪いことなのか?屈折した感情を抱いたことは、忘れるべき経験なのか?青春がほろ苦くてはいけないのか?

 今、体育会系の負のイメージの最大公約数といえば「ガサツ」といったことであろうが、本来の経験からいえば、むしろ人の痛みがよくわかり、人を思いやれる人間になれるはずの彼らを、真逆の人間にしてしまっている社会の風潮があるのではないか?

 何もかもをキレイごとで丸め込もうとするくだらない世間の風潮に無理やり共感しようとするから、逆に歪んでいく。この作文が書かれたのは中学時代のことだが、宮城の普段の行いを見る限り、基本的な精神構造は変わっていなかっただろう。どう考えてもキレイごとで救えるような人間ではないくせに、くだらない世間に迎合しようとしたために、ヤツは壊れてしまったのだ。

「でも、考えてみれば、子供の頃に書いた、中二病満開の作文を、大人になってから他人に読まれるって嫌だよね・・」

 純玲に同感だった。よく大犯罪があったとき、犯人の卒業文集などがワイドショーで取り上げられることがあるが、俺がもし今の作文を全国ネットで晒されたなら、死刑を待たず、自ら腹を掻っ切って死ぬだろう。考えてみれば、犯罪者の「黒歴史」を晒すのは、ある意味死刑以上の抑止である。

 続いて俺は、小学校の国語の教科書を捲ってみた。真面目な宮城は、文章の中で特に重要だと思った箇所にサインペンでしっかりと線を引いていたのだが、その中でも特に、小学校五年で勉強した「赤い実はじけた」という話には、重要だと思った箇所とは別に、自分が個人的に気に入った文章にも別の色で線が引いてあるようで、話のほぼ全文に渡って線で埋め尽くされていた。

「赤い実はじけたって、初恋の女の子の淡い気持ちを書いたお話だよね。宮城さん、そんなに彼女が欲しかったんだね・・・」

 純玲の言葉を裏付けるように、「赤い実はじけた」の余白の部分には、宮城の心の叫びを表すように、ピンクのペンで大きく「恋がしたあい」と書かれてあった。教科書に書かれているほかの宮城の文字と微妙に筆跡が異なることから、これは小五当時のものではなく、もっと大きくなってから書かれたものであることがわかる。宮城はその生涯の多くの部分を、淡い初恋を描いた「赤い実はじけた」をバイブルとして生きてきたのだ。

 それほど強く「赤い実はじけた」を崇めているのに引き換え、小学校二年生の教科書に載っていた、俺のバイブルである「力太郎」については、線などほとんど引かれておらず、そればかりか、力太郎の顔にはヒゲが描かれ、おじいさんの頭からは変なツノが生えているなど、ふざけた落書きがされている。余白の部分には、「あかで人をつくるのは汚いと思った」と、切って落とすように書かれているのみである。

「あの野郎・・・・」

 力太郎を批判することは、俺の性癖を批判し、ゆかりのようなグロ婆と行為に及んでいた俺を愚弄するのも同じことである。これまで感じていた宮城への同情は、いっぺんに吹き飛んでいってしまった。

 あと、段ボール箱の中に入っていたのは、宮城の少年期の写真であった。幼いころから、宮城は宮城の顔立ちであったようである。若い頃と年をとってからで容姿が変わらないという点ではいいことかもしれないが、若いころも年をとってからも不細工では、何の救いにもならない。

「おい、宮城のベッドでしようぜ。そうだ、あの婆も連れてこよう」

 宮城の写真を見て、ふと新しいプレイの案が浮かんだ俺は、ゆかりを宮城の部屋に連れてきて、ゆかりの目の前で純玲と身体を交じり合わせることにした。

「なにこれ・・・・・」

 俺が自分で外せないように鍵をつけた首輪をしたゆかりを、大型犬用のリードを使って引っ張ってきたところ、ゆかりを目の当たりにした純玲が絶句した。それもそのはず、この日俺はゆかりに、花模様のひらひらがついたピンクのワンピースを着せていたのである。

 俺は純玲と交際を始めてからも、性懲りもなくゆかりを抱くことは続けていた。外で精を放出するようになってもなぜゆかりの身体への欲求を失わなかったかといえば、新たな楽しみ方を発見したのである。俺は、醜く汚臭を放つゆかりに、あえて可愛い恰好をさせるというところに興奮する要素を見出したのだ。そして、莉乃と唐津のせいでしばらく絶食状態にあったせいで、均整のとれた身体にはなっていた俺の方が、しろいシャツにももひきをはき、腹巻を巻いた「磯野波平スタイル」で襲い掛かるのである。

 本体が気持ち悪いゆかりが可愛い恰好をしているのを、本体はそこそこ見れる容姿だが気持ち悪い恰好をした俺が犯す・・・これがなんとも興奮する。それに、なんといっても、ゆかりの母乳および、股間、脇、アナル、足の裏、へそ、三段腹の隙間の悪臭は捨て難い。ゆかりはゆかりで、まだまだ楽しめるのである。

「がーふむふむふむ。もがーふむふむふむ」

 ゆかりは天敵純玲を目の当たりにし、混乱してわけのわからない言葉を喚き始めた。何を言ってるのかわからないのは、ゆかりが混乱しているからだけではなく、口の中に食物がいっぱい詰まっているせいもある。昔から食欲のコントロールができない豚であったが、近ごろはなぜか、ますます食欲旺盛で、デブ腹はみるみるとせり出し、顔面にも脂肪がついて、化け物具合に拍車がかかっていた。

「ほんっとにてめーはいつ会ってもくっせーなー。死んだほうがいいんじゃねーの?ほらデブ、これも食えよ」

 宮城の部屋に入るや、純玲が悪態をつきながら、ゆかりに、宮城の冷蔵庫にあったニラ、ニンニク、山芋、納豆を放り投げた。ゆかりははじめ抵抗していたが、そのうち食欲に勝てなくなったらしく、納豆に山芋をかけて、貪るように食い始めた。

「がもっがもっぬばあ。がもっがもっぬばあ」

 ゆかりは食い物を口に入れるのに夢中で、呼吸するのも忘れているようである。ゆかりがこんなにうまそうに食うところは、初めて見たかもしれない。

 無理もない。何しろゆかりはここ三日、パン屋で一キロ百円で買える、食パンの耳しか食べておらず、塩味に飢えていたのだから。

 ゆかりに性欲を満たすこと以外の価値を見出さない俺にとっては、ゆかりが乳と尻にある程度の肉付きを維持できればいいのであって、栄養のバランスなどは関係ない。むしろ栄養が偏って、成人病にでもなれば、ますます股間が臭くなっていいかもしれない。俺と一緒にいる限り、ゆかりは貧しい食生活から抜け出せないのである。

「ねえ~。重治さん、豚がちょー臭いよ~。風呂に入ってない臭い豚が臭い納豆を食べて、ぶっぶかぶっぶか、臭い屁をしているの。なんかキモイ恰好してるし。私もういや~」

 純玲が俺にしなだれかかり、甘い声を出しながら、ゆかりを罵倒する。純玲が俺とのラブラブぶりを見せつけながらゆかりを攻撃する姿が、俺にはたまならなく愛おしい。いてもたってもいられなくなった俺は、純玲を脱がし、前戯もそこそこに、いきり立ったモノを挿入した。

「ああん。ああっ。ああっ。重治さんいい。いいよおっ」

 純玲がここぞとばかりに、大きな嬌声をあげる。勝ち誇ったような目を、ゆかりにチラチラと向けることも、もちろん忘れない。ますます興奮した俺は、純玲と合体したまま、食事を続けるゆかりに歩み寄り、段ボールの中にあった宮城の写真を手に取った。

「おらっ。こいつがてめーの未来の旦那だ。てめーはこいつと子供を作るんだよ!ほらっ」

 言いながら、俺は宮城の写真を、ゆかりの顔面、乳、そして股間などに押し付けた。かつて成し遂げようとした「超劣等東洋種族製造計画」を、写真と実物の接触という形であるが、ようやくに実現したのである。もちろん、写真には、フローリングの床にこびりついた宮城の精液をお湯で溶かしたものを擦り付けておくのは忘れなかった。

「おい、宮城の子を孕めよ。そして二人で育てろよ。てめえらが作った子供は不細工すぎてイジメられて、心がねじけて、けんちゃんとたっちゃんを殺してから自殺するに違いないだろうけどな。でも宮城はバカだから、そんなことは気にせず、ただ性欲の赴くままにお前を妊娠させ続けるんだ。そして、不細工な子供を作りまくるんだよ」

「もがっふう。もがもがもが」

「ほら!宮城がおまえのこと、お姫様みたいで可愛い~と言っているぞ。えっちなにおいと、えっちなからだをしているね、と言っているぞ。ゆかりちゃん、僕のお嫁さんになってくれてありがとう、ずっと大切にするからね。いちにち八回はえっちしようね、赤ちゃんいっぱい作ろうね、と言っているぞ」

「もがあ!もがあ!もがあ!」

 ゆかりは宮城の写真に拒絶反応を示し、部屋の隅っこへと逃げていく。ゆかりは己がお下劣な容姿をしているくせに、男を容姿で選んでおり、五十歩百歩にお下劣な容姿をした宮城を拒絶したのである。男尊女卑の思想である俺はこの増上慢に怒りを覚えたが、しかし一方で、強い性的興奮を感じてもいた。宮城を選ばなかったゆかりに、俺は選ばれた、という優越感である。

「ああ、気持ちいい。俺も気持ちいいぜ」

 俺と純玲が愛し合うことの苦痛から逃れるように、バクバクと食いまくるゆかり。かまってもらえない口惜しさを、食うことで紛らわせるゆかり。宮城もゆかりと同じように、女とセックスができない苦しみから逃れるように食い続けた結果、あんな豚になってしまったのかもしれない。

「おい、桑原。実はいまこういう状況でよ・・・」

 俺はベッドに戻ると、この快楽を自分ひとりで味わうのはもったいないと思い、桑原に電話をかけ、現在のシチュエーションをこと細かく伝えた。

「どう思うよ、桑原」

「アニキ、それはこういうことでしょう。この飽食の日本において、食欲を満たすことは容易い。しかし、未婚率のデータが示すように、性欲を満たすことは難しくなっている。やれない哀しみを食うことで紛らわし、かつ下半身の運動ができず、カロリーを消費できない豚はますます肥え太り、容姿はますます醜くなり、ますます異性から敬遠される。逆に、性欲を十分に満たせる者は過剰な食に走ることはなく、また、下半身の運動をすることによってカロリーを消費できるため、容姿を保つことができ、常に安定して異性と性交することできるということです」

「つまり、ゆかりに、えっちがしたあい、と叫ばせ、ゆかりが苦しみながら、なおも飯を食うところを見ながらえっちをすれば、めっちゃくちゃ興奮するってことだな?」

「はい、それで間違いありません。ちなみに、俺は小学生のとき、浴槽の中でちんこをいじくっていたら、精子が出てきてしまいました。出てきた精子は、お湯の中を、クリオネみたいにふよふよ漂っていました。面白かったけど、俺の後に入った姉ちゃんが妊娠したんじゃないかって、しばらく怖くて怖くてしょうがなかったです」

「おう、ありがとうよ。おい、ババア。えっちがしたあい、と叫べ!」

 軍師桑原の同意を得た俺は電話を切り、策を実行するべく、正常位でピストン運動をしながら、ゆかりに命令をした。しかし、返事はかえってこない。

「おい、聞いてんのか!」

「重治さん大変。豚がいない・・・」

「え?」


 慌てて、ゆかりがいるはずの方向を振り向くと、本当にゆかりの姿が消えていた。

 迂闊であった。つい油断して、ゆかりを宮城の部屋に引っ張ってくるのに使った大型犬用のリードを、どこかに固定するのを忘れてしまっていた。俺と純玲が快楽にのぼせている隙を見て、ゆかりは部屋から逃走を図ったのである。

「やべえぞ、早く探し出さねえと」

 俺と純玲は慌てて服を着て、外を探し回った。ひらひらのついたピンクのワンピースを着た化け物が、大型犬用のリードを首からぶらさげながら、外を徘徊しているのである。発見は容易であると思ったが、ゆかりはなかなか見つからなかった。数時間探し回り、一度戻って宮城の部屋の片づけを終え、再度、日が暮れるまで探し回ったが、とうとう、その日のうちに、ゆかりを発見することはできなかった。

 いったいあの豚は、どこへ消えてしまったのだろうか。ゆかりへの虐待が発覚すれば、俺は獄へと繋がれてしまう。そうなったらばもう、莉乃と唐津への復讐どころではない。計画を狂わせる怖れのあるアクシデントの発生に、頭を悩ませねばならぬ事態となってしまった。
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宮城は素人女とできないばかりか風俗でもまともにできないなんて絶望的ですね。
外見も人間ばなれした化け物で、もはや生きている意味ないですね。
同じ化け物のゆかりともまともにセックス出来るかあやしいものです。
ゆかりと宮城の子供は是非とも見てみたいですが…
ゆかりに逃走されたのは流石にヤバいですね。
ゆかりのような化け物を監禁して警察に捕まるのは割りに合いませからね。
どうせ捕まるならもっと美女ではないと…

No title

まっちゃん さん

 宮城レベルになるともう生きている意味ないですね。国が障碍者認定して健常枠で働かなくてもよくしてあげるくらいの措置が必要なのかもしれません。ホームレス同士とか知的障碍者同士で子供作ってどう育つのかとかは興味ありますね。松永と緒方の子供とか麻原の子供は知能面では割とまともに育っているようですが・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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