最終章 20××年12月 異物のヒンカク


 同僚たちに「偽電話」がバレた三日後の深夜未明、塚田から寺井のLINEに、長文のメッセージが届いた。



 こんばんは。いつぞやのように、僕の思ったことを、LINEで伝えさせてもらいます。

 まず、僕の行動で、今まで不快な思いをさせてしまってごめんなさい。自分が情けないことをしているのはわかっていた。だけど、どうしてもやめられなかったんだ。

 寺井さんから、ああいうタイミングで、着信をもらって・・。結果、ああいうことになって、今では良かったと思ってる。

 僕の恥ずかしい行動がバレた日、バスの通勤経路をずっと走って、家まで帰ったんだけど、それで吹っ切れたんだ。結局、何もかも自分自身が原因なんだよね。自分自身が見えない軍隊を作り上げて、勝手に脅かされていただけなんだよね。

 人間、思い込み次第で白くも黒くもなる。これまで、悪い方向にばかり考えすぎてた。大した人間でもないくせに、周りの視線を意識しすぎてた。他人が自分をどう思っているかってことに、敏感になりすぎてた。

 他人に迷惑をかけないのは大事だけど、誰にも迷惑をかけずに生きていくなんて不可能なんだし、ときには、自分を押し通すことも大事だと思う。

 だからさ、僕、やっぱり寺井さんのこと、せいくん、って呼ばせてもらうよ。相手の顔色を伺ってばかりじゃ、いつまでも距離なんて縮まらないからね。

 明日から、また、生まれ変わった気持ちで頑張っていこうと思います。せいくんにとってはどうでもいいことかもしれないけど、僕にとって、せいくんにそれを宣言するのは、とても大事なことだから、メッセージを送らせてもらいました。

 夜中に突然、長文を送っちゃったりしてゴメン。今度、久々に、二人で飲もう。さすがにこの季節じゃ河川敷飲みはできないから、チェーンの居酒屋からファミレスでさ。

 それじゃ、明日ね。


「おはよう、せいくん!今日からまた、よろしくね」
 
 翌朝、工場の廊下ですれ違った塚田は、心の迷いが晴れたような、サッパリとした顔をしていた。

「おはようございます!会社が忙しいときに、つまらないことで、二日も休んだりしてごめんなさい!今日から一生懸命頑張るので、またよろしくお願いいたします!」

 休憩室で、大丸食品の課長や班長クラスに挨拶をする塚田の大きな声が、ロッカーで着替えをしている寺井の耳にまで響いてきて、寺井は思わず苦笑した。 

「くっ。何がせいくんだよ」

 ショックが大きかったことが、逆に良かったのかもしれない。これ以上、恥をかくことはないというところまで追い詰められて、本人の言う通り、塚田は完全に吹っ切れたようだった。

 三日間休んで、職場に復帰した塚田の働きぶりは凄かった。自分の工程だけでなく、他の工程の応受援もバリバリこなし、息をつく暇もなく、ラインの中を縦横無尽に駆け巡る姿は、大丸食品のライン作業にはまったく興味のない寺井の目にすら爽快に映った。

「やぁ及川さん、疲れたよね。あと少しで昼休みだから、頑張ろう」

「あ・・・ああ・・・ああ、はい」

 かつては見下す対象でしかなかった及川にも、気さくに声をかけている。これまでのすべてをリセットして、新しい自分を作り上げていきたいという塚田の決意が感じられる。

「張り切っているじゃないか、哲太。お前のその働きぶりなら、はんぺんのラインはもう安心だな」

「うん。伊達巻のラインにも、何かあったらすぐに応援に行くからね。信也くんも生まれて、もう自分だけの身体じゃないんだから、無理はしないでね、信一さん」

 親しくしていた仲間たちとうまくいかなくなったのは、自分が勝手に壁を作っていただけ。何もかも、自意識過剰になりすぎていただけだったことに気付いた塚田と周りとの関係は、寺井とのLINEで「やらかした」以前と同じ、いや、そのとき以上に良くなっているように見えた。

「塚田くん、頑張ってるねえ。塚田くんが帰ってきてくれたお陰で、なんだか工場全体が明るくなったようだよ」

「ありがとうございます、貞廣班長!もっともっと、頑張ります」

 気のせいか、塚田のハイテンションが伝染したかのように、他のラインの作業者たちも、声を出し合い、互いを気遣い合いながら、年末に向かってノルマの厳しくなる生産目標を是が非でも達成しようと、仕事に対するモチベーションを高めているように見える。塚田の復帰以来、暮れに向かって冷え込みの厳しくなる作業場に、夏場さながらの熱気が充満していくようだった。

「頑張っているじゃないか。不器用でも。それに引き換え・・」

 笹かまのライン――。何度も反復して身に着いた動きを、機械的に繰り返しながら、寺井は自嘲気味に呟いた。

 誰かが作り出したムードとかいうヤツに、簡単に染まってしまうヤツのことを、ずっと軽蔑していた。だが、本当に一番嫌いだったのは、ムードに染まれない自分自身だった。

 自分の損得だけで物事を考えずに、集団の和を守ることを第一に考えられていたら、今よりはもっと、マシになっていたのだろうか。

 ただ生きるだけということに、どうしても興味が持てない――今思えばそれも、適応の努力を怠り、苦痛から逃げ出した言い訳に過ぎなかったような気もする。特別にレールの上を走っていけないのではなく、特別に弱くて、レールから振り落とされただけのことを、もっともらしく誤魔化していただけではないか。

「それでも・・・」

 それでも、ドロップアウトしてから、自分なりの道を、精いっぱい進んできたつもりである。誰かが敷いたレールの上をうまいこと滑っていけない不満を、映写機を通して世界中にバラまいてやろうと、必死に足掻いてみた。だけど、ダメだった。

 十数年前、自分を殺し、ボロボロになってでもしがみ付いていれば行けた場所には、もう、どれだけ足を早めてもたどり着けない。いや、死ぬ気になれば何とかなるのかもしれないか、そこまでしてたどり着きたいとも思えない。

 だったら、何もかもぶち壊しにして、すべてを終わりにしてやる。その決意で、自分はこの一年間、人生最後と決めた映画の製作に没頭してきたのだ。

「・・・なんでそんな頑張るんだよ。どんだけ一生懸命やったって、給料は変わらないんだぜ。だったらもっと手ぇ抜けよ。イヤだったら逃げちゃえよ。あんまりムカついたら、体液とか入れちゃえよ。正月におせちが食えねえヤツらがいたからって、僕らは何も困らないんだぜ。食中毒起こして人が死んで、この会社が信用落として潰れたって、僕らは痛くもかゆくもないのにさ。言われるがまま、こき使われてどうするんだよ」

 少しでも、ただ生きるだけのことを素晴らしいと思おうとする自分が現れると、自分を出せない生き方は全部失敗だと思い込もうとする自分が現れて、頭を抑え付けようとする。

「僕はお前らとは違う。チャレンジから逃げ、怠けて、なるべくして派遣になっただけのお前らと、自分の意志があってレールを外れ、努力と挑戦を重ねてきた僕は、まったく違う」

 機械の音がうるさいのをいいことに、独り言を繰り返す。せいくん、せいくんと、馴れ馴れしく自分を呼ぶ塚田の声が、頭の中で不快に鳴り響くのを振り払うため、ラインの外にいる作業者に聞こえないギリギリの声で、独り言を繰り返す。

 これまでの人生で積み重ねてきたものが何もなく、今、こんな掃き溜めのような場所で、大事な何かを探そうとしている塚田のようなヤツから対等の友人だと思われていることは、寺井にとっては、大きな屈辱でしかなかった。

 自分が今、この掃き溜めにいることが、嫌で嫌で仕方ない。ただの臆病者、怠け者の類でも、その不満を共有する者とだったら、いくらでも親しくなれるだろう。己の境遇を呪った上で、たとえ違法行為であろうが、現状を打破しようとする意志のある者になら、自分は欲得抜きの協力を惜しまない。

 はっきりいって、寺井は明るい笑顔で、人の二倍も三倍も働いてみせる塚田よりも、仕事では露骨に手を抜いてラインの足を引っ張り、体力を温存して家に帰ったのち、妙齢の女性を性的にいたぶっている村上の方が好きである。

 こんな掃き溜めの中に、キラキラ光る何かがあるなどと信じてしまえる奴らが、嫌いで仕方ない。友達だとか、女房だとか、そんな、誰しも持っているものを依存の対象にし、それを低位安定を良しとする言い訳にして、自分を失うもののある人間の側に置こうとすることだけに必死なくだらない奴らが、嫌いで嫌いで仕方なかった。

 こんな連中との人間関係など、まったくもって、大切ではない。こんな反吐が出そうな奴らとの絆を大切にしろ、などとほざいてきた真崎を地獄に叩き落としてやったことは、今でも後悔していない。

「誤解すんなよ。僕はお前たちを見下しているわけじゃない。反対に羨んでいる。いったいどうすれば、君たちのように、ただのくさいうんこを、これは茶色いケーキなんだと思えるのようになるのか、授業料を払ってでも教えてもらいたいくらいだ」

 そう、自分は羨んでいるのだ。こんな誰でもできるライン作業の世界に、大切にできる何かがあると本気で信じてしまえるこいつらが羨ましい。その志の低さが、羨ましくて仕方ない。

 誰それの手が遅い、誰それの仕事は雑だ。そんなことで一喜一憂して、得意げに胸を張ったり、相手を貶めた気になれるこいつらのことが、心底羨ましい。

「努力して報われない僕の人生に比べたら、怠けているから報われなかっただけのお前らの方が、よっぽどマシじゃないか。ただ生きるだけのことに、そこまで夢中になれるお前らが羨ましい。本当に羨ましいよ」

 だから、こいつらの気持ちなど、虫けらのように踏みにじれる。こいつらは自分より上だと思うから、ぐちゃぐちゃに踏みにじってやることに、罪悪感などまったく覚えない。

 それに――。

「心配しなくとも、僕があの作品を発表することによって本当にダメージを被るのは、本当に価値のある大切なものを持っている奴らの人生だけだ。お前らはまた新しい場所で、これまで通りの人生が続くだけ。ただ消耗し、使い捨てられていくだけの、何も変わらない日々が続くだけだ」

 呟きながら、寺井ははんぺんのラインで躍動する塚田に、もう一度視線を向けた。

「残念ながら、お前がいくら頑張っても、僕を止めることはできない。逆に、お前に僕が道を示してやるよ」

 枯れ果てて、追従することに慣れきった者たちと違い、お前には未来がある。

 これから大事なものを失うことになる連中と己とを見比べて、初めて持たざる者の気楽さに気付くがいい。自分を無理に、持てる者と同一視しようとすることの愚かさと虚しさを、骨身にしみて味わうがいい。

 探している大事なものが、そこでは永遠に見つからないことを嘆き、そしていつか追随せよ。

 矛で突いたところで、巨岩はピクリとも動かないが、爪痕は残る。それを自分自身がどう解釈するかが重要である。数千万の命を奪った独裁者の所業ですら、地球の裏側の人間にとっては、取るに足らない些事にしかすぎないのだ。誰を巻き添えにして、誰をどれだけ壊せたか、それでどれだけ、自分がスッキリできたか、大事なのはそれだけだ。

 糞みたいな人生にケリをつける――それを想像したことも、それをする意味も分からないヤツに、お前の汚い糞をひり付けろ。

「くそ・・?」

 ふいに耳に入ってきた、世の中の汚いものなど一度も見たこともないといった若い女の声が、寺井のささくれだった心を撫ぜた。

「あ?いや・・・」
 
「あの、寺井さん・・。今日から年末まで、私が笹かまのラインも見ることになったんで、よろしくお願いします」

 人手不足を理由に作業者に回された旧リーダーに変わって、塚田のいるはんぺんのラインと、リーダーを掛け持ちすることになった岡本涼子が、恭しく頭を下げてきた。

「おう・・・。よろしく」

 掃き溜めに鶴。この汚いものしかない場所で、女はいつだって、自分の希望だった。相手が同じ派遣で、手頃な容姿ならば、現状のまま親しくなってセックスする望みを恥ずかしげもなく探ってきたし、正社員、もしくは派遣でも美人ならば、こいつを堂々と口説けるように、一刻も早く世に出ようと、創作意欲を掻き立てる材料に使ってきた。

「そういえば、もうすぐクリスマスだけど、岡本ちゃん、彼氏と予定あんの?」

「え~。私、いま彼氏いないですけどぉ」

「マジ?僕、岡本ちゃん、普通に彼氏いると思ってたわ。ここの社員さんとかに、デート誘われたりしないの?」

「う~ん。ないですねぇ・・」

「なんだよ、だらしねえ男だちばっかだな。んじゃ、そのうち、僕が岡本ちゃんデート誘っちゃうわ」

「寺井さん、彼女さんいるじゃないですかぁ」

「ああ、そこら辺、僕、あんまり堅苦しく考えてないから。偉いわけでもないんだし、人生楽しまなきゃ。岡本ちゃんとデートできたら、僕ここの仕事も、もっとがんばっちゃうかも」

「あははは。考えておきますね」

 自分のせいで声を失い、歯を叩き折った女、希美のことを頭から消し去り、寺井は新しくリーダーとなった、岡本涼子に軽口を叩いた。

 生涯を一人の女に捧げる――然るべき立場のある者が言うならサマになるが、自分のような者が言ったところで、ただ単に、モテない事実から逃げているだけにしか聞こえない。

 多数の女とセックスする望みを探ることがモチベーションとなり、結果、この底辺から這い上がることができるなら、それは紛れもなく、自分の正式なパートナーのためにもなると信じてきた。

 その結果が、このザマだ。

 希美と出会って以来、女方面で得たたった一つの戦果――美しくもない中年女の腹の中にできた取返しのつかないものが、人生を終わらせる決断をさせた。

 生涯で、希美の次に身体を重ね合わせた女――志保は、いまは一子、信也を心の支えとし、信也の健やかな成長だけを考え、蛇蝎の如く忌み嫌う夫の庇護の下に留まり続けることを決めた。種を提供する役目を果たし、用済みとなった寺井には、もう見向きもしない。

「ねえ、確か岡本ちゃんってさ、バレーの選手だったんだよね」

「えー。そうですけど、誰から聞いたんですかぁ?」

「一年半前に僕が入ったころ、自分で言ってたじゃない」

「そんな前のこと、よく覚えてますねぇ」

「僕、仕事のことはすぐ忘れちゃうけど、キレイなお姉さんのことは、いつまでも覚えてるんだわ」

「仕事のことも、ちゃんと覚えてください!」

 生命力溢れる、真っ直ぐな若い女の笑顔は、生活と労働、そして夢を追い続けることに疲れ果て、すべてを終わりにしようとしている男の心も慰撫する。彼女の朗らかな笑顔の源泉が、若い女というステータスだけではなく、生活の安定と将来の不安から解放されていることにもあるのは、疑うべくもないだろう。

 十年前、自分はこの女と同じ笑顔を浮かべていた女を――。世の中の汚いものに、一度も出会うことなく生きていけるはずだった女を、汚わいに塗れた自分の人生に巻き込んでしまったのだ。

「ただいま・・・」

 家に帰れば、自分が巻き込んでしまった女の、変わり果てた姿を突き付けられる。

 希美の心に異変が起こっていることは、もう何年も前から気が付いていた。気づいていながら、放置した。希美の頭の中で、自分が欲して得られなかったものが胎動している事実を認めるのが怖かった。それが表に出てきてしまうのが怖かった。

 希美が自分に対し、罪悪感を覚えていることも知っていた。希美が何も言えないでいるのをいいことに、散々、好き放題を繰り返してきた。

 その結果が、このザマだ。
 
 数日前、希美が自らの歯を叩き折ろうとするのを抱きしめて止めたとき以来、希美は大丸食品の仕事に行くのをやめて、自宅で療養の日々を過ごしていた。

 郵便受けに溜まりに溜まった督促状――。希美が何かで作った、百万を超える借金を返すアテはない。どの道このままでは、二人の生活は立ち行かない。図らずも、退路はすでに断ち切られていた。

 眠っている希美を起こさないよう、ヘッドホンを付けてテレビを眺めながら、ワンカップを煽って早々と床に入る。日付が変わったころに布団から這い出て、眠気覚ましのシャワーを浴び、パソコンの画面へと向かう。人生で初めて撮った映画と同じ尺の、四十五分ものの短編映画は、もう、公開前の最終確認の段階にまで入っている。

 誰に何を言われようが、誰がどうなろうが、自分が行く道を行くのは変わらない。あいつらと一緒には、歩んでいけない。

「ごめん、希美と一緒にも行けない」

 君が変わらない僕を好きでいてくれるのは嬉しい。だけど、君が好きな僕は、僕の好きな僕じゃないから――。

 だから、サヨナラ。


                            ☆


 師走も後半に入り、日勤の社員は夜勤と一緒に、日付が変わるころまで働き続けているのが当たり前となった。派遣もほとんど全員が、午後九時までのフル残業に協力してやっているが、ただ一人だけ、寺井だけは例外だった。

「あ、寺井さん。キリのいいところで終わって、帰って休んでください。映画の脚本、書かなきゃならないんでしょ」

「あ?ああ・・・いいの?」

「はい。あとは、私やっときますから。頑張って有名になって、寺井さんの映画、スクリーンで観せてくださいね」

 時刻は午後八時。他のラインの派遣は全員が残って作業をしているが、寺井は新ラインリーダーの岡本涼子の言葉に甘え、一足早く上がらせてもらった。

「おはようございます、寺井さん。今日の生産数も昨日と同じなんで、よろしくお願いしますね」

 翌朝も疲れを感じさせない、朗らかな笑顔で寺井を迎える涼子であるが、彼女は昨晩は天辺を回っても働き続け、男性社員と一緒に会社に泊まり込んでいたことを、朝方、休憩室にいた真崎が話していた。

 労働市場での流動性を押し付けられる派遣社員が、常に経済的な不安に脅かされている一方で、管理的な業務を派遣社員にシェアできない正社員の肉体的精神的な負担が増え、超長時間労働化が進み、健康面が脅かされているという問題がある。

 正社員で過労死するまで働くか、派遣でゆとりの持てない暮らしを送るか。労働者階級の多くが、カレー味のうんこを食うか、うんこ味のカレーを食うかという選択を迫られている。

 と、悪い面だけに目を向ければそういう見方になるが、正社員が自分の仕事に本当に充実感を感じられているのならば、働かされすぎる心配など無用のものとなるし、逆に、派遣は派遣のままでいることで、ある意味「ぬるま湯」の中で楽ができ、時間についての希望もある程度聞いてもらえるという面もある。

 しかし、労働の損耗を最低限に抑えられることがメリットになるのは、労働の他にやりたいことがあるうちだけだ。管理的な業務を割り振られない派遣ではスキルの向上はまったく望めず、この先にステップアップすることはできない。

 こいつといつか肩を並べて、堂々と口説いてやる。そんな目標があるから、年下の女の指示で働いていることができる。

 それがなくなってしまったら、もう――。

「ねえ、せいくん。今日から僕、せいくんと一緒にお昼取ろうと思うんだけど、いいかな」

 昼休みになって、食堂に向かおうとする寺井に、塚田が後ろから追いついてきて、声をかけてきた。

「あ?ああ・・・・いいんじゃない」

 せっかく岡本涼子に早めに上がらせてもらっても、大詰めに入った映画製作のために睡眠時間が削られ、憔悴しきっている寺井は、塚田の問いに、適当に答えた。

「よかった。ムラさん、せいくん、一緒でいいって」

 希美が会社に来なくなってから、ランチタイムは一人で過ごしていたが、この日は塚田の呼びかけで、寺井は塚田と村上と、三人で食事を取ることになった。そしておそらくその流れは、寺井がすべてを終わらせるその日まで続くものと思われた。

 どうでもよかった。

「ムラさんが食べるようになってくれて良かったよ。食べないと元気でないもんね。あ、新メニューのコロッケ、すごい美味しいから、二人も食べてみなよ」

 村上は凜を自分の体重より重くするという、寺井の課した「クエスト」を達成した後は、普通に食事を取るようになっていた。それは大変結構なことだが、寺井が気になっているのは、一つの目標を成し遂げ、吐き出すものを吐き出した村上に、近頃、凜に対しての罪悪感のようなものが芽生え始めていることであった。 

「ね、ねえ、寺井っちゃん。やっぱり、その、リンリンのこと、放してあげた方がいいかな・・・」

 食事が終わり、連れだってトイレに行ったとき、村上が伏し目がちに問いかけてきた。

 同志の支持を得て勇気百倍、禁欲生活で野獣のようになって、思い切った行動に出たまではいいものの、所詮、根は小心者である。

 年末の繁忙期を乗り切り、全国の食卓におせち料理を届けるという「崇高」な目標に向かう塚田たちの姿を見せつけられた村上は、ただの私怨を晴らすだけの目的で、女を監禁する非道に手を染めた自分の姿が、何とも惨めなものに思えて仕方なくなっているのだ。

「解放して自首したって、五年はムショ送りだよ。だったら、シャバにいられる今のうちに、できるだけ長く楽しんだ方がいいんじゃないの」

「そ、そうかな・・・」

 野獣の食欲と性欲に一段落がついた男が、ピュアな奴らの熱気に当てられて、自分では何一つ決められない優柔不断な素顔が表れ始めた。志保と同じで、こちらも、魔法は解け始めている。「ゲーム」は潮時を迎えたのだ。

 しかし、映像には残る。この男の悪事も間もなく世間に公開され、自分の作品が派手に燃え盛るのに一役買ってくれるだろう。

「せいくん、岡本さんにマンツーマンで面倒見てもらってていいなぁ。僕も笹かまのラインが良かったな。ああ、でも、そしたら、今のみんなと離れ離れになっちゃうしなぁ」

「おいおい哲太。今がどういう時期かわかってるのか?色気づくのもいいが、せめて年が明けてからにしろよ」

「堅いなぁ信一さんは。そういうのだって、立派な働く理由じゃん。ねえ、せいくん」

 食事を終えて、休憩室で過ごす時間、寺井はリクライニングチェアに座りながら、スマホの画面上に表示される、完成間近の「作品」のファイルを、無言で眺めていた。

 こいつがいてくれるから、この、ゲロとクソをかき混ぜたみたいにべとついた慣れ合いの空気に、取り込まれないでいられる。「取返しのつかないもの」ではなく、今まさに産声を上げようとしている、自分の本当の子供の存在が、今の自分を懸命に支えている。

「あっ・・あ、せいくん、岡本さんが」

 まさに岡本涼子の話をしている最中に、憧れの岡本涼子が休憩所に入ってきて、塚田が口を開けたまま固まった。鬱陶しいことこの上ない。

 涼子は、緊張している塚田には目もくれず、休憩室を奥へと進んでいく。喫煙所で談笑している、直属の上司である課長に用があるようだ。

「はの・・あほやまかきょう・・・・」

 喫煙所の入り口に立つ涼子が、鼻をつまみながら課長の青山を呼ぶのを見て、休憩所の中がどっと沸きかえった。寺井の隣のリクライニングチェアに座る塚田は、目が蕩け落ち、顔は真っ赤っかである。鬱陶しいことこの上ない。

 河川敷で酒飲みをしていたころから、塚田が岡本涼子に恋心を寄せていることは何度も聞かされていたが、とうとうこの一年、この男が岡本涼子をデートに誘ったという話は、一度も聞いたことがなかった。高嶺の花と認識しているならしているで、今の立場から脱却し、涼子を堂々と口説けるようになろうと、なんらかの努力をしようとする姿も、一度として見なかった。

 好きな女がいても、そいつを無理に手に入れようなんて思わない。高嶺の花に手を伸ばすために、死に物狂いで浮上しようとも思わない。

 アイドルでもない職場の女の、ちょっと可愛いところが見られるだけで幸せである。そんなことで前向きな気持ちになり、自分の立場を納得して、今日も頑張って働こうと思える奴がいる。

「それでいいのかよ。そんなんで飼いならされるんじゃ、まるきり家畜と一緒じゃねえかよ」

 休憩室内の空気に耐えられず、寺井は缶コーヒーを買って、寒空の下、駐車場へと出た。

 近頃の塚田を見ると、無性なイラつきに襲われて仕方ない。

「好き勝手に言いたい放題、やりたい放題が、貧乏人の特権だろうが。もっと自分を表に出せよ」

 もし、表に出ているそれが本当の塚田なのだとすれば、余計に腹が立つ。若いヤツの出る杭を打って小さく纏めようとする真崎の理想をそのまま体現したような今の塚田に比べれば、まだ、誰に強制されることもない自分の意志で、十年間引きこもりの暮らしを続けていた時期の塚田のほうが見どころがある。

 十数年前の寺井が、我慢して、自分を殺して、好きでもない友人と付き合って、尊敬してもいない人を褒めたえるだけで滑っていられたレールを飛び出して、掃き溜めの中で、唾を吐きかけられながら生きることを選んだのは、いつまでも変わらぬ自分自身でいたかったからに他ならない。

 居ても居なくてもどっちでもいい存在。ここなら、誰にも押し付けられたりしないし、干渉されたりもしない。安定と引き換えに得た自由という対価に、自分はある程度納得していた。だが、満足していたわけではない。

 レールの上を走っている連中に受け入れられるために自分を変えるのではなく、いつか、自分自身の方を、レールの上を走っている連中に受け入れさせてやろうと頑張ってきた。奴らがある程度自分を受け入れてくれれば、自分の方も、少しずつ変わっていくものだと思っていた。

 でも、それは叶わぬ夢だった。自分は最後まで、掃き溜めの中から抜け出せなかった。積み重ねてきた努力の日々はすべて徒労になって圧し掛かり、自分をついに押し潰した。

 ゴミ捨て場に捨てられる産廃にだって、選択の自由はある。誰もが、たとえゴミ扱いでも、生きていられるだけでいいと考えられるわけではない。最後に自分を焼き尽くし、世の中に有害物質をまき散らして、跡形もなく消え去っていく方がいいと考えるヤツもいる。そいつを、これから世間に思い知らせてやる。

「気に食わねえ。マジで気に食わねえ。何もかもが気に食わねえ」

 今すぐにでも、目の前にとまっているトラックに乗り込んで、繁華街の歩行者天国にでも突っ込んでやろうかと思う。獰猛な衝動を寸でのところで抑えてスマホの画面を眺め、今まさに産声を上げようとしている自分の作品、自分の本当の子供に思いをはせる。

 年に一度は起こる、派遣社員の暴発。自分がこれからやろうとすることは、無差別に多くの人を傷つけたあの連中のやったことと、大差はない。

 ただ、奴らと違い、自分には志があった、地道な努力をしてきた、それを見てくれる人がいた。自分が世の中に一矢を報いようとするときは、自分の培ってきたものをフルに動員して、自分という人間が何者であったかを証明したい。

 昼休憩が終わり、脳を止めて身体を動かすライン作業が再開される。続けたところで何の蓄積にもならず、ただ摩耗していくだけの不毛な時間。これまでは、この時間を少しでも有意義に過ごそうと、作品の構想を練ることに使ってきたが、あともうすぐで、それもなくなる。

「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る・・っと」

 そこら中で機械の音が鳴り響く騒々しい空間では、退屈を紛らわせるための鼻歌も、周りの耳には届かない。こんな方法で、この脳が腐っていくような耐えがたい時間をやり過ごすこともできる。

「きーよーし・・こーのよーる・・・っと。はは。全部、最初の方しか思い出せないや」

 余計なことを考えるのをやめると、こんなところに、大切にできる何かがあると信じている愉快な奴らの、愉快な立ち振る舞いがよく見える。

 脇目も振らずに作業に打ち込んでるヤツ。隙あらばチクリを入れて上にいいカッコしようと、周囲に視線を巡らせているヤツ。いちいち無駄に声を張り上げて、周囲に自分の存在を誇示しようとしているヤツ・・。

「楽しそうな顔してやがる。もうすぐ、悪いサンタさんがやってきて、袋の中に詰めたクソとゲロで、みんなをぐっちゃぐちゃにしちゃうとも知らずに」

 ベタベタと生暖かくて、纏わりつくような奴らの手を、全力で跳ね除けろ。

 あともう少しで、すべてを終わりにできる。寝る間を惜しみ、骨身を削って作った最後の作品が完成し、ネットの海に流されるときが来る。

 
                             ☆

 十二月二十四日。恋人たちのための日。

 信也へ――最後の仕上げ、タイトルバックの挿入が完了し、寺井が人生を終わりにするための、四十五分もののドキュメンタリー映画は完成した。

 この映画を公開すれば、世間はあっという間に食いつき、各メディアでは連日連夜の報道合戦が繰り返される。まともな道で成功を志しても、これまで見向きもされなかった自分が、犯罪行為によって、世間の耳目を一身に集める。

 年に一度は起こる、派遣社員の暴発。まったくもって、珍しいことではない。食品に異物を混入させるという手口も、その映像をネットを利用して世間に公開するというパフォーマンスも、寺井のオリジナルではなく、先駆者に追随するものである。

 犯罪もビジネスと同じで、どれだけ大規模にやろうが、やることに新しさがなければ、世間は食いつかない。瞬く間に消化され、人々の関心は次に向き、その脳裏には何も残らない。

 寺井なりのオリジナリティは、卑劣な犯罪行為を、自分の手を汚さず、情欲を交わし、自らの子を産ませた女にやらせたこと。食品に混入された異物が、忌避される男の汚わいではなく、涎を垂らして吸いつくマニアもいる、女の体液であったこと。すべてを収めた映像に、父親が自らの子に向けるものではない、悪意の言葉を供に添えたこと。

 事件によってもっとも大きな傷を負うのは、まだ生まれたばかりの赤子、信也。その悲痛に世間は同情を寄せ、騒ぎはますます大きくなる。

 間男の仕込んだ子を受け入れてまで得ようとした正社員の職が幻のように消え、無責任なマスコミに己の最大の恥部を暴かれた真崎が、己と血のつながらない信也に、まともに向かい合う理由はない。信也を産んだ母親は、たった一人で、生まれた時点で重いハンデを抱えた子供を育て上げなくてはならない。

 よしんば、志保があらゆる艱難辛苦を乗り越え、信也を無事に大きく育て上げたとしても、実の父親の放った悪意の言葉は、ネットの海に残り続ける。親がどれだけ気を配っていても、この日本という国で、社会的なインフラにまで成長したネットに触れずに生きていくということは、不可能に近い。いずれ、知を身に着けた信也がそれに出会ったとき、彼は果たして、正気を保っていられるだろうか。

 取返しのつかないものが生き続ける世の中で、取り返しのつかないものを作った自分も、また生き続ける。

 これまで、貧困と自由、気楽は同義であるとして、自分の立場をある程度納得してきた。そんな男が、貧乏人に加えて前科者にまでなってしまったら、いったいどうなってしまうのか?失うものがないのに加え、未来の希望までもが消え去ってしまったとき、目の前に一体どんな光景が開けるのか?

 今までやりたくてできなかったことが、やりたい放題にやれるようになる。もう、踏み出そうとする足を止めるものはなにもない。例えるなら、これがあと五分で醒める夢だとわかったときのような感覚が、一生涯続くのである。

 目の前の女を犯すにも、恨みのある人間を殺しに行くにも、躊躇はいらない。その結果、たとえ絞首台に上ることになろうと怖くもないし、未練もない。

 すべてを終わりにしたその先には、無限の自由が広がっているようにしか、今の寺井には思えてならなかった。

 一日のうち大半を眠って過ごし、今も微睡みの中を揺蕩っている希美を横目で見ながら、マウスの左ボタンにかけた人さし指にぐっと力を込めた。この指をあと少し押せば、すべてを終わりにできる。

「・・・・・」

 ボタンを押そうとする指に力を込めると、マウスとの間に何かが割り込んできて、最後の一線を踏み越えるのを止めさせる。映画でやれば、三文芝居と叩かれてしまうようなシーンを、もう、一時間以上も繰り返している。

 失うものなど何もないはずの自分が、失うことを恐れている。滑稽で、未練がましい。誰でも持っているそれは財産とは呼べないはずなのに、捨てようと思えば簡単に捨てられるはずなのに、最後の最後にそれが人差し指の下に割って入ってきて、どうしても向こう側にいけない。

 出勤の時刻は迫っている。ここでもう一つ、自分の中に選択肢が生まれる。

 時間通りに会社に着き、始業の時刻を迎える。自分と出会わなかった希美――岡本涼子の朝礼を受ける。決められた作業を淡々とこなし、終業のチャイムを聞く。一日の仕事を終えた充実感に包まれながら家に帰って、缶ビールを開ける。いつも通りを、淡々と繰り返す選択が、人差し指の下に割って入ってきて、自分を止めようとする。

 そいつがぶっ壊れてもいいと思って、取返しのつかないものができるのを承知で、快楽の海に欲望の落とし子を放ったはずなのに。生まれた取返しのつかないものを利用して、死ぬほど嫌いなそいつをぶっ壊すために、一年の月日を費やしてきたはずなのに。

 生暖かくてベタ付いた手が、最後の最後で、どうしても振り払えない。

「・・くそがっ」

 ネットの海へと繋がるアイコンから、カーソルを外した。メールにファイルを添付し、今日の成果を、自分のスマホに送って家を出た。派遣先に向かった。

 マウスと指の間に割り込み、自分を止めたもの。それが何なのかを確かめに、あそこに行くことにした。何も変わらない日々の繰り返しに、もう少しだけ付き合ってやることにした。


                             ☆

  
 クリスマスイブの勤務は、ミーティングルームでの全体朝礼から始まった。

 壇上で熱弁を振るう工場の責任者。みんな疲れているのは知っているが、ここが正念場だ――。上の空で聞いていた寺井の耳にはそれしか入ってこなかったが、周りは責任者の演説で何やら奮い立ったらしく、社員も派遣も、いつにもまして活気づいているように見えた。

「伊崎さん、機械の調子がおかしいんで、見てもらっていいですか!」

「はいよ~、塚田くん。ちょっと待ってね」

 そんな、ちょっとしたやり取りにも、いつも以上の熱がこもっているように聞こえる。社員も派遣もない、正月の食卓におせちを届けるという崇高な使命に燃える連中の一体感が、作業場に充満していくように見える。

「そりゃ、洗脳だっつの。疲れて、思考力パンクして、なんかすごいこと言われたように思っちゃってるだけ。そういうのわかんないかね」

 毒を吐きつつも、寺井は衛生服の中に着たシャツのポケットに仕込んだスマホのボタンを、いまも押せないでいた。

 PCで製作したファイルは、そっくりスマホに移されている。ボタンをひとつ押せば、すべてを終わりにできる作品を、ネットの海に放流できるのに、人差し指とボタンの間に、何かが割り込んできて動かない。

 自分が憎んでやまない、何も変わらない日々、浮上の兆しもない日々に、どうしようもなく巻き込まれていく。終わりのボタンを押せないまま午前の勤務が終わり、昼休みのチャイムが鳴らされた。

 食堂に向かい、衛生服のポケットに仕込んだスマホを取り出して席に着く。左手の親指をボタンにあてがい、一押しで、すべてを終わらせる準備をしながら、黙々と食事を口に運ぶ。

「みなさん。部長さんから、クリスマスケーキの差し入れです。色んな種類があるから、みんなで相談して、選んでくださいとのことです」

 食堂に製菓店の包みを持ってやってきた塚田が、全員に聞こえるような大きな声で呼びかけた。

 派遣スタッフたちは食事の手を止め、ケーキの置かれたテーブルの周りに集まり、各々、好きなケーキを取って、席に帰っていった。

「ほら。せいくんも。甘いもの、嫌いじゃないでしょ」

「・・・・」

 塚田が持ってきてくれたチョコレートケーキを口に含んだ。ビターな甘さが染み入った。 

「こらぁ及川ぁ!お前、そりゃ信さんのだろうがぁ!人の物を取ったら泥棒って、小学校で習わなかったのかぁ!」

「いや・・・あ、あ、これは、真崎、さんが、俺に、くれると・・・」

「だからって、はいありがとうございますって、もらっちゃうのかぁ!こういうのは、みんなでじゃんけんして、決めるもんだろうがぁ!なあ、みんな!」

 牛尾の提案に、何人かの派遣スタッフが同意し、真崎が及川に譲ったモンブランを巡って、じゃんけん大会が始まった。

「あ・・あ・・・俺の・・・」

 モンブランを取り上げられた及川が、未練がましい目を、モンブランの戻された箱に向けた。

「やったーっ、勝ったーっ」

 見事、優勝の栄冠を手にした塚田が、堂々とした手つきで箱から取り出したモンブランを、美味しそうに頬張った。

 大の男たちが、ケーキ一つのことではしゃいで、取り合って――。

 食って、笑って――ただ生きるだけのことに喜びを見出せる人間たちの営みが、スマホのボタンと人さし指との間に、どうしようもなく割り込んでくる。

 不器用だけど、やるべきこともわかってないけど、時々、主張の仕方を間違えちゃうこともあるけど、それでも、とにかく生きている奴らがいる。できるだけ人の迷惑にならないよう、自分に与えられた仕事を、精一杯やっている奴らがいる。こんなところにあるはずもない大事なものを、それでもあると信じて探している奴らがいる。

「そいつらの邪魔をすることが、果たして許されるのか・・?」

 それでも、今さら後には引けない理由がある。この一年、骨身を削り、丹精込めて、自分の本当の子供を作ってきた。そいつにかけてきた自分の思いを、無駄にはできない。

 寺井は本来、作業場には持ち込み禁止になっているスマホ――「信也へ」と題した、自分の本当の子供である作品をネットの海に流すための装置を、衛生服の下に来ているシャツのポケットに仕込み、午後の作業へと向かった。 

 
                              ☆


 気温マイナス二十度を下回る冷凍室の中、材料の入った箱を、次々と台車に重ねていく。腕は軋み、足腰は悲鳴を上げる。気の遠くなるほど繰り返した作業を、気の遠くなるまで延々と繰り返す。

 何か、キッカケさえあれば、この繰り返しを終わらせられる。あともう少し、自分を周りの奴らより大切だと思えるキッカケと、自分を周りの奴らよりもクソだと思えるキッカケがあれば、このボタンを押せる――そいつがまだ見つからなくて、こんな不毛な作業を、まだ繰り返している。

「寺井さん。希美さんのことで聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか」

 事件の報道を読み上げるような無機質な声で話しかけてくるのは、希美と同じ粉物の倉庫で働く作業員、端本である。

「寺井さん。ずばり、あなたは希美さんを落とすとき、いきなりセックスをしたのですか。それとも、時間をかけてそこまで持っていったのですか。寺井さんお答えください」

 ほかの男と同棲中の女を、己のモノにしたいと思っている。ここまではいいとしよう。問題なのは、その女を攻略する方法を、当の同棲中の男に質問するという行為である。

「僕はこれまで、女性をいきなりホテルに連れ込もうとするのは、いけない行為であると思い込んできました。女性をふしだらな目でみるのは、女性に対し、大変失礼であると思っていました。しかし、インターネットで検索すると、最近の風潮は変わってきており、女性の方も、男女がセックスを目的とせずに二人で会うのは無意味だと思っている、ということが書いてありました」

 他人の気持ちなど考えずに、自分を貫き通す。多くの人間がそれをしたいと思っているし、それができれば、人生はバラ色になると誰もがわかっている。

 でも、そんな願望はほとんど叶わない。だから、どれだけ足掻いても自分は底辺から救い上げられないし、目の前にいる男も、精神を病んでしまっている。
 
「せっかく塚田が頑張ったのに、お前だけは、どうにもならなかったな」

「塚田さんのことは、今は聞いていません。それよりも今は、寺井さん、あなたから希美さんを救い出すことの方が大切です」

 冷凍庫は極寒の地であり、こんなところで長々と無駄話などしていたら、手足がかじかんで仕事にならなくなってしまうのは、誰でも知っている。自分だけがそうなるのならまだしも、他人を巻き添えにすることが許されないのは、工場で働く誰もがわかっている。それがよくわかっていても、他人の気持ちがまったくわからないために、それをしてしまう男がいる。

「なあ・・。人のことを思いやったら負けなのか?ちょっとでも、自分のやったことで誰かが傷つくと思っちゃったら、自分は幸せになれないのか?」

「寺井さんの言っている意味は、わかりません。僕は、希美さんを寺井さんから救い出さねばならないと思っています。僕は、平和主義者です。争い事は好みません。だから、寺井さんの口から、希美さんを僕に譲ると言ってもらいたいと思っています。寺井さん、どうか言ってもらえませんか。僕の手に、希美さんを委ねると。寺井さん、どうか決断してください」

「そうじゃねえよな・・。僕がただ一人で、ここからいなくなればいいだけだ」

 誰にでもできる簡単なことができないくせに、欲望だけは人一倍のヤツがいる。そいつが欲してやまないものを粗末にして、手が届きもしないものをずっと追い続けて勝手に疲弊し、周りを滅茶滅茶にしようとしているヤツがいる。

 正規の良品に混ざりこんだ異物同士が最後にかち合って、やっと答えが出せた。

「寺井さん。実は、僕は寺井さんと希美さんの住んでいるところを知っています。失礼を承知ながら、以前、後をつけさせていただきました。希美さんを苦しめ続けてきたあの家が、僕には敵に落とされて燃え盛るお城のように見えました。もし、ここで寺井さんが僕に希美さんを譲らないと言うのなら、僕は今度、あのお城に乗り込んで、希美さんを救い出すつもりです」

 救いようのないヤツ―――良品を不良品にするしかできない異物にお似合いの末路を、やっと見つけることができた。

「寺井さん。あなたはひょっとして、女性を理想化しすぎているのではありませんか。女性も男性と同じ人間です。一緒に暮らせば、だらしないところも見せるし、おならもします。あなたはそういったことを我慢できずに、希美さんに辛く当たっていたのではないですか。僕はそんなことはしません。僕は、希美さんがどんな姿になろうと、愛してみせます。寺井さんは、希美さんを僕に委ね、一人になって反省をし、それから、新しい女性を幸せにしてあげてください」

「お前も本当は、可哀そうなヤツなんだろうけどさ・・。でも、僕、やっぱり希美が好きだから」

 寺井は、材料置き場から拾った魚のすり身の箱を、端本の側頭部めがけてフルスイングした。

 マッチ棒のような身体の端本がもんどりうって倒れたところに、安全靴で踏みつけを食らわせた。頭を蹴られても、最初の一撃で、泡をふいて失神してしまった端本は目を覚まさない。

 倒れたところが、偶然、材料の陰に隠れて死角になる場所だった。ほかのラインの連中が補充のためにここを訪れても、人が倒れていることには気づかないかもしれない。

 氷点下十℃を下回る冷凍室に放置されれば、人間の身体は数時間も持たない。だから、サヨナラ。

 冷凍室を出る前、一度だけ後ろを振り返った。

「サヨナラ・・・」

 もう二度と戻れない、何も変わらない日々に別れを告げて、寺井は冷凍室を後にした。




       エピローグ




 拘置所の雑居房の中、日課の足つぼマッサージを終えた寺井は、自分に割り当てられたスペースから、ぼーっと窓の外を眺めていた。

 刑務所と違って作業のない拘置所では、日がな一日、とにかく暇を持て余す。将棋盤が空いているときは、房の誰かと将棋を指すか、一人で詰将棋。将棋盤が空いていなければ、留置金で買った週刊誌を読む。週刊誌を読み飽きたら、こうして空を眺める。そんなこんなで退屈を紛らわせながら、刑が確定するのを待つ日々を、のんびりと過ごしている。

「いってえな、バカ野郎!いちいち小突くんじゃねえよ。あ、お前、僕に嫉妬してんだろ。僕が羨ましいんだろ。そりゃそうだよな。だって僕は、お前みたいな臆病もんが、一生かかってもできない気持ちいいことを、リンリンにいっぱいしたんだから。リンリンのお腹はぽにぽにしてて、柔らかったぞぉ。おもちおなかを揉みながらさ、志保のミルクをそそいで食べるふんわりおっぱいが、美味いんだまた。これからリンリンに僕の赤ちゃん汁を注ぎ込んで、リンリンのおっぱいからミルクを出そうとしたのに、お前ら国家の犬が邪魔しやがって。お前らなんか犬のうんこと一緒だ。お前らみんなうんこなんだよ。このばーっか、ばーっか、ばーっか!」

 鉄格子の向こうから、寺井とほぼ、同時期に逮捕された村上の声が聞こえてくると、八畳の房に詰め込まれた六人の男たちが、一様に口元を綻ばせる。

 性犯罪は獄中ヒエラルキーの最下層で、拘置所、刑務所では恰好のイジメの的である・・・などという時代でもない。刺激に飢えた未決囚たちの間で、独特の言語感覚を持った村上は「スター」として扱われる人気者だった。

 それに引き換え、自分は過密収容された男たちの排泄の臭気を常に漂わせる便所に一番近いスペースをあてがわれる、房の最下位者。とはいえそれも、入った順番が新しいから、というだけのこと。

 ヤクザが幅を利かせているというわけでもないし、ホモに尻の穴を狙われるわけでもない。多少、姿勢を崩したところで、厳しく注意されることもない。食事は悲しいほど味が薄いが、腹が減っていれば、食えないほどではない。留置金の範囲内で、菓子や日用品を購入することもできる。

 ここが、最初から落ち着くべきところだったのだと考えれば、案外、悪くない。寺井は軽く伸びをした後、三日前に届き、雑誌と同様に何度も目を通した、塚田からの手紙を開いた。


 せいくん、ご無沙汰しております。身体は大丈夫ですか?だいぶ暖かくなり、汗も出るようになると思うので、今度、タオルとシャツを差し入れます。

 世間はまだ、ネットでもテレビでも、村上さんが起こした事件についての話題で持ちきりです。村上さんがどうしてあんな酷いことをしようと思ったのか、リンリンをなんで太らせようと思ったのか、僕にはよく理解できない世界だけど、友達だった人のことなので、できるだけわかるようにしたいと思っています。

 せいくんが端本を殴った事件については、希美さんを守るため、仕方なくやったという論調になっています。僕にできることには限りがあるけど、もし、証言台に立つ機会があれば、できるだけせいくんの苦しみを、裁判官さんにわかってもらえるように発言しようと思っています。

 次に、僕の近況について報告します。僕のことになんか興味はないかもしれないけど、僕はせいくんに自分を知って欲しいから、伝えさせてもらいます。

 あれから僕は、大丸食品の工場を辞めて、半導体を製造する会社で、正社員で雇用されることを前提に、紹介予定派遣で働き始めました。半年間、作業者として勤務すれば、費用は全額会社持ちで資格の試験を受けられて、それに合格すれば、正社員としてリーダーを任されるそうです。日勤と夜勤の交代制で、当直もあるし、身体はきついけど、ただの派遣と違って、未来を信じられる喜びがあるので、頑張れています。

 ほかのみんなのことも、簡単に伝えます。

 大丸食品の工場は、二週間の安全点検を終えた後に、無事に稼働し始めました。あれ以来、派遣会社では、スタッフのメンタルチェックを定期的に行うようになり、事件防止に努めるようになっています。

 すでに知っていると思いますが、端本は気絶した後、すぐに発見され、救急車で病院に担ぎ込まれ、無事に一命をとりとめました。後遺症もなく、一週間余りで退院し、せいくんへの恨みを口にすることもなく、別の工場で元気に働いているそうです。

 信一さん、及川さん、牛尾さんは、今でも大丸食品の、伊達巻のラインで働いています。相変わらず抜群のチームワークで、特に、正社員になった信一さんの張り切りぶりは凄いとのことです。及川さんが、牛尾さんのパチンコに付き合わされていることだけが心配ですが・・。

 信也くんはすくすくと育って、先月から、ハイハイができるようになったそうです。志保さんと信也くんと、三人で撮った写真を同封します(なぜか、信一さんは一緒に写るのを頑なに嫌がります・・)。

 リンリンは、新潟県の実家に帰って療養しているそうです。もう、辛い思い出のあった大丸食品での知り合いとは口も聞きたくないだろうけど、また良くなって、外に出られる日がくればなぁ・・と、僕は祈っています。

 あれから僕もニュースを観たり、簡単な労働関係の本を読んだりして、せいくんに教えられたことの意味を考えるようにしています。

 世の中の構造は、無知な人を食い物にするようにできていて、何も考えずに働いていると、安いお金でボロボロになるまでこき使われちゃう。これまでニートの暮らしが長かったことを、ずっと気にしていたけど、そういうことも引け目に感じる必要はないんだ、社会と自分とは対等なんだと思って、できる限り、自分の得になるような道を探していこうと思っています。

 もちろん、社会に必要とされるために、自分を磨くことも、忘れちゃいけない。いま、高卒認定の資格を得るために勉強をしているけど、それをやるようになって、せいくんの気持ちがわかりました。

 今より良くなろうって努力しているせいくんに対して、今の環境を幸せだと思い込もうとしてる僕が、対等の友人のように振舞っていたのが、ずっとイヤだったんだよね。

 これまで、家で机に向かうという習慣がなかったから、勉強はとても苦しいです。でも、せいくんはずっとこれを頑張っていたんだと思って、自分も頑張るようにしています。努力って、必ずしも素晴らしいことでもないと思うけど、それでも、頑張るしかないんだよね。

 人生のどこかで、満足しなきゃいけないときは来ると思う。でも、それはもっとずっと、先の話。せいくんみたいに頑張れるかはわからないけど、僕もできる限り、気持ちを強く持って、自分の信じた道を行こうと思います。

 来週か再来週には、面会と差し入れに行きます。せいくんが出てきたら、また、あの河川敷で一緒に、お酒を飲みたいな。楽しみしています。

 てっくんより。

 
「くっ。何がてっくんだよ」

 寺井は苦笑して、折りたたんだ手紙を自分の私物入れに保管すると、頭の後ろに手を回して、冷たいコンクリートの壁にもたれかかった。

「なんというか・・。それでいいのかね」

 あれから、三か月あまりの月日が過ぎた。

 塚田の手紙に書かれていた通り、世間では、殺人未遂の疑いで逮捕された寺井が、警察の取り調べですぐにゲロッた村上の監禁事件の方がメインとして扱われ、寺井の事件は、村上の事件のオマケのように扱われていた。寺井が本来思い描いていた計画とは、ちょうど逆の構図となった形である。

 最後の最後、どうしても他人を巻き込めなくて、土壇場で決意を翻した。だけど、振り上げた拳をただ下ろすこともできなくて、そのときたまたま目の前にいた端本に、すべてをぶつけて終わりにした。

 当初、やろうとしていたことに比べれば、中途半端で消化不良、あまりにもお粗末な結果。だが、どういうわけか、世間は自分の最後の決断を好意的に受け止め、周りが勝手に、自分に同情が行くようなストーリーを作ってくれている。

 最大の争点となったのは、殺意の有無。端本を殴ったのは発作的で計画性はなくとも、そのあと、極寒の冷凍庫内に、気絶した端本を放置したことについては、明確な殺意が認められるのではないか。

 だが、それもどうやら、自分の女をヤラれそうになり、侮辱された怒りに駆られて、冷静な判断が利かなくなっていた、殺意はなかった、ということで、裁判の決着はつきそうである。

 端本をぶん殴って冷凍室を後にしたとき、完全に失ったと思った何も変わらない日々が、どうやらあっさり戻ってきそうな雰囲気になっていた。

「ほんとに、それでいいのかね」

 志保が伊達巻に母乳を振りかけている決定的瞬間を目にした者たちは、誰も真実を口外しようとしなかった。結果的には、寺井のせいで牢屋送りになった村上までもが、寺井を道連れにしようという気を起こすこともなく、寺井の裁判を不利に動かすことのできる事実をひた隠しにしている。

「こいつかぁ。こいつが希望なのかな」

 自分がやらかした取り返しのつかないことを知っている者たち誰もが、秘密を墓場に持っていこうとしているのは、寺井の手の内にある写真の人物――信也のことを思っているからなのだろうか。

 時代の激流に押し流され、落ちぶれて、かろうじて網の目に引っ掛かっている連中。これまでの人生、全然いいことなかったけど、それでも、未来はきっと良くなると信じてる。この子が大きくなるころには、自分たちもきっと良くなってると信じてる。この子には自分たちと同じような辛い思いをさせないよう、少しでもいい世の中にしようと思っている。

 いつかこの子にも、真実と向き合わなくてはいけないときが来る。だけど、それは今ではなく、ずっと先の話。そのときに感じる傷の痛みを、できるだけ小さくしてやりたい。だからみんなで、優しい嘘をついてあげる。

「そんなにいいかね。子供ってやつが」

 自分の作った取り返しのつかないものが、自分が滅茶苦茶にしようとしていた連中に、希望を、光を、勇気を与えている。なんとも不思議な気分である。

 自分を愛せない者は、自分の分身を愛せない。それは今も変わらない。それなのに、何も変わらない日々を終わりにしたくて作り出し、利用しようとしたものは、自分に、何も変わらない日々を取り戻させようとしてくれている。そのことに、自分はどう答えたら良いのだろう。

 もう封印していたはずの本能が、ムズムズと湧き上がってくる。寺井は塚田の手紙をもう一度取り出し、裏に鉛筆で走り書きを始めた。

――あのとき、ボタンを押さなかったことが、自分の人生にとって、本当に正解だったのかはわからない。だが、あのとき自分の指を止めたのが、人として正しい感情だったのはわかる。しかし、正しいということに、どれだけの価値があるのかはわからない。

――あの、人の脂でベトついた「和」の中に入っていかなきゃまともには生きていけないこんな世の中は、どうしても好きになれない。しかし、幾つになっても和の中に入っていけない異物のまま、好き勝手に滅茶苦茶やりたい放題、そんな男が何とか生きていられる、そんな世の中がここにしかないのも、また事実。

――その確認ができた意味で、あの映画を撮り、結果破棄したことは、よかったのかもしれない。

「・・・なわけ、ねえだろ」

 今度は自分自身に苦笑し、書いた文章を消してから、寺井は塚田の手紙と信也の写真を私物入れに仕舞った。

 面会の時間が近づいている。鏡の前に立ち、顔を洗い、手櫛で髪を整え、身だしなみを整えた。

 腰縄をかけられて、担当の刑務官に連れられ、房を出た。階段を下りるとき、小柄でずんぐりした女の刑務官とすれ違った。口笛を吹いて囃してやりたくなるのをぐっと堪え、廊下を先へと進んだ。

 この世の異物にも、希望と勇気の光はある。一緒に歩いてくれる人がいる。

 誰しも通り過ぎる青春の一ページ、すべてが壊れた一人大震災。生きるのが嫌になった、すべてを呪った。レールの上から外れて戻れなくなり、あてどもなく彷徨っていた。

 瓦礫の中でみつけた希望――出会ったあの頃を思い出して、寺井の鼓動は否応なく高鳴った。

 これからも、何も変わらない日々を、一緒に過ごしたいと言ってくれる女がいる。それが、人生すべてを納得できるほど素晴らしいものだとは、自分にはどうしても思えないが、彼女がそれでいいというなら、できるだけそうしようと思う。

「・・おあよう、誠也さん」

 アクリル板越しに、出会ったころと少しも変わらない、一重瞼で、眉の手入れもしていない、ガチャ歯のとてもキュートな笑顔が、寺井を迎えた。

 

 
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感動しました

寺井の心の変化、塚田の成長がとても意外で、いい意味で予想を裏切られました。
バッドエンドを期待していたのですが、今読んで爽快感でいっぱいです。今までの小説で一番好きです。

お久しぶりです

最終話感動しました。希美は名前の通り希望そのものっていう気がします。一重まぶたの世間的には美人ではない顔に可愛さを見いだしてくれる寺井に愛を感じます。希美は寺井の才能に、寺井は希美の心の綺麗さに惹かれたんですね。まあ、裏切りもあって、希美も完全な清純派?寺井さん思いでもないですけど・・。寺井さんの立場と気持ちを粉々にしてしまうシナリオの才能じゃ酷いですね。あとパチンコ依存借金はやばい・・そこはそんなに寺井さん気にしてない?でしょうか。

寺井さんに最後の優しさがあったことに安心しましたし、寺井さんの才能を考えたら自爆テロのような行動はもったいないとやはり思います。

個人的に身勝手な中年女志保さんは嫌いじゃないです笑 こういう女の人はシングルマザーとしてはいい母として生きれそう。でも寺井さん的には真崎が父として責任取らされる方が飯がうまいって事かな。

塚田も純粋真っ直ぐ系の痛い人で嫌いじゃないです。でも寺井さんからしたらうざ・・、くらいのものでしょうね。

No title

寺井と塚田の関係が物語の進行につれて変化していく構成が良いですね。
塚田は浮き沈みありながら継続して変化しているのに対し寺井はずっと同じ状態で最後に大きく変化していますね。
皆でケーキを食べる所が印象的ですね。
普通なら何気ない光景でしょうが冷めた態度を取りつつも寺井の心境が変わり始めていますね。
寺井がスマホのボタンをすんでの所で押さなかったのは何が理由だったのかを考えてみると様々な解釈ができるので面白いです。
冷凍室で端本を殴って完全に終わりにしようと思っていた寺井は予想外の結果になってしまいましたね。
心底嫌だった何もない日々から抜け出したくて覚悟を決めたのにまた以前と変わらない毎日を寺井がどう感じるのか気になりますね。
最後の面会の場面が塚田ではなく希美なのが結びとして素晴らしいです。
長編連載ありがとうございました。

破滅的なラストを期待していたのですが、良い意味で期待を裏切られました。塚田は正直意外でしたね。あのまま潰れてしまうような感じがしたので。結局ボタンを押さなくて良かったのかどうかは寺井自身もわかっていないとは思いますが、寺井の中では踏ん切りがついたようなので、押さなくて結果的にはよかったですね。

希美はいい子ですね。寺井が惚れ込むのもわかります。寺井にとってはまさに希望だったのかもしれません。

塚田は完全に終わったと思いましたが、よく立ち直りましたね。予想外でした。
結果、リンリンが一番の被害者ですかね。次いで村上、その他の人間はハッピーエンドですかね。
及川はまだしも端本とは本当に関わりたくないですね。
真崎みたいな人種にはもっと不幸になってほしかったです。
最後の場面、希美の笑顔が寺井のわずかな希望なのでしょうね。


No title

 かなえ さん

 塚田と寺井を軸にして進めていく中で、最後はこの二人を対決させるというのはずっと考えていました。物語は対立構造があってこそですが、犯罪小説にありがちな謀略戦ではなく日常の中で互いの主張をぶつけるという形での戦いこそが今後自分の持ち味になるかもしれないと手ごたえはありましたね。派遣の世界からもこぼれそうなギリギリの人、男女の対立というテーマも途中で入れてみましたがこの辺りを大胆に削れば300枚ものにも仕上げられそうですね。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

No title

 あやかさん

 完璧な美人よりも並み程度に魅力を感じるというのは私が作品を通して主張していきたいところですね。一重瞼でもいいし、ぺちゃ鼻でもいいし、ガチャ歯でもいい、それが全部合わさってるくらいでもいい。美人でないことが奥ゆかしさに繋がっているなら最高ですね。逆に、神山みたいに性格がひん曲がってる可能性もあるので注意が必要ですが・・。

 シナリオの件はalways三丁目の夕陽にも似たようなエピソードがありましたが、まあプライドズタズタになりますよね。希美が悪いわけではないんですが、悪いわけではないだけにタチが悪いというか。借金はまだしも、パチンコ依存の方は治すのが大変でしょうね。まぁ、お互いにどん底まで堕ちたことで、案外前向きになるかもしれませんが。

 志保のような女に個人的には魅力は感じませんが、真崎のような男と長年一緒にいれば刺激に飢える気持ちもわからなくはないかもしれません。それほど私が真崎のような人間を嫌いなだけかもしれませんが・・。

 塚田は痛いところもありますが、別に迷惑になるような人間ではないので、自分の痛いところを気にしないで突っ切ることですね。内なる敵にさえやられなければ、幸せな人生を送れるタイプでしょうね。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

No title

seasky さん

 あしたのジョーの涙橋じゃないですけど、所得の低い人たちが食べて飲んでわいわいやってる感じは最後に描きたかったですね。ただ食べて生きることだけを大事にできる塚田と、そんな人生はクソだと思う寺井が最後にどこで落としどころを付けるか、考えていく中でこういう結末になりました。

 塚田は寺井の心境に影響を及ぼしましたが、心底まで分かり合えるかといったらそれは難しいでしょうね。創作というものを長年やっていると、抽象的な観念を持たない人との間に隔たりを感じます。塚田は良くも悪くも目の前のことしか見えませんからね。塚田と打ち解けて締めというのは考えられませんでしたね。

 これからも何も変わらない日々が続いていきますが、寺井が納得することは最後までないでしょう。20代や30代で納得してはいけないものですし、それを人に押し付けるのはもってのほかです。創作を続けるのか、別の道を探すのか、その辺ははっきりとは書かずに終わらせることにしました。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

No title

 GGI さん

 今回は群像劇ということでみんながある程度納得のいく終わり方がいいのかなと思いました。テーマの中に説教という行為に対する否定というのが入っているので、ドラマとかでありがちな、これから犯罪行為をやらかそうとしている人間を周囲が説教し止めるみたいな感じにはしたくなく、塚田と寺井の内なる闘争という結末にしてみました。

 寺井が本来の計画を遂行した方が良かったのか、そうでなかったのはカンタンに決められる問題ではないですね。真綿で首を絞められるような生活がこれからも続いていくのは事実ですし・・。派遣生活というものを長年やっている身からすると、これが100%幸せな結末だとは思って欲しくないところです。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

No title

まっちゃん さん

 端本は可哀想は可哀想ですけどね。こういう人は案外、少年時代に一度犯罪を起こして、少年院でソーシャル・スキル・トレーニングを受ける機会があった方がいいかもしれません。問題が表面化しないといつまでも放置されるということもあるので・・。

 真崎みたいなヤツはどんな環境でも一つでも逃げ道を見つけられればポジティブになれるもので、完璧に追い込むのは難しいのかもしれませんね。説教野郎たちは一人残らず苦しんで死んでほしいですけどね。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

小説完結お疲れ様でした。今回の小説の感想はとにかく読後感が良かったことに尽きると思います。寺井の心の葛藤が丁寧に描写され、スイッチを押すのか押さないのかというのが独特な言葉で表現されていてぐいぐい引き込まれました。エピローグでは生まれ変わったような塚田といろいろ納得しきれてはいないものの何かを信じてみようと思った寺井の姿に読んでいてさわやかな気持ちになりました。新作も楽しみにしています。

No title

ばかがいこつ さん

 最終章のテーマは周りを巻き添えにしてすべてを終わりにしようとする寺井の前に立ちはだかる塚田というものですが塚田単体ではなく涼子(寺井と出会わなかった希美)とか入れてみたことで個人的にはよくなったかなと思っていますね。納得できてはいないが受け入れてみようと思う心境まで持っていくには拘置所までは行った方がいいんじゃないかと思いました。全体を通して派遣労働者という人種を丁寧に描けているという感想になってくれればうれしいですね。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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