犯罪者名鑑 畠山鈴香 4


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 メディアスクラム


 警察の大捜査の結果、豪憲君の遺体は、事件の翌日、近所の藪の中から発見されました。

 警察は豪憲くんの首に、抵抗した際にできる策条痕が見つかったことから、死因を何者かによる絞殺と判断。すでに事故として処理した、彩香ちゃん事件も含めて捜査を開始します。

 当初、鈴香は米山さんの家に、「子供を失くした親同士、助け合っていきましょう」などと、励ましの手紙を送るなど、被害者を装う行動を取っていました。しかし、この時点では、豪憲くんの父、勝弘さんを含め、近隣住民の誰もが、鈴香に疑いの目を向けるようになっていました。

 小さな田舎町で二人の子供が相次いで命を落とすという事件を嗅ぎつけたマスコミは、大規模な「メディア・スクラム」を組んで、能代市を訪れます。今でも当時の動画がみられますが、黒服の男たちが寄ってたかって鈴香や鈴香の家を取り囲み、取材攻勢をかける姿に、近隣住民は「ヤクザの抗争みたいだ」と感想を漏らし、子供たちはずっと怯えていたといいます。

 現場には、大量の弁当の殻やタバコの吸い殻が捨てられているなど、報道関係者のマナーの悪さは目に余るものがありました。

 このように、まだ容疑が確定していない事件を面白おかしく騒ぎ立てるマスコミの悪質な報道は、和歌山毒入りカレー事件などでも見られました。無実の父を犯人だと決めつけるような報道がされた香川・坂出三人殺害事件などは、メディア・リンチともいうべき、卑劣な犯罪行為といえるでしょう(みのもんたの苦虫を嚙み潰したような顔が、今でも印象に残っている人は多いはずです)。

 鈴香は自分を犯人と決めつけるようなマスコミに怒りを顕わにしていたようでしたが、あるいは、注目されることに喜びを感じていたのでしょうか。

 豪憲くん殺害からおよそ半月後となる、六月四日。鈴香はとうとう逮捕され、大勢の警察とマスコミに取り囲まれながら、能代署に連行されていきました。

 警察の取り調べで、鈴香はすぐに豪憲くん殺害を自供。また、当初事故として処理されていた、彩香ちゃんの殺害についても認める供述を始めました。


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 真相



 鈴香の供述により明らかとなった、彩香ちゃん殺害事件の真相は、以下のようなものです。

 2006年4月6日夕方、突然、「サカナがみたい」と言い出した彩香ちゃんを、鈴香は車で、藤琴川にかかる大沢橋の上に連れて行きました。

 大沢橋はサクラマスの絶好の釣り場だということを、かつて、釣り具店に勤めていた鈴香は知っていました。しかし、もう辺りは薄暗くなっており、橋から見下ろしても、川を泳いでいる魚がみえるはずもありません。鈴香は「また連れてきてやるから、もう帰ろう」といいますが、彩香ちゃんはいつまでもダダをこね、橋の欄干から川下を見つめたまま、いつまでも離れようとしません。

 苛立った鈴香は、彩香ちゃんに、「川がみえにくいなら、欄干にあがれば」と提案しました。そのようなことを言った目的について、鈴香は、「欄干に上がるのは怖いから、家に帰ることに同意するはずだと思った」と語っていますが、鈴香の意に反し、彩香ちゃんは鈴香の言葉を真に受け、本当に橋の欄干にあがり、腰かけてしまいました。

 ここからの、「殺意の有無」というのが、事件の焦点となっていきます。鈴香の当初の主張は、鈴香は「彩香ちゃんが誤って川に落ちた」というものでしたが、警察の取り調べを受ける中で「欄干に上った彩香ちゃんの背中を押した」と、殺害を行っていた事実を認めます。しかし、裁判となると一転、「彩香ちゃんが誤って落ちた」と、再び殺意を否認するようになります。

 警察がしばしば強引な取り調べを行うことはよく知られており、意志薄弱な鈴香が、誘導にハマって調書にサインをしてしまったということは十分考えられます。鈴香の言う通り、彩香ちゃんは事故死であった可能性も考えられますが、裁判所が出した結論は、「殺害はあったが、殺意は衝動的なもので、計画性はない」というもので、殺害の事実は認められることになりました。

 しかし、そうだとすると、もう一つの疑問が残ります。

 大沢橋は地上から8メートル上にかかっており、数年前、この大沢橋から、自殺目的で飛び降りた男性は、川底に打ち付けられて即死であったということでした。しかし、同じ高さから落下した彩香ちゃんの遺体からは、目立った外傷が発見されなかったのです。さらに、大沢橋から彩香ちゃんが発見された現場までは数十メートルの距離があり、そこまで川を下ったのだとするのなら、擦り傷や切り傷があるのが自然です。

 彩香ちゃんは本当に、大沢橋から落ちて死んだのでしょうか?

 不自然な点も残りましたが、「大沢橋の欄干に自らの意志で上った彩香ちゃんの背中を鈴香が押し、落下した彩香ちゃんは溺死し、発見現場まで流された」というのが、事件の最終的な結論となりました。


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 騙し討ち


 鈴香の裁判が開始されましたが、当初から、鈴香の供述は二転三転し、裁判官は苦労を強いられます。

 すでに述べたように、争点となったのは、「殺意の有無」。彩香ちゃん殺害は、本当に鈴香の仕業であったのか。裁判では、模型なども用いられ、犯行時の様子をできるだけ詳しく再現しようとする試みが行われましたが、鈴香本人の記憶も曖昧になっている部分もあり、この件は結局、冤罪説も拭えない消化不良の結末を迎えてしまいました。

 一方、豪憲君殺害事件の方は、鈴香の犯行で間違いないということが、第三者にも納得のいく形で立証されました。

 被害者遺族である米山さんは、裁判での鈴香の態度に、非常に腹を立てていました。私の記憶にも、豪憲くんの名前を「ごうげんくん」と、濁った発音で言う鈴香の姿が残っています。悪気なく人を傷つけるタイプであったのかもしれません。

 鈴香は拘置所の中において、精神鑑定の一環として、自分の率直な心境を綴った日記を書いていました。その内容が、どういうわけかマスコミに流出し、裁判での鈴香の心証を著しく悪いものにしてしまいます。

―豪憲くんに対して後悔とか反省はしているけれども悪いことをした罪悪感というものが彩香に比べてほとんどないのです。ご両親にしてもなんでそんなに怒っているのかわからない。まだ二人も子供がいるじゃない。今まで何もなく幸せで生きてきてうらやましい。私とは正反対だ。よかれと思って何かしていても裏目に出てしまった。正反対の人生を歩いて羨ましい。そう思って悪いことなんだろうか?

 検事はこの日記の内容をもちだし、鬼の首を取ったように鈴香を責め立て、豪憲くんの遺族も深い憤りをあらわにするのですが、そもそも、なぜこのような日記が簡単に流出してしまったのでしょうか。精神科医がマスコミや、あるいは検事から何らかの騙し討ちにあったのかもしれませんが、それにしても、あまりにもお粗末な話です。

 精神科医は、この日記が表に出ることで、どのような影響があるか想像できなかったのでしょうか?もし、精神科医が自らの意志でマスコミに日記を公開していたとしたら大問題で、守秘義務違反にも当たるはずです。

 あの光市母子殺害事件でも、同じようなことが起こりました。

 犯人、福田孝之は、拘置所で親しくなった友人と手紙のやり取りをしていました。最初のうちは、とりとめのない日常会話で、自分の起こした事件への反省の弁も書き連ねられていたのですが、互いに気の置けない関係になると、持ち前の浅はかな性格が現れ、内容が過激なものになっていきます。


『誰が許し、誰が私を裁くのか・・・。そんな人物はこの世にはいないのだ。神に成り代わりし、法廷の守護者達・・・裁判官、サツ、弁護士、検事達・・・。私を裁ける物は、この世にはおらず・・・。二人は帰ってこないのだから・・・。法廷に出てきてほしいものだ・・・何が神だろう・・・サタン!ミカエル!ベリアル!ガブリエル!ただの馬鹿の集まりよ!』

『知ある者、表に出すぎる者は嫌われる。本村さんは出すぎてしまった。私よりかしこい。だが、もう勝った。終始笑うは悪なのが今の世だ。ヤクザはツラで逃げ、馬鹿(ジャンキー)は精神病で逃げ、私は環境のせいにして逃げるのだよ、アケチ君』

『犬がある日かわいい犬と出合った。・・・そのまま「やっちゃった」、・・・これは罪でしょうか』

『五年+仮で8年は行くよ。どっちにしてもオレ自身、刑務所のげんじょーにきょうみあるし、速く出たくもない。キタナイ外へ出る時は、完全究極体で出たい。じゃないと二度目のぎせい者が出るかも』

『選ばれし人間は人類のため社会道徳を踏み外し、悪さをする権利がある』←『罪と罰』の引用らしいですがね

(死刑判決を免れて)『勝ったと言うべきか負けたと言うべきか?何か心に残るこのモヤ付き・・・。イヤね、つい相手のことを考えてしまってね・・・昔から傷をつけては逃げ勝っている・・・。まあ兎に角だ。二週間後に検事のほうが控訴しなければ終わるよ。長かったな・・・友と別れ、また出会い、またわかれ・・・(中略)心はブルー、外見はハッピー、しかも今はロン毛もハゲチャビン!マジよ!』

(被害者の夫、本村氏について週刊誌の実名報道を踏まえて)『ま、しゃーないですね今更。被害者さんのことですやろ?知ってます。ありゃー調子付いてると僕もね、思うとりました。・・・でも記事にして、ちーとでも、気分が晴れてくれるんなら好きにしてやりたいし』

 
 この手紙が交わされた当時、友人はすでに出所していたのですが、執行猶予期間中でした。長引く裁判を有利に進めたい検察の命令があったのでしょう。このとき、別件で訪れた警察が、会話の中で、さりげなく友人に、「福田孝之の手紙を一枚、提出ほしい」と頼みます。

 強制的なものではありませんが、断ればどんな難癖をつけられて、執行猶予を取り消されるかわかりません。また、友人はもともと精神が不安定で、このときはたまたま、余裕のない状態にあり、「どうせ、それほど大事にはならないだろう」と安易な考えで、福田孝之の手紙を警察に渡してしまいました。

 結果――裁判において、手紙は「福田孝之がまったく反省していない」ことを証明する材料として使われ、裁判官の心証を著しく損ねる結果となりました。

 確かに、福田孝之の手紙の内容は被害者遺族にとって許しがたいものではあります。しかし、だからといって、こういう騙し討ちや、裏取引のような形で巻き上げた私的な手紙を、公式な裁判の場で持ち出すようなやり方は、やはりよくないと思います。罪を犯した者には、誰かと本音で語り合う権利もないというのでしょうか?

 日本やアメリカという国では、「悪いことしたヤツには何をやってもいい」という考え方がまかり通っていますが、公正を重んじる司法の場が「なんでもあり」になってしまうのは、問題ではないでしょうか。

 福田孝之と手紙のやり取りをしていた友人は、この件で激しく精神を病み、通院を余儀なくされるようになってしまいました。

 こんな手紙を公開することが、果たして被害者遺族のためになったのでしょうか。頑強に抵抗を続ける死刑反対論の弁護士を批判する意見もありますが、私はそもそも、反省どうこうを過剰に判決に反映させようとする日本の裁判に問題があると思います。基本的に、罪人に反省などは期待できないものとし、事実関係のみでドライに判決を下すという方向には持っていけないものなのでしょうか。

 彩香ちゃん事件がうやむやの形で終わってしまったこともあり、判決は、子供を二人殺害した罪としては軽いといえる無期懲役が下され、鈴香は女子刑務所へと送られました。

 女子刑務所のヒエラルキーは、子殺しが最下位です。刑務所の中の鈴香は、いったいどのような扱いを受けているのでしょうか。


 総括:畠山鈴香は、幼い子どもを殺す許されざる事件を起こしました。しかし、私は畠山鈴香という女が根っからの悪人であったかというと、そうではないと思います。

 本人の生育環境を抜きにして考えれば、悲しい事件が起きた一番の原因は、子供を育てる力のない女が、子供を持ってしまったことにあると、私は考えます。

 育てられないのなら、手放すのも愛情。鈴香にこれを言ってあげる人はいなかったのでしょうか。もしいたとして、鈴香はなぜ手放せなかったのか。

 事件に対し、少なくない数のシングルマザーが、「鈴香の気持ちもわかる」と、共感を示していました。そこで踏みとどまるか、踏み越えるかは大きな差ですが、「一瞬、我が子がいなければ」と思った経験は、多くの親があるということです。

 日本は欧州に比べ、子を持つ貧困家庭への援助があまりにも遅れています。子供を育てるのも自己責任と突き放す国に、果たして未来はあるのでしょうか。

 畠山鈴香 完
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No title

この事件は不可解な部分がありますね。
彩香ちゃん殺害事件は謎が多いですね。
鈴香の供述通り彩香ちゃんが誤って川に落ちたのなら完全に事故ですから誰かに殺害されたと騒ぐことはしなかったでしょうしそんなことをしておきながら事故だったというのですから完全に嘘を吐いていると思われても仕方ないと思います。
もしかしたら鈴香は彩香ちゃんの背中を押したことにされてしまった可能性もなくはないですね。
事件について考えていけば冤罪事件なのではと疑ってしまいますね。
大沢橋からの落下で小学生の彩香ちゃんの遺体に傷がないのはどう考えてもおかしいでしょう。
なぜ事件現場は大沢橋ではなくそこから川を下った場所だったと断定しなかったのでしょうか。
何が真実なのか混乱してしまいますね。
鈴香の日記は精神科医が絶対に漏らしてはいけないものですよね。
それを裁判の場で読み上げられるのですからたまったものではないでしょう。
鈴香も相当心が傷付いたでしょうね。
判決に関しては死刑になったかもしれない事件ですね。
そもそも鈴香は逮捕されることすらなかった展開もあったわけですから異質な事件ですよね。
鈴香自身自分の能力を分かっていればとは思ってしまいますね。
誰かに頼ることもできたのにそれをしなかったのは自分の力だけで子育てが出来ると思っていたのかもしれないですね。

マスコミがまだ容疑が確定していない人を犯人だと決めつけるような報道をして世間を仰ぐのは良くないですね。
彩香ちゃんの事件が冤罪だとしても豪憲君、殺害だけで充分、無期になっていた可能性があるので判決には問題無いですが、子殺しが女子刑務所で最下層ということなので刑務所内でのイジメなどの影響がありそうですね。
鈴香の日記が世間に公表されるのはまずいですね。この事件の場合判決に影響が出た訳ではないからまだいいですけど光市母子殺害事件の福田君の場合、手紙が公表された事により世間を全て敵にまわしそんな奴は死刑にしろと言う流れになりましたからね。
福田君の場合、今までの事例からして重くても無期が妥当な所を最終的に死刑になってしまいましたからね。
福田君の事件をきっかけに死刑のハードルが下がりましたからね。
福田君の手紙を検察に差し出した友人の今が心配ですね。立ち直り普通の生活が送れていればいいですが…
確かに日本は悪い事をした奴には何をしてもいいと言う風潮がありますね。
私は死刑反対派ではありませんが人を殺した奴は死刑が当たり前という考えはいかがなものだと思います。

No title

seaskyさん

 彩香ちゃん殺害については不自然な点も多く冤罪説も考えられますが、とりあえず鈴香犯人説で話を進めた場合、やはり早い段階で子供を手放していればという結論になってしまいますね。どんな結果だろうと、殺すよりは良かったはずですから。

 鈴香の手紙を流出させた精神科医の失態はけして許されないものだと思います。世論は鈴香の書いた日記の内容を責めるものが多いですが、そもそもこれは論点がまったく違う問題です。

 鈴香は信頼する精神科医に向けて、本当の自分を知りたいという純粋な気持ちで日記を書いた。私がサイトに、不特定多数の人の読まれるのを承知で、なんとかという女をぶっ殺してやりたい、と書いているのとはまったく違います。それを外に漏らしたという事実と、鈴香が反省していないというのは切り離して考えるべき問題なのに、感情論に凝り固まって本質がまったく見えなくなっている人が多いのが現状です。

No title

まっちゃんさん

 特定の文書の中から(マスコミにとって)都合の良い部分だけ抜き出して偏向的な報道をするのはマスコミの常套手段です。清原が薬物で逮捕されたときなどにも同じようなことがありました。この先、私が事件でも起こしたら、このサイトがニュースに取り上げられ、同じような目に遭うのでしょう。

 本人が世間に向けて声明を出したというならまだしも、鈴香や福田孝之の場合、個人間でやりとりしたものを、騙し討ちに等しいやり方で奪い取って晒し者にしているわけですから悪質です。これはメディアによる私刑であって、法治国家の根幹を揺るがすような問題であるとすらいえると思うのですが、マスコミあるいは検察を責めるような意見は不思議とみられません。

 これまで何度も述べてきたことですが、いい加減、「反省の態度」などという不確かなもので判決を下すのは辞めて欲しいものです。ある意味正直に自分を語った者が絞首台に送られ、自分を偽った者が助かった闇サイト事件などがいい例ですが、罪人の「反省」などに期待をかけることで、余計に被害者遺族を傷ついていることを世間にわかって欲しいですね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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