犯罪者名鑑 加藤智大 6


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 「タメ」

 2007年1月、加藤は地元の運送会社に就職しました。毎朝3時に出勤し、市内の学校に牛乳の配達を行う仕事です。ハードでしたが、やはり加藤はどこまでも車が好きで、仕事は彼にとって、大変やりがいがあったそうです。運転の技術も確かで、贈り物のお返しはキッチリとし、花見では場所取りをするなど如才なく、同僚からの評判は上々だったそうです。

 貧困問題の第一人者である湯浅誠氏は、人間が社会生活を営む上で大切なものを「タメ」と表現しています。「タメ」の定義も人それぞれで、タメの中でも優先順位は人それぞれ違ってくるでしょうが、25歳で独身の男ということであれば、「家族」「仕事」「友人」「恋人」「趣味」の五本線が基本になると思います。

 当時の加藤は、「タメ」のうち、「家族」「仕事」「友人」関係が充実していました。「趣味はゲームがありますが、これについては微妙なところで、ゲームでも一本のソフトを何年も遊んでいるというのなら立派な趣味になると思いますが、数か月遊んで飽きたら次のゲーム、というのでは、「オンリーワン」の趣味とはいえず、自分の中の軸といえるかどうかは怪しいところです。まあ、「○」「△」かでいったら、「△」だったでしょう。

 とはいえ、三本の柱はしっかりとしており、25歳の男にこれだけ揃っていれば、安定した生活は十分送れるという状態だったのですが、間もなく柱の一角が崩壊してしまいます。もともと別居中だった両親が、突然離婚することになったのです。家族のやり直しを真剣に考えていた加藤にとって、両親の決断は大変ショックなものでした。

 このとき、どういうやり取りがあったのかわからないのですが、加藤はまた実家を出て、一人暮らしをすることになってしまいました。ご両親のうち、どちらか一人とでもいいから一緒に生活すればよかっただけの話だと思いますが、「みんな一緒じゃなきゃ意味ない」と思ってしまったのでしょうか。

 こうして、「タメ」の一角は、あっという間に崩壊してしまったのです。

かととおおお


 
 失踪

   
 家庭の方が崩壊してしまってからも、仕事の方では、まだ充実した日々が続いていました。

 加藤にとって良い出会いもありました。加藤の先輩に、居酒屋の経営と運転手を掛け持ちしている「藤川(仮)」という、30代の男性がいたのですが、加藤は普段からこの人を慕っており、飲み会の席などでも、積極的に話しかけていたそうです。

 ある日のこと、加藤は藤川に、「藤川さんは経営者じゃないっすか。勝ち組っすよ。羨ましいっすよ」と、軽口を叩きました。藤川が本当に勝ち組なら、トラック運転手との兼業などしているはずもありません。藤川は怒りをこらえて、加藤に「お前は、将来なにがやりたいの?」と返しました。加藤はそれに対し、「ゲームセンターをやりたいっす」などと、適当に思いついたようなことを答えます。

 藤川は、加藤がゲームで、月に五、六万円ものお金を使っていることを知っています。本当に夢があるなら、そんな無駄遣いはしないはず。連日の激務の疲労もあり、藤川はここで切れてしまいました。

「お前は経営者をなめてんのか!本当に勝ち組なら、俺はお前なんかと出会ってねえから!」


 藤川の怒りはもっともですが、加藤の発言は若さ特有の「軽さ」であって、悪気があって言ったわけではありません。藤川もちょっと大人げなかったと思ったのか、自分の店の経営が苦しいこと、家族を養っていかねばならないこと、会社には自分と同じように、生活に苦労している仲間が大勢いることを、加藤に滔々と説明してやりました。

 藤川の怒りの意味が理解できた加藤は、自分を恥じて号泣したといいます。

 加藤はどうも、自分に対して本気でぶつかってきてくれた人に懐くタイプのようで、この一件から、加藤は藤川をますます慕うようになりました。藤川もそんな加藤を弟のように思うようになって、家に招いて、一緒に食事をとったこともあったそうです。

 他の同僚とはトラブルもあったようですが、やりがいのある仕事、尊敬できる先輩がいる職場で、加藤にとってはそこそこ充実していたはずです。ところが、加藤はこの職場を、いきなり飛び出してしまったのです。

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 旅


 
 加藤は当時、一時辞めていた掲示板を再開していました。加藤が利用していた掲示板は、2ちゃんねるのような大人数が集まるところではなく、少人数ですが、その分深い会話ができる、個人が運営する小さな掲示板でした。
 
 加藤は掲示板で、自分がスレッドを建てたり、他の人が建てたスレッドに書き込んだりしているうち、管理人を含む、三人の利用者と特に親しくなりました。そしてあるとき、加藤は北九州に住む管理人の家をゴールとして、加藤が三人の利用者の家を訪問する旅を行う、という企画を立てました。三人は快く同意してくれ、加藤は彼らに会うため、二週間の「旅」に出ようとし、会社に休暇を申し出たのです。

 まずかったのは、休暇の理由を、馬鹿正直に「遊びに行くから」などと言ってしまったことでした。会社としても、入社してから一年も経っていない新人が、遊び目的で二週間もの休暇を突然取るということには、簡単には頷けません。結局、加藤の申し出は会社から却下され、加藤はその不満を藤川に伝えましたが、藤川には逆に呆れられてしまいました。

「長期休暇を取るのはいいが、遊びたいから、などと馬鹿正直に言うヤツがあるか。そこは親戚の結婚式に出たいからとか言っておけよ」

 藤川の言うことはもっともです。派遣社員時代、上司の正社員にいちいち余計な提案などをして煙たがられていたエピソードもそうですが、どうも加藤は、そこそこ能力はあるものの、自分の置かれた立場を理解する感覚や、人情の機微を読む力が欠けていたようです。アスペルガーなども疑えば疑えますが、若さゆえに融通が利かなかっただけという可能性もあり、断言はできません。

 休暇については、普通ならここで断念するところですが、なんと、加藤は会社を突然やめて、「旅」を強行してしまったのです。

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 漂流



 加藤が最初に向かったのは、群馬県に住む、二歳年上の女性の家でした。女性はシングルマザーで、睡眠障害を患って療養中でした。加藤は沢山の土産を持ってきたといいます。

 その晩は女性の部屋で一泊し、翌日、加藤は女性と子供の三人で、町にデートに出かけました。加藤は買い物中、女性が「これ、可愛い」などというと、すぐに買ってあげようとするなど、異常ともいえるほど、女性に気を遣う様子を見せていました。加藤は手記の中で、自分は人を喜ばせることに快楽を覚える性格であると語っていますが、女性は加藤が悪い人に騙されないか、気になったようです。

 その日のうちに、加藤は今度は、兵庫の女性の家に向かいました。この女性は19歳で、顔写真を交換していたのか、加藤が前から想いを寄せていた女性でした。加藤は女性に告白したようですが、無残にも振られてしまったそうです。その晩は車内に宿泊し、翌日、最終目的地である、北九州に到着しました。

 北九州では、掲示板の管理人の男性と名物のラーメンを食べるなどしながら、加藤は自分の生い立ちを語り、「居場所がない」と嘆いていたそうです。管理人の男性は「俺たち友達だろ」と励まし、青森に帰っていく加藤を見送りました。

 加藤が向かったのは、最初に会った、群馬の女性の家でした。ここで加藤は、兵庫の女性に振られたことを泣きながら報告し、群馬の女性の前で、

「寂しい」
「一人は嫌」
「彼女がいれば」
「不細工だから彼女ができない」


 などと叫んだといいます。

 終始、他人事のような語り口で、淡々と自己分析をする加藤の手記からは伺えない、激しい感情の爆発が見て取れます。一体、どちらが加藤の本当の顔なのでしょうか。結論は最後に出すとして、一つ言えるのは、加藤はこの旅において、ほぼ間違いなく「いいこと」を期待していたであろう、ということです。本命は兵庫の女性だったかもしれませんが、群馬の女性でもいいと思っていたでしょう。加藤はこの夜、「部屋に泊まっていけば」という女性に対し、「一緒に寝たら、手を出してしまいそうだから」と、自分の車の中で寝たそうですが、本当は、女性が子供を置いて、車の中に来てくれるのを待っていたのではないでしょうか。

 しかし、二人はせっかく遠路はるばる足を運んだ加藤に、指一本触れさせてくれませんでした。

 一人は子持ち、もう一人はまだ若かったということもあり、仕方ない面もあるかもしれませんが、青森から北九州まで、総額15万円にはなったであろう旅費をつぎ込んで、名刀を鞘から抜くこともできなかった加藤には、男として同情します。こうなるのだったら、ソープで全部使い果たしたほうがマシだったと、加藤は嘆いたはずです。

 仕事を失い、金を失ってまで出かけた旅で得たものは、愚にもつかない励ましの言葉と、たまりにたまったザーメンだけ。旅から帰ってきた加藤は、徒労感からか、今度こそ自殺しようと思ったようですが、直後に兵庫の女性から届いたメールを見て、元気を取り戻しました。

――20歳になったら、会いに行くよ。

 兵庫の女性が19歳になるのは、あと半年後のこと。少し希望が見えた加藤は、新しい仕事を探し始めました。

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加藤さんわたしから見たらイケメンなのになあ。2人の方は好みじゃなかったのかな?というか、知りあってすぐの男の人とそういう‥事をするのは、こわくて‥できないんだと思います。もっとゆっくり仲良くなれたら、恋人関係になれたと思います。加藤さん優しいしかっこいいから。兵庫の女の子に期待です。

No title

加藤は藤川との関係を何故急に辞めてしまったのでしょうね。
やりがいのある仕事と尊敬できる先輩がいる職場というのは恵まれた環境ではないでしょうか。
辞めていた掲示板を再開したり旅企画を行うのは良いとしても休暇の理由をよく考えるべきでしたね。
どう考えても遊びに行くからという理由で会社はオーケーは出さないでしょう。
加藤は休暇を出してくれると思っていたのでしょうね。
この件で藤川との大切な縁も切れてしまったのですね。
加藤は仕事よりも掲示板の仲間と会うことの方が大事だったのでしょうね。
加藤はやると決めたら自分の大事なタメを失ってでも実行に移す所がありますね。
旅で出会った女性から嫌われてはいないようなので加藤は普通の男性でモテない男というわけではないのでしょうね。
実際に加藤と会ってからでも向こうからメールが来るくらいですから好感は持たれていたのではないかと思います。
加藤にとっては恋人というタメが必要で他の何よりも望んでいたのでしょうね。

加藤の両親が離婚して家庭が崩壊したのはいたかったですね。
掲示板で知り合った人に会いに行く為に仕事を辞めてしまうのはどうなんですかね。
まぁ〜正社員とはいえトラックの運ちゃんなのであまり仕事を重要視してなかったのでしょう?
加藤の目的は女性2人だったのでしょう。
何もそんな遠くまで行かず出会い系サイトで女ゲットできなかったのでしょうか?
最悪の場合、風俗に行けばいいと思いますが、やはり彼女が欲しかったのでしょうね。
加藤の顔面偏差値は4程度だと思うのでどうしおうもないブサイクという訳ではないので出会い系サイトを執念深くやればそれなりの女は出来ていたような気がしますが…
派遣で余計な提案をしたりバカ正直に遊びに行くから休暇をくれと言う所をみると性格に問題があったのかもしれませんね。

宅間の半生を知ると、彼があの惨劇を起こすのもつくづく肯けますが、加藤の場合はやはりその逆ですね。


普通の若者ですよね。だから、加藤に共感する者や加藤の犯行を不思議に思う者が多いのでしょう。


改めて犯罪の相関関係について考えさせられる事例ですね。

あやかさん

加藤がやれなかったこと自体はまぁしょうがないと思いますが、どぶのなかに消えた大金のことを思うといたたまれない気持ちになりますね。

このエピメ[ドを読むと、私と初めて会った日にいいことをさせてくれた、間もなく女房となる女の偉大さに気づかされます。自分の女をあんまり自慢気に言うのもなんですが、間違いなく偉大ですよ。少なくとも、性欲の塊のくせに貞淑アピールして、イケメンにだけは簡単に股を開く神山のようなゴミよりずっと偉い女です。

究極のところ、男にとっては、させてくれる女=いい女です。そこから先、あっさりやりすてる男と、一生懸命恩をかえそうとする男の二つに分かれますが…。

seaskyさん

タメの優先度というのは次回以降取り上げていきたいテーマです。最終的には加藤本人にしかわからないことですが、他人から見て大事に思えるようなことが、本人にとって大事ではないということもありますよね。

加藤にとっては、何より女であったのではないのか? アリスのほうともリンクさせながら語っていきたいです。

なるほど‥ためになることを聞きました。ありがとうございます。彼女さん、偉大な方ですね。尊敬します。初めてあった方とそういうことをしても、相手の殿方に不愉快な想いはさせないのですね。わたしは、男の人に性的に興味があっても、それを出したら嫌われるんじゃないかって思っていたので。嫌われることを怖がりすぎちゃダメですね。彼女さんを見習いたいです。

No title

あやかさん

 加藤ほどじゃないですが、ちょっと彼女の家がうちから距離があって、今までずっと中距離恋愛でやってたんですが、最初に来たときに、遠くからお金も出して来たのに何もしないんじゃ可愛そうだからということでヤラせてくれて、それから今に至ってるんですよね。そんなわけで、加藤のこのときのエピソードが、どうしても他人事に思えないというわけです。

 まぁ年齢と容姿にもよりますが女から迫られて嬉しくない男はいないんじゃないかなぁ・・。男はやるためだったらなんでも言いますから、初めてのときまでに慎重に相手を見極めようがやり捨てられるときはやり捨てられるだろうし、逆に、身体の関係になるのが早くても長続きして結婚までいくカップルも沢山いると思います。

No title

まっちゃんさん

 やはり掲示板という場所で、本音で語り合った仲ですから、出会い系サイトとはまた一味違ったでしょうね。リアルでも、というかリアルこそむしろ本音で語り合うことがないですから、掲示板は掲示板でまた特殊な場所だと思います。

 仕事は別に辞めたいわけではなかったでしょうが、旅と引き換えにはできなかったんでしょうね。もっとまともなウソをついて、せめて仕事だけでも続けられていれば、違った展開があったかもしれないですけどね・・。

No title

L.Wさん

 もっともですが、当の加藤は、「普通の若者の悩み」の部分が犯罪に結びついたことについて否定しているんですよね。が、それこそ私は、欺瞞だと思っています。一つ一つ暴いていこうと思います。

加藤の自覚が真実という事になりますよね。


観念全般、例えば「恋愛」という概念を客観的・科学的に定義できない以上、加藤の思いと犯行との関係性についても結局、答えを加藤の自覚に帰結せざるを得ないわけですけれども、それがまた厄介で、加藤の自覚も時間と共に変性しかねないですよね。


やはり犯罪なるものには、悪い意味での人間の不可思議さを物語る、不思議な魅力がありますね。

No title

L.Wさん

 自覚してても本音を語らない場合もありますからね。状況証拠を出していきながら、真実に迫っていこうと思います。

No title

今回の名鑑も含めて、この人に関するいろんな記事を読んできましたが、とにかく性格がどこか変なんですよね。
それは家庭環境によおるものなのか、生まれつきの性格によるものなのか、それ以外の要因によるものなのかはわかりませんが。
どこまで人恋しいんだって思います。
行動力はあるみたいですけど、こういう面倒な性分だからこそ人(特に女)が寄り付きにくくなるという面もあったんじゃないかと思います。

No title


 空回りさん

 私も加藤の書いた文章を読んだときは、なんて面倒くせえ野郎なんだと思います。女にモテないのも無理はないと思います。しかし、私の経験ですが、文字通り、何事もまさに経験なんですよね。 
 女にしてもそうで、一人の女と長く付き合ったり、経験を何度か重ねていくうちに、角が取れて、自然と余裕のある、異性に好感をもたれやすい対応ができるようになっていくもんです。

 女経験がない人に「そんなんだからモテないんだよ」じゃなくて、女経験がなさすぎるからモテないんだということです。ようするに卵が先か鶏が先かという議論なんですよね。加藤本人も似たようなことを述べていますが。

 だから世の中の女たちには、童貞を厳しい目でみたり、説教するんじゃなくて、一度チャンスをやってくれと言いたいですよね。むしろ童貞と付き合う方が、自信をつけてどんどん成長していくのがわかるから楽しいと思いますけどね。最初から完成された男と付き合っても、アラが見えてくるだけで、どんどん嫌になるだけだと思います。

 今回非常にいいコメント頂いたと思います。ありがとうございます。
 

 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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