偽善の国のアリス 3


 まず、基本情報技術者試験の午前免除試験の結果から書きますが、合格ラインの60点を楽々上回る70点以上で突破しました。この年の試験は特に難易度が低く、クラスの全員が合格したと思います。

 そして午後試験の授業へと進んだわけですが、前回チョロッと書いたように、この午後試験は、勉強の成果よりも、持って生まれたセンスが問われる内容で、中にはまったくの無勉で受かる人もいるようです。

 ただ、ランク的にはそう高くないとはいえ、仮にも国家資格です。無勉で受かったといっても、それはおそらく、すでにプログラマーやシステムエンジニアとして、実務の経験がある人が大半のはずです(実務で必要がなければそもそも受けませんし)。

 ようするに、ある程度基礎体力ができている人なら初めてやるスポーツでもそれなりにこなせるのと同じで、日ごろからエンジニアに必要な論理的思考能力が鍛えられている人なら無勉でも受かる可能性がある、ということであって、まったく何の修練も積んでいない人では、どれだけ素養があっても、なかなか無勉で受かるのは厳しいのは間違いないでしょう。

 午後試験はどれだけ勉強しても出たとこ勝負になってしまうところはあるが、初見の問題にも対応できる論理的な思考能力、「勘」を鍛えるために、授業を行うのである、というのが、新しく担任となった「松山」先生の説明でした。

 松山先生は40代で、「ナイスミドル」といった言葉がぴったりの、思慮深そうな落ち着いた外見でした。お世話になった期間は一番長く、人格的にも優れたいい先生だったと思うのですが、結局この先生に教わったことは今の私には何の役にも立っていませんので、やはり特に感謝もしていなければ、恨みもないといった感じです。

 「大河原」に入ってから、私は勉強の傍ら、朝早く(4時~5時ごろ)起きて、家を出る8時ごろまで、小説の執筆もしていました。私の中では、就職にも失敗して文章を書く以外の生きる道はなくなり、とにかく自分の存在を世間にアピールしようと、このサイトを開設した26歳のころまでの活動については、「下積み」期間にカウントするつもりもないのですが、まあ、軽いトレーニングにはなったのかな、という気はします。

 仕事や学業を抱えている状態で、家の中での作業をするにあたっては、家に帰ってから、疲れた状態でやるよりも、朝、スッキリした脳みそでやる方が効率がいいと思います。朝早く起きれば遅刻することもないし、カロリー的にも、朝にドカッと食べて、夜は控えめにして早く寝た方が、太らなくてすみます。「早起きは三文の得」といいますが、私は早起きの価値は口では言い表せないほど大きいと思っています。

 仕事や学業を抱えているときは、早起きして執筆作業をするというルーチンワークを獲得できたということだけが、まだ自分が何を書きたいかも明確ではなかったこの時期における執筆活動の、唯一の成果といえるでしょうか。

 小説執筆は月~金まで、ほぼ毎日やっていましたが、試験が迫ってきたときなどは、朝の時間は勉強に充てていました。午前免除試験を突破したばかりのこの時期はまだ余裕があったのですが、この時期にも特別に、執筆の時間を減らしてあることに取り組んでいました。

 ダイエットです。「大河原」に入学した当時の私は、身長163cmに対して65㎏もあり、かなり身体がだぶついていたので、これを絞ろうと思っていたのです。もちろん動機は、神山恵美子への想いを成就させるためです。

 男が恋愛をするにあたって、ビジュアルの面でするべき努力は、標準体型を維持することと、毎日風呂に入って清潔にすること、明らかに不自然な髪型やファッションをしないこと、くらいでいいと思います。それで実らない恋の95%は、それ以上努力しても実らないでしょう。

 毎月のように何万もする新しい服を買ったり、流行りの髪型をチェックして高い美容院に行ったり、セットの練習をしたりするのは、コスパが悪すぎるし時間の無駄です。純粋な趣味でオシャレをやってるなら大いに結構だと思いますが、モテるためだけにオシャレに時間とカネをかけるくらいなら、その努力を内面を磨くことに使ったほうが懸命でしょう。

 美人ならともかく、「健康で文化的な最低限度の」女すらできないことまで全部自己責任のように言われるのはおかしいと思いますが、自分が最低限度の努力もしないでおいて、女が悪いと決めつけるのもよくありません。私は夏休みまでには、今のだぶついた身体を標準体型に戻そうと、食事を節制し、毎朝2時間程度のジョギング、筋トレに励んでいました。

 もともと筋量はあるためか、成果はすぐに出て、午後試験の授業が始まったの七月の終わりごろから、夏休みになるまでの三週間ほどの授業の間で5キロ以上も痩せ、腹回りがすっきりし、ほぼベスト体重まで痩せることができました。

 神山のビジュアルにももう少し触れておこうと思いますが、ヤツは夏だというのに、どういうわけか長袖を着て、下もタイツなどを履いて、自分の肌を極力見えなくしているようでした。こういう女性は、神山以外にも結構よく見ます。日焼け対策なのでしょうか?服のチョイスもそんなに金がかかっている風ではなく、地味な紺のワンピースなどを好んで着ていたような覚えがあります。髪型はボブというのか知りませんが、戦中戦後の小学生みたいなおかっぱ頭でしたから、外見に金をかけているという感じではありませんでした。

 どんなに甘めに採点しても、十点中五点。「健康で文化的な最低限度の」女。これに振られたら、もうまともな容姿の女を得ることは諦めなくてはいけないかもしれない。そんな野口さん似の神山恵美子に、私は夏休みの前日、アドレスを聞き、その晩のうちに、メールでデートに誘いました。そのメールは、返ってきませんでした。完全にシカトされたのです。

 一体、なぜ無視されたのか?なにかまずいことでも言ったのか?何度もメールを読み返しましたが、何が悪いのかはわかりません。いや、当時の私がわからなかっただけで、後の神山の行動を考えれば、この時点で童貞でこそないものの、女とのまともな交際経験が通算2ヶ月しかなかった私の口説き文句というかデートの誘い方は、多分、ちょっとおかしかったのでしょう。

 とはいえ、夏休み中の時点では、私はなぜ自分がシカトされたのか、まったくわかっていません。自分は嫌われたのか?そうでないのか?と、自問自答を繰り返してばかりいました。

 しかし、せっかくの夏休みに、ただ悶々とした日々を過ごしているだけでは勿体ありません。「大河原」情報クラスの一年生の夏休みは、わずか2週間と短かったのですが、この2週間で、私は日雇いのアルバイトをしていました。

 勤務をした3日間のうち、2日は佐川の倉庫でのピッキングの仕事に派遣されたのですが、ここがまた、さすが佐川といった現場で、派遣スタッフを「てめえは下っ端!偉いのは俺!黙って命令に従え!」などと怒鳴り散らすのは当たり前、チラっと見た限りで確実ではないのですが、手も出していたような記憶もあります。

 私語も厳禁で、勤務終了まであと5分となり、後片付けに入ったとき、一緒のテーブルについた若い人と軽く談笑していたところ、社員に呼び出されて「喋ってんじゃねえよ!金もらってきてるんだろ!(交通費抜いたら最低時給を下回る)ちゃんとやれよ!!」とか怒鳴られました(一分一秒も休ませないわりに、呼び出して怒鳴る暇はある)。

 佐川のような働き方をさせる会社が現実にある以上、やっぱり日雇いは批判されて当然だな、と思います。派遣労働者自体、技術の蓄積性を考慮されない、派遣先企業にとってはいつ辞めてもらってもいい存在であるため、ぞんざいな扱いをされがちなのは同じですが、それでも長期の派遣ならまだ、少なくとも契約期間中はいてもらわなくては会社も困るため、しっかり面倒を見てもらえる割合は高いです。

 しかし日雇いの場合だと、派遣先からすれば明日来てくれることすら想定していないため、体力的にも限界までこき使いますし、精神的な配慮も一切せず、まさに物扱いされます。日雇いは仕事が入らない日もあり、安定しないというのは良く知られていますが、たとえ仕事があっても、こんな奴隷工場では週5日も働くことなどできず、金など溜まるはずもありません。

 ちなみに、先の法改正において、「日雇い派遣」は確かに原則として禁止になりましたが、「日雇い」という業態は、今でも違法にはなっていません。これを利用して、日雇い派遣会社は、「日々、派遣する」という形から、「日々、別の(直接雇用による)日雇いを紹介する」と言い方を変えて、法改正以前とほぼ同様の業務を行っています。

 この「直接雇用」というのが曲者で、この方法では、派遣会社と労働者の間には雇用関係が存在しないため、雇用保険には入れず、有給休暇も発生せず、離職票ももらえません。ようするに、日雇い派遣を禁止した結果、実態は日雇い派遣よりも悪質になってしまったということです。

 一番悪いのは国であり、次に日雇い派遣会社であり、その次に日雇い派遣会社を利用する佐川のような会社ですが、世の中がいつまでも変わらないのは、こういう働かされ方に何の疑問も抱かない人がいるのもいけないのかな、とも思います。
 
 バカなヤツというのはどこにでもいるもので、こんな奴隷工場のような派遣先に媚びを売って、糞真面目に働く――というか、派遣先に変なやる気をアピールしようとしているヤツもいました。小説でもコイツをモデルにしたヤツを書いたと思いますが、同じ派遣スタッフに対しては滅茶苦茶威張り散らして、一々命令口調なのに、佐川の正社員には平身低頭、阿諛追従するというヤツです。別にその日雇いバカ助が物凄くできるヤツというわけではなく、ただ単に自分ができるアピールをしているだけで、むしろチョロチョロ余計な動きばっかりするので、日雇いバカ助も普通に佐川の社員に怒られていました。

 先ほど書いたように、私は最後の最後に佐川の社員に怒られたのですが、その直後に、日雇いバカ助に最後に言われた一言がいまだに忘れられません。

――お前、お客さんの前で恥ずかしいことするなよな。

 この「お客さん」という言い方、派遣会社の社員が言うのはわかるのですが、使い捨ての駒に過ぎない派遣スタッフが言うのは、まったくおかしな話です。たぶん、気分だけ派遣会社の社員のつもりになって、「俺はおめえらと違うから」がやりたかったんだと思いますが、なんというか闇が深いです。

 井の中の蛙といいますか、そんな変なところで意識高い系やってないで、少しでもまともな、長期の派遣にでも切り替えればいいのにと思いますが、彼には向上心がないのでしょうか?私もまもなく一介の派遣労働者に戻る予定ですが、この日雇いバカ助みたいなヤツは非常に関わり合いになりたくない人種です。

 このときの私は、夏休みにやったアルバイト経験を経て、「もう二度と、非正規の派遣労働などやらない」と、不退転の決意を固めていました。正社員として就職し、真っ当な稼ぎを得て、世間で胸を張って生きられる身分を手に入れる――最後のチャンスを、絶対にモノにしてやると、闘志に燃えるキッカケにはなりました。結局は、非正規の派遣労働者になってしまうことになるのですが・・・・。

 そして二週間の夏休みが明け、二学期が再開しました。私がとにかく知りたいのは、神山恵美子が私をシカトした理由。神山恵美子に嫌われたのかどうかです。事実を確かめるべく、神山恵美子に話しかけてみたのですが・・・・。


 第三回はここで終わります。
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No title

神山がメールアドレスを教えてくれたのなら返事はくるだろうと自分は考えてしまいますね。
何か断る理由の返事があるならまだ分かるのですがいきなり無視されるのはキツイものがありますね。
これは深刻な悩みになってしまう場合もあると思います。
やはりこれは相手の性格の問題でしょうね。
相手に失礼な態度や言動を取っていないなら問題はないように思いますね。
「健康で文化的な最低限度の」女なら内面性を高める意識は必要だと思います。
神山がどういう発言をしたのか気になりますね。

処女台頭社会

ダイエットの下りなどは青春らしいイイ話ですね。


メールが返ってこない。私もよく似たような経験をしました。

多分、神山は「2人きり」で遊ぶ事に過敏すぎたのではないでしょうか? 私の大学でも、女の子と2人で仲良くしているだけで「アイツ等できてる」みたいな中学生じみた事を言う人が多くて、私はかなり引きました。

神山も少なからずそういった感覚の持ち主で、2人で会うのはちょっと……みたいな子供じみた事を考え、更には、ばつが悪いという事もありメールの返事を横着したのではないでしょうか?


その手の処女くさい者なら「メアド聞いたその日のうちに誘うとかないよね」みたいな、下らんコラムに書かれていそうな意味不明な固定観念を持っていても不思議ではありません。

つまり、デートに誘うまでの津島さんに対してではなく、デートに誘った瞬間からの津島さんに対し、神山は拒絶の姿勢を示したのではないでしょうか?


日本の街角において、通行人の大半はナンパに対し寛容ではありません。ナンパをしている男の容姿やトーク力以前に、「ナンパ」という概念そのものが嫌いなようです。


とりわけ最近の若者は、何チャラ系等と言われるように、ギラッチは「イケてない」と考えているようです。




意識高い系……そういうポリシーを持っていて、自己演出をするのは勝手なんですけれどね、ただ、やはりその舞台には助演する者が必要で……本当に巻き込まないでくれ! 勘弁してくれ! それにつきますよね。


公共の福祉に反するようなその手の輩に対しては、被害者の会でも立ち上げた方がいいですよ 笑

No title

L.Wさん

 神山がシカトした件については先走るのも何なので楽しみにしていてください。真実は「それほど素朴ではない」というものになってしまうと思いますが、非常にいい予想、作者にとっては、今の時点で読者にこういう風に思ってもらえるのは非常に嬉しいという予想をしていただいたと思っています。

 周りを巻き込む意識高い系は、八方ふさがりというか、簡単に上がり目がない状況においては仕方ない面もあるんじゃないかと思っています。私がこうやって皆さんにコメントを求めるのも、ある意味似たような行為かもしれませんし・・・。

 ただ日雇いバカ助に関しては、確実に、迅速に、今より上にいける手段がはっきりしている(長期派遣の登録にいく)のにそれをせず、井の中の蛙に終始しているのだから同情の余地はありません。 小説で書いたみたいに過去に長期派遣でやらかしまくってどこにも勤められなくなった可能性もありますが。

色の白いは七難隠す
というけど
紫外線対策で夏でも長袖とか汗っかきの自分には無理だ
神山はモテるための努力を惜しまない人だったんだろう
ただメールアドレスを聞かれた時点で
「ごめんなさい 教えられません」とか断ればいいのに
といっても人生で一度も仕事以外でメールアドレスを聞かれたことのない自分には言われたくないだろうが(笑)

No title

seasky さん

 靄の中を進んでいるようで非常に辛い二週間でしたね。その後のことを思えばまだまだ地獄の一丁目といった感じですが。メールはすくなくとも失礼ではなかったはずですが、「なにこれー、ちょーウケるー」って感じのメールだったんでしょう。

 

No title

MSKSさん

 先に結論を書いてしまったので誤解されてしまうのも無理はありませんが、この時点で私の熱烈な好意は先方に伝わってなかったと思うので、さすがにこの時点でアドレス教えるのを拒否する女はどこにもいないと思います(好意をむき出しに迫って拒否されたとしても、ブスに拒否する権利があるのかどうかという議論もまた別に発生しますが)。

 神山のモテるための反吐が出るような努力についてはのちに書いていきます。

あまく採点しても10点中5点の神山に完全な無視は辛いですね。
もの凄く美人の女に無視なら納得出来ますがその程度の女に無視されたらかえってストカー化してしまうおそれがありますね。
底辺労働者にそのようなバカはよくいますね。
長期派遣ならクビにならない程度に真面目に働きますが単発の派遣で真面目に仕事してる奴の考えはなんなんでしょう?
夏休み明け神山に話しかけた結果が気になります。

これは私の経験上の話ですが、美人ほど色んな男からアプローチされるから、如才なくかわす術を持ってます。
一方で並からそれ以下の方は、経験不足ゆえに、どうしていいかわからずシカトしたり、酷い奴だと自分アピールの為に、男からアプローチされたことを喧伝し、さらに私はあんな男相手にしないわよ、的な言葉を吐いたりします。
ルックス悪い=正確良い
ではないですね。
男女問わず人気ですが(^_^;)

訂正

最後の行
×男女問わず人気ですが
○男女問わずですが

No title

たにやんさん

 その可能性というか要素も少しあったかもしれませんが、「あなたの想いは嬉しいけど」・・・の一言さえ言えばいいものを、シカトしたり、次回から書いていきますがバカにするような態度を取った時点で悪意があったとみなされるのは仕方ないでしょうね。これ云うと身も蓋もないですが、そもそも、ブスに断る権利があるのか?という話でもありますし。

 毎回コメントありがとうございます。この話一週間に一回くらいの更新にしようと思うので、それまで過去の記事などにコメント頂けると嬉しいです。

No title

まっちゃんさん

 ストーカーの被害に遭う女は美人よりもむしろ並み以下が多いというのは私の持論ですが、次回からまたその辺のことを詳しく述べていこうと思います。

 本気で社員に引き上げてもらおうと思っているのか、俺はおめえらと違うからがやりたいだけだと思いますが、前者なら有能アピールよりも周りと波風立てないことが大事だし、後者なら本文で述べた通りです。いずれにしろやってること全部空回りですよね。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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