犯罪者名鑑 加藤智大 3


ちゅうがく



 彼女



 中学生になった加藤には、彼女ができたそうです。学級委員を務める優等生で、お似合いのカップルと言えたかもしれません。しかし、この交際も、彼女からもらった手紙をお母さんに発見されたことで、あっさり潰されてしまいました。

 ただ、このときのことに関しては、加藤は特に母親を恨んでもいないし、当時の彼女に未練が残ったということもないと思います。ましてや、「あのときできたんだから、自分も頑張れば彼女ができる」と、ポジティブに考えることにはまったく繫がらなかったでしょう。

 私自身の経験を言わせてもらえば、私も中学生のとき、彼女「らしきもの」はいました。しかし、それが男としての自信に繫がったということもありませんし、「キャリア」に含むつもりもありません。ローティーンという未熟な年齢で、恋愛の何たるかもわかっておらず、セックスに持ち込む知識も度胸もなく、結局なにもないまま終わってしまった相手に比べたら、長年お世話になったAV女優の方が、まだ自分が情愛を抱いた女といえます。

 私がこの件で悲哀を感じるのは、加藤の掲示板の、

――人生にモテ期は三度来るというけど、俺のモテ期は小4、小5、小6だったみたいだ。

 という書き込みです。

 プロ野球選手でいえば、まだ地力の蓄えられていない若手時代に無駄に出場機会に恵まれ、本当に選手として脂が乗って、フル出場すれば3割が打てるくらいまで成長したときにチームに大物打者が加入して出られなくなったとかそんな感じでしょうが、ようするにどんな幸運も、自分が本当にチャンスを活かせるときに巡ってこなければ意味がないということです。
 
 掲示板には小456とあるものの、実際には加藤のモテ期は中学くらいまでは続いていたみたいですが、それにしたって、行動力もない未熟な年齢であるには変わりなく、そんな時期にモテたところでどうしようもないという話ではあります。ようやく母親の束縛から逃れられ、男として女を楽しませるだけの器量も備えたと思った途端、まったくモテなくなるという切なさ。

 少し余談めいてしまいましたが、幸運はいくら巡ってきても、時期的な噛み合わせが良くなければ何の意味もないという、加藤の名言の中でも特に好きな言葉なので、紹介させてもらいました。


にんぎょう

 

 反抗



 小学校のころまではお母さんにやられっぱなしだった加藤ですが、中学に上がり、自我というものが芽生え、腕力もついてくると、ついに母親に牙を剥き始めます。

 中学二年生のとき、お母さんはいつものように成績のことで加藤を咎めていました。加藤がしばらく返事もせず黙っていると、お母さんは加藤の頬をつねったり、頭を揺さぶったりといった嫌がらせを始めます。加藤が無言で席を立ち、洗面所に行くと、あとを追いかけて、ほうきで叩くようなことまでしていました。
 
 加藤はここでキレました。むしろ、よくぞここまで我慢したというべきでしょう。右手の拳で思い切り殴りつけると、母親は倒れ、メガネが割れてしまいました。優しいことに、加藤は殴り倒した母親に「目は大丈夫か?」と尋ねたそうですが、母親は加藤を口汚い言葉で罵ったそうです。

 それ以降、加藤がお母さんに直接暴力を振るうことはありませんでしたが、お母さんとの間で何かあると「警告」するように壁を殴るようになり、壁にはいくつもの穴が開いてしまいました。

 ようやく母親に反撃することを覚えたこと自体は、私はすごく良かったことだと思います。反抗期というものは、子供が親から精神的に自立する上で必要不可欠なもので、これが無かった人は、自分の意志で物事を決められない、他者に対して依存心の強い人間になってしまいがちです。あのオウム真理教の信者の多くに共通する特徴として、「反抗期がなかった」、敢えて言うなら、オウムに入ったことが初めての親への反抗だったという話もあります。

 ただ、やはり表現の仕方がよくありませんでした。この期に及んでも、この親子は「じっくりと話し合う」ことをせず、直接的な行動によってしか、自分の感情を表そうとしなかったのです。中学時代に加藤が暴力をふるっていたのは家だけでなく、学校でも何か気に入らないことがあると暴力に及び、素手で窓ガラスをたたき割って、拳に包帯を巻いて帰ってきたこともあったそうですが、やはりそのときにも、「怒る理由の説明」はありませんでした。

 ちょうどそのころ、神戸ではあの「酒鬼薔薇事件」が起こっていました。児童二人の命を無残にも奪った悪魔と同い年の息子が、家庭内暴力をふるっている。お母さんは知人に対して、

「あの子と二人きりになるのがとても苦痛。息子が”酒鬼薔薇聖斗”と同じ年だと思うと、怖い」


 と漏らしていたそうです。 

 自分のやってきたことを棚に上げて何を言ってるんだとは、誰もが思うことでしょう。お母さんもお母さんなりに必死だった部分もあったと思いますが、この発言を聞くと、やっぱり”鬼母”の烙印を押されるのは仕方ないし、同情は不要なのかなと思えてきます。
 

文集

 


 黒歴史



 加藤は中学校の卒業文集に、「テイルズオブディスティ二―2」のキャラクターのイラストを載せていました。

 また、これは高校時代の生徒会誌には、加藤が直撃世代に当たる「エヴァンゲリオン」の登場人物、綾波レイの有名なセリフを書き残しています。

 私はアナタの人形じゃない。赤い瞳の少女(三人目)

 「旧劇場版」において、それまで冷徹な司令官、碇ゲンドウに絶対服従だったレイが、初めてゲンドウの命令に背いて独自の意志で行動をとり始めたシーンで発せられたセリフですが、精神学者の片田珠美氏の分析によれば、これは加藤が母親に対して反旗を翻し、自分の意志で進路を決めて歩み始めた気持ちの現れだとされています。それは私も多分そうだと思いますが、それ以前に恥ずかしいです。

 「エヴァンゲリオン」「テイルズ」ヲタの人には申し訳ないですが、私がもし死刑になるような事件を起こし、このような作文を全国ネットで晒されたら、恥ずかしくて泣くと思います。この黒歴史に関する加藤のコメントが出てないので本人がどう思っているかわからないですが、これはどう考えても恥ずかしいです。
 
 これは小説というものを書く私のような人間の独特の考え方かもしれませんが、「掲示板」のように、拙いながらも自分の言葉で、自分の気持ち、自分の考えを語っているものなら、あまり「恥ずかしい」という気はしません。綾波レイのような、他人が考えたキャラクターのセリフを使って何かを表現しようとしているところが、滅茶苦茶恥ずかしいと思うのです。

 これで事件当時の加藤がまだ綾波ファン、テイルズファンだったならまだいいですが、事件当時は綾波レイやテイルズにそれほどお熱ではなかった場合、その恥ずかしさは自殺レベルに到達するといっても過言ではありません。

 この「黒歴史」晒しこそ、死刑を越える、究極の抑止と言えるかもしれません。

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No title

加藤の家庭環境は一般的な環境から見ると厳しいものですね。
母親をかなり強く殴ったというのは少し驚いてしまいました。
加藤は家でも学校でも暴れていたのですね。
加藤は優等生にさせられていたということでしょうか。
確か事件を起こす前の工場のロッカーで加藤が暴れたということがあったと思いますがその暴力的な部分はずっと残っていたのでしょうね。
卒業アルバムのコメント欄にはその当時流行ったアニメやゲームのセリフや恥ずかしいポエムなどを書きたくなりますね。
自分ももしかしたら書いていたような気がします。
犯罪者になってしまうと学生時代のノートや卒アルの全国公開は完全な見せしめですよね。
加藤はあの顔写真がよく取り上げられていましたがわざとだとしか思えないですね。

加藤のモテ期は小学高学年〜中学校時代でしたか…
私のその時期は最悪でしたね。
小6〜中2位まで完全無視され友達は一人もいないで学校で喋った事はありませんでした。
おかげで不登校気味になり頭が悪くロクな高校行けませんでした。
まぁ〜そのおかげで孤独、孤立でもなんとも想わなくなりました。
わたしのモテ期は10代後半から20代前半の丁度いい時にありましたがその為親の脛をかじって仕事しないで遊びまくっていたのが少し悔まれます。
私自身はアニメのセリフなど使って表現していても別に恥ずかしいとは思いませんね。
まぁ〜過去の事をほじくり出されて報道されるのはイヤですけど…

No title

seaskyさん

 加藤がお母さんを殴れたこと自体は良かったことだと思います。あのまま反撃できなかったら、山地みたいに殺しちゃっていたかもしれません。せっかくお母さんのくびきから逃れることができたのに、それを幸福につなげられなかったのが悔やまれます。

 私も中学時代の文集はなんかのマンガに被れた酷い文章を書いていた気がします。死刑になるような犯罪を起こした人に言い返す権利はないというのも一理ありますが、明らかに人格を貶めるような意図があるとしたら問題です。

No title

まっちゃんさん

 モテ期はとくに時期的な噛み合わせというのが大事だと思いますね。やっぱり十代後半から二十代でモテない人生は悲惨だし、そのころにモテていればバラ色とは言いませんが最悪な人生にはならないと思います。

 ガキのころにモテても仕方ないですし、二十代でモテなかった人に三十過ぎてモテ期が来ることもあまりないと思います。そのころにはすっかり、後ろ向きで卑屈な人間が出来上がっていますから・・・。

 アニメだから恥ずかしいっていうのは、やはり自分で作品を生み出す人間の独特の考え方なのかもしれません。コスプレとかも軍コスや時事ネタとかは面白いと思いますが、アニメやゲームのコスは全く理解できないです。まあそのときはキャラになりきって楽しいのかもしれませんが、あとになって趣味が変わったとき見返したら死ぬほど恥ずかしいと思いますね・・・・。

 

黒歴史といえば
小学校高学年頃から中学生くらいまで
占いやおまじないや呪いを本気で信じていた
しかし呪いの本のとおりにいじめっ子に呪いをかけてもヤツらにはいっこうに不幸が訪れる様子がなかった
(といっても1人は転校したが)
初恋の人と付き合えるおまじないをかけてふられた
しかもふられたことを知られて同じ学校のヤツらに笑われた
それから一切信じなくなった
こういうものに嫌悪感を持つようになった
しかしもしこの時自分の思い通りになっていたら
「信者」になっていたかも知れない…

No title

MSKSさん

 藤沢悪魔祓い殺人事件とかもありましたね。占いやまじないは極めたら面白そうですけどね。普通の業界だと年齢が行くほどに不利になりますが、オカルト業界だと年寄りの方が「それっぽい」ってんで需要が高いそうですし、私もいまから勉強してみるのもいいかもしれないと思っていますw

 こういう黒歴史の報道の倫理はどこまで悪意があるかによりますが、あからさまに侮辱するような内容は過去にあったのでしょうかね。

蹉跌なき青春

大人になってからよりも子供の時分の方が、多数の他人から好かれる事が容易であると私は思います。

一般的に子供は大人に比べ判断力が乏しいので、何かしらのきっかけさえあれば、集団的なノリで誰かを人気者に祭り上げたりします。逆もまた然り(イジメなんかそうですよね)

それに、プライベートな時間を他者と共有する事のハードルは大人よりも子供の方が低いですよね。
大人は余程馬が合わない限り、サシで飲みに行ったりしないのが普通ですよね(無論、仕事の付き合い等は除く)


大人になって会う人会う人に好かれるのは大変です。初頭で好印象を抱かせるぐらいなら頑張ればどうにか出来そうですが、継続的に他人から好かれる(それもサシでのお誘いが絶えないレベル)のは実に難しい。





最近、反抗期がない若者が増えている。みたいな事をワイドショーで報じていました。

確かに怖い気がしますね。多感な時期にやるべき事をやっとかないと、後々それをやりすぎちゃう。と、基本的に私は思っています。




綾波のセリフをパクるのは恥ずかしいですね。一時のノリにしても、自分の人格を真剣に表出させた形が、引用、それも文化的価値が高く認められているもの(和歌とか)ならまだしも、アニメからだとなると、もろに中二病の烙印を押されても仕方がないような気がします。


いや、高尚なものからの引用も微妙ですね。どこぞの偉人捕まえて、その偉人の考えに小市民の考えを投影した場合、「そういうのに憧れてるんだね」と言われかねませんから。


やっぱりユーモアに頼るしかないのでしょうね。

No title


L,wさん

 返事遅れましてすみません。

 反抗期はどうなんでしょうね。たぶん正解は人それぞれってことなんでしょう。一生誰とも、自分の親とも波風立てず、かつ他人に依存することなく自分の意志で道を切り開ける人がいるんなら、それが一番良いんだと思います。ただそうそう完璧な人間もいないし、完璧な家庭環境もないので、やっぱり完璧になれなかった人が、小さな衝突(それが家庭で止まるところが重要)を繰り返して、越えちゃいけない一線を学び、かつ適切な自我を身に着けていくためにやっぱり必要なんじゃないかと思います。

>綾波のセリフをパクるのは恥ずかしいですね。一時のノリにしても、自分の人格を真剣に表出させた形が、引用、それも文化的価値が高く認められているもの(和歌とか)ならまだしも、アニメからだとなると、もろに中二病の烙印を押されても仕方がないような気がします。

 ああ、これが私が言いたかったことですね。引用が全部いけないというわけではないですが、せめて自分がこうこうこういう気持ちでそのセリフに共感したんだ、とかそういう説明がないと、後々自分で見たときに恥ずかしい思いをすることになってしまうと思います。

 下手でもいいから自分の言葉で表現した方が無難でしょうね。

暴力的な面が目立ちはじめて、モテ期が終了してしまったのでしょうか。
津島さんの言う「1つの式」、なるほどです。
母親に暴力を振ったのは、事件へのカウントとしてプラスなのかマイナスなのか…
私も津島さんと同意見で、母親に反抗できたのは良かったと思います。
でも、吹っ飛ぶほど殴るとは・・・
「目は大丈夫か」冷静すぎると感じて、ちょっとゾッとしました。

No title

ひなさん

 いやー正直これでも足りないくらいだと思いますね。自分の身を守るうえでも、反抗できたのは本当によかったと思います。ここで反抗できなかったら、成人するまでに悲しい事件が起きていたでしょう。モテ期は本人が言ってるだけですが、まあ小学校中学校でモテていても何の自慢にもならないし、自信にも繋がらないのは確かでしょうね・・。

返して!マギノビオン

ありふれた言葉でもいい 真っ直ぐに伝えたいよ(引用)
ただしここのコメ欄タイトルに挙がった曲名などは素敵チョイスだと思います、自分以外
後生残ると分かっていても卒業文集に当時好きな既存の作品の歌詞名言を書いてしまうのはもはや若気の至りだろうね
星座占いを大人になった今もなお過信し幼少期の趣味を今もなおばく進する私は慢性の中二病か
容疑者がたまたまアニメやゲームが好きだったというだけで押収した物なんかを全国ネットで流す時点で侮辱に当たると思うんだよなぁ…

No title

OKBさん

 いわゆるオタク叩きのせいで、特に、アニメ、ゲーム関連は晒されやすいようです。アニメ、ゲームだから恥ずかしいというよりは、自分の想いを人が作ったものに仮託することで表現するというのが私が恥ずかしいと思うことです。
 
 やっぱり人ひとりの人物像を分析するための客観的資料というのは案外乏しくて、過去の作文とか取り上げなくてはいけないのかもしれません。私の場合はいちいち中学時代の文集など取り上げなくとも、このサイトがあるので、そういう意味では安心ですね。しっかり自分の言葉で思いをつづったものは黒歴史に入らないと考えてるので・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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