凶悪犯罪者バトルロイヤル 第四十三話

 

 定員を超える11人を収容し、熱気漂うハイエースの車内。助手席に座る松永太はスモークフィルム越しに、小林正人軍の潜むアパートの一室を眺めていた。
 
 2階建てアパートの一階。そこしか部屋が取れなかったのか知らないが、警戒意識の欠片もないとしか言いようがない。針金一本あれば簡単に開けられるドア、蹴り一つで簡単に破れる薄っぺらいガラス窓。建物の四方どこからでも、侵入し放題である。

 といっても、今回の作戦においては、ピッキングツールを用いることも、夜中に騒音を響かせて近隣住人に迷惑をかけることもない。古来より、施設を力攻めするのは下策中の下策とされている。城攻めの際にもっとも上策とされるのは、城内に内通者を誘っておくことだ。外から破るのは困難な城も、中から開けるのは容易である。

 一たび侵入さえしてしまえば、相手は袋の鼠である。施設攻撃の利点は、屋外での戦いと違い、一人も逃がすことなく敵を殲滅できることだ。ただ、限定された空間での戦いになる分、数の理を活かしにくいという欠点もあるが。

 昨日、松永は、小林正人軍の人員、同級生連続殺人事件の犯人、間中博美に連絡をとり、寝返らせることに成功していた。彼我の戦力差を強調することにより恐怖を煽り、一方で、我が軍の潤沢な資金力をちらつかせる。アメとムチの使い分けにより、間中は簡単に落ちた。もともと、金銭を目的に幼馴染を殺すような男である。100万のエサに目がくらむのは、わかりきっていたことだった。

 結果としてもっとも望ましいのは、間中が小林正人と、もう一人の人員である、神奈川2件強盗殺人の犯人、石橋栄治を殺害し、二人の首を手土産に我が軍に寝返ってくれることだったが、さすがにそれは拒否された。彼が承諾したのは、小林と石橋の目を盗んで、部屋の鍵を中から開ける、という条件だ。なるほどそれなら、寝首を掻くよりはリスクは少ない。

 そうは言っても、どっちみち、我が軍に殺されてしまえば変わりはないと思うのだが、我が軍が彼を受け入れるということ自体には、微塵の疑問も抱いていないらしい。それほど自分の言葉に説得力があったのか、間中が単純で人を疑うことを知らない心の持ち主なのか、どちらかなのは知らないが。

 人員三名の小林軍では、睡眠は二人が起きて見張りをし、一人が寝る、というシフトで回しているという。それで裏切りを防止しているつもりなのだろうが、所詮は人間のやることである。チャンスはいくらでもあろう。

 と思っていたが、どうも様子がおかしい。約束の早朝3時を1時間以上過ぎても、ドアが開かれないどころか、間中から着信の一つもないのだ。小林正人への忠誠から、裏切りを躊躇っているなどということはなかろう。土壇場に来て怖気づいたのか。あるいは、なかなかチャンスが訪れないのか。

「一体どうなってるの。間中博巳は、なにをやってるのっ!」 

 中央座席に座る総指揮官、永田洋子が、シフトレバーを叩いて怒鳴った。関ヶ原で、小早川秀秋の裏切りを歯噛みして待つ徳川家康のような苛立ちぶりである。これに、自分の隣の運転席に座る加藤智大が、驚いて身をすくめる。近頃、精神的成長著しい彼には珍しい怯えぶりである。彼は、昨日行われていた会議のときから永田を苦手にしていたようだが、気性の荒い女に、なにかトラウマでもあるのだろうか。

「作戦を変更するっ!間中の寝返りを待たず、全軍でアパートを力攻めする!」

 女のものとは思えぬ野太い声で、永田が作戦変更を告げる。

「ちょっとお待ちになって。朝が来るにはまだ時間があるわ。まだもう少し、様子を見てからでも遅くはないんじゃないかしら。日が昇るまでは待機して、それで間中が動かなければ、私は撤退すべきと考えます。実行が今日でなくてはならない理由なんて、どこにもないのだから」

 頭から湯気を発する永田に、重信房子が冷静に進言する。そのすましたような顔が気に入らないらしく、永田は獣のような唸り声をあげて、シフトレバーを何度も叩きつける。

「貴様はまた、そんな悠長なことを・・っ!一年という期限を、頭に入れているのかっ。敵は叩けるときに叩いておかないと、タイムリミットはあっという間に来てしまうのだぞっ!」

「何を生き急いでいるの。あなたも私も、つい最近まで獄に繋がれていた身なのよ。それでなくても、棺桶に片足突っ込んだ年齢のお婆ちゃんだったじゃない。それが今、奇跡のような巡り合わせによって、外の世界に出て活動している。ゲームでいえば、ボーナスステージをプレイしているようなものでしょう。そんなにガツガツしちゃって、おかしいわよ」
 
 重信が、加藤や松村恭造が遊んでいるゲームを比喩に持ち出し、永田を諌めた。永田が修羅の形相になる。こうした独断専行のタイプの人間がもっとも腹を立てるのは、本当のことをズバリと指摘されたときである。正論であればあるほど憤激する。ましてや、進言しているのは、犬猿の仲の重信である。胃液は煮え立ち、冷静さは完全に失われているだろう。

 こうした展開は、最初から織り込み済みだった。これに備え、松永は、永田が無謀な力攻めを決行した場合、永田軍の人員を先に突撃させ、我が軍の人員は攻撃には参加させず、最悪、何もしないまま撤退するよう指示を出せと、前線指揮官である加藤に命じていた。ヒス女の暴挙で、貴重な戦力を損耗してはたまらない。

「・・・・参謀の進言を受け入れる。朝5時30分まで待機とし、間中に動きがなければ、撤退とする」

 永田が、押し殺した声音で言った。松永は、軽い驚きを覚える。どうやら、自分は永田を過小評価していたようだ。この場面で自分を抑えられるとは、なかなかどうして、骨太な強さではないか。伊達に、女の身で数十名の戦闘組織を率いていたわけではない、ということか。

 車内に静寂が訪れる。誰一人、言葉を発する者はいない。殺し合いを前にした人間たちの、異様な息遣いだけが響いている。車内に籠もった熱気は、秒刻みで温度を増している。窓開けでは対応できなくなってきた。松永はたまらず、エアコンの電源を入れた。
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No title

余談で申し訳ないのですが、小説にも度々登場している林真須美と木島佳苗
この二人が欲求不満で今にも暴れだしそうだということで、どちらか一人とHをしてくれとお願いされた場合どちらを選びますか?
ちなみにヤる場所は獄中です

No title

>>1番コメさん

木嶋佳苗ですかねー。
おばちゃんでもいけるんですけど、50オーバーはきついです。
ちなみにデブは巨にゅうなら全然大丈夫です。
デブ貧にゅうのドラム缶体型は無理ですね。

No title

返答どうもです
結構ストライクゾーン広めなんですね
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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