犯罪者名鑑 加藤智大 1

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~前編~哲学する怪物、加藤智大の生い立ちについて

 ”虚”と”実”

 
 世間に伝わっている犯人像と、本人が語る犯人像に大きな乖離がある人物の一人です。

 事件当時の報道では、秋葉原事件は、不安定な派遣社員で、彼女ができないことに悩んでいた加藤智大が、社会への不満を晴らす目的から起こした事件のように語られていました。
 
 ところが、逮捕された加藤が獄中から手記で語った「真相」は、当初の報道とは大きく異なり、事件はすべて、「掲示板に現れる荒らしやなりすましに対抗するためだった」というものでした。

 ネット上ではこれについて、「加藤に裏切られた」とか「幻滅した」といった意見が書き込まれましたが、一番ショックだったのは遺族でしょう。自分の大切な家族が殺害された動機が、逆恨みですらなく、事件にまったく関係のない「掲示板のトラブル」だった、などと言われてはやり切れません。

 ましてや、加藤は今現在は、掲示板への執着は憑き物が取れたようになくなった、などと証言しているのですから、その憤懣たるや、怒りを通り越して、全身の力が抜けるほどでしょう。これならば、まだ「エリートへの復讐」を明言している宅間守の方が筋が通っているともいえます。

 加藤の言っていることは、本当に正しいのでしょうか?

 本人も言及している通り、事件及び犯人像とは、警察、検察、そしてマスコミによって作られるものである、という側面は確かにあります。事件を迅速に処理したい警察、検察と、面白おかしく書き立てるマスコミによって真実が歪められるという例は、他の事件でも多数あります。

 ですが、本人が語っていることだからといって、それがすべて真実であるとも言い切れません。本人が「こうありたい自分」を語っている可能性もあります。

 手記「解」の中で、加藤は自分のことを「自分がない人間」と語り、実際に、まるで第三者のように自己分析しています。書いている内容そのものは、ある程度筋が通っており、最後まで読めば、事件を起こした動機の説明に一応なっているのですが、しかし、内容があまりに客観的すぎるせいで、事件当時、加藤の内面にマグマのように燃え盛っていたはずの怒りがいまひとつ見えてきません。

 世間で言われているような、学歴コンプレックスもほとんどなかったように語っています。挫折感を味わったとされる高校時代は「小、中よりずっと楽しく、友人もできた」、四年生大学に進まず短大に進んだことについては、「母親が四大に進めば車を買ってやるという約束を反故にしようとしたことについての当てつけ」とのこと。

 容姿で悩んでいたとされることについても、「世の中の人を大ざっぱにイケメンとブサイクの二つに分けたら、まあブサイクの方に入るのでしょうが、ブサイクの中で特にひどいブサイクだとは思っていない」と、ちょっと面白い書き方をして、コンプレックスを否定しています。

 このように、加藤は「解」の中で、自分の弱みをあまり見せていません。ネタとして笑えるようなことはよく話しているのですが、読んでいるこちらの胸にも突き刺さってくるようなデリケートな話はほとんど語られていないといっていいです。

 燃え盛るような怒りも、どす黒いコンプレックスもなくても凶行に走る、だから異常者なのだ、と決めつけてしまうのは簡単ですが、当初報道されていた内容を全部切り捨ててしまうのも、私には真実から遠ざかっているような気がしてなりません。

 当たり前の話で、動機において、本人にとって不名誉になるような事実を、本人自らの口から言わなければいけない義務はありません。酷いコンプレックスや、トラウマの中でも人に同情されにくい類のものなど、特にデリケートな話題になるほど口を閉ざすのは、犯罪者でない人も同じでしょう。

 警察や検察が自分たちの都合がいいように事件のシナリオを書き換えるように、犯人も、自分が本当に触れられたくないことを隠すために、虚偽のシナリオを語るということもあるのではないか・・?

  特に秋葉原事件は、世間からの注目度が大きく、多くの人が事件の動機に関心を寄せていました。これ以上、自分の心の中を土足で踏み荒らされるのを嫌がった加藤が、防波堤としての「結論」を出してしまった、ということは考えられないでしょうか。

 当初の報道で語られていた犯人像、加藤が出した「解」、どちらも100%の真実ではなく、100%の嘘でもないという前提で、加藤の生い立ちを振り返りながら、事件の真相に迫っていきたいと思います。

かとうともだい2



 面白い男


 私が加藤智大という男を、殺人犯というフィルターを外して見たときに思うのは、非常に面倒くさい野郎ではあるが、それを補ってあまりあるほど面白い男であり、学校や職場で出会っていたら多分友達になっていただろうな、ということです。

「そういう性格だから彼女ができない、ていうけど、逆だよ。彼女ができないからこういう性格になるの」

「初めから努力しない人間なんていない。努力しても報われないから努力しなくなるんだよ」

 私が好きな加藤の名言で、人の精神の悪循環について語っています。

 挫折した過程を無視して、すべてを結果論で語り、落ち込んでいる人を「そんなんだからダメなんだ」と、したり顔でこき下ろすアホなヤツ・・・私も腐るほど見てきました。

 加藤が言っている「努力」について私の考えは、人は「大きな喜び」を手に入れたいなら努力しなくてはいけないが、「小さな喜び」がなくては、そもそも努力できないということです。

 貧乏は努力しないのが悪いなどといっても、憲法に示されている、「健康で文化的な最低限度の生活」も満たされていなければ、スキルアップや勉強に回す余剰活力など、とてもではないが湧きません。衣食住と、最低限の娯楽が満たされて、努力はそれからの話です。若い人だったら、性のパートナーも必要でしょう。

 彼女(私は男なので、とりあえず男の視点で考える)が欲しい?だったら頑張れ、という人もいます。一見正論のようですが、彼女というのがどの程度の女を求めているかにもよります。もしその男の子が、多数の女と付き合いたい、飛び抜けた美女と付き合いたいと言っているなら、私も「頑張れ」と言いますが、並み程度の女一人にも相手にされないというなら、そんな人生は「頑張れないよね」と言います。

 自分がモテないにも関わらず高望みをしていたなら同情もできませんが、「健康で文化的な最低限度の」彼女を一人得ることぐらいは、ブサイクだろうが怠け者だろうが望む権利はあると思いますし、その程度の女一人もできないんだったら、血の滲むような努力をしたところでタカがしれてるだろ・・・と、余計にやる気を失ってしまうのもわかります。

 それこそ彼女ができたら自信もつき、発奮して頑張れるかもしれないのに、加藤の書き込みに出てくる人のように、女に相手にされず腐っている姿だけを見て、「お前なんか振られて当然だ」と決めつけるのは、ちょっとフェアではない気はします。

 まあ、答えは人それぞれでいいとは思いますが、確実にいえるのは、加藤はこうした哲学的な考え方ができる、面白い男であるということです。そういう男は、ただの「単細胞」を、「早く答えに行きつく聡明さ」と錯覚し、物事を深く考えない単細胞であることを人にまで押し付けてこようとするアホな人種を非常に嫌います。加藤が掲示板で、荒らしのような蛆虫めいた人間の被害にあったときや、単細胞なアホからくだらない説教をされたりしたときは、相当腹が立ったはずです。

 そのことは、加藤が掲示板のトラブルを動機として、秋葉原で殺人事件を起こした理由にもなりますし、逮捕後(むしろ説教はこっちが多かったでしょう)に辟易して、本心とは違う捻くれたことを言い出す理由にもなります。とにかく一筋縄ではいかないのが、こういうタイプなのです。
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No title

犯罪者の動機というものは人それぞれで動機を理解することがその人物を深く知るうえで重要になりますね。
当初は掲示板を荒らされたくらいであれだけの犯行をするのかという理解できない部分がありましたがよく考えてみると頷けるかもしれませんね。
加藤は掲示板にかなりの執着心を持っておりその大事な掲示板を荒らされたり説教や批判を受けるといったストレスに耐えられず遂に爆発して事件を起こしてしまったのなら分からなくもないですね。
掲示板を辞めてしまえばよかったのでしょうがあれだけ頻繁に書き込んでいたことからもう生活の一部になっていたと思います。
加藤は物事を考えるタイプなので議論も好きそうですね。
加藤は本心を言うくらいなら考えをいくつも用意する人物でしょうからどうしても推測することしかできないですね。
加藤は犯罪者の中でもなかなか読めない人物でしょうね。

これまた衝撃的な事件でしたね。

当時この事件について、友人等とも話をしました。

友人の1人、明らかに社会に適合出来なさそうな童貞のA君(酷いな)は、やはりこの事件に何らかの特別な思いを抱いているようでした。



私も哲学するタイプの人間は好きですし、自分自身も少なからずそういうタイプの人間だと思います。

一般的にどうでもいいとされる事をグチグチ考えるのが好きです。

たまに「いちいち難しく考え過ぎなんだよ~!」みたいな事を言われますが、それに対し私は「知ってる。でも、私はそれが楽しくてやってるんです」と言い返します。

考え事をし、それを何かに役立てようなんて最初から思っておらず、単なる娯楽として考え事をしています。

だからというわけでは有りませんが、私も単細胞の人に説教されるのは本当に嫌ですね(あと無知で浅はかな偽善者に悪人呼ばわりされるのも)


まず第一に相手が私の考えを理解していない場合、その時点で説教など聞く気になりません。

考えが伝わらないのは伝え方が悪いからだ、みたいな事が一般的に言われていますが、世の中、馬の耳に念仏という場合もあります。カリスマ塾講師もカリスマ的馬鹿を東大に入れるのは無理でしょう。


加藤の気持ちが少し解ります。

No title

獄中手記が真実かどうかは確かに疑わしいですね。加藤が捻くれているかそうでないか、となれば確実に捻くれているでしょう。あんな親の元ではまっすぐに育て、というのが無理なのです。努力教患者はそういう環境まで自己責任というのかも知れませんが。

No title

seaskyさん

 犯人が本当の自分ではなく「こうありたい自分」を語っている可能性があるケースでは他に山地悠紀夫がいますね。

 掲示板のトラブルについては確かにムカついていたのだろうと思います。辞めればよかったのに、とか、個人のブログか何かだったらよかったのに、というのはある程度客観的な立場だからこそいえることで、後になってみればなぜあんなことで悩んでいたんだというケースは誰にでもあります。

 ただそれだけが理由というのも釈然としないので、最初の報道の可能性も考えながら書いていきたいと思います。

 

No title

L,wさん

 考えないよりは考えた方が絶対にいいと思いますが、世の中考えてもどうにもならない問題が多すぎるので、結果的に哲学族がアホ族の後塵を拝すケースはありますね。それでも考え続けるしかないんですが・・。

 説教については、たぶん加藤じゃなくてもイラッとするだろう女からの説教があるんで、第5回くらいまでできれば紹介したいと思います。説教に本気でムカついたのか、やっぱり女が出来なかったのが本当に寂しかったのかなあと、どちらにも取れるんですけどね・・・。

No title

NEOさん

 加藤の母親は間違いなくヤバい部類に入るでしょうね。獄中手記を読めば加藤が捻くれているのは明らかですが、捻くれた野郎だからこそ、全部本当のことを書くかどうか怪しいといえます。ただあれ自体、一つの完成された理屈には一応なっているんで、ある程度尊重しながら書いていきたいと思います。

加藤の事件直後の犯行動機と手記の動機確かに違いますね。
事件直後の動機ならある意味尊敬しますがねぇ〜
どちらが真実の動機なんですかね。
確かに加藤はブサイクな部類に入りますが、それ程酷いとは思いませんが、それなりの女にも相手にされなかったのでしょうか?
掲示板を荒らされ頭に来るの分からなくは無いがもう少し広い目で見るべきでしたね。犯罪犯し捕まれば一生女出来ないですから…
まぁ〜結果論ですけど…
加藤の行動力は流石だと思います。

No title

まっちゃんさん

 加藤の女に関してのエピソードは後に紹介しますが、女に限らず、「やらない理由」が「やる理由」を上回っていれば、犯罪など犯さなかったということを本人も語っています。言っていること自体は、これもあとで解説しますが、貧困問題の第一人者である湯浅誠氏が言っている「溜め」の理論とまったく同じです。

 手記には凄くもっともらしいことが書いてあるんですが、その理論でいけば、当時加藤には友人もおり、母親との関係もそこまで悪くなかった、思いとどまる理由はいくらでもあったことを考えれば「んなこと言っても、結局女なんだろ?」とも考えられるんですよね・・・。皆さんの意見も聞いて観たいです。

No title

本当の動機は何だったんでしょうね。
津島さんが書いているように、言いたくないから真実を隠してるのか、自分の怒りに向き合いたくなくて無意識に事実から目をそらしてるとか・・・でも無意識にって、何人もの人間を刃物で刺すのって、そうとうな理由がありますよね。
気になります・・・

No title

ひなさん
 
 結局ひとつのことが理由なんじゃなくて、一つの式なんだと思います。

 (母親から受け継いだ思考回路+掲示板)が直接のトリガーになったのは間違いではないんでしょうが、それだけではなく、やっぱり彼女ができない、金銭面、職場での不満とかが掛け算で膨れ上がって、最終的に無差別殺傷事件まで発展してしまったのではないか。
 
 その掛け算の部分を加藤は覆い隠そうとしているように私は思うんですよね・・・。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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