犯罪者名鑑 山地悠紀夫 7

やまじ


 ゴト師

 高木の家での山地は大人しく、家の手伝いをよくし、高木の幼い娘にも優しかったといいます。この時期の山地は傍目には何の問題もないように見え、山地も高木の家にずっといることを望んでいたようですが、高木の本業であるテキヤでは、山地を雇う余裕はありません。そこで高木は、パチンコ業界の知り合いのゴト師、田岡(仮)に、山地を預けることにしました。

 「ゴト」とは、パチンコ、パチスロ機を不正に操作することで利益を得る行為で、刑法上では窃盗罪にあたります(そもそもパチンコそのものが本来賭博罪であり、国益を損なう違法な商売ですが)。ようするに裏稼業の一種ですが、パチンコ業界では、お店で働いていた人間が、内部情報と業界の知識を学んだ上でゴト師側に回るのはよくあったことだそうで、また蛇の道は蛇ということで、ゴト師側の手口を知った人間が店側で活躍することもよくあり、ある意味、持ちつ持たれつの関係でもあったようです。

 当時50代の田岡はゴト師の世界では伝説的な人物として知られ、十人近い配下を連れて、大阪を拠点に、西日本各地のホールを回って荒稼ぎをしていました。ゴト師になる人には素性の知れない人が多く、また、稼げない部下には、「取れんと思うから取れんのじゃ!」と、容赦なく罵倒を飛ばす田岡の性格のせいもあって、ゴト師グループは人の入れ替わりが激しく、山地は早々に古株になり、組織の金庫番のような役目を担っていたようです。

 一方で、山地はゴトの腕はイマイチでした。ゴトの手口にも色々あるようですが、田岡が行っていたのは、「体感器」という機械を用いる体感器ゴトで、パチスロ機の内部に埋め込まれた、当たり外れを操作するルーレットの周期に合わせて体感器が振動し、使用者がそのリズムに合わせて打つことで、確実に大当たりを引くというものでした。(説明が非常に難しいので、興味がある方はYouTubeを参考にしてください)

 体感器は誰が使っても大当たりを引けるというものではなく、ある程度リズム感やセンスといったものが必要です。田岡はゴト行為をするだけでなく、体感器も自分で作っており、販売やリースも行っていましたが、その試験運用を行うのに山地を指名し、客の前で失態を演じた山地を思い切り怒鳴りつけたということが何度かあったようです。
 
 しかし、田岡が部下に厳しいのは山地に限ったわけではなく、むしろ金庫番を任せていたように、身寄りのない山地を引き取って面倒を見てやろうと思っていたようで、山地もけして田岡のことを嫌っていたのではなく、むしろ父親がわりとして信頼していたようです。

 そうでなければ、山地はゴトでまったく稼げなくなったにも関わらず、消費者金融から借金をしてまで組織にアガリを納めて、田岡の元に残ろうとしたりはしなかったでしょう。これについて、山地があまりにも不器用なせいで稼げなかったようなことを書いている本などもありますが、実際には、この頃からメーカーの体感器対策が厳しくなりはじめており、体感器ゴトというシノギそのものが限界に来ていたというのが真相のようです。

 体感器をセンサーで感知され、店側に不正行為が発覚し、警察に突き出されたり、店員から暴行を受けたりするといったトラブルが多発しはじめ、体感器のリピーターからもクレームが相次ぐなど、伝説のゴト師、田岡も、次第に追い詰められていきました。他の部下たちは次々と田岡の元を去っていきましたが、山地にはほかに頼れる人はおらず、居場所もありません。

 田岡も山地が簡単に出ていけないのをわかっており、「今は時期が悪いのではないでしょうか」と、正論を言う山地を、「お前の使い方が悪いんじゃ!」と、相変わらず厳しく叱りつけていました。

 しかし、借金が限度額に達すると、さすがの山地もこらえきれなくなり、些細な口論をキッカケにして、ついに田岡の元を去る決断をします。


すいか


 
 邪


 勢いで田岡の元を去った山地でしたが、身寄りがなく、友人の一人もいない彼には、他に行くあてがありません。アスペルガー症候群の人は、組織の枠に収まっている間はいいものの、「自由」を与えられるとどうしていいかわからず、奇妙な行動を取ってしまいがちです。ケンカ別れして家を飛び出したなら、できるだけ家から離れたところで寝泊まりしようとするのが普通だと思いますが、山地はこともあろうに、マンションの前の公園で野宿をし、夜を明かしました。

 ただ、その理由は、「どうしていいかわからない」以外に、もう一つありました。山地は田岡がアジトとしているマンションに住む姉妹に、密かに想いを寄せており、彼女たちをつけねらっていたのです。

 お姉さんの明日香さんは27歳。飲食店で勤務をしており、将来は飲食店の経営者と一緒に、ブライダル関係の会社を立ち上げるために勉強をしていました。ちょうど、山地の初体験の相手である真里と同世代に当たり、私の想像では、山地はこのお姉さんの方に、より強い執着を抱いていたものと思われます。妹の千妃路さんは19歳。当時学生で、明日香さんとは別の飲食店でアルバイトをしていました。二人は暖かい家庭に育ち、友人も多く、愛すべき朗らかな性格であったようです。

 ネット上にいい画像が見つからなかったので、気になる方は「暴露ナイト 大阪姉妹殺害事件」とかで動画を検索していただきたいのですが、率直にいって、かなりの美人姉妹です。お姉さんはやや特徴のあるキュートな顔立ちをしており、 妹さんは純粋にアイドルのように整った顔立ちをしています。可愛いなあと思うのは妹さんですが、私の好みはお姉さんの方です。

 被害者には申し訳ないですが、私自身ロクでもない人生を送ってきただけに、この二人に邪な感情を抱く山地には、もの凄く共感を覚えて仕方がありません。中卒で破滅的な人生を送って、今はゴト師のような如何わしい組織に所属しているという身で、自分とはまったく違った幸福な人生を歩んできた、若く美しい姉妹が同じマンションに住んでいたら・・・。

 淡い恋心というより、憎悪の入り混じった、歪んだ情欲が芽生えてしまうのは痛いほどわかります。山地も含めて登場人物がすべて美形というのもあり、これだけで短編小説が書けそうなテーマです。

 中卒という学歴。少年院出身という経歴。度重なる就業の失敗。わずか三万円という所持金。消費者金融からの借金。身寄りはいない。発達障害などない普通の人でも、人生詰んだと思うような状況に追い込まれた山地は、最後に自分のやりたいことを思い切りやって、警察に捕まろうと決心しました。

「人を殺して、女だったら強姦して、金も奪ってしまえ」

 山地のターゲットに選ばれたのが、上原明日香さん、千妃路さんの美人姉妹でした。
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No title

山地は高木と一緒に住み続けることができれば良かったのでしょうが娘が小さい頃は良くてもいずれは出て行かないといけなかったでしょうね。
山地もまさかゴト師を紹介されるとは思わなかったでしょうね。
完全にヤバイ商売の人間になっていたのですね。
アガリを納めないといけないというのはきつかったでしょうね。
ゴト師を続けていて捕まらなかったのは逆に凄いと思います。
田岡が何とか思い止まって山地との生活を続けていてくれていればとは思いますけどゴトが思うように出来なくなったストレスもあったでしょうし余裕もなかったようなのでやはり難しかったのでしょうね。
山地は追い詰められた状況で無差別殺人を考えなかったのは姉妹の存在があったからでしょうか。
山地自身もうどうなってもいいやというような心境になっていたのでしょうね。

山地の周りには本当にろくな人しか居ませんね。テキ屋の高木の所にもし居れたとしても結果は同じでしょうね。山地にテキ屋は出来ないでしょうから、いずれ高木と揉め出ていく事になるでしょう。
それにしても高木は山地にゴト師の田岡を紹介するなんて何を考えているのでしょう
借金をしてまで田岡の元に居たいと考える所が山地がは普通の人と違うところですね。
山地の人生他の犯罪者と比べても悲惨ですね。私でも山地と同じ環境に育っていたら殺人はともかく間違いなく犯罪者になっていたでしょう。
山地は計画的にやはり姉妹を狙っていたのでしょうか?
裁判では誰でもいいから人を殺したかったと言ってましたよね。

No title

seaskyさん

 前科者や少年院出所者の再就職がいかに厳しいかということですね。裏社会といえばヤクザですが、あれも一般社会以上に礼儀とかにうるさい世界なんで、発達障害が疑われる山地には厳しかったと思います。

 ゴト行為自体は、未遂の場合、初犯なら不起訴に終わりますから、トップまで捜査の手が伸びることは稀でしょうね。田岡は山地がマンションの前の公園でウロウロしていることを知っていて、頭ひやしたらすぐに帰ってくるだろうと思っていたみたいです。彼にとっても予想外だったのでしょう。

 姉妹殺人事件は無差別であり快楽であり怨恨の殺人だったと思います。色々ふかい考察ができる事件です。

No title

まっちゃん さん

 高木のところにもし長く入れたとしても何らかのトラブルにはなっていたでしょうね。結局、人が最後に頼れるのは家族しかいないんで、それを自ら壊しちゃった時点で詰んでしまったと思います。借金してまで居場所を求めようとするほど、社会全体から疎外される気持ちは、完全に想像をすることはできません。 女にモテそうなルックスをした山地ですから、事件さえ起こさなければ、この先結婚するチャンスもあったとは思いますが・・・。

 姉妹を狙ったのは明らかに前もって計画していたことだと思います。当時の山地になったつもりで、次回詳しく考察していきたいです。

絶望の彼方

美学がある犯罪者が皆無なんですよね
山路も結局、金を盗み女を犯して殺して自分の欲求のために行っただけ

金閣寺放火犯とかはそこに芸術すら
感じる美があります

かくいう、僕がしようとしていた
犯罪も美学があります
自分が受ける利益が皆無の犯罪こ
そ志向ですね

No title

  絶望に彼方さん

 宅間守などもそうですが、どんな犯罪にもごく個人的な矮小なる動機と、社会全体に向けられた(本人にとっての)崇高なる動機の二つとがあります。前者だけでは罪悪感を乗り越えられませんし、後者だけでは犯罪を起こす発想には繋がりません。

 金閣寺放火犯も、戦後のアプレゲール的思想にかぶれた寂しい青年が、ただの厭世感と自己顕示欲から犯罪を起こしただけと片づけられればそれまでですし、それがまったく間違いであるとも思いません。

 まあ、矮小な動機の方は分かりやすいし説明もしやすいですが、崇高な動機の方は本人にもよくわかっていない可能性もありますし、説明も難しいものです。語ったところで、簡単に理解されるものでもありません。それをどこまで読み取れるかというのが、この犯罪者名鑑の試みですね。

 
  山地については次回説明します。。

山路、確かにイイ男である点が人に興味を抱かせる因の1つでしょう。

今時っぽくなく、哀愁が漂ってて、私は好感もてますね。


彼のような個人の社会的立場(年齢的に一応学歴をメインで考える)に関し、極めて一般的な意見で、「そんな気にする事ないのに」といった感じのものが有りますよね。

確かにそうなのですけれども、私が思うに、学歴は問題の一部分なのでしょう。


受験なんかは成功体験をする機会としては結構大きいですし(当人からすれば)目的達成能力が問われる場でもあります(田中角榮みたいな例外も勿論ありますが)


そういった事を上手くこなせない人のパターンの1つとして、社会的に見てなんかしら問題がある場合があります。

だから、単に学歴どうこうとかではなく、社会的立場と個人の問題とが不可分、一事が万事とでも申しましょうか。


まあ、そんな事は事後的にしか言えないのでアレですけれど、私が1番何を言いたいのかというと、ニュースなんかを観ていて「住所不定・無職」なんてのを聞いた時「無職だからこんな事するんだよ」みたいな意見は大して意味ないですよって事です。まあ、段階を端折れば当たってはいるんですけど。

No title

L.Wさん

 ジャニーズに多い、彫りの深いぱっちりおめめのイケメンではなく、彫りの浅いしょうゆ顔系のイケメンですね。まあ、パッと見殺人犯とは誰も思わないでしょう。

 実際に社会に出たとき学歴がないと様々な不都合が生じるので、気にすんなというのも無理がありますが、学歴がないことで一番損なわれるのは仰る通り自信でしょうね。

 エリートが努力したから偉いと思ってる人もいるかもしれませんが、社会は相対的なものなので、彼らが栄えてられるのは大多数の落ちこぼれがいるからです。努力しないから落ちこぼれになった・・・じゃなくて、落ちこぼれはエリート側の都合によって生み出されたものです。社会は綺麗な仕事だけでは回っていかないですし。 そして学校の勉強はただの試験対策であって、本当の学問とはいえないことは、多くの人が知っています。

 ただの適性検査で勝っただけの人たちが、自分たちが蹴り落とした人間との間に露骨すぎる格差を設け、低賃金単純労働を押し付けることを正当化するために、「努力神話」を作り上げ、弱者にレッテルを張り付けて、劣等感の塊に仕立て上げているだけというのが、学歴社会の真実だと思います。

 まあ、弱者は張り付けられたレッテルをどう考えるかですよね。それに抗って上を目指すのか、納得して小さな幸せを見つけて生きるのか、社会の側を変えようと主張をしていくのか。たぶんその三つをバランスよくやってくのが正解だと思います。

 レッテルを気にしすぎる人は、そのどれもやらないか、どれか一つだけしかやらないんだと思います。そういう人は犯罪を起こす確率が高いでしょうね
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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