私小説の続き14 旅行の計画と郵便局バイト

安土



 とりあえずあと2話なので先に進めていきます。

 晴れて翌年の専門学校入学が決まった私は、施設警備員時代を含め、二年に及んだフリーター生活の締めくくりに、一泊二日の近畿旅行に行くことを計画しました。

 私は歴史が好きです。これは結構多いと思うのですが、歴史に興味を持ったきっかけはコーエーのシミュレーションゲームで、その後すぐ、作家の井沢元彦氏の著作に出会って一気に歴史に目覚め、 今でもこれを一生かけて極めていきたい学問と定め、書物の消化に勤しんでいます。

 最近は時代区分の境なくオールマイティに学んでいるのですが、この当時の関心は専ら、WW1,2や中国の後漢末期~三国時代、モンゴル世界帝国が築かれた13世紀の情勢、日本史では平安末期や戦国などの、戦乱の時代でした。

 人物でいえば、世界史では、豊富な読書と動物的カンともいえる天才的な経済感覚、演説の才で、美術学校に二度も落ちて人生に絶望していた一介の浮浪児から欧州の覇者となったヒトラー、部族長であった父を他部族に殺害され、家来全てに見捨てられるという苦難の少年時代から、バラバラだった草原の民を纏め上げ、ユーラシア大陸を席巻する世界帝国を築き上げたジンギスカン、辺境コルシカの貧乏貴族の家柄から、兵学校でリア充にバカにされながらも苦学して皇帝にまで上り詰めたナポレオンが特に好きで、私はこの三人を、才能、努力、運すべてに恵まれ、かつドラマチックな生涯を送った世界史の英傑として特に敬愛しているのですが、世界規模でみればやったことのスケールは小さくても、その才能、努力、運ならば彼らにも匹敵する世界史級の人物として、日本の織田信長と豊臣秀吉も挙げられると思います。

 信長は、まだ尾張一国も統一できていない段階から、明らかに「天下」を意識していた視野の広さとスケールの大きさ、既得権益を握っている仏教勢力と妥協せず徹底的に争い、並みの人間なら発狂してもおかしくない信長包囲網を打ち破った強靭な意志力、秀吉をはじめとする家臣の才能を見抜き、育て、それをフルに発揮させる巧みな人事。

 秀吉は、その時々の立場に応じた絶妙の立ち回りで半農半兵の家の子から天下人にまでのし上がった対人交渉スキル、戦争の前に外交と謀略で勝利を固めてしまう根回しのうまさ。

 同じ三英傑に連ねられている家康になると少し格が落ちて、同時代にも、条件が同じなら同じことができた人間は何人かいたと思いますが、信長と秀吉だけは、日本史を通じても別格の存在で、もっと条件にさえ恵まれれば、彼らは間違いなく世界に出ていたであろうと思われます。

 今でもこの二人のことは好きなのですが、当時は他の時代の知識が薄かった分、私のこの二人への興味がピークに達していた時期で、彼らが活躍した戦国時代の遺物が多く残る近畿地方には並々ならぬ関心を持ち、いつか一人旅をしてみたいと思っていました。

ゆうびん



 計画では、夜行バスで京都に向かい、初日は滋賀県を回って、京都のホテルで一泊。二日目は京都市街地を回って、夜行バスで関東に帰るという計画ですから、厳密には1泊4日という日程です。予算は約五万円。しかし、当時の私は無職の状態で、専門学校のガイダンスを聞きに行くにも親に交通費を貰っている有様でしたから、費用を都合するために、またアルバイトを始めることにしました。今度は冬休み期間の、郵便局の夜間年賀状仕分けバイトです。

 最初に言うと、この仕事はチョー楽でした。賃金は低く、夜勤にも関わらず時給1000円もいかないくらいなのですが、それもそのはず、八時間の拘束時間中、実際に働いているのは五時間程度で、三時間は控室で「待機」になるのです。郵便物は一、二時間ごとに、車で纏めて郵便局まで送られてくるのですが、一回便を片付けてしまえば、次の便が届くまでは何もすることがないので、たまたま少ない便に当たれば、正規の一時間休憩より余計に休憩が取れてしまうのです。夜勤であり、仕事は立ち仕事でしたが、これだけ休憩が多いため、身体はまったく苦になりませんでした。

 長期のアルバイトの人も含め、若い人も結構いて、女性もいたのですが、特に誰かと仲良くなるということはありませんでした。休憩時間が多かったのに寂しい限りですが、気は楽だったともいえます。「深夜の仕分けバイト」には、19歳のときに3時間でバックレた経験のある、悪名高い佐川の仕分けバイトの思い出があり、ちょっと不安だったのですが、郵便局の仕分けでは、仕事が楽なのに加えて、社員やバイトは皆まともな人たちで、楽に稼がせてもらった、いい思い出として記憶されています。

 実は次の次の年もこのアルバイトはやったのですが、そのとき、二年前に長期のアルバイトだった人の何人かが、正社員になっていました。郵便局が十万人規模でアルバイトを正社員にしたという話は聞いていましたが、実際に見たときは少し驚きました。一概に正社員になるのがいいことともいえませんが、世の中まったくチャンスがないというわけでもない、とは言えるでしょう。希望とするには、とても覚束ないものですが。

 学生が冬休みの期間中、十五回くらい出勤して、約十万円くらいのお金を稼ぐことができ、二月の頭、私は意気揚々と、念願の近畿への一人旅に出発しました。
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No title

歴史は学校の教科書を読むよりも漫画やゲームで関心を持った方がよく理解できるような気がします。
三英傑はやはり凄いですよね。
家康は信長と秀吉と同列には並ばないですよね。
実際江戸時代があれだけ続いたのはかなり才は持っていたことは事実だと思います。
信長の人生はかなりドラマティックで物語の世界の登場人物であるかのようです。
年賀状仕分けバイトは楽な仕事なのですね。
ハガキの量はかなりありそうですが休憩の時間がしっかりあるというのは良心的ですね。
郵便局はアルバイトから正社員になれることもあるのですね。
採用試験を受けずになれたとしたらかなりラッキーな人達ですね。
正社員登用を餌にアルバイトのままの状態で長時間労働を強いる悪質な企業もありますからね。
職場環境がまともな人たちで成り立っているというのは何よりも大事な条件でしょうね。

No title

seaskyさん

 歴史は暗記科目だと思っている人もいますが、数学や理科もそうでしょうけど、歴史も感覚が大事な学問です。そう考えると、シミュレーションゲームは意外とバカにならないどころか、最高の教材ともいえると思います。

 家康はまあ、信長には家臣化されてこき使われ、秀吉には完敗していますからね。ただ、そうやって二人に散々苦い思いをさせられ、「上には上がいる」ことを良く知り、いい意味でも悪い意味でも保守的な人物だったからこそ、あれだけの危機管理ができ、軍縮という当時の政治課題を達成できたともいえますが。

 郵便局は、まあバイトする分にはホワイトでしたね。佐川だったらそれこそ、次の便がくるまで掃除でもしてろとか言われそうです。最近は年賀状を出す人も減っているでしょうが、高校生のチャリ配達バイトとかもまだやってるのかなあ。

ヒトラー、織田信長、豊臣秀吉は私もあるめんで尊敬してます。でも彼らが統治してる時代にもし生きていたら怖そうですね。独裁者ですから…
佐川急便では私も2時間位でバックレましたね。郵便局の仕事はそんなに楽なんですか?アルバイトから社員になれたひとは運が
いいですね。社員にいずれなれるとかいいながら安い給料でこき使う会社ならよく聞きますが…

いい話ですね。


若い時分、興味を持った事に金と時間を投資する(それも自分で確保したもの)なんて経験は、誰がどう見てもいい話ですよ。


No title

まっちゃんさん

 独裁制のメリットとしては、政策の決定が早いので、国が傾いてもすぐに修正できる点があります。民主主義政治の中にある程度独裁制の良さを残してるのが大統領制ですね。ナチス時代のドイツは資本主義と社会主義のいいとこどりをした、かなり理想的な国家経営が為されていたと思います。労働者の福利厚生も保護され、20世紀のドイツ国民の幸福度は1930年代のナチ時代が一番高かったようです。

 信長、秀吉が目指していたのは、農民を田畑に縛り付けて一定の食糧生産高を確保した上で、商人には自由経済で儲けさせ、国家の増収を図るという政治ですね。江戸時代も基本的にそうでしたが、儒教社会になってしまったため商人から税金を取る発想がなく、国家としては発展がありませんでした。信長、秀吉の世の中が続いていたら、日本でいち早く産業革命が起こったかもしれません。まぁ軍縮って発想にはならなかったと思うので、対外戦争がずっと続いて、戦費が拡大してアジアで孤立してた可能性もありますがね・・・。

 佐川バックレましたか。まああれは人間がやる仕事ではないから仕方ないです。人が悪いのも、たぶんああいう奴隷仕事やるしかないっていうのは前科者ばっかりなんでしょうね・・・。

No title

L.Wさん

 まあ少なく働いて多くの時間を確保する生活をずっとやってきただけに、もう少し歴史というか、もっと実のあることに割ける時間はあったのではないかと思われるのが悔やまれます。あんまり言うと趣味の全否定になってしまいますけど。いい時間の使い方を身に着けるのに時間がかかったような気はします。

>シミュレーションゲームは意外とバカにならないどころか、最高の教材ともいえる
ある学校ではまさにコーエーの『大航海時代』が授業に取り入れられてると最近のテレビで見たけどぐぐったら2000年代から行われてたと判り感心したよ
郵便局の年末年始バイトは民営化前に自分もやらせてもらったっけ、昼間の勤務というのもありそんなにまとまった額にはならなかったけど幸い職員も親切な方達で本当にありがたい仕事だったね
それだけ歴史に長けていたら貧困家庭で学習に専念できない子どもに勉強を教える非営利団体辺りで活躍できるのではとも考えたけど非営利団体だけにそれだけで生計を立てるのは厳しいのが難点か…
桶狭間の戦いと長篠の戦いと三方原の戦いの違いが分からず知人に笑われるレベルの身としてはその豊富な歴史知識を分けてもらいたいよ

No title

ちゃんむくさん

 シミュレーションゲームは国を取ったり取られたり、領地を経営するとかやっているうちに当時の感覚が身に付くので本当に教材になると思います。

 学校の歴史の教え方は所詮試験のための最短、合理的な教え方なんで、あれで覚えたつもりになってると、学校卒業したらすぐ忘れます。合理的な教え方が何でも正しいと思ったら大間違いで、そもそも歴史は人間の営みなんだから暗記なんかじゃ覚えられるはずがないのに・・・。

 覚えられない方が悪いんじゃなくて、教える側が悪いってことですね。歴史教育の穴を補うのが民間の書籍やゲームの仕事ですが、いかんせん学校の教え方が酷過ぎるせいで食わず嫌いしている人が多いのが現実ですね・・・。なんとも残念です。

No title

歴史がお好きなのですか。
僕も地歴は好きな分野で、高校時代は学年で常に上位の成績でした。まあ他の教科は全然だめだったのですが。
教科書には書かれていないバックグラウンドの部分も含めて興味をひかれるのは坂本龍馬です。多少の創作はあると思いますが、やはり出来の悪かった少年が日本の歴史に大きくかかわる偉人になるという点にロマンを感じます。

No title

 空回りさん

 失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、歴史テストの点数≠歴史知識です。

 学校の歴史教育は試験のために効率ばかり重視して、一番肝心な「思考力」「想像力」を養う授業をやってないのが大きな欠陥ですよね。学校の授業では、歴史の面白さの半分も伝わらないと思います。

 幕末自体はキーマンとなる人物が無数にいて面白い時代ですよね。一人、二人の英雄に頼らず、みんなの力で日本という国を切り開いていったという意味で、まさに近代への扉を開いた出来事でした。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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