犯罪者名鑑 酒鬼薔薇聖斗 1

前編~ 透明な存在の誕生 酒鬼薔薇聖斗を産み出した時代

さけおにばら


 
酒鬼薔薇世代

 1982年7月7日、神戸市の病院で、酒鬼薔薇聖斗は産声を上げました。

 この1982年という年に誕生した有名犯罪者には、秋葉原連続殺傷事件の加藤智大、西鉄バスジャック事件の「ネオ麦茶」、豊川主婦殺害事件の少年、PC遠隔操作事件の片山祐輔、一つ上には親族連続殺人事件の松村恭造、一つ下には姉妹殺害事件の山地悠紀夫、土浦通り魔事件の金川真大らがおり、プロ野球の「松坂世代」「イチロー世代」「マー君世代」に匹敵する、凶悪犯罪者大豊作の世代です。

 長くても40歳前後でキャリアを終えるプロ野球選手に対して、一生キャリアが続く犯罪の世界において、まだ30代前半という世代にこれだけ固まるのは奇跡といってもいい出来事です。いったいこの世代には、何があるというのでしょうか。

 「キレる十七歳世代」とも呼ばれたこの世代の特徴として、事件を起こした年齢が、比較的若年であるということがあげられるでしょう。そもそもまだ30代前半ですから当然としても、成人になってからでも、加藤智大のように25歳くらいまでに事件を起こすケースが多く、以降は明らかにペースダウンしています。10代から20代前半にかけての若者を狂気に駆り立てるなにかが、この世代にあったのでしょうか?酒鬼薔薇編では、世代的考察も含めて検証していきたいと思います。


だからみんなしんで


 
 1990年代

 
 酒鬼薔薇世代の学齢期は、ちょうど従来型の詰め込み教育からゆとり教育への転換期に当たり、詰め込み教育の弊害とされるイジメ問題がひとつのピークを迎えていた時期に当たります。単純な発生件数だけなら、80年代の校内暴力が盛んだった時期の方が上かもしれませんが、この時期のイジメは「一人の人間を集中的に」「バレないように巧妙に」質的変化を遂げてきており、それまで校内暴力のついでのように考えられていたイジメが、それ単体で注目されるようになった時期でした。

 雇用に目を向けてみれば、酒鬼薔薇が事件を起こした前年の1996年には、大卒の求人倍率が1.00を切る寸前にまで落ち込んでおり、社会が本格的に、若者に対して「ウェルカム」でなくなってきた、という時代だったといえます。

 どちらかといえば、加藤智大など二十代で事件を起こした「セカンド・インパクト組」の問題であり、十代で事件を起こした酒鬼薔薇らには、就職はまだそれほどにリアルな問題ではないかもしれませんが、そういう時代的な「雰囲気」の中に、すでにいたことは確かとはいえます。

 サブカルチャーでは、終末思想を描いたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」が歴史上に誕生しました。放映期間が1996年、酒鬼薔薇世代が主人公の碇シンジと同じ14歳を迎える年齢でしたから、まさに直撃世代といっていいでしょう。「米沢エヴァンゲリオン殺人事件」の犯人も、ちょうど酒鬼薔薇世代に当たります。

 彼らが「エヴァンゲリオン」を観ていたかどうかが重要なわけではありません。「エヴァンゲリオン」に人を殺人に駆り立てるような何かがあると言いたいわけでもありません。ただ、あの作品から漂う空気というのは、紛れもなく「世界への絶望と破壊」であるとはいえます。そして、そうした作品が生み出され、流行るだけの精神的な土壌があったことも、確かであろうといえます。

 テレビ版の中盤や新劇場版「破」などで、一旦、世間一般に好もしいとされる価値観に迎合してみせた後に(それが一定以上の評価を受けていたにも関わらず)、それを終盤で「リア充ざまあww」とばかりに一気にぶち壊して見せる庵野監督の姿勢を私は全力で評価したいのですが、ああしてぶち壊され、突き落とされた後に残る、「絶望」「荒廃」「索漠」といった余韻に深く共感する層が、酒鬼薔薇世代の前後5歳くらいの間に大勢いたことは確かです。

 政治情勢ではソビエトの崩壊、日本経済におけるバブル崩壊、事件では史上最悪のテロ「地下鉄サリン事件」災害では「阪神・淡路大震災」などがあり、終末を予感させるような出来事が、酒鬼薔薇が事件を起こす直前に起こっていました。

 既存の体制がマイナーチェンジでは対応できないほど歪みはじめ、すべてぶっ壊さなければ未来はない、と感じる若者が増えてきた。それが90年代という時代であり、90年代に青春を過ごした人たちの思想だったのではないでしょうか。


しょうねんA


 
 両親

 酒鬼薔薇の後に男児が二人立て続けに産まれ、父親の社宅では手狭になった一家は、神戸市北区から須磨区へと引っ越しました。

 両親はともに沖縄県の出身で、父親はいわゆる「金の卵」の時代に中卒で集団就職し、中小企業で電気技師として技術を磨いた後、一部上場企業に再就職しました。

 今でこそ「イクメン」などという言葉もありますが、まだまだ酒鬼薔薇が産まれたくらいの頃は、育児は母親の仕事と決めつけられており、父親は外で金を稼いでいればいいという時代でした。しかし、酒鬼薔薇のお父さんは育児に積極的に参加し、休みの日も子供と一緒に遊ぶなどして、お母さんをよく助けていたようです。

 そしてお母さんの方ですが、この人はよく、酒鬼薔薇事件の諸悪の根源のように言われています。そのもっとも大きな根拠と言われているのが、酒鬼薔薇が小学校三年生のときに書いたとされる作文「まかいの大ま王」でしょう。すでに何度もメディアに取り上げられていますが、一応全文を紹介します。


 お母さんは、やさしいときはあまりないけど、しゅくだいをわすれたり、ゆうことをきかなかったりすると、あたまから二本のつのがはえてきて、ふとんたたきをもって、目をひからせて、空がくらくなって、かみなりがびびーっとおちる。そして、ひっさつわざの「百たたき」がでます。お母さんはえんま大王でも手が出せない、まかいの大ま王です。


  これに対する分析で、専門家は口々に、当時の酒鬼薔薇が母親にいかに恐怖を感じ、母親がいかに鬼母だったかを述べていますが、それは正しいのでしょうか?

 私も小学生のころ、母親に怒られ、恐怖を感じていたようなことを学校の作文に書いたことがありました。また小学六年生のころ、脳みそにカッターナイフを突き立てたオブジェを作った酒鬼薔薇と同様、戦争で人が死にまくるような絵画を描いたこともあります。その結果、当時の担任教師がそれを大げさにとらえ、「母親の愛情が足りないのではないか」と決めつけて、個人面談でうちの母親を責めたということがありました。

 実際どうだったかといえば、私の母親は昔から友人も多数おり、親兄弟との関係もよく、家事はほぼ完璧にこなし、職場では誰からも頼りにされる常識的な人物です。あまりにも常識的すぎて、非常識人である私との関係がうまくいかないということはありましたが、それは私のせいでもあります。そういう常識的な母親に育てられたお蔭でしょう。私は社会において数々の不適応を露呈しながらも、28歳の現在まで、大きな犯罪を起こさずに生きています。

 何が言いたいかといえば、「作文ぐらいで母親を責められたんじゃたまったもんじゃねえ」ということです。作文のネタとして母親を選んだのなら、読んでいる人に面白おかしく感じてもらうために、ちょっと大げさに書くくらいのことは、小学生でもやるでしょう。絵画にしたところで、幼少期から「ウルトラマン」「ゴジラ」「戦隊ヒーロー」「ドラゴンボール」に親しんできた子供が、戦いの絵を描くことには何の不思議もなく、それを戦争賛美と結びつけられたのではたまったものではありません。「サイン」のひとつと取ってもらう分には構いませんが、それならもっと他に注目すべき点はいくらでもあったはずです。

 これから詳しく紹介する、母親が酒鬼薔薇に行ったとされる「厳しい躾」とやらも、正直「人格が歪むほどか??」と思うレベルのものですし、逮捕された酒鬼薔薇が、面会に訪れた母親に対して反抗的な態度を取ったとされるエピソードについても、アクリル板を隔てているという状況が特殊なだけで、反抗期の息子と母親にはよくある光景でしょう。

 酒鬼薔薇に限らず、犯罪者の親に関するエピソードをみたときによく感じることですが、あまりにも「フェアではない」見方が多すぎます。わかりにくいものをわかりやすくするため、特に少年事件が起きたとき、親に多くの責任を求めすぎているように思います。しかしそれでいいのか?子供が社会で関わる大人は、親だけではありません。大人だけが、子供に影響を与えるのでもありません。生まれ持ったどうしようもない資質の違いもあります。

 世間の論調に惑わされず、事実を客観的にみていきたいと思います。

 
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確かにさか酒鬼薔薇世代に凶悪な犯罪者が集中してますね。どうしてでしょうか?ただの偶然と捉えたいですね。
1990代は前半にバブルがはじけて日本経済のターニングポイントですね。そこでの政治の失敗が今の社会だと思います。
中盤から後半にかけて重大な犯罪、災害が起ってますし…
酒鬼薔薇の母親に関してマスコミで色々言われましたね。結局母親が普通でないから酒鬼薔薇みたいな子供になるんだと強調したかったんだと思いますね。
まぁ〜多少厳しいかもしれないが普通の範囲だと思いますが…
普通の育て方をして酒鬼薔薇みたいな子供に育つと言うと不安を仰ぐ事になりますから…

No title

まっちゃんさん

 この世代に集中しているのが偶然なのかそうでないのか、私にもはっきりとしたことはいえません。しかし、まだ宅間守が事件を起こした年齢にも達していないこの世代の「サード・インパクト」が起こってまた注目される気がしてならないのは私だけですかね・・。

 バブル崩壊について書き忘れていました。経済についてはまだそれほど詳しくないですが、直接のきっかけは政府が不動産業界に対して総量規制をかけたことが原因と言われていますよね。それから一時的に景気が回復したといっても、それは貧富の差が拡大したのみで、世の中はジワジワと悪くなり続けています。いっそ、「何とかインパクト」が起こって全部滅茶苦茶になったほうがマシという考えも出てきますよね・・・。


>普通の育て方をして酒鬼薔薇みたいな子供に育つと言うと不安を仰ぐ事になりますから…

 これですよね。異常な人物が現れたとき、自分たちとは違うと思いたがろうとする世の中のニーズで、加害者の家族が必要以上に痛めつけられているケースが本当に多いです。

No title

90年代は80年代と2000年代の間に位置する板挟みの時代だったので普通では考えられない事が起こりやすい混乱期であったように思います。
実際にノストラダムスの大予言が起こるとされていた99年には世間に終末思想や不安感が蔓延していた時期でしたね。
酒鬼薔薇はよく絵を描いていたという印象がありますね。
趣味でそういう不気味な絵や意味不明な絵を書く人は意外といると思います。
絵を描くことによって精神の安定になったり悪影響を及ぼさないならどんな内容でも自由に描いて良いのではないかと思っています。
酒鬼薔薇のオブジェはリアルですね。
個人的には苦手で実際に見たら怖いと思ってしまうでしょうね。

No title

seasky さん

ノストラダムスありましたねえ。アンビリバボーでよくやってましたがあの番組はまだやってるのか・・。凶悪犯罪特集とかもありますが、犯罪者を独りよがりな正義感で断罪しない姿勢は好感が持てます。トークも仰天ニュースほど脱線しないし。

子どもが図工で作る作品とかは、大人の価値観を押し付けるのはよくないですよね。それをサインと捉えて普段の行動を注意深く見るようにするのは結構ですが、それを作ったことそのものを問題視するのはよくないです。

まぁ、酒鬼薔薇が描いたものだったらミッキーマウスだろうがドラえもんだろうが怖いって気はしますけどね・・・。

心理学者等が語る安直な相関関係や志向関係には私も兼ねてから不信感を抱いていました。

例えば同じ事例を語るんでも、フロイトでいくか? アドラーでいくか? で大分違います。発言力のある立場である事を自覚し、もう少し慎重になって欲しいですね。


そういえば私も中2の時、美術の授業で問題作を作りました。ドールハウスみたいなものを作れと言われ、私は小さな箱の中に、針金で作った怪物と、それに襲われるこれまた針金製の人間を入れ、仕上げに血を模した絵の具を霧吹きでシュッと……それが厄介な事に父兄の目にも触れる展示会みたいなものに出展されてしまいました。

ただ、私の親友の母親はそれを見て、「独創的」と言って(取り繕いではなく)評価してくれたそうです 笑


まあ私も何かしらの事件を起こしたら、あの作品が分析医にでも鑑定されるのでしょう。


No title

L.Wさん

 逆に考えると、子供のころに書いた作文とか図工の作品まで一々結び付けなければならないほど、人を責めるネタというか、人が犯罪を起こす要因なんてものは簡単には見つからないもんなのだな、と思います。

 私が事件を起こしたとして、「中学の卒業文集のこの文章が心の闇を表している」とか何とかいわれても、「はァ?」と思うでしょうね。

久しぶりにコメントします

今まで全部読ませていただいてます。
コメントしておらずすみませんでした。
この事件、人物に興味がありますので
大変楽しみにしてます。

No title

ケイさん

 いえいえ、全然謝られることではないです💦
 読んで頂いているのがわかり、嬉しかったです。
 酒鬼薔薇は全8回くらいになると思いますが、盛り上げていってくれるとありがたいです。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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