犯罪者名鑑 酒鬼薔薇聖斗 序

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 今年は酒鬼薔薇聖斗が書いた手記「絶歌」の発表が、大きな話題になりました。同書は出版不況と言われる世の中で、これまでに二十五万部を売り上げ、酒鬼薔薇は推定四千万あまりの印税を手にしたといわれています。印税の用途については何の説明もなく、被害者遺族からのコメントも出ていないことから、すべて酒鬼薔薇の懐に入ったものと思われます。

 米国に、サムの息子法という法律があります。70年代に、「サムの息子」の名で犯行声明を出しつつ連続殺人事件を起こして逮捕された、デヴィッド・バーコイツに、出版社が多額の報酬を約束して手記のオファーを出したことが問題視されたことからできた法律で、犯罪者が自らの罪による悪評を利用して金銭を得る行為全般を取り締まる内容が制定されています。

 考えるまでもないことですが、犯罪者が自らの犯罪行為をネタにして金儲けをするなどということがまかり通っていたら、社会正義もクソもない世の中になってしまいます。「炎上商法」というマーケティング戦略もあるように、意図的に世間のヘイトを集めることで注目を浴びるのは、特にショー・ビジネスの世界では有効な手段の一つではありますが、それにしても越えてはならない一線はあるでしょう。

 「絶歌」では、酒鬼薔薇が少年院時代に受けていた更生プログラムについて何も触れられていませんでしたが、これは「第二段」のためにネタを出し惜しみしている可能性もあります。「現代社会では、情報を発信する側の人間が強者であり、誰かが発信した情報を共有することしかできない人間は弱者である」と持論を語る酒鬼薔薇は、今後も本を出版して金儲けを続けるつもりかもしれません。

 「絶歌」の後半には、酒鬼薔薇が少年院を出所してから、人並みに世間の波にもまれ、底辺の悲惨な労働環境の中で苦労をしてきた様子が書かれていました。恐らく酒鬼薔薇が手記を出版した本当の動機は、強烈な自己顕示欲を抑えられなかったのではなく、その悲惨な底辺生活から抜け出すことにあったのでしょう。出版の話がまとまるやいなや、執筆に専念したいからと、出版社から四百万円もの生活費を前借りしていたことからも、彼がよほど早く底辺労働を脱出したかったことが伺えます(取材の必要もない、自分の過去を語っただけの内容なら働きながらでも書ける)。

 同じ底辺労働にしか生き場がない者として、彼の気持ちはわからなくもないです。掲示板などで酒鬼薔薇を責める書き込みの中には、「そういう過酷な労働で苦労をするのも償いのうち・・・」などという意見もありましたが、これは完全に的外れな意見です。だって、実際に派遣などの底辺労働をしている人のほとんどは、前科などない普通の善良な市民なわけですから。酒鬼薔薇が底辺労働をするのが償いなら、真面目に生きている人たちが底辺労働をする意味は何だと言うのでしょう?

 元犯罪者にだって、人間らしい働き方をして生きる権利はあります。過ちを償うことと、悲惨な労働環境で働くことを混同するのはおかしな考えです。犯罪者的素養のない人間でさえ「やってらんねぇ」と思うような労働環境で、ちょっとしたキッカケで一線を踏み越えるような人間が根を上げるのは、ある意味当然ともいえます。

 酒鬼薔薇が安定した会社で働いていてもいいでしょう。結婚して子供がいてもいいでしょう。多数の友人に囲まれていてもいいでしょう。ただ、大儲けはやはりいけません。そこには越えてはならない一線があります。

 1969年。神奈川県のサレジオ高校に通っていた少年が、同級生の首を切って殺害する事件がありました。少年は出所後、弁護士となって成功し、子供も儲けて幸せな人生を送っていました。しかし、とあるノンフィクションが出版され、弁護士となった元少年が、遺族への賠償金を滞らせていたこと、それを追求した遺族に対して不誠実な対応を取っていたことなどが知られたのをキッカケに、世間から反感を浴び、個人情報を特定されるなどして、元少年は弁護士を廃業に追い込まれるなどの社会的制裁を受けました。

 もちろん、出所後に勉強して弁護士になったのは本人の努力であり、人が努力をするのは尊いことです。しかし、やはり世間というのは金持ちには厳しいもので、誰しも無意識のうちに、成功者を引きずり下ろすためのネタを探っているものです。それは醜い嫉妬でもなんでもありません。資本主義であり民主主義である近代国家には、「権力や財力を持つ人間には、それ相応の倫理が求められる」という絶対条件が必要です。それを成立させるためには、一般市民が政治家や資本家を監視していくという姿勢が絶対に必要です。

 いくら弁護士になるために血の滲むような努力をしたといっても、それだけでは、世間は元犯罪者が社会的な成功を収めることを許したりはしません。犯罪とは関係なく、自分で努力した人でさえそうなるのですから、自らの犯罪をネタにして金儲けを企む酒鬼薔薇が、このまま彼が言う「情報を発信する側の人間」として、勝ち逃げを決め込むのはまず無理でしょう。

 「絶歌」の中で、酒鬼薔薇は、「性依存症であったマハトマ・ガンジーが、晩年禁欲主義に転じたのは、性欲を満たすよりもそれを抑えることの方に快感を覚えただけであり、革命を成功させながら権力の座に着くことを拒んだチェ・ゲバラは、戦うことにしか己の存在価値を見いだせない生粋の戦闘ジャンキーであり、彼らは聖人君子ではなくただのマゾヒストにすぎない」などと語っています。

 納得できる部分もなくはないです。確かに、常識では考えられない行動を取るという点で、犯罪者と聖人君子は紙一重なのかもしれません。酒鬼薔薇は英雄とされる二人をただのマゾヒストとすることで、世間に批判されることを望む自分と重ね合わせているのでしょうが、ガンジーやゲバラが最後は銃弾を浴びて非業の死を遂げたように、酒鬼薔薇にもいずれ、何らかの社会制裁が待っていることは間違いないでしょう。その責め苦は、彼が自称する「マゾヒズム」などでは到底耐えられないほど強烈なものになると思われます。

 そう遠くない未来に来るであろう「そのとき」に備えて、私も酒鬼薔薇聖斗の研究を進めていきます。
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No title

絶歌が売れているということは知っていましたが印税がそんなにあったとは思いませんでした。
現在の出版業界は残虐な事件を起こした犯罪者が書いた本という話題性だけで売れるということですね。
確かに普通の犯罪者の手記はあまり売れないような気がしますね。
永山則夫のように獄中で小説を書き印税は被害者遺族へ支払うということであれば納得しますが今回の場合は全くの逆ですよね。
出版社が本を出さなければいいのでしょうが確実に売れるという見込みがある以上そうもいかないのでしょうね。
元犯罪者でも本が売れてしまえば作家として認められてしまうというのは社会の危険な部分だと思います。

大人であれば間違いなく死刑になる犯罪をたった6〜7年でで社会復帰するだけで納得できないのに本を出版し金儲けするなんて許せませんね。
買わなければいいのですが、私も発売2週間前にアマゾンで予約しほぼ発売日に手に入れました。読んですぐアマゾンで2300円で転売したので多少儲かりました。
私の底辺の派遣の年収が200万円位なので4000万円は20年分ですね。
犯罪者の酒鬼薔薇が手記を出し底辺から脱却し犯罪を犯していない私がこのまま底辺労働なんて世の中おかしいですね。
酒鬼薔薇がこのまま逃げ切れるかですが、奴は運が良さそうなので大金を稼いで逃げ切れる様な気がします。なにしろあれだけの犯罪犯しながら6〜7年で娑婆に出てきたんだから…

No title

seaskyさん

 ノンフィクションはフィクションの小説に比べ売れやすい傾向はあるとはいえ、発売から半年も経たないうちに二十五万部は相当売れた方ですよね。

 印税はやはり本人に入ってしまうというのは健全ではないですよね。ただ被害者遺族に支払うといっても、被害者を殺害するシーンを純文学的な表現で書くというあの内容では・・・・。

 あからさまに被害者遺族の感情を逆なでする内容は、世間を挑発する目的で書いているのか、悪気なく書いているのかはわかりませんが、あれをそのまま世に出した出版社側の倫理も問われてくるところですね。

No title

まっちゃんさん

 みんな刺激に飢えてるんで、買うなといっても買うんですよね。サムの息子法の制定は急務でしょう。ワタミみたいな会社だったら不買運動も効果ありますけど、本を出すに当たっては、自費出版でもない限り本人の懐は痛まないですしね・・。

 倫理なき資本主義というのはお隣の中国が実践していることですけど、いくら本が売れない時代だからといって、何でもありになっちゃうのはいけないですからね。表現の自由といっても、あからさまに被害者遺族を貶める今回の内容は法的な手段で訴えられると思いますよ。損害賠償でいくら取れるか・・・。酒鬼薔薇もそれを織り込み済みで、賠償を払ってもまだ有り余る金が手元に残ると踏んでいるのか・・・。いくら悪運の強い酒鬼薔薇でも、このままタダで済むことはないと思うんですけどねえ。

遂に酒鬼薔薇ですね!


底辺労働へ対し抱く苦悩は、まさに身分制度が崩壊して以降の社会において実存主義者が唱えたテーマそのものでしょう。

まさに我々は「自由の刑に処せられている」わけです。ただ、構造主義者等が明るみにした通り、自由など本当の意味では存在しません。また、自由を求める上での生得的な問題も消えたわけではありません。


だからより一層「自由に選べるのに底辺かよ~」と悩んでしまうわけですね。そこから怨念が生まれます。






犯罪者のその後。

幸福追求権と世論とのバトルですね。
悪まで感情論は感情論で留めておくべきで、それに変に社会的意味合いを持たせようとして何らかの手段を行使すると、大概ミスりますよね。当人が自覚するミスではなく、社会全体の制度としてのミス……といっても個人は個人の意向で動く。


確かに世の中は不条理ですが、それでも生きていくしかありません。



ガンジーやゲバラについては、ありがちで妥当な考え方ですね(要はものの捉え方ですが、その捉え方においては的を射ている)


大概、異人も公私混同しますから。

No title

L,wさん

 建前上自由というのが心理的に苦しむ原因であり、建前を隠れ蓑にして貧乏人から搾り取っている血も涙もない連中がいるのは確かですね。竹中平蔵とか、選ぶ自由があるとか言ってる連中が何をしてきたかを見れば、そんな奴らに迎合している必要はないと気づくはずなので、そういう世の中になってほしいですね。

 
 後半は主体が酒鬼薔薇の方なのか世論の方なのかがわかりにくいのですが、酒鬼薔薇の方ということでよろしいですか?

 まあ、どんな理屈を唱えても、犯罪者が自分の犯罪をネタにして大儲けすることに社会的意味合いを持たせるのはさすがに無理でしょう。世間の反感を煽る形にしたのは、開き直り、計算づくだったと思います。

質問してもよろしいでしょうか?
ネットに流れている「少年A冤罪説」についてブログ主様はどの様な見解をお持ちですか?
ネットを探せばこういう話題はいろいろあって、宮崎などは「冤罪説」の他にも「いや、やっぱり犯人説」とかいろいろあって興味深いです。

No title

ばかがいこつさん

 実は酒鬼薔薇冤罪説についてはそれほど注目していませんでした。犯罪について興味を持ったのが、この事件が起きたずっと後のことでしたからね・・・。

 情報というのは錯綜するもので、第三者というのは無責任なものです。目撃証言と一つの矛盾もない完璧な調書を作り上げるのはなかなか難しいと思います。やはり物的証拠が大事ですよね。物的証拠がないまま刑が確定した事件については、徹底的に洗いなおす必要があると思います。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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