犯罪者名鑑 山地悠紀夫 6

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 出所 

 少年院の山地は模範生というべき生活態度で、三年間と収容期間が長かったこともあって、溶接やパソコン関係の資格を数多く取得しました。特に難関というわけではありませんが、それなりに意欲がなければ取れない資格です。中学校からは不登校だったこともあって、入所時にはひらがなカタカナの読み書きが精いっぱいだったという学力も向上し、本をよく読むようにもなりました。山地は学校という環境に馴染めなかっただけで、本人のポテンシャルはかなりのものであったことの証明でしょう。

 小さな成功体験を積み重ねていくことで、気持ちも前向きになり、更生は順調に進んでいたようでしたが、前回の記事で述べたように、母親のことは相変わらず敵視し続け、事件についての心からの反省がないところは気がかりなところでした。母親を憎み続けるのは「信念」だったとしても、「また人殺しをすることがないとはいえない」というのは聞き捨てなりません。私個人的には、再犯を防ぐためには、反省よりも就職などのサポートを充実させることの方が重要だと考えますが、山地の場合はそのどちらもないままに、社会に放り出されることになってしまったのです。

 また、少し気になる事案もありました。岡山少年院では、少年たちに命の尊さを学ばせるために、生き物の世話をさせるということが行われていたのですが、このとき山地が面倒を見ていた子犬が死亡してしまったのです。

 人間でも犬でも、死ぬときはあっさり死ぬものであり、抵抗力の弱い子供ではなおさらです。子犬が死んだ原因が山地にあったかどうかはわかりません。ただ、このときの山地の様子を、当時の院生が「妙に冷静で、悲しんでいる様子は伺えなかった」と語っていたのは、事実として記しておきます。

 真相は藪の中ですが、この一件が、仮に山地の仕業だったとしても、山地がすべて悪いとはいえないでしょう。

 米国で犬の訓練を少年の教育に利用するプログラム、「プロジェクト・プーチ」では、プログラムを希望する少年の調査を入念に行い、過去に動物の虐待歴がないかなどといった審査を経たうえで、初めてプログラムへの参加が許可されます。山地には動物の虐待歴はありませんが、殺人という重篤な罪を犯しており、母親を殺したことに「快楽を覚えた」ということを語っています。そういう子供に安々と犬の世話を任せるというのは、審査などは一切行われていなかったということでしょう。

 当局が犬を人間のパートナーではなく、矯正のための道具としか考えていない証拠です。


こうせいほふぉ



 更生保護施設

 
 様々な問題を抱えながらではありましたが、二十歳を迎えた山地の、出所に向けた準備が進められていきました。

 両親のいない山地にとって、彼の身元を誰が引き受けるかということは、重大にして困難な問題でした。血の繋がった親族で、それなりの生活能力がある人物は、山地の母の兄である叔父だけでしたが、叔父にとって、山地はただ一人の甥であると同時に、妹を殺害した加害者でもあります。叔父にとっては、山地本人の更生だけでなく、自分が山地を受け入れる理由として、山地が「反省しているかどうか」は重要な問題でした。これは当然の感情でしょう。

 しかし山地は、叔父の「反省しているか」という手紙での問いをまるきり無視して、ただ事務手続きだけの用件を書いた手紙を送り返すなど、叔父の気持ちをまったく無視したような態度を取ります。

 これではどうしようもありません。叔父は山地の身柄を引き取ることを拒み、山地は更生保護施設へと入ることが決まりました。

 更生保護施設に入った山地は、毎日弁当を持ってハローワークに通う生活を始めましたが、殺人という重篤な罪を犯した山地には、なかなか自分に合った仕事が見つかりません。少年院に入った子供の就職先の大半は、土木や工業関係ということですが、線が細い山地には肉体労働は向かないとの判断から事務関係を目指していたのですが、そうなると今度は中卒という学歴がネックになってしまいます。

 山地も保護施設の職員も途方に暮れていましたが、そんなとき、保護施設に出入りして、入所者に仕事を斡旋していた人物、高木(仮)が、偶然、山地の父親がパチンコ店に勤めていたころの知り合いであったことがわかりました。父の話で高木と意気投合した山地は、彼からパチンコ店の仕事を紹介してもらうよう頼み込みます。

 高木は困惑しました。たしかにパチンコ業界には明るいですが、それだけに、パチンコ業界の暗い部分も熟知しています。そもそもパチンコというギャンブルは公営ではなく、実態としては違法な産業です。こういわれたときパチンコ好きがよく引き合いに出すのはソープなどの風俗ですが、性欲という、人間の根源的な欲求に根ざし、間違いなく性犯罪の歯止めになっている風俗と違い、パチンコはただ依存症を生み出すだけです。

 社会への貢献といえばトイレステーションとしての機能くらいしかない、必要悪でもないただの悪であるパチンコ業界に、更生して社会に出ていこうとする山地を送り込んでいいものかと、高木は随分悩みましたが、結局は、父と同じ仕事がしたいという山地に根負けして、知り合いのパチンコ屋を紹介します。話は叔父にも伝わり、随分と心配したそうですが、身元の引き受けを断った手前、あまり説教するわけにもいきません。せいぜい、「頑張れよ」と、励ますことしかできませんでした。

 こうして山地は、母を殺害した山口市と同じ山口県内の下関市で、パチンコ店の店員として社会復帰することとなりました。


ぱちんこ



 社会復帰

 山地の勤務態度は良好で、半年も経つころには仕事にもすっかり慣れ、お金も溜まってパソコンを買うなど、生活の基盤も整ってきました。

 ところが、平和は長くは続きませんでした。あるとき山地は、居酒屋で少年院時代に一緒だった院生と偶然再会し、以後、勤務中に因縁をつけられるなどのトラブルに見舞われてしまったのです。店長は寮生活者で管理しやすく、仕事の覚えも良かった山地を遺留しましたが、どうしても居づらくなって、パチンコ屋を退職せざるをえませんでした。

 次もパチンコ屋に勤めたのですが、ここではなんと、店長が山地と同じ保護施設の出身で、殺人という重罪を犯した山地を雇ってはいられないと、クビを言い渡されてしまいました。

 現実には、過去に重罪を犯した人でも、自分の過去を周りの人間に知られることなく、平和に生活ができている人もいます。山地が立て続けに過去バレしてしまったのは、不運としか言いようがありませんが、二度の失敗で、山地は自分が社会で生きていく大変さを身に染みて理解したことでしょう。あるいはこのときこそ、母親殺しの罪を「反省」ないし「後悔」したかもしれません。

 山地は過去バレのトラブルが起きた際、律儀に更生保護施設に相談しているのですが、「これからは犯罪をせず、堅実に暮らせ」と指導されただけで、まともに取り合ってはくれませんでした。ねぐらを提供しているだけで、「更生保護」とは名ばかりの施設だということでしょう。保護観察の期間も終わってしまい、このまま一人で生きていくことに無理を感じた山地は、パチンコ店の仕事を紹介してくれた、高木のアパートに転がり込むことにしました。
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No title

自分は山地について考えるときにどうしても永山則夫の存在とだぶってしまいますね。
永山も読み書きが怪しかった状態で獄中生活で勉強し本を読み小説も書けるようになった所など山地との共通点があるからでしょうか。
山地は叔父に対しての態度についてどういう気持ちなのか分からないですね。
例え叔父が身元を引き受けたとしてもお互いかなり気まずい関係になってしまうのは明らかですよね。
山地は仕事に就いてしまえば出来るほうの人間で器用なタイプだと思いますが悉く偶然が邪魔をしてしまうのはきついですね。
折角山地が相談したのに更生保護施設の冷たい対応にも問題があると思いますね。
出所した後も定期的に連絡を採り相談ができるような方針にしないと再犯を防ぐのは難しいでしょうね。

山路からは哀愁のようなものを感じますね。「運が悪かった」というのはとても悲しい言い方だと思いますが、山路の場合もそうだったのかもしれません。


死刑となると感慨も一際です。


法が個人を抹消するのが死刑ですから……なんて考えつつも、人の命を奪ったのだから、仕方ないとも思います。


では、人の命を奪わず、よって死刑にもならない、ための方法、それが不可能という悲劇。


問題は尽きませんね。

No title

seaskyさん

 返信遅れまして申し訳ありません。

 少年院では授業のカリキュラムがあり、拘置所では自習をする時間がたっぷりありますから、そこで勉強して知識を身に着けたという人は探せばもっと大勢いるでしょうね。同じく読み書きができなかった、新宿バス放火事件の丸山博文なども、無期懲役で刑務作業に当たらせるのではなく、死刑判決を受けて獄中で勉強し
た方が、豊かな余生を送れ、自殺することもなかったのかもしれません。

 アスペルガーの疑いがある山地には、仕事という、生活の一部分をこなすことはできても、自分一人でプライベートの付き合いや家のことまでこなす能力はなかったと思いますね。これで親もおらず、前科まであるというのはほぼ詰んでいる状態です。同じ立場に追い込まれていたら、犯罪行為を起こさない人間の方が珍しいくらいでしょうね・・。

No title

L,wさん

 返信遅れまして申し訳ありません。

 幼少期から振り返ってみて、山地の場合は、本人がどうこうという次元ではなかったのは間違いないですね。

 死刑制度はヨーロッパではすでに前世紀の遺物と捉えられており、近代国家でありながら、いまだに死刑存置の意見が七割もある日本は、とんでもない国と思われているようです。死刑の抑止効果はかなり怪しいところで(国家に何十年もタダ働きさせられる無期懲役より、死ぬまで菓子が食えてゴロゴロしてられる死刑の方がいいという人も多い)、遺族感情を解決する以外に存置する理由はほぼありません。国際基準に合わせるなら、仮釈放なしの終身刑導入はもっと考えられていいでしょうね。

死刑が犯罪を抑止したデータはないですし、まあやはり遺族の復讐代行サービスですよね。特に日本は「仇討ち」の文化などから、その点に重きを置くのかもしれませんね。なのに死ぬと神になっちゃうから、不思議な文化ですね。


山路は、歴代の死刑囚の中でも死刑執行の早さが宅間についで2位であると、最近知りました。

No title

L,wさん
 
 控訴もせず、人権団体など、面倒な付き合いを一切断っている死刑囚は執行が早くなる傾向があるようですね。

 死にたいといってるものは早く殺してくれるし、死にたくなければ戦えば、少しは長く生きられるというのはある意味フェアではあります。

山地くん、辛いですね。
パチンコ店辞めざるを得なかったことを考えると胸が痛みます。
更生施設は役に立たなかったのですね。改めて犯罪を犯した者の社会復帰の難しさを感じます。なげやりにもなりそうです。

あまり気の利いたコメントが書けないので自粛しておりました。

No title

かなえさん

 前回からの流れですが、当局が言う「反省」という言葉は、受刑者の社会復帰のサポートを怠っている責任を、すべて受刑者本人に押し付けているだけのようにも思えてきますね。市民も再犯の被害に遭いたくないのだったら、「犯罪者は悪いことしたんだから、大変なのは当然でしょ?」とか言っている場合ではないんですけどね・・・。

 皆さんに言っていることですが、たとえ短くても、定期的にコメントを頂けると嬉しいです。コメントが来ないと、私が得るものは0になってしまうので・・・。何もないよりは、2、3行くらいのコメントでも、頂けた方が嬉しいものです。


少年院みたいな規則が厳しく教官の言う通りにしてればいい生活が山地には合っていたんでしょうね。
山地が動物虐待してたと言う話しは聞かないから犬の件はどうなんでしょう?
パチンコ屋ではなく母親殺害前にしていた新聞配達だったらどうなってたんでしょうか?
イケメンなのでホストなんかもいいかもしれませんむろんホストは顔だけじゃなくて話術が大事だけどやってみる価値はあると思います。
山地のルックスならナンパしまくればかなりの確率で女引っかかると思うけど自分がイケメンなのに気が付いていなかったのでしょうか?
まぁ〜パチンコ屋はまずかったですね。
母親殺害を最後まで反省してなかったと言われますが本当にそうなんですかね?
最初の事件が無かったらおそらくその後の事件もないでしょう。

Re: タイトルなし

まっちゃんさん

 知的障碍者や高齢者が自分から刑務所に入りたがるケースもありますが、自己管理ができない人にとっては、管理してくれる刑務所の方がむしろ楽だったりするんですよね。

 ホストは歌舞伎町みたいな激戦区だとやっぱりルックスが大事になってきますが、地方だとフツメンやオジサンがナンバーワンだったりしますけどね・・・。それこそ一発屋芸人とかは、地方でホストやったらどうなんだろう?と思います。山地の場合、顔がいいだけでコミュ力には問題があったようですから、ホストは務まらない気がしますね。

 母親への恨みは、「信念」みたいなもんだったと思いますね。客観的にみれば、むしろ感謝してもおかしくないと思うようなエピソードがあっても、それすら強引に嫌うための理由に結びつけてしまう。私にも覚えがあります。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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