私小説の続き8 底辺脱出を決意した寿町での体験

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ことうきまち


 
 自民党の演説警備の後、私は日本有数のドヤ街、寿町へと向かって歩き始めました。

 「ドヤ街」の「ドヤ」とは、「宿」をもじったもので、この地域には廉価な簡易宿泊所が立ち並んでおり、高度経済成長期に日雇い労働者として活動していた人の根城になっていました。

 朝になれば建設現場の「手配師」が現れ、群がる労働者をそれぞれの現場に振り分けてトラックに乗せ、夜になって帰ってくれば、ジュースみたいな値段で酒を飲める飲み屋で一杯やり、若くて元気な労働者は三千円くらいで本番ができるチョンの間で溜まったものを放出し、休みの日には、一週間頑張って働いて溜めたお金でノミ競馬をし、そのお金も使い果たしたら、昼からカップ酒を煽りながら、仲間同士で青空麻雀や青空将棋を打つ。一つの町で、衣食住はおろか、仕事、性、娯楽をも満たすことができてしまうため、なかなかここの生活から抜け出すことができなくなってしまう構造は、まさに現代の貧困ビジネスの先駆けといえるでしょう。

  現在では手配師は日雇いのスポット派遣、簡易宿泊所はネットカフェに取って代わられ、若い人たちは皆そっちに流れてしまい、ドヤ街に残っているのは、高度経済成長期からバブル期を現役で過ごし、定職に就く機会もなく年老いてしまった労働者たちの成れの果ての姿です。

 町に一歩足を踏み入れれば、道端に放たれた小水が日光で蒸発したような、据えた臭いが鼻を突きます。ゴミ捨て場には信じられないような量のゴミが山と積まれ、またそこら中で、生きているのか死んでいるのかわからないような爺さんが寝ています(特にヤバいのが職安の周辺)。酔うことだけが目的のような、安いパックの焼酎を飲んで、意味不明の言葉を呟いている人もいます。「魔境」あるいは「死にゆく町」といったフレーズがピッタリの町です。

 今では散歩コースとして、年に複数回は訪れている寿町ですが、初めて訪れたのがこのときでした。その初めての訪問で、当時の私にとっては衝撃的な体験をしました。

 酒を飲み、「死ぬのが面倒くさいから生きているだけ」というような老人たちを眺めながら歩いているとき、いきなり、ビルの中から大勢の人の群れが、猛ダッシュで出てきたのです。その数は百人はいたでしょうか。そこら中に寝ているのと同じような老人もいれば、当時の私とそう変わらないくらいの若い人も混じっています。共通しているのは、みんな何年前に買ったのかもわからないようなボロいTシャツや短パン、ジャージを着ていること。そして、わき目もふらず、我勝ちにと猛ダッシュをしているということだけです。

 一体、何事だろうか。茫然として眺めていると、やがて彼らは、一台のバンの前に並びはじめました。どうやら彼らは、順番待ちの先頭を争うために、ダッシュをしていたようです。一体彼らは、何を得ようとしていたのか・・?

 それは、パンやお菓子などが詰められた袋でした。おそらくはホームレスか生活保護受給者である彼らは、ビルの中で、NPOが主催するセミナーか何かを受け、その後に配られる食料を得るために並んでいたのです。

 食料を受け取ったときの彼らの、堕落を何とも思っていないようなヘラヘラとした顔を見て、私は絶望的な気分になりました。これが、私の未来なのか?このまま底辺世界から抜け出せなかったら、私はこんな風になってしまうのか?女を得ることもなく、人間らしい幸せを味わうこともないまま、こんな末路を迎えてしまうのか?

「冗談じゃない!!」

 私は決意しました。絶対に、彼らのようにはならないことを。絶対に、この社会に適応し、努力をして這い上がることを。

 私はわかっていませんでした。悪いのは、彼らではないことを。こんな社会に、無理に適応する必要などなかったことを。

 この先、私を死の一歩手前まで追いやることになる、「自己責任論」との戦いが、本格的に始まったのです。
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No title

ドヤ街というと無法地帯のような立ち寄ってはいけない場所のような危険な街と思っていましたが非衛生的な街で老人達がいるくらいで素通りするだけなら問題はないようですね。
この街で全てが満たされてしまう生活というのはやはり住めば都状態になってしまうのでしょうね。
刑務所の環境のほうがまだ綺麗なのではないかという気はしますね。
初めて訪れた寿町で圧倒される光景を目撃されたのはかなり記憶に残る経験ですね。

No title

seaskyさん

 ルポとかでは精神が錯乱したオバサンに刃物を向けられたとかいう話もありますけど、私の場合、命が危険に晒されるような体験はしていないですね。

 昔の努力すれば報われた時代に、なんで一生を日雇い労働者で過ごすような人が生まれてしまうのか、という疑問もありますが、昔は昔で今のように教育が整っておらず、それこそ永山則夫や新宿バス事件の丸山博文のような、大人になっても読み書きができない人が大勢いて、そういう努力しようにも、努力する土俵にも立てない人が弱い立場の労働者になってしまうという事情があったんでしょうね・・。

私の友人で、仕事の関係で今は尼崎に住んでいる者がいます。

生まれも育ちも東京(結構都心部)、そんな彼も、尼崎の街を見、ドン引きしたそうです。


ただただ暗然としますよね。

私の場合、そういった光景を目の当たりにたし時、理屈云々ではなく、感覚的にモヤモヤした気分になり、その気分の発生の根幹を探る事さえ放棄します。

No title

L,wさん
 
 ドヤ街では日本だと西成がチャンピオンになるようですね。一度訪れてみたい街です。

 堕落に至る心のプロセスを知っている身としては他人事ではないですね。自分の場合は幸いにして今は持ち直していますが、いざ彼らの立場になったときは、ウジウジと生きながらえるのではなく、誇り高く自分の人生にケジメをつけ、絞首台に登る覚悟を決めておきたいものです。

なるほど!

ドヤ街って、そう言う意味だったんですね。

私が行ったのは日曜日だったので、時間の流れはとてもゆっくりでした。
寿町住人の100人ダッシュ!こわっっ!
彼らの表情がきっかけの1つになって、津島さんが違った方向に行ってしまうのですね。
そこで「冗談じゃない!!」といきり立った津島さんは、とてもカッコイイと感じましたが…どうやらヤバそうですね(>_<)
どこまで追い詰められてしまうのか…今の津島さんを知ってるから、そこそこ安心して読めますが…
作者とコミュニケーションとれながら読める小説って、不思議な感じで面白いですー(^^)/

寿町の描写を読んでいて、もう一度行ってみたくなりました(笑)
あそこは別世界ですよね。
ネコが多く、皆さんで可愛がってたのは好印象でした\(^-^)/

No title

ひなさん

100人ダッシュは壮観でしたね。早い者勝ちでなくなっちゃうのか、本当にお腹すいてて早く食べたかったのか、どっちかはわかりませんが・・・。

>どこまで追い詰められてしまうのか…

 この後に入る専門学校で味わうことですが、食事がとれないほど酷い鬱になって、体重が10キロくらい落ちちゃってほんとまずかったですね・・。まともに就職という形で社会と折り合いをつける道は、あれで閉ざされました。

>作者とコミュニケーションとれながら読める小説って、不思議な感じで面白いですー(^^)/

 お金もらってやっているわけではないので、これが唯一のやりがいですよね。他の作品もご覧になっていただけましたら、感想の方寄せていただけると励みになります。


 ホームレスには猫を可愛がる人が多いみたいですね。寂しい、というのもありますが、暖を取るためという実用的な問題もあるようです。中には、炊き出しの際、自分だけでなく猫の分まで要求して、ちゃっかり自分で食べちゃう猛者もいるとか。

現在はドヤ街は年老いた老人しかいないのですか?
お菓子が詰まった袋を貰うためにダッシュするなんて惨めですね。
その様には絶対なりたくないですね。島津さんは小説が有りまだ若いからいいですが私など何も取り柄がないから危ないですよ
今の所出来る仕事と言えば工場の派遣しかないですから…
このままでは先細りですからなんとか今の状態を抜け出さないといけませんね。

No title

まっちゃんさん

 寿町にいるのはほとんど爺さんばっかですね。時々炊き出しとかもやってるみたいですが私はみたことはないですね・・・。

 何とか今の状況から抜け出したく必死です。私も小説がものにならなかったら、あとは派遣労働やりながら、親から少しでも金を引っ張るだけの人生しかありません。

No title

こんにちは
ドヤ街も今では老人ばかりになっていたり 衰退していますよね
大阪の西成なども衰退しています
以前踏み込んだら身ぐるみ剥がされる場所とかありましたが
今では観光地化していますね・・・・(笑)

No title

カズさん

 日雇い労働者はネカフェに流れてしまっているんでドヤ街はさびれてきていますね。西成も暴動とか起こすエネルギーはもうないみたいです。

 ただ今まで一つの街で固まっていたのが都市に溶け込んだというだけで、実態が変わったわけではありません。日雇い派遣とかも、形だけキレイに見せかけて、貧困を見えにくくしようとする構造があります。社会に向けて訴えかけていく努力が必要です。

No title

こんばんは
西成のドヤ街近くのコンビニのトイレに 小さいバケツが置いてあって 中を覗くと注射器が何本も捨ててありました
最近バックパックの若者 外人が簡易宿泊所が安いということで宿泊したりが多いようです
どんどん変わっていますよね
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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