犯罪者名鑑 栃木リンチ殺害事件 1

とちぎ

写真:少年A
 
 警察の見殺し

 
 ひと昔に比べれば物騒な世の中になってきてはいますが、世界的な水準で見れば、日本はまだまだ治安の良い国といえます。それを支えているのが、全国に約二十五万人いる警察官の皆さんであることは言うまでもありません。高い犯罪検挙率も示す通り、日本の警察が世界一優秀と評されるのは、けして誇張ではないでしょう。

 我々は、警察官が真面目で正義感が強い、ということを当たり前のように思っていますが、世界的に見れば、それは本当に奇跡的で、幸せなことなのです。海外の警察官には資質に問題がある人など山ほど居り、後進国になれば賄賂で犯罪を見逃してもらうことも茶飯事で、それこそチンピラが制服を着ているだけといったような危険な警察官もいます。しかし、日本の警察官は末端の警察官に至るまでよく教育が行き届いており、トップの警視総監から交番勤務の巡査まで、誰もが国家の治安を守るという強い使命感を持って勤務に励んでいます。トップだけを競わせればそれほど差はないかもしれませんが、末端の警察官まで皆優秀で使命感に溢れ、かつ、国民の強い信頼を得ているなどという国は、日本以外にはないでしょう。

 しかし、どんな組織にも膿というものはあります。何事にも表と裏の両面が存在しますが、日本の警察官が、世界的に見て稀有と言っていいほど国民の高い信頼を得て、滅多に批判をされることがないのをいいことに、国家権力を笠に着て市民に対して横暴に振る舞う警察官も、残念ながら一定数は存在します。また、これも警察官の仲間意識が強いことの裏返しですが、警察に身内を異常なまでに庇い、また問題を起こした身内に甘い処分を下す体質があることは、紛れもない事実です。

 この事件は、そうした問題警官が、一人の若者の尊い命を見殺しにした事件です。


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 少年グループ


 事件を起こしたのは、宇都宮市内に住む、三人の少年たちでした。三人はいずれも被害者の須藤正和さんと同じ19歳で、同じ中学校の出身でした。

 主犯格のAは、犯行当時無職。幼稚園のころから、友達に無理やり草を食べさせたり、近所の犬に石をぶつけるなど問題行動が目立ち、中学に入ると本格的に不良の仲間に入って、十七歳のときには、友人から百万円もの金を脅し取って保護観察となる事件を起こしています。

 Aの父親は、なんと現役の警察官でした。Aが問題を起こしたときに必ず出てくるのがこの父親で、百万円の恐喝事件でも、父親が土下座をして謝り、全額を弁済することで、示談で済ませるよう取り計らっています。警察官の親に甘やかされて育ったAは、人の痛みが分からず、嘘を平気でつく人間に成長してしまいました。一方、強い者の前では大人しく、事件の前に勤めていた鳶職の会社では、先輩に対して卑屈ともいえるほど礼儀正しい態度だったといいます。

 Bは、被害者の須藤正和さんと同じ日産の社員。学生時代には目立った悪事は働いていませんでしたが、母子家庭で、母親の帰りが遅いのをいいことに、自宅を暴走族のたまり場にするなど不良グループとの付き合いはあり、Aとは親分子分のような関係でした。友人曰く、「自分から積極的に悪いことをするわけではないが、誰かが悪いことを始めると流されて、そのうち言いだしっぺ以上に調子に乗る」タイプだったといいます。

 Cは、A同様無職。裕福な家庭で甘やかされて育ち、須藤正和さんを連れ回すのに使われた二百万もする車、ホンダ・インテグラは、母親がCに買い与えたものでした。あの「昭和の怪物」江川卓と同じ作新学院高校を卒業後に就職した会社を数か月で退職し、無職となった後、道路工事のアルバイト先で、中学卒業後疎遠になっていたAと再会。同じころ、交通事故を起こして休暇中だったBともつるむようになり、三人は結束を強めていったようです。


いいいとちぎ



 邂逅

 
 1999年、十月――。無職と長期休暇という期間中につるむようになった三人でしたが、彼らは対等ではなく、AがBとCを従え、言うことを聞かせるだけでなく、金まで出させるという、主人と奴隷、いや寄生虫と宿主のような酷い関係でした。Aは「ヤクザがお前を狙っている。金を払わないと赦してもらえない」などと、デタラメな理由をつけてはBとCに消費者金融から借金をさせ、金をせびっていました。

 やがてカードが限度額いっぱいになり、BとCがこれ以上金は出せないと泣きつくと、Aは「じゃあ、代わりの奴を探して来い」と一方的に命令します。そしてBに目をつけられたのが、同じ日産の工場に勤める、須藤正和さんでした。Bは同僚を通じて須藤さんを呼び出し、「ヤクザの車にぶつけてしまって修理代を出さなくてはならないから、ちょっと貸してくれ」などといって、所持金の七万円をだまし取ったのです。

 須藤さんは、部屋の中を虫が飛び回っていると、「殺されちゃうから、出てお行き」と、窓を開けて逃がしてやるような、文字通り「虫も殺せない」優しい少年でした。学生時代の友人にも、彼のことを悪くいう人は一人もいません。優しいだけではなく、ユーモアもあり、「一緒にいて楽しい」人柄の持ち主でした。世の中がすべて須藤さんのような人ばかりであれば良かったのでしょうが、現実はそうではありません。

 何事であれ、極端というのはよくありません。両親も、息子は人が良すぎるのではないかと心配していましたが、案の定、須藤さんは若干19歳という年齢で、あまりにも高すぎる授業料を払うことになってしまったのです。


とちぎい


 誘拐


 
 須藤さんからだまし取った七万円を、パチンコであっという間に使い果たしてしまった三人は、須藤さんをすぐに帰さず、事実上誘拐し、AがBとCにさせていたのと同じように、消費者金融めぐりをさせるようになりました。やがてカードが限度額いっぱいになると、今度は須藤さんの両親、知人友人に借金をさせるようになります。そうして須藤さんからむしり取った何百万という金で、三人はホテルを泊まり歩き、飲酒、風俗、ギャンブル、東京や北海道への旅行など、豪遊三昧の日々を送ります。

 そのうち三人は、須藤さんを金主とするだけでなく、肉体的にいたぶって遊ぶことも始めました。Aが戯れに、須藤さんの髪の毛を剃りあげたのが最初で、ホテルで六十三度にもなる熱湯をかけたり、百円ライターでキンチョールの霧に着火し、火炎放射器のようにして炙るなど、暴力は日を追うごとにエスカレートしていきました。最後に遺体となって見つかったとき、須藤さんの皮膚はボロボロに爛れ、重度の火傷状態になっていたといいます。

 Aには性的な屈折がみられ、須藤さんに己の精液を飲ませたり、フェラチオをさせるなどといった行為も働いていました。また、彼は常に場が賑やかな雰囲気にないと不安になってしまうらしく、少しでも場が湿っぽい雰囲気になると、飛行機の中でも構わず、須藤さんやB,Cに、プロミスやアコムなど、消費者金融のCMソングを歌わせていたといいます。最後に須藤さんを山中に埋めに行く、その車の中でも歌わせていたといいますから、Aの変態性に悍ましさを感じずにはいられません。

 須藤さんを連れまわしていた期間、当然、須藤さんは会社を欠勤していました。このとき須藤さんは会社の寮で暮らしており、両親のもとに、須藤さんが会社を休んでいることが知らされたのは、須藤さんが誘拐されてから数日が経ったころでした。須藤さんに金を貸した友人の話では、須藤さんは何人かの男たちに、車で連れまわされているという話です。

 何か事件に巻き込まれているのでは・・・。両親は須藤さんの捜索を依頼しに、警察署に足を運んだのですが・・・・。
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非公開コメント

No title

この事件もかなりのレベルですね。
Aがとんでもない人物でしかも親が警察官というから驚きです。
親が警察官だと子は厳しく育てられそうなイメージを持っていたのですが実際は違ったのですね。
しかし若干19歳で多額のお金を手に入れて豪遊生活をするというのはかなり大人びているというか明らかに一般的な少年の感覚ではないですね。
このような少年は生まれながらにして犯罪者の要因を持っているという気がしてならないですね。

No title


 seaskyさん

 意外でしょうが、警察官は事件が起こると家にも帰れず、結果、家庭のことがおろそかになりがちで、子供がグレる可能性は結構高いそうです。離婚も多く、だからこそ夫の仕事に理解があるようにと、警察官同士の結婚を、上司は奨励しているようですね。

 Aはいわゆるサイコパスの特徴を全て備えており、こういう人間の矯正は難しいのですが、それに親による甘やかしという要素が加わってしまった最悪の例ですね。あの松永太も母や祖母に溺愛されて育ったようですが、こういうタイプはやはり小さいころガツンとやられる経験をしないと道を踏み外すようです。

 

例により、事件のチョイスが私の予想を裏切っています。私の母の友人がこの事件に関する本を書いた、という事もあり、この事件は私にとって印象的なものです。


この後の展開に絡む内容の記述は控えますが、この後の展開に対する私の感想の一部で「助かるチャンスはいくらでもあったろ」というものがあります。恐らく、この事件を知った多くの人が抱く感想であると思います。


結局、被害者が善人過ぎた、という事に帰結するのでしょうか。

こういった事件を鑑みたせいか、私は、中学時代はそれなりに不良に憧れていたふしがありますが、高校時代は不良が嫌いで、よく争っていました。非論理的な理由で威張り、他人の迷惑を考えない、不良が嫌いでした。また、それに同調する周囲も嫌いでした。


この時、群れる事によって調子に乗る個人というものに対する嫌悪感も一層強まりました。

初めて事件の概要を知った時、尺八の下りには私も突っ込みをいれました。

被害者は男性であり、また、度重なる暴行により容姿も変貌していた事を鑑みると、一層、犯人等の異常性が際立ちますよね。

No title

L,w さん

 期待していた人物を取り上げられなかったらすみません。取り上げる人物に関しては、本当に規則性はまったくないです。私自身にも予想はできません・・。

 助かるチャンスは・・・というケースはこの事件だけでなく色々ありますけど、当事者になってみないとわからないことがあると思うんですよね。この事件の被害者の場合は、「逃げたら家族を皆殺しにするぞ」と脅されていました。どう考えてもハッタリですけど、そういえば私も中学くらいのとき、腐れヤンキーとトラブルになったとき、「家を燃やすぞ」と脅されて本気でビビった記憶があります。スケールは違いますが、あの施設警備員をいつまでもやめなかったことも、他人から見れば異常かもしれませんし。

No title

L,wさん

 やはりなぜ逃げられなかったかは非常に重要なテーマですよね。今後様々な事件を取り上げていくうえでも、次回しっかり考察していきます。

私は今回初めてこの事件を知りました。生まれつきの悪っているんですね。私をいじめた生徒も親が保護者会でいい地位でしたので教師は何もしませんでした。山地君とは全く異質の事件に思います。

No title

かなえさん

 Aについては生まれついての悪としかいいようがないですね。宅間守などと同じく、前頭葉に異常があったのだと思います。気の小ささでは宅間以上で、徒党を組まないと何もできないという点で、私から見ても嫌悪の対象ですね。

 BとCに関しては、流されなければどうにかなったのかな・・。犯罪は、やっぱり付き合う友達も大きいのかなと思いますね。親が早いうちから私立に入れたがるのもわかる気がします。

 

このような事件(コンクリや名古屋アベックなど)の話でよく出てくる「何故被害者は逃げなかったのか?」という話題には僕は少し抵抗を感じてしまうのです。
といウノモネットでは「何故被害者は逃げなかったのか?」を曲解して「逃げなかった被害者が悪い」などと狂った書き込みをする奴を沢山見てきたからなのです。
「何故被害者は逃げなかったのか?」を考察するのは大事だと思います。しかし、どうせならそこからもう一歩踏み込んで考えてはどうかということです。
例えば被害者が逃げなかった理由を気が弱かったからと課程してみましょう。
「どうすれば気が弱い人でも逃げられるのか?」ということを議論すれば更に有意義な考察になると思うのです。

No title

ばかがいこつさん

 学習性無力感やストックホルム症候群など、極限状態に置かれた被害者が、加害者への抵抗を示さなくなる事例は数多くあります。被害者側に責任を求めるのはあまりにも酷な意見で、第三者側の人間がいかに気づくかという視点で考えることも大事です。次回その辺に触れていこうと思います。

 

栃木リンチ事件の主犯の萩原克彦は、どんなに償っても罪を償いきれないという犯罪を犯してしまいました‼私はこの事件を世間話とニュースで知りましたが、凶悪な殺人しておきながら、犯人たちは涼しい表情の様子だった事実を聞いただけで、胸くそ悪くなります‼事件の内容と殺害の様子を見るだけでも胸くそ悪いし、腸が煮えくり返ります!彼(萩原克彦)らはある意味可哀想な連中です。可哀想という意味は彼らはどんな罪の償い方をしても当然許されないほど罪を償いきれない事実に気がついていないこと、またその自覚がないこと❗このこと萩原克彦らが可哀想極まりない事実だけのことだ!萩原克彦何が「チャッチャとやってこい」や!クソバカか❗お前がチャッチャと気づけ、自分たちがどんな罪の償い方をしても、償いきれないほど取り返しがつかない過ちをしたことを❗この事件の胸くそ悪さは、コンクリート事件と同じくらい胸くそ悪さを感じます‼

No title

返事遅れまして申し訳ございません。

この事件は犯人もさることながら、警察の不手際や、その背後にあった巨大企業の思惑など二重三重の不快な要素があって、ぜひ最後まで紹介したかったのですが、無念の中断を余儀なくされてしまいました。

罪の自覚がない人間に償わせるというのはどうしたらいいんでしょうね。障碍者殺人事件の植松聖くんみたいな、自分なりの正義があった人間はまだ改心の望みもあると思うんですが、悪行とはなんとやらを理解もできない人間となると・・・。

いま定期的な更新行ってないので、コメントの返信いつできるかわかりませんが、もし別の記事にもコメントいただければ嬉しいです。荒らし対策で名無しだと変な名前になってしまうよう設定しておりますので、次回コメントくださる際はお手数ですがHNつけてください。よろしくお願いいたします。

被害者と被害者の家族

この事件はいつも頭のどこかにある。
今も被害者りょうしんはつらく抜けられない真っ暗なトンネルにいるだろう。
加害者はのうのうと生きている。
須藤君?つらかったね。泣きたかったよね?
生きて家に帰りたかったよね?
私が近くに居たら助けてあげたかったよ。
ごめんね、祈る事しか出来なくて。ずっと君の事は忘れないよ。

No title

Sさん

 初コメントありがとうございます。この事件は風化させてはならないですね。

 事件を客観的にみられる立場にある我々にできることは、事件から何を学ぶかというところだと思います。

 警察が必ずしも頼りになる存在ではないということ、極限まで追い詰められた人間は学習性無力感という状態に陥り、かえって逃げられなくなるということ。

 自分や大切な人が事件に巻き込まれた場合、どのように対処するべきか

 それを考えることが、須藤少年の犠牲を無駄にしない唯一の方法でしょう。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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