犯罪者名鑑 山地悠紀夫 4

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 実母殺害事件


 
 山地の供述によれば、母親は山地の財布からお金を抜いたときに、真里の名刺を発見し、そこに書いてあった携帯電話番号に無言電話をかけたようです。

 母親はなぜ、息子の恋人に無言電話などをかけたのか。まだ十六歳の息子が健全な男女交際をしているか心配で、相手の素性を確認しようと思ったのか?山地の収入をアテにしていた母親が、息子が女のところに行ってしまうのを恐れ、引き剥がそうとしたのか?前者の可能性もないとはいえませんが、山地が思っていたのは、後者でした。

 山地にとって、真里との交際は、人生で初めて得た成功体験でした。山地は真里との結婚を夢見て、配達数を増やして収入を安定させるため、バイクの免許を取得する準備を進めていました。中卒でダメなら、それまでの人生だ、と、投げやりになっていた山地が、初めて前向きになれたキッカケが、真里との出会いだったのです。それを、あろうことか実の母親がぶち壊そうとするとは。

 もしこのとき、真里との関係がハッキリとしていれば、母親を捨てて真里のもとへ行くという決断ができていたかもしれません。しかし、真里はいまだ、三十代の彼氏と繋がっており、二人の男で取り合いをしている不安定な状態にあります。真里はすでに彼氏とは何か月も会っておらず、このまま真里と交際しても略奪愛とはいえないでしょうが、やはり筋からいえば不利なのは山地の方で、経済的にも三十代でガソリンスタンドに勤める彼氏には及びません。

 この状態で母親からの横やりが入ったのです。まだ十六歳と未熟で、発達障害の疑いも濃厚にあった山地には、もう理性を留めることはできませんでした。完全なパニックに陥ってしまったのです。

 山地と母親との間には、父親が死んで二人きりになってから、家庭の事情を知らない者にはわからない愛憎が、ずっと渦巻いていました。積もり積もった鬱憤が、ついに爆発するときがやってきたのです。

「おどりゃあ、ふざけんな!」

 山地は母親を素手で殴打した後、いつか父親に買ってもらった金属バットを持ち出し、抵抗もできない母親を、二十回以上も殴打しました。実の母親を、二十回です。よほど強烈な怒りがあったのは確かでしょう。しかし、「オーバーキル」の理由は、果たして怒りだけだったのでしょうか?

 山地は後に引き起こした姉妹殺害事件の動機について「母親を殺した快感を忘れられなかったから」と語っていました。単なる「ヒール気取り」と見ることもできますが、姉妹殺害事件の手口も、この実母殺害事件と同じくらい、飛び切り猟奇的なものであったのは事実です。もしかしたら本当に、実の母親を殺害したとき、人の命を奪うことと、性的なサディズムが、歪に結びついてしまったのかもしれません。

 血の海の中、山地は外出する支度をしていました。母親を殺害したあと、山地は普通に、新聞配達の仕事に出勤していたのです。

 現実から逃げるため、無心で仕事をしたせいか、配達はいつもより早く終わってしまいました。家に帰り、部屋に入れば、現実との再会です。山地は母親の遺体を、どこかに隠そうとしましたが、家の中に、大人一人の身体が入るようなところはありません。

 自分はもう、社会には留まれない。この時点で覚悟を決めた山地は、最後に、大好きな真里に会うため、再度家を出発しました。人生最後のデートで、山地は雑貨屋に入り、「マリー・クアント」というブランドのポーチを、真里にプレゼントしました。楽しかった真里との思い出。やはり真里を失いたくない。山地は帰宅後、どうにかならないかと、今度は母親の遺体を毛布で包み、どこか遠いところに持っていってしまおうとしますが、遺体は重く、玄関の土間まで持っていくだけでも一苦労です。当然ながら、山地は車など持っていません。まだ残暑が厳しい時期で、遺体はすでに痛み始め、部屋の中には据えた臭いが漂っています。限界でした。

 山地は警察に自首し、生涯最初の殺人罪で逮捕されました。



ばっと





 取調べ


 留置場や取調べ室での山地は落ち着いており、カードゲームや父親の話になると白い歯を覗かせることもありました。「バットを手に取ったとき、母親の顔はすでに四谷怪談のお岩のようだった」「起き上がろうとする母親を、バットで小突いて倒し、何度も殴った」「殺してよかった、せいせいした」「父親と一緒の墓には入れない」などと、薄笑いを浮かべながら得意げに語り、血が飛び散る様を詳述するなどし、取調べに当たった刑事は薄気味の悪さを覚えたといいます。

 事件の動機に深く関わった真里のことについて、初め山地は、「友達だった」と関係を隠していましたが、やがて担当刑事に信頼を深めると真実を打ち明け、打って変わったように、思い出話を語るようになりました。

 山地は自分の置かれた現実をよく理解していなかったのか、取調べ期間中も、真里に対し、「自分を取るか、彼氏を取るか」などと、手紙を書いて送っていたそうです。刑事が「彼女に迷惑をかけたと思わんか?」と、遠回しに真里を諦めるように言っても、聞く耳を持ちません。

 その真里の方は、山地が事件を起こしたと知るがいなや、「アイツのせいで、大変なことになった」「アイツとは何の関係もない」「私は悪くないよね?」などと、たった一度とはいえ情を交わした仲とは思えない、被害者的、自己保身的な態度を見せます。山地からもらったポーチも、すぐに捨ててしまったようです。

 交通事故を起こしたときの男女の対応の違いでも、男性はまず真っ先に相手のことを心配し、何はともあれ救急車を呼ぶことを考えるが、女性はまず保身を優先に考え、あろうことか救急車より先に夫や恋人に電話をかけ、「私は罪になるの?」などと尋ねることがある・・・などという話もありますが、真里が特別なわけではなく、女性には事件や事故のとき、こういう態度を見せる人が多いのでしょうか?山地を心配する様子など微塵もみせず、自分のことだけを考えて涙を流して慌てふためく真里の姿には、かつて恋心を寄せた、山地のカード仲間の専門学生すら嫌悪感を覚えたといいます。
 
 真里は一時、三十代の恋人の元に身を寄せました。追いかけてくるマスコミに対しても、「アイツとは関係ない」「いい迷惑だ」と、山地を罵るかのような言葉を連発します。

 確かに真里と山地とは、たった一回、肉体を重ね合わせただけの関係で、真里には山地が事件を起こした責任はありません。だったらだったで、毅然として対応していればよかっただけではないでしょうか。真里は二十三歳の若さではありますが、山地よりは七歳上で、成人でもあります。こうした態度が、何らかの形で塀の向こうの山地に伝わり、山地を深く傷つけてしまうとは考えなかったのでしょうか。

 山地が真里のこうした態度を、何処かで知る機会があったのか・・・・それは、わかりません。ハッキリしているのは、後に引き起こす姉妹殺害事件のお姉さんは、山地より六歳年上、真里とは一つ違いの女性であった、ということです。

 裁判では、山地の成育歴、家庭環境が考慮され、山地は刑罰を目的とする少年刑務所ではなく、更生を目的とする医療少年院への送致が決まります。小中学校時代の同級生や、近隣住民から集まった、数千通の署名も功を奏したようです。関係者の中で署名に応じなかったのは、あの小学校時の冷酷教師だけでした。

 
 
 前編 ガラス細工の天使 完
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No title

山地を始め殺人事件を犯した犯人は事件を起こした直後にパニックになったりせず冷静に普段通りの生活を送っていたという話をよく聞きますね。
普通だったら混乱したり茫然自失の状態になり何もする気など起こらないような心境になりそうですがそこが常人とは違う所でしょうね。
山地は元々サディストの傾向があったのでしょうかね。
幼少の頃はいじめられたりして弱い者いじめなどはむしろしなかったような気がしますね。
殺人により性癖が目覚めることなどあるのかは謎ですね。
真里は山地のことを子供と見ていて本気ではなかったのかもしれませんね。
彼氏と完全に別れないことは山地にとっては常に引っ掛かっていた問題だったでしょうね。
真理が情のある人で山地のことを心から支えてくれる女性だったらと思わずにはいられません。
山地の複雑な事情もかなり知っていたはずなのに自分とは関係がないという対応はあまりにも冷たいですよね。

No title

seaskyさん


 自分が殺した遺体を冷凍庫に入れて何年も一緒に過ごしていたという例もありますよね。こういう局面で開き直って物事を考えられるのは、ある意味すごい才能かもしれません。

 前上博などの例を見ても、嗜虐的な性癖が人生の途中から目覚めること自体はあると思います。山地の場合は、動物を虐待したというエピソードはこの前にもこの後にもあまりないので、ポーズということも考えられますが・・。  

 真里は事件後、実家ではなく恋人のもとに身を寄せたということから、余裕のない環境だったのかもしれません。しかしこの件に関しては、多分に性格的な問題ではないかという気はしますね。「守るべきものがある」があったらあったで、それこそ冷酷教師みたいな対応になったかもしれません。

マリークアント「誠に遺憾である」

>まだ十六歳の息子が健全な男女交際をしているか心配で、相手の素性を確認しようと思ったのか?山地の収入をアテにしていた母親が、息子が女のところに行ってしまうのを恐れ、引き剥がそうとしたのか?
これまでのマッマの接し方を鑑みたら私でも後者だと思…
殺人こそ犯したことはないけど彼が犯行後普通に仕事へ行って帰宅した時の部屋の光景を想像すると他人事とは思えなくて泣きそうになるね
それはそうと小中学校でいじめに遭っていたそうだけど同級生や地域の住民から刑罰ではなく更生をと数千通もの署名が集まったのは少し意外だったよ
後編もオナシャス

面白いです

個人で調べた山地くんのことより、ずっと知りたかった事が書かれて良かったです。真里さんは、冷酷に見えますが犯罪者への態度なら仕方ない?
これが次の姉妹殺害にどうつながるのか気になります。

母親の無言電話
母親は番号通知で無言電話?
184は2000年には知れ渡ってる筈
仮に番号通知で無言電話なら馬鹿かと

母親にとって山地の収入無し(給料の半分)での生活は辛いだろう
山地にとって相場以上のお金を入れて財布からお金抜かれて借金取りが来るのは耐えられないだろうし早く別居できていれば
私ならお金は銀行に預けて通帳と印鑑を捨てるか隠すかしてキャッシュカードを使い、ある程度お金貯まったら独立するし、家は寝る時以外帰らない

まりの彼氏は大手正社員か乙4持ちだったのでしょうか?
2000年はガソリンの値下げ競争が激しい時期
彼氏が資格無しシフト制のバイトなら常勤の山地の方が給料高いと思う

MARY QUANTのポーチはまりが欲しかった物?

まりは童貞狩りか18禁と火遊びしたいだけなら遊びでやった山地に殺人事件起こされた被害者
マスコミ対応等で仕事も困難になったと思う

30代の彼氏の家に居座る訳だから山地との思い出の物は捨てるか隠したりごまかす必要があるかと

殺人者との未来は考えられないだろうし、山地を他人と思うなら傷つけることも平気

署名を虐めた子も書いたのが不思議
書かないと人でなしと思われる圧力があったのだろうか?
中3担任が動いたのだろうか?
近所の人が同情で書くのは理解できる

No title

むくちゃんさん

 母親は山地への愛情はちゃんとあった形跡もあるので、なんともいえないですけどね。仕事からふつうに帰ってきて、部屋に親の死体が転がっているのは、山地の生涯を映画にしたら味わい深いシーンになるでしょうね・・・。署名をした同級生に少しでも罪悪感があったなら救いですね。

かなえさん

 真理ちゃんは精神科に通院するなど、情緒不安定な一面があったそうです。実家を頼れず、余裕のない環境でもあったと思いますけど、自分がひどいことをされたわけではないのだから、もうちょっと冷静に対応できなかったのか、とは思ってしまいますね・・・。

 やはり被害者の年齢ということを考えると、真理ちゃんと重ね合わせていたと思ってしまいますよね。 


Nさん

>母親は番号通知で無言電話?


番号から山地の家からかけたとわかったので、番号通知だったようですね・・・。


>母親にとって山地の収入無し(給料の半分)での生活は辛いだろう

十六歳で生活の知恵もなかったから仕方ないですが、殺すくらいなら出ていけばよかった、ということは悔やまれますよね・・。

>まりの彼氏は大手正社員か乙4持ちだったのでしょうか?

 不明ですが、山地が脅威に思っていたようですから、正社員の可能性が高いでしょうね。

> まりは童貞狩りか18禁と火遊びしたいだけなら遊びでやった山地に殺人事件起こされた被害者  

 生活が大変になったのは同情しますが、もうちょっと冷静に対応できなかったものかとは思ってしまいますね。 ポーチを捨てたのはしょうがないでしょうね。

山地は新聞配達で得たお金を家に確か入れていたんですよね。その上母親から財布から金を抜かれたり彼女に無言電話を掛けられる嫌がらせをされたらさすがにキレますよね。
さすがに殺してしまうのはやり過ぎだと思いますが…
殺害現場もかなり酷かったと言われてますもんね。
父親の事はかなり好感を持っていたと聞きますが父親からかなりの虐待を受けていたんですよね。
これだけの事件を起こしておきながら彼女に彼氏を取るか自分を取るか返事が欲しいと手紙を出す事がズレてますね。
まぁ〜無理だと思いますがもし彼女が山地が出て来るのを待っていてくれたら後の事件は起きないかったでしょうか?
でも後の事件の動機が母親をか殺した時の快感が忘れられなかったが本当ならいずれ殺人起こすでしょうね。
あと山地の行ったの医療少年院じゃあなくて普通の少年院ですよね。
医療少年院だったらまだ良かったのかもしれませんね。

No title

まっちゃんさん


 返信遅れまして申し訳ありません。

 本来もっとも信頼でき、相談に乗ってくれる相手であるはずの親が最大の敵になってしまった山地は本当に可愛そうです。ドラゴンボールの世界でいえば、「悟空がキレて地球をぶっ壊そうとしてる」みたいなもんですよ。最後の拠り所が崩壊してしまった人に、冷静に行動しろって方が無理なのかもしれません。それでも、殺す前に何とかならなかったのかな、とはおもいますけどね・・・。


 父親に対して全肯定的になっているのは謎であり興味深い部分ですよね。母親を憎悪することからの反動か、「死んで神様になった」というところではないかと思われますが・・・。

 彼女が待ってるというのはさすがに無理でしょうね💦ただ山地の方は、出所してからも彼女への未練をずっと持ち続けていたようで、被害者のお姉さんをおそらく彼女と重ねていたものと思われます。と考えると、もしかすると姉妹殺害事件も怨恨の殺人ということもでき、殺害方法が残虐だったのは性的サディズムということではなかった(彼女への想いを隠すために嘘をついた)のかもしれません。

 少年院については調べなおします💦
 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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