私小説の続き7 底辺脱出の決意を固めさせた警備の経験

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 私は施設警備員退職後、三つ目のバイトに、何を血迷ったのか、警備員を選びました。今回は、工事現場での交通誘導や、雑踏での警備を行う、二号警備員での応募です。

 あれほどのトラウマを味わった警備の仕事をなぜ選んだか、それはやはり、楽だからです。当時は夏の暑いさなかで、ただ突っ立っているだけでもしんどいことはしんどいのですが、それでもやはり、清掃や飲食など他の底辺バイトに比べて、警備が楽という事実が揺らぐことはありません。立っているだけで金が貰える、定時前に終わっても一日分の給料は保障される味を知ってしまったら、キツイ肉体仕事にはもう戻れません。また、施設警備で嫌な思いをしたのは、人が悪かっただけで、警備という仕事は悪くないという考えもあります。地獄から解放されて十か月あまりが経ち、色々と物事を冷静に考えることはできるようになっていました。

 さっそく新任研修を受けることになりました。三十五歳くらいの男性が一緒です。警備という職種の中では比較的年齢が近いこともあり、すぐに意気投合したのですが、この方には一つ大きな特徴がありました。研修のうち座学では、学校と同じように、授業を受ける側が参加意識を高められるように、テキストの内容を音読させるのですが、 おそらくディスレクシアなどの学習障害だったのでしょう、三十五歳男性は、テキストの漢字が読めず、何度も詰まってしまったのです。以前紹介したアスペルガーの人と同様、障害者枠で働くべき人だと思うのですが、底辺世界にはこういう方が何人も、救われずに放置されているということです。

 ともあれ、四日間の研修を終えて現場に出るようになったのですが、色々とドタバタの多い会社でした。あるとき、熱で欠勤した女性隊員がいたということで、私が欠員補充に駆り出されたのですが、社長の車に乗って現場に到着したとき、なんとその女性隊員は結局、病をおして現場に来ていたのです。どうも、現場の隊長が「ダメみたいだ」と社長に連絡した後、別の隊員が「這ってでもこい」などと言って無理やり女性隊員を出勤させたようなのですが、それならそれで、誰かがすぐ社長にすぐ報告を入れるべきだと思うのですが、その報告が行っていなかったようです。

 自己責任と国民を洗脳しているお蔭で、変な根性論はあるが、社会に出たときから底辺労働者という環境で、最低限度の職業能力もない人が増えている。これが日本社会の現実ということです。

 それから数回後の勤務で、私はその底辺世界に別れを告げる決意を固めました。当時は総選挙が行われており、横浜駅で自民党の演説を警備することになったのですが、仕事自体は、実働二時間ほどの勤務で一日分の日給が保障されるという、超オイシイ条件でした。当時から自民アンチの私でしたが、このときばかりは「俺たちの太郎」に感謝をしたものです。しかし、この超オイシイ仕事が、私に底辺世界を脱出する決意を固めさせたのです。

 この日の勤務には、何社かの警備会社が合同で、30名ばかり参加していたのですが、参加する警備員は全員、横浜駅のコインロッカーに荷物を預けるように指示を受けていました。駅前は人でごった返しており、荷物を歩道に置きっぱなしにしておけばクレームが入るかもしれず、当然といえば当然の指示です。

 しかし、ガードマンをやる人というのは、経済的に困窮した人が多いのが実態です。仲間同士、一緒に使えば大した額ではないとはいえ、100円、200円の金も惜しむ人は実際多いです。また、指示がすべての人に行きわたっていなかった可能性もあります。それぞれが持ち場につく前のミーティングの際、まだ荷物を手に持っている人は何人かいました。

 その人たちに対し、三十半ばくらいの、スーツ姿の内勤が、「今荷物を持っている人は、すぐにコインロッカーに入れてきてください」と、ミーティングの場で改めて指示したところ、荷物を持っていた隊員は、無視を決め込むか、オロオロするだけで、すぐに動こうとしませんでした。そこで業を煮やした内勤は、


「早く行け!!!!!!!!!!!!」

 
 と大声で怒鳴ったのです。グズグズしていたガードマンたちは、この声ですぐさま、コインロッカーに走っていきました。

 三十代半ばという年齢は、警備の中ではかなり若い方です。40代、50代のおじさんが、若い内勤に怒鳴られて、子供のようにビビって、コインロッカーに走っていったのです。

 絶望的な気分になりました。これじゃあまるで、小学生じゃないか。

 いや、おじさんたちが悪いんじゃない。ちゃんとした正社員の仕事でも、似たような場面はあるかもしれない。問題は、おじさんたちが、これ以下はない社会の最下層まで貶められて、尚且つ、プライドを根こそぎ潰されるような酷い扱いを受けているということ。十分な所得を得て、社会的地位が高いと見做される職に就いているなら、人前で怒鳴られようが屁でもないが、本当に社会から見下される地位にあって、「こんなだらしなきゃあ、見下されるのも当然」といったような目で見られるのは耐えられない・・・・。

 暗澹たる気分で二時間の勤務を果たしたその後、私は真っ直ぐ帰る気になれず、くさくさした気分で、酒を飲みながら、横浜の街を歩き回りました。何か、とことん落ちてみたい気になった私は、そのうち、嫌な思い出のある、あの施設警備員当時の職場へと向かっていました。とはいっても、もうあのデパートは閉店しており、当時の仲間と鉢合わせるわけもありません。物足りなさを感じた私は、ますますたらふく酒を煽り、何を思ったか、関東を代表するドヤ街、寿町を目指して歩いていました。
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No title

やはり人間は労働をするうえで人として見てくれない環境は留まるべきではないと思います。
そのような世界にいると自分自身の人格や考え方なども変わっていく気がしますね。
プライドを捨て去り馬鹿にされても自分はこれでいいんだという自虐的な思想が芽生えてきそうです。
人から見下されることに慣れきってしまうことは人間として間違っていると思いますね。

太郎警備はどうすれば良かったのか

仮に全員に「コインロッカー指示」が事前にあったのなら守らないのが悪い
専業底辺職にはルールを守ったり暗黙のルールを知らない人の割合が多い(例えば平服の意味も知らないで調べもせず普段着で出席するのは底辺が多いと思う)
またホワイト企業正社員は遅刻や欠勤も少ない筈で警備やお水は多いから遅刻欠勤のペナルティーを事前通達する(ルールを守る人もいますが守れない人が多いので)

コインロッカー代が嫌なら現場を事前に断る選択肢もあったのでは?

私が雇用主と立場なら300円程のコインロッカー代を事前に渡すか(浮かせたいなら割り勘でコインロッカー使っても会社に害が無いから自由。浮かせた報告とお金を渡されたらジュース代として返す)後で渡す旨を書類に書いて渡す(太郎警備なら会社に入ってくる金も多いだろうし太郎警備の実績も会社にプラス)
警備業界はわかりませんが建築業界には横の繋がりがあって、ルールを守って仕事熱心なら人手不足の時に声がかかって会社が潤う
怒鳴らないと動かない低脳は怒鳴る必要もある
コインロッカー代が惜しいのならコインロッカーに荷物を入れてお金入れないとか(21世紀でも一番下段や一番上段等取りにくい所に鍵無しで入れてる人もいた)顔馴染みの人達で金額が割り切れる形で割り勘してコインロッカーに入れて個人の負担減らすのも手

一番の愚作は会社の車や会社が負担するコインロッカーに荷物を入れること(コインロッカー代をケチることを学習して事前にコインロッカーに入れた人がバカを見る)早急に荷物を片付ける必要があればコインロッカー代と同額の金を天引きして車や大型コインロッカーに入れるべき

体調不良時に「這ってでも来い」は替わりがいなければ工事自体ができないか体調不良の振りをして「バイトだから体調不良で当欠して遊んでいい」と当欠率の多い人の可能性も(人手不足以外では診断書提出もあるが診断書代や通院費をケチる人なら這ってでもくる)
作者さんの初日の現場だから2人体制の仕事だったかも知れない(初日は先輩について研修しながら仕事を覚える)

35過ぎの専業底辺職の多くは規則やルールを守れなくて底辺職以外に行き場が無い人が多いから怒鳴ったりしてると思う

No title

seaskyさん

 人が人らしく働けるっていうのは一番大事なことですよね。日本だとプライドをかなぐり捨てることがカッコいいことみたいに言われますけど、とんでもないことです。

 十年ぐらい前のドラマ「明日があるさ」で、伊東四朗が契約を取るために嫌な取引先の前で裸踊りをするシーンがあり、なんかそれがカッコいいみたいな雰囲気になってましたけど、あんなのは絶対美化しちゃいけないことです。まだその役は正社員であり、プライドを捨てても守る価値があるのかもしれませんが、底辺バイトの世界でそんな理不尽を受けたのなら、「殺してもいい」と、私は考えます。法は人が人の誇りを守るためにできたものなのだから、誇りを犯されたのなら、法を犯してもいいんです。

 まあ、 ドラゴンボールの映画で、ベジータが恥ずかしいダンスをしてまで家族や仲間の命を守ったのはちょっといいなあ、と思いましたけどね。あれはベジータが自分からやったことで、強要がないからでしょうね。明日があるさの例とは全然違います。

 Nさん

 コインロッカーの件は誰が悪いって話ではないと思います。指示がいってなかった可能性もあるし、貧困者が100円200円をケチりたいのもわかるし、上からすれば、指示をしたうえで聞かなかったなら怒鳴るのもわかる。うろ覚えですけど、そもそもコインロッカーを使わないように、もともと大きな荷物は持ってくるなって話だった気もしますし。ただ、私がその光景を「嫌だな」と思っただけです。

 ガードマンが一人二人来なかったくらいで工事できないはありえないですよ。なんだったら職人が代わりにやればいいだけですし。一日二日当欠したくらいで診断書提出は聞いたことないですね・・。どんだけ従業員を信頼していないんでしょう。

私も工事現場の警備員を数社渡り歩いた事がありますが、どこも内勤の対応は良くなかったですね。確認の電話を入れたら内勤にタメ口で怒鳴られた事すらあります。確かに仕事は楽なのですが、勤務場所がコロコロ変わったり場所が遠かったりというのが辞める理由でもありましたが、一番の理由は現場の土方から人間扱いされないということでしたね。名前も呼ばれずに「おい!ガード!」と呼ばれることに私の人間としてのプライドが耐えられませんでした。もう二度とやりたくありませんね、ホント。

No title

金満家さん

 職人はピンからキリでしたね。何の仕事でもそうかもしれませんが。

 19歳のとき勤めた、関東最大手クラスのグ○-ン警備というところは、どんな建築会社だろうが仕事を断らず引き受けるというスタイルで業績を伸ばしていたらしく、私も頭をキンキラに染めて、歯がなくなって、目がロンパッてるような、明らかにヤバい見た目の人にあたったこともありましたが、26のとき勤めた、グ○ーンのスタッフ何人かが中心になって作ったという新しい会社では、そのスタッフたち自身に苦い思い出があったのか、ある程度契約先を選んでいたようで、割とまともな建築会社が多かったように思います。

 内勤もまあピンキリですよね。態度のこともそうですが、人が足りないからって、日勤夜勤を連続でやらせるのはやめたほうがいいだろうと思いますね。睡眠不足のガードマン使って、安全を守るもくそもないだろと。隊員本人がやりたいと言ってるっつっても、そこをストップかけるのがあんたらの仕事じゃないのかと。

 毎回違う現場に行くのは大変ですよね。いまはスマホがあるから多少は楽かもしれないですが、駅から歩いて三十分かかる住宅街の真ん中とか、現場に着いたらもう仕事終わった感覚でした。

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Re: No title

空回りさん

 久しぶりにコメントくれてありがとう!
 あれから大分サイトの方を改造しました。今は閲覧数には拘らず、このサイトを私の「履歴書」とするため、作品としてのクオリティを高める目的で活動をしています。コメントで盛り上げて頂けると嬉しいです。

 ご両親とはあまり思い詰め過ぎず、和解の手立てを探るのも大事かと思います。私も二十代前半のころは親との関係はよくありませんでしたが、何度も衝突を繰り返した結果、最近ではそこそこ理解してもらっています。

 和解には、人を説得する論理を身に着けることが肝要です。その手助けができれば幸いです。

 

こんにちはー

交通誘導警備員の絵、津島さんが描いたのですか?
上手い‼で、分かりやすくて面白い!
今度、誘導警備員を見かけたら観察してみようっと(笑)

年齢も感じもバラバラな複数の人が次々に来て、1つのロッカーから荷物を取り出すのを見たことがあるんですが、その場で知り合ったバイトの方達だったかもですねー?
ずっと不思議に思ってました。

怒鳴ったスーツの内勤さん、感じ悪いですね(>_<)
そう言う威張った感じの人、いるいる!
でもこれから働く側からしたら、テンションだだ下がりですよねー。

その後、あえて自分を追い込む津島さん。
どうなっちゃうのか?
寿町!1度見学に行ったことあります(笑)
楽しみー!

No title

ひなさん

絵はネットで拾ったものです。
私が勤務するときはこんな感じですけど、ピシッとした見た目の人もいる・・・とは思いますw

自分と血縁関係もない余所の人をなんで簡単に怒鳴れるのか不思議に思いますけどね・・・。人を使う立場になったら、気持ちがわかるのかな。

寿町は女の人が歩いたらどうなるか、最初はちょっと気になっていましたが、もう枯れ果てているのか、特別なリアクションを見せる人はいませんね・・・。

 そういえば施設警備員の話ですが、二、三日であればUPできます。具体的にどの辺からと教えていただければ、そこからの話をすぐにUPします。

とりあえずこの辺からコメントさせていただきます。
交通誘導警備員の仕事は私もした事ありますが現場により大変な所と楽な所の差が有りますよね。
私は冬から春にかけて5カ月位しましたが夏は暑くて大変そうですね。
私は仕事の時は金の為と割り切ってしてますね。下手にプライド持ってたら底辺労働何てバカらしくて出来ませんから…
ところで寿町ってどこにあるのですか?
行ってみたいですね。

No title

まっちゃんさん

 警備は夏は灼熱地獄、冬は極寒地獄です。私も貯金が尽きたらまた底辺労働の世界に入らなくてはなりませんが、雨があると中止で安定しないんで、警備は二度とやらないでしょうね。

 寿町は京浜東北線の石川町駅が一番近いです。元町口から降りて関内駅がわに歩いていけばすぐですね。反対の丘の方に登ったら高級住宅街があり、この格差はなんやねんってなります。ワンカップ片手にリュックしょって歩いているちっこいのがいたら私ですw

警備のお仕事って、大変ですね‥。グレーゾーンの障害者が、フルボッコにされる社会ですよね。わたしも発達障害(診断済み)なので、気持ち痛い程わかります。なんでそんな、最低賃金でそこまで踏みにじられなきゃいけないのかな。国も社会も政治も、いろんな事おかしいですよね。

No title

あやかさん

 警備は今考えるとほんと大変でした。毎度地図見て現場まで行かなくちゃいけないし、持ち物多いしで、発達障害的傾向のある人間には一番向かない仕事だと思います。

 労働問題に関しては本当にみんなで考えていかないといけないことだと思います。偽善アリスの方で非正規と正規は一長一短だと書きましたが、昔だったら正規でありながら非正規みたいな軽さがあって、すごく恵まれた時代があったのが、ここまで地滑りしてしまったわけですから。昔を知る世代がまったくいなくなってからが一番ヤバいかもしれません。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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