凶悪犯罪者バトルロイヤル 第四十一話

 
 深夜3時。店を閉めた後の「スカーフキッス」控室にて、重信房子軍、永田洋子軍による合同ミーティングが行われている。

 松永太が、永田洋子からの、重信、永田連合軍による小林正人軍殲滅作戦の誘いにOKの返事を返したのが、二日前のことだった。バトルロイヤルが開始されてから、今日でちょうど2か月。まだ、焦って攻勢に出る時期ではない。重信軍単独では絶対に戦争に踏み切ったりはしないが、永田軍と合同で攻めるということなら話は別である。まだこの時期とはいえ、敵対勢力は叩けるときに叩いた方がいいのは確かである。機を逃す手はない。

 重信房子、松永太、加藤智大、松村恭三、尾形英紀、前上博、新加入の畠山鈴香、バドラ麻原軍から一時的に呼び戻した正田昭。この8人が、我が軍の現有戦力である。人数八人は、麻原軍と並び最多勢力だ。統率タイプ、戦闘タイプ、猟奇タイプ、色香タイプ、と、バランスも申し分ない。単独でも最強クラスの我が軍に、永田洋子軍が加わる。

 リーダーの永田洋子は、言わずと知れた左翼組織、連合赤軍のトップである。女性ながら、その統率力と覇気は度外れており、自らも武器を取って戦うこともある女傑である。ただ、見方を変えればヒステリック、自己中心的と取ることもでき、繊細な現代っ子と合うかどうか、不安な一面もある。

 永田が自身のそうした性質を理解しているのかいないのか、彼女の下には、比較的古い世代の犯罪者たちが集まった。

 まず、戦闘エースの栗田源蔵。崖路を歩く家族に目をつけ、母親を強姦の上殺害し、子供を次々に崖下に投げ落とした「おせんころがし」事件の犯人である。「おせんころがし」事件の数年前には、結婚詐欺の末、女性二名を殺害する事件を起こしており、同じく「おせんころがし」の数年後には、民家に押し入り女性二名を殺害し死姦に及ぶなど、およそ人間が犯す悪行のほとんどをやってのけた、筋金入りの鬼畜である。体格は現代人と比較しても屈強で、独特の威圧感がある。我が軍のエース加藤智大との相性次第では、二人力を合わせて宅間守を打ち倒すことができるかもしれない。

 次に、「吉展ちゃん誘拐殺人事件」の小原保。昭和の名刑事、平塚八兵衛との対決は、犯罪史上あまりにも有名である。

 そして、80年代に起きた女子大生強姦殺人事件の松山純弘。特筆すべきは、松山が当時、現役警察官だったことである。

 とんでもない不祥事には違いないのだが、当時は今よりも粗暴犯の割合が高かった時代であり、警察もそれを取り締まるために、体力と闘争心を重視し、結果、人格的に少々問題のある人物も多数採用されてしまっていたのは事実だ。なにも昔に限った話ではない。現代でも、「優しいおまわりさん」は末端の制服巡査くらいのもので、上に行けばいくほど、「その刑事、凶暴につき」「危ない刑事」の数は増えてくる。脳内のテストステロン値の高さが引き起こす負の側面であり、そうした刑事は、確かに失策も多い。が、警視総監賞ものの大手柄を上げたりするのもまた、そうしたデンジャラスな一面のある刑事なのだという。まさに諸刃の剣ということで、やはり警察は戦う職業なのだ。

「本作戦の概要を確認する。戦争目的は、小林正人軍の殲滅。及び、小林の持つ軍資金の奪取である。これについて、一切の妥協は許されない。後退の意志を見せたものは、敵に通じているものとし、その場で直ちに処刑する。各人、捨身の覚悟を持って、任務に取り組むべし」

 永田の宣言により、会議が幕を開けた。さっそく、重信房子が挙手する。

「ちょっとよろしいかしら。なんとも物騒な宣言だけど、処刑がどうのというのは、うちの人員についても同じ考えでいらっしゃるのかしら」

「・・当然のこと。ともに作戦に当たるからには、両軍は一心同体。おたくの軍にも、我が軍と同じ気構えでいてもらわなくては困る」

 重信の意見に、永田が露骨に顔をしかめて答えた。

「それはあまりに身勝手な考えなんじゃございません?私たちは、あなたの軍の不始末を拭う形で今回の作戦に参加するのよ。小林軍から金銭を奪うなどとおっしゃいますけど、我々は飲食店の経営で十分な収入を得ています。つまり、私たちが今回の作戦に参加するのは、まったくの無償の奉仕に等しいのであって、それをあなたの軍と同じモチベーションで戦いに臨めといっても、無理な話だと思うのですけど?」

「・・ちょっと松永さん、なんなの、この女。話を進められないのだけど。なにか言ってやってよ」

 いきなり火花を散らし合う、女革命家二人。激情と冷静、租野と気品、精悍と優美。1945年、同じ年に生を受け、同じような思想を抱き、同じような経歴を辿ってきた二人だが、その性質は水と油ほども違う。こうした二人は、極端に気が合うか、極端に反目し合うかのどちらかなのだが、重信と永田に関しては、後者の割合が濃厚なようである。
 
「いえ、私は、戦争に関しては門外漢ですから。実戦経験豊富なお二人で、存分に話し合ってください」

 松永は微笑して、永田の怒りの矛先をかわした。仲裁の義務を放棄したわけではない。性格の合わない二人を、無理やりに仲良くさせようとすれば、無用な軋轢を生むだけである。ならば徹底的に争わせ、競わせることによってお互いの持ち味を発揮させた方がいい。自分の仕事は、その競争が単なる足の引っ張り合いにならないよう、前向きな方向に調整することである。

 会議はその後、指揮系統を担うのはどちらか、前線で危険な任務を負うのは誰か、負傷者、戦死者が出た場合の責任の所在云々など、大揉めに揉めたが、どうやら日の出までには収まりそうではあった。

 総指揮官は永田洋子、参謀に重信房子、前線指揮官に加藤智大。加藤を中心に、栗田源蔵、松山純弘、尾形英紀、松村恭造が前線で戦い、残りの人員で後方支援を担う、ということで、最終的なフォーメーションが固まったようだ。

 自分は、といえば、まったくの非戦闘員として、なんのポジションにも就かず、安全な立場をしっかり確保していた。外交やシノギで結果を残す自分が高見の見物を決め込むことに、不満を述べる者は誰もいなかった。ホテルで留守番をしていてもいいとまで言われたのだが、今後の経験値獲得のために、現場には出ていくことにした。

 作戦決行は、今から24時間後。夜襲を仕掛けるのである。照明器具の発達した現代において、夜襲はもっとも確実に相手の命を奪える戦術だ。睡眠という、人間がもっともリラックスしているときに襲うのだから、それも当然である。

 数の理、人材の理、そして作戦の理。この時点で、すでに勝ちは決まったようなものであるが、自分はそれで慢心はしない。

 松永は、携帯を取り出した。民間の調査会社を利用して調べた番号をプッシュする。小林正人軍の人員、間中博巳に連絡を取り、金銭による懐柔を図るつもりだった。

 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康・・。戦国の乱世を制した英雄は、戦争そのものよりもむしろ、戦争準備の達人であった。戦闘開始まで、あと24時間。99・9%の勝率を100%にするため、出来得る限りの手立てを、打っておくつもりだった。
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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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