犯罪者名鑑 麻原彰晃 11

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 裏の№2 ”ティローパ” 早川紀代秀

 今回はオウム草創期に入信した男性幹部について紹介します。

 まず早川紀代秀。オウム最初期からの麻原と関係があり、あの空中浮揚の撮影現場にも立ち会ったといいます。大学院を出てからゼネコンに勤めた経験があり、この俗世間での仕事を捨てがたかったからか出家は遅く、1987年でした。教団では俗世間で培った知識を買われ、建設班、省庁制度導入後には建設省の大臣として、教団の施設造営の総責任者として活躍していました。

 早川は、若い世代の多いオウム幹部の中にあって麻原よりも七歳も年長で、それゆえか、麻原への帰依は同じ大幹部の村井秀夫などと比べると強くはなく、陰では麻原の計画の無謀ぶりを部下に嘆いたり、会議の席で麻原に直接反対意見を述べることも少なくなかったようです。そんな態度が災いしてか、ステージ自体は最末期の1994年にようやく正悟師に昇ったので終わり、最高幹部の証明である正大師の地位に就くことはできなかったのですが、能力の高さについては麻原も認めるところで、教団内では、表の№2である正大師の村井秀夫と勢力を二分する、裏の№2と目されていたようです。

 裏の№2という肩書が表す通り、よくマスコミの前に顔を出し、広報の役目を担っていた村井秀夫に対し、早川のワークは上記の施設造営などに加え、ロシアから兵器を輸入したり、確実な話ではありませんが暴力団との交渉に当たったりなど、まさに表に出ない裏の活動が主だったようです。激しい気性の持ち主で、ロシア支部長の立場にあり、自分よりステージが上の正大師である上祐史浩を「何やっとんか、マイトレーヤッ!」と怒鳴りつけて得意の弁舌を封じたりするなどしており、このあたりも、穏やかな性格だった村井秀夫とは好対照です。

 若くして出家した他の幹部と違って十分な社会経験があり、麻原の荒唐無稽な計画に批判的な意見を述べるなど、現実主義にも見える早川が、結果的には麻原の指示に従い数々の犯罪行為を起こしたのは、かつての同僚が語る「理想主義的な一面があった」というあたりが理由なのでしょうか。

 早川本人は、法廷においては麻原の恐怖や、自らの犯行が発覚することの恐怖から次々に犯行に及んだということを語っていますが、他の幹部の証言からはそうは思えません。むしろ早川は、自分の能力をとても高く評価してくれるオウムという教団の中で、高い地位を築き、自分の理想を実現しようと、ヨーガの修行もそっちのけで、(早川は古参の幹部にも関わらずヨーガの行法に習熟しておらず、質問されてもロクに答えられなかったという。この点は村井も同様)嬉々として非合法活動に手を染めていったように思えます。

 オウムの中では現実的でも、日本社会には馴染めない理想主義、空想家だった早川の寂しさに、麻原は巧みにつけ込んだということでしょうか。

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 陽気なグルの警護役”ミラレパ”新実智光
 

 オウムの会当時からの古参信徒で、2015年現在でも麻原を崇拝するなど帰依が深く、オウム三大事件と言われる坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件すべてに関わった信徒が、新実智光です。

 新実は学生時代から宗教に関心が深く、麻原も入信した阿含宗など、いくつかの宗教団体を転々としましたが、納得のいく修行ができず迷いの中にいるとき、雑誌「トワイライトゾーン」に紹介された、麻原の空中浮揚の写真と出会いました。そして、飛びつくように麻原の元を訪れ、麻原の人柄に触れ、シャクティパットなど神秘の体験をしたことで、この人こそはと麻原に生涯の忠誠を誓うようになりました。

 カルト宗教に入るような人を、それだけで変人と決めつけてしまうのはよくありませんが、新実は十人が見て十人が変人と思うような、とびきりユニークな人だったようです。裁判では反省している様子を一切見せず、傍聴席を見渡してニコニコ笑うなど被害者遺族を愚弄するような態度をみせ、また初期のオウムで、オウムの書籍をPRするワークに従事した際、書店に宣伝ポスターを貼ってこいと命じられると、トイレから階段まで場所を弁えず何十枚も貼ってきてクレームをつけられるなど、仕事では失敗ばかりしていました。

 しかし麻原は、そんな新実の失敗をゲラゲラ笑うだけで叱ったりはせず、早くからホーリーネームを与えるなど優遇し、テロ行為など教団の危険なワークに従事させるようになります。松本サリン事件の際、「今から松本にサリン撒きに行きまーす」など、まるで遠足に行くようなウキウキした口調で出発を促し、空手家の端本悟が「警官と乱闘になる。ピストルには勝てない」と慎重な態度を見せると、「じゃヌンチャクとか持っていけばいいじゃないですか」とあっさり答えるなど、人を殺すことを屁とも思わない新実に引っ張られて、数々の凶悪事件は起こったのです。

 オウム幹部には本質的には犯罪的傾向がない人がほとんどで、麻原の殺人の命に躊躇いを見せる人もいたのですが、麻原はそれを「ポアの論理」と「ヴァジラヤーナの教え」で丸め込み、凶悪事件へと向かわせました。しかし、麻原にはそれだけでは十分ではないことがわかっており、さらに、殺人をゲーム感覚で嬉々として行う新実に、いわばムードメーカーの役割を担わせることで、幹部たちの殺人への抵抗を和らげたのです。仕事ができない新実に、絶対に失敗の許されないテロ行為をやらせるのは、普通に考えたらおかしな起用ですが、新実の性格に能力のなさを補ってあまりある価値があることを、麻原は見抜いていたのです。麻原がまさに人事の天才であったことの証明といえるでしょう。

 ADHDという発達障害を抱え、仕事ができないできないと言われ続けてきた私は、この新実に対して共感するところがあります。世の中には、仕事ができなかったり、ちょっと変な言動をしたり、変な動作をする人を、知能が低く感情も鈍磨だなどと見做して、からかったり、いじめたりする大馬鹿者がいます。これは私の想像ですが、新実も若い頃、そういう大馬鹿者たちに傷つけられ、社会に自分の居場所がないと感じた経験があったのではないでしょうか。そんなことがあったとすれば、新実を暖かく迎え入れたばかりか、逮捕後には最高幹部の証である正大師のステージを与えるなど、とても高く評価してくれた麻原を、新実が逮捕から二十年たった今なお崇拝するほど深く帰依してしまうのは、無理もないのかもしれません。

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 ピカレスクの主人公”マハー・アングリマーラ”岡崎和明

 ノンフィクション作家の佐木隆三がこの男に付けた通称を、私もそのまま使わせてもらいます。

 岡崎はオウムが団体の名称をオウム神仙の会と名乗りはじめたころからの古参信徒で、入会とほぼ同時に出家しました。高等教育を受けたエリートが多いオウム幹部の中にあって、岡崎の学歴は工業高校卒止まりで、科学や建築などの専門知識ではなく、実務の能力を評価されて麻原に重用された、幹部の中では異色の存在でした。

 教材販売のセールスマンとして、二十代前半の若さで所長を任された経験を持つ岡崎は、オウムでは出版業の総責任者を任されていました。その辣腕ぶりは麻原や部下だった信徒も認めるところで、麻原の著作を全国の書店に並べて広め、それを読んだ人を多数教団に集めて信徒としたという点で、岡崎の果たした役割は非常に大きいといえます。

 しかし、教団に貢献する一方で、岡崎は経費をちょろまかして自分の懐に入れ、そのカネで親しくなった女性信徒をラブホテルに連れ込むなど破戒行為も重ねていました。そんな麻原を舐め腐ったようなことを裏でしていたにも関わらず、石井久子に次ぐ二番目の成就者として麻原からホーリーネームを与えられたのは、修行にしてもワークにしても、やることがあまりにも凄かったからでした。「グルへの信がなくとも、修行だけで成就できる好例である」とは、オウムの機関誌に載せられた麻原のコメントです。

 「グルへの信に欠ける」岡崎は、最終的に教団のカネを持ち逃げしてオウムを脱会します。岡崎を追う麻原に対抗するため、坂本弁護士一家が埋められた場所の写真を警察に送り付けて麻原を脅迫し、さらに一千万を教団から奪い取るなど、信徒の中で唯一麻原と対等に渡り合った岡崎は、まさに「ピカレスク(悪漢小説)の主人公」のようで、麻原に盲目的に帰依する井上嘉浩や新実智光のような幹部とは明らかに一線を画しています。

 麻原への背信行為を重ねながらも、岡崎は麻原の命に忠実に従い、坂本弁護士一家殺害などには積極的に関与しました。麻原に認められたいという思いも強かったのです。岡崎は幼い頃、実の両親からゴミでも捨てるように余所の家に預けられており、養母は優しい人でしたが、養父にはアルバイト代をとられたり、折檻を受けるなど冷たい仕打ちを受けていました。暗い生い立ちを背負っているという点で、岡崎は麻原に深く共感し、また養父では得られなかった父性を麻原に求めていたのかもしれません。その麻原も、欲求を完全には満たしてくれなかったことに対する「お父さんへの反抗」が、破戒行為や脱会だったのでしょうか。
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No title

オウムの男性幹部達も皆個性豊かな面々ですね。
これだけの幹部をまとめあげる能力をもつ麻原はかなり人を見抜く力があったと思います。
一人一人の性格を見抜き厳しさと優しさを使い分けなければ到底無理だったでしょうね。
自分はオウムの信者達は麻原に盲信的だと思っていたのですが違っていたのは驚きでした。
麻原も幹部達には相当手を焼いたと思われます。
人はここでしか自分を認めてくれる人や場所がないと思えばそこに留まってしまうのかもしれないですね。

孫氏の本を読む感覚で、尊師の本を読んでみてもいいかもしれませんね。

成功のヒントが満載で!



ただ、血のイニシエーション100万円は高すぎますよね 笑


そもそも、本当に尊師の血入っとるんかい! って感じです。

No title

>>seaskyさん

オウム幹部は様々な個性の持ち主ですが、麻原に帰依していることと権力志向があったことは共通しています。その程度がバラバラで、それによって修行やワークへの積極さが変わってくるようですね。様々な個性を持った人たちをうまく操縦していた麻原は人使いが本当にうまいです。

オウムが、オウムにしか居場所がないというような社会不適応者の受け皿になっていた側面はあるでしょうね。また、上祐のようなエリートは、オウムに入ってしまったことでオウム以外に居場所がなくなってしまったということを言っていたようです。すでに新卒至上主義の世の中で、一度業界を抜けると復帰は容易ではなく、かといって底辺大卒や高卒が就職するような会社ではプライドが許さないということでしょうね。

>>L,wさん

孫氏の兵法書が現代社会を生きるうえでも参考になることは常識ですが、中国に渡航歴のある麻原も中国の兵法書を読んでいたのですかね・・。血のイニシエーションは一応信者の前で自らの血を採血してみせたようです。初回だけかもしれませんが。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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