凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十九話

「・・・あ・・・あ・・・僕、宮崎勤・・・」

 緊張した僕は、わけもわからず、自分の名前を名乗っていた。なにをやっているんだ、馬鹿正直に名乗ったら、殺されるかもしれないのに・・。僕のバカ、僕のバカ、僕のバカ・・。

「宮崎勤・・。ああ、僕と同じ参加者の人だね。よかった。一般人だったら、どうしようかと思ってたんだ。さあ、上がって上がって」

 山地悠紀夫は白い歯を覗かせ、まるで自分の家のように、僕をアパートに招じ入れた。よかった、て、コイツは何を言っているんだ。侵入者が殺し合いをしている相手とわかって、逆に安心するなんて、相当ズレてるぞ。常識人の僕には、考えられない思考回路だ。

「お茶でも入れよう。コーヒーにする?紅茶にする?カントリーマアムもあるから、一緒に食べよう」

 いや、そんなこと言っている場合じゃないだろ。足元、足元。抉りだした外尾計夫の目玉を踏んづけてるぞ。あーあ、べちょべちょの液体で靴下が汚れちゃって・・。あ、今度は、なんか干からびたウインナーみたいなのを踏んづけたぞ。なんか毛だらけだな。しかもくせえ。ってうわ、よく見たら、男の大事なアレじゃないか。知らなかった、アレって、身体から切り離すとあんなに萎んじゃうんだ。

 とりあえずコーヒーを注文した僕は、山地悠紀夫と一緒にカントリーマアムを食べた。電子レンジで50秒くらい温めてから食べるのが美味しいと、山地は教えてくれた。

「ふう、おいしかった。今、4時か。宮崎くんは、バイトとかしてるの?」

「え?いや、バイトはしてないよ。木嶋佳苗っていう女の稼ぎで食べてるんだ」

 また、聞かれてもいないのに、プライベートな情報を打ち明けてしまった。こいつは友達でもないのに、なに気を許してるんだ、僕は。

 そういえば、僕は友達というのが出来たことがなかったな。小、中、高、大を通じて一人ぼっち。同じ趣味を持つアニメのサークルですら嫌われていた。そんな僕が、こいつは友達とか友達じゃないとかいうのも、おかしな話か。

「ふーん。門限とかあるの?」

「いや、特に決まってはいないかな。遅くなるようだったら、電話しなさいって言われてるけど」

「そっか。じゃあさ、一緒にゲームしようよ」

「ゲーム?うん、いいよ」

 ゲームは大好きだ。グランドマスターによって娑婆に解き放たれてから、ゲームは色々やった。アニメオタクで知られ、いわゆるファミコン世代にあたる僕だが、意外にもゲームは、捕まる前はあまりやったことがなかった。最近のゲームは絵もキレイで、やり過ぎで過労死してしまう人も出るくらい面白いと拘置所で聞いていたから、ネットカフェ生活を始めるや、さっそく色々なゲームをやった。ゲームは僕を、めくるめく夢の世界に導いた。

 まるで映画のような美麗なグラフィック。臨場感溢れるフルボイス。快適な操作性。どれをとっても、僕の世代とは比べものにならない。人間の英知の素晴らしさが、小さな電気箱の中に凝縮されている。僕は夢中になった。ゲームさえあれば、一生独房の中で生きていてもいいと思った。

 最近のゲームは、シナリオも練り込まれている。特に僕が気に入ったのは、「バイオハザードシリーズ」だ。アクション、謎解き、タイムアタックや縛りプレイなどのやり込み要素。ゲーム性だけでも面白いが、製薬会社「アンブレラ」と、それに対抗する人々の戦いを描いた壮大なストーリーが実に素晴らしい。ネットでは「B級」なんて言われているらしいが、だからといってチープということにはならない。確かに大雑把ではあるが、B級にはB級の良さがあるのだ。

 何よりキャラクターに魅力がある。クリス、ジル、レオンら、熱くて人間味のある主人公格たち、マッドサイエンティストのウィリアム・バーキンやアレクシア・アシュフォードの狂気と戦闘BGMの異常なカッコよさ。しかし、最大のスターは、シリーズ最大の悪役、アルバート・ウェスカーであろう。

 おそらく初代の時点では、悪のカリスマとなることを期待されていなかったウェスカーの扱いはぞんざいだ。一応、黒幕という役どころなのだが、家族を人質にとったり、セリフはアンブレラの犬っぽいし、断末魔が情けないことこの上ないし、おまけゲームではゾンビになっちゃってるし、小物臭がプンプンする。

 しかし、バイオハザードが異常な大ヒットを記録して続編が作られると、ウェスカーは「実はアンブレラを裏切り別組織に身を売っていた」「タイラントによる死を偽装し、ウィルスにより超人となっていた」という後付設定で、華麗に復活する。それからの活躍ぶりも、まさに華麗の一言だ。

 「ベロニカ」では、トレードマークのグラサンを外して綾波レイみたいな赤いお目目を披露し、超人的な身体能力で人外アレクシアと渡り合い、「アンブレラ・クロニクルズ」では悪役ながら主役に抜擢され、「4」や「ダークサイド・クロニクルズ」でも存在感を示した。そして、「5」でのマトリックスぶりである。戦闘BGM「wind of madness」、ロケットランチャーを手投げするシーンのカッコよさは異常である。というか、それが出来るならタイラントとかいらなくないか・・?

 人間性もカッコイイ。190㎝の長身に金髪、グラサンという出で立ちは、どんなファッションでも格好いいし、眠そうな声もいい。フットボール、戦史研究という、文武両道を地で行く趣味も渋いし、生物工学の権威でありながらアンブレラの諜報部員としても活躍し、特殊部隊の隊長も務めるなど、ウイルスを打つ前から、十分に超人だった。

 しかし、僕が何より惹かれたのは、「ウェスカーズ・リポート」に書かれているこの記述だ。


4年前、バーキンの立案した「G-ウィルス計画」が承認された時、私は情報部への転属を希望し、それは、あっさり受理された。
私が研究員としての道を断念し転機を図るというのは、誰から見ても自然な成り行きに見えたはずだ。
実際のところ、「G」の構想は最早、私などがついて行けるレベルを超えていた。
たとえ、スペンサーの真意を探るという目的が無かったとしても、その時、研究員としての自分の能力に限界を見出したのは確かな事だった。


 ウェスカーはわかっているのである。大いなる野望を抱き、頂点に君臨しようとする者が、些末なプライドに拘ることの愚かさを。研究など、たった一つの分野で挫折したくらいで、ウェスカーは挫けたりはしない。そんなものは得意な人間にやらせて、自分はそいつらを顎で使う立場になればいいと、割り切って考えているのである。この合理的思考こそ、英雄の条件でなくてなんだというのか。

 その合理的なウェスカーが、新世界の神となる方法として考え出したのが「飛行機で世界中にウィルスをばら撒く」という、なんとも力任せな、大雑把な方法であったのはお茶目なところであるのだが。

「さあ、やろうやろう」

 山地は、床に転がる外尾の首をサッカーボールみたいに蹴飛ばし、テレビ台からゲームを引っ張り出して、電源を入れた。

 それから僕たちは、「桃鉄」「FPS」「プロ野球スピリッツ」「ストリートファイター」など、対戦型ゲームを楽しんだ。山地は現代っ子だけあってさすがにゲームがうまく、何度も負けたが、彼が懇切丁寧に操作を教えてくれるおかげで、僕も随分上達した。

気付くと、窓から見える空はすっかり暗くなっていた。

「もう、こんな時間か。そろそろ帰らないと、バイトに遅れちゃう。宮崎くん、また今度遊ぼう」

「うん、いいよ」

「よし。じゃあ、携帯番号の交換だ」

 僕たちは携帯番号を交換し合い、今度、暇なときに、また二人で会って遊ぶことを約束して別れた。

 僕は人が嫌いだ。男も女も、みんな嫌いだ。人と一緒に過ごして、いい思いをしたことがない。記憶にあるのは、嫌な思いで、むかつく思い出ばかりだ。

 だが、山地くんと一緒にいるときの感覚は違っていた。悪くなかった。遠い記憶・・もう、思い出せないほど昔・・僕にもあったはずの、汚れなき時代の記憶を、思い出せさせてくれた。
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Re: タイトルなし

>>夜桜さん

勉強になります。
11名は多いですね。刑務所に比べて房は広いのでしょうか。
役割分担が決まっているというのは初めて知りました。
拘置所でも厳しい上下関係があるんですね。
秩序を学ぶ場である刑務所ならともかく、
刑も確定していない拘置所でそれはキツイですね・・。

今度の持ち込み、応募用原稿は刑務所モノで行くことに決めました。
名もなく人脈もなく、取材もロクにできない僕に夜桜さんの意見は貴重です。
この時期に出会えたのは何かの運命かもしれませんね。
ご教授、よろしくお願いします。

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津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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