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犯罪者名鑑 北九州監禁殺人事件 2

まつなが


 悲劇の始まり

「ふとしちゃんやけど、覚えとる?高校時代に借りた50円を返したいんやけど」

 短大在籍時代の20歳のとき、突然かかってきた一本の電話から、緒方家の悲劇は始まりました。

 高校時代には大して会話もなかった松永からの誘いを、純子は当然警戒し断ろうとしましたが、巧みな話術に引き込まれ、結局は会うことを決めてしまいます。

 松永という男は手当たり次第に女性に声をかけまくっていた男で、このとき純子に電話した時点では、凶悪犯罪の片棒を担がせることや、一家の財産を奪ってすべてを亡き者とするような考えはなかったでしょう。しかし、悲劇の運命の糸は松永と純子を深く結びつけていきます。

 三度めのデートで、松永は純子に強引に迫り、ラブホテルで肉体関係を結びました。純子は初めてのセックスでした。

 松永には妻子がおり、純子とは不倫の関係でしたが、純子は次第に松永にのめり込んでいきました。由緒ある家の長女として生まれた純子は、いずれは親の決めた相手と結婚する運命を受け入れていましたが、それまでに一度くらいは恋愛体験をしてみたいという思いがあったそうです。松永が嘘をついたり、会う場所がいつもラブホテルでも、純子は松永に会いたいと思っていました。

 しかし、二人の不倫交際はやがて緒方家の人々の知るところとなりました。妻子のある松永が長女にちょっかいを出したばかりか、緒方家の資産状況まで調べていると知った純子の両親は激怒します。しかし、私立探偵を雇って身辺調査までされたことには松永も怒り、松永と純子の母、静美は直接会って話をつけることになりました。

 おそらくは松永に純子と二度と会わないでくれと言うつもりで会談に臨んだ静美でしたが、松永の意外な好青年ぶりと、純子への愛を熱く語る姿にすっかり好印象を抱いてしまいます。純子の父、誉も、妻とは別れて純子と一緒になるつもりだという松永の言葉を信じ、松永と純子の交際は、純子の両親公認のものとなりました。

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 DV

 しかし、この頃から松永は、純子への態度を豹変させていきます。「俺には音楽の才能があって東京の事務所から誘われているのに、緒方家に養子に入らなければいけないので断った」などと居丈高に口走って純子に負い目を負わせたかと思うと、つぎには純子がかつて親しくしていた男友達を呼び出して、自分の会社の部下を連れてリンチを加えました。

 松永は、純子が処女ではなかったことに腹を立てていたようでしたが、純子とその男性には肉体関係はなかったそうです。しかし、こうして過去に親しくしていた男性に危害を加えられた純子は、松永を裏切ったりすれば酷い目に遭わされると思い込まされていきました。

 純子に対する初めての暴力は車の中でした。運転する純子の手を拳で強く殴りつける、頭を革靴で叩く――その後、暴力はエスカレートし、髪の毛を掴んだり、分厚い地図帳で殴りつけたりすることが平気で行われました。

 古い日記帳を持ってくるように命じ、ホテルの部屋で一日ずつ内容を追いながら「これはどういう意味だ」などと詰問しながら暴力を加えるということもありました。暴力の頻度は次第に上がり、ついには連日連夜、門限を破って暴力を振るわれるようになっていきました。

 そうして純子は、次第に「自分がすべて悪いんだ」という心理状態になっていったといいます。

「最初は自分自身には、暴力を受けるような品行の悪さはないと思っていました。でも、具体的なことを取り上げられて、何度も同じ質問を受けているうちに、自分が間違っているのかもしれないと思うようになりました。今考えれば、松永の巧みな話術によるものだと思いますが、当時は自分が悪い、と思いつめていました」

――これは典型的なバタードウーマン(DVの被害女性)の心理状態である。夫や恋人との二人だけの閉ざされた世界で「おまえが悪い。だから俺はこんなことをするんだ」と暴力を振るわれていると、大概の女性は自己を非難する思考を植え付けられる。自尊心が破壊され、「殴られて当然な自分」という自己イメージを抱くようになるのだ。やがて抵抗する意思も失い、過酷な暴力に耐えて理不尽な要求に従うことが、被害者のアイデンティティになってしまう。 

 北九州監禁殺人事件を取材したルポライターの分析ですが、なにも男性→女性に限った話ではなく、性別が逆、職場の上司→部下、親→子、あるいは国家→国民といった関係にも共通して起こりうる現象といえるでしょう。

 人というのは脆弱な生き物で、暴力や圧力には簡単に屈し、搾取されて富を奪われ、肉体や精神を傷つけられてしまいます。だからこそ常にアンテナを張り巡らし、常識と理不尽の境目がどこにあり、自分がどちらの側にいるのかを知ることが大事になります。

 強いストレスを常に受け続けていると、やがて感覚が麻痺し、ストレスから解放されてマイナスからプラマイゼロの状態に戻ることが快楽であり、人生の目的になってしまう。それが病気や天災などといった自然現象でもたらされる分には仕方ありませんが、他者の支配を受けることによってそのような状態になるのは大変な不幸であり、全力で避けなくてはならないことです。

 20世紀の共産国家は、国民の教育を必要最小限に抑え、国民を無知にすることで、自らの境遇に疑問を感じないようにさせて国民をコントロールしていました。

 当時、ネットという環境があれば、あるいは純子は松永の支配下にある自分に疑問を感じ、松永から逃れられたのかもしれません。ネットというインフラには問題点も数多いですが、利点のひとつに「他人の生活がみえやすい」という部分があります。それによる嫉妬も考えられますが、DV被害者のような異様な状況下に置かれた人にとっては、自分の境遇に疑問を感じるキッカケになる可能性はあります。

 しかし、80年代は華やかなバブルではあったものの、庶民が自由に自分の意見を発信できるネット社会ではありませんでした。控えめな性格で人付き合いも限定されていた純子は「他の女性も、もしかしたらこんなものかもしれない」と考えてしまったのでしょう。

 純子は松永の魔の手から逃れることができず、家族をも殲滅される惨禍に追い込まれてしまいました。
 
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