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party people 5

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「ごめんなさい。影沼さんにこんな話をしてしまって・・」

「いい。いいんだよ、美都ちゃん。泣きたいときには思い切りお泣き。俺なんかでよかったら、いつでも相談に乗るからさ」

 ある日の昼休みにラインに戻ってみると、昨日、会社の先輩と喧嘩をしたとかで落ち込んでいる川辺美都が、影沼に愚痴を聞いてもらっているところだった。

「なんだ。やけに早く戻ったと思ったら、川辺さんと話してたのか」

「ああ、ゴメン青木っち。美都ちゃんすごく悩んでる様子だったから、心配になってさ。ゴメンごめん」

 俺の口調に、無意識に不満の色が顕われていたのか、影沼が昼休み、ココロキレイマンを改心させる活動をいかに進めるかの議論の途中で席を立ち、食堂に置いていった俺にしきりに謝ってきた。

「青木さん、影沼さんを借りちゃってごめんなさい。さ。午後の作業を始めましょう」

 美都が目じりに浮かべた涙を拭う姿を見て、俺の胸の奥で、柑橘系の果物をギュッと絞ったように甘酸っぱい感情が広がっていく。

 ずっと昔、忘れかけていた感情。いつからか、俺がそれを抱くことは許されないと思うようになって忘れていた感情が後から後から湧いてきて、体温が上がり、鼓動が高鳴ってどうしようもなくなる。

 川辺美都が好きだ。俺の中でそれは、抑えようもない爆発的な思いとなっていた。

「アン、アンアン、アンッ。智哉っ、智哉イィッ」

 四十三歳の彼女、満智子のことが嫌いになったわけではない。俺に素人女の身体を教えてくれ、男として自信をつけさせてくれた満智子には感謝しているし、満智子といる時間は楽しくもある。

 だが、それとは別のところで、俺は川辺美都が好きなのだ。たまらなく愛おしく、俺だけのものにしたくてどうしようもないのだ。

「青木っち~。今度、美都ちゃんと三人で、河川敷にバーベキューに行かないか~?」

 日頃、川辺美都を可愛い、女神だと公言してはばからない影沼だったが、彼が美都を独占しようとする気配はなく、俺にも美都と接する機会を平等に作ってくれているようだった。

「え?か、川辺さん、来てくれるの?」

「はい。楽しそうなんで、参加させてもらうことにしました」

 俺の問いに答える川辺美都が、満面の笑みを、俺ではなく影沼に投げかける。

 川辺美都とバーベキューができるのは嬉しい。だが、モヤモヤする。どうしようもなく、心がモヤモヤする。

 影沼は美都のとこが好きなのか。美都は影沼を、男としてどう見ているのか。師と仰ぎ、親友だと信じた男に、俺はいつの間にやら邪な眼差しを向けるようになっていた。

「青木くん。前から君に言いたかったことがあるんだけど」

 その日の帰りのこと、電車で繁華街に繰り出そうと駅の改札を潜ろうとする俺を、同僚の派遣社員が呼び止めてきた。

「青木くん。俺は確かにかつて、けして許されない罪を犯した。だが、いまではちゃんと反省し、真人間になろうと更生の努力をしている。青木くんも、藤井くんと友麻ちゃんをここから追い出した罪を償って、まともになろうとしろよ。赤ちゃんを妊娠させて捨てるとか、ふざけたことばかり言ってんなよ!」

 俺に「反省」を強いようとする江島は四十一歳。少年時代、進路について口論になったはずみで姉を殺害してしまい、少年院に収監された過去を持つ男である。

 赤ちゃんを妊娠させて捨てるというのは、今朝、俺が影沼や気の合う仲間たちと話していたとき口にした、女を拉致して孕ませる赤ちゃん工場を作り、生まれた子供を売り払うのが男の夢だという冗談のことを言っているのだろうが、そんなことばかり口走っていても、俺の工場での評判は落ちることなく、逆に面白野郎としての評価が揺るぎないものとなっていた。

「罪を憎んで人を憎まず。真っ当に生きようとしている姿を、お天道さまはちゃんと見てくれているんだから。だから、な。青木くんも反省して、工場の周りの清掃活動を、俺と一緒にやってみよう。な、それがいいって」

 俺たちの働く工場では、正社員たちは、持ち回りで駐車場や、工場周辺の道路の清掃活動を行うことを命じられている。派遣社員たちはその対象ではないのだが、江島は派遣先企業の慈善活動に自主参加を表明し、美都ら正社員に混じって、毎日空き缶やビニール袋などのゴミ拾いに精を出していた。

「・・・・・・」

 江島の言っていることは、まったくもってくだらない。

 贖罪の意識というのは、自分が「許された」と感じたときに初めて沸き起こるものだ。自分自身が極限まで追いつめられていたり、人生がまったく充実していないという状態では、自分の過ちに気づき、誰かに申し訳なく思うということは難しい。

 俺が友麻や藤井を殺害したことを反省するとしても、それはもっと、ずっと先のこと。他人に誇れるほどの成功を手にしてもいないのに、己の過去を振り返ってクヨクヨするなどバカバカしい。ましてや、俺が藤井と友麻を殺したことを知らない江島はただ、俺が「藤井と友麻に横恋慕したこと」だけを反省しろなどと言っているのだから救いようがない。

 大体、最終的に反省しているかどうかを決めるのは、自分ではなく他人のはずである。「反省」を態度で示すならいいが、あまり口にしすぎれば逆に白々しくなる。

江島はただ、己が「反省している」という事実に酔っているだけ。そもそも反省しなければならぬことなど最初からしなければいいだけなのに、江島は己が「反省している」ことを、誰かに偉そうにし、他人の上を取る材料にしているのだから笑わせる。

 「過去に犯した罪も、真面目に生きていれば消えるんだから。いつか、いつかきっと、赦されるときが来るんだから・・」

 死んだ魚の目をして言いながら、江島が己の手首をゴシゴシと拭った。

「そのこびりついた血を落とそうとして、報われない善行に勤しんでいるってわけか。大変だな」

 一言だけ言って、俺は江島から視線を切り、トイレで眼鏡をコンタクトに変え、髪型を整え、電車へと乗り込んだ。

 駅を出た俺がまっすぐ向かったのはソープランド。格安店だが若い女が抱けると評判の優良店。

「アッ、アッァ、アッ。お兄さん激しいィ、激しィッ」

「美都ォ。いくぞっ、美都。美都、俺の赤ちゃんを産んで。俺と、赤ちゃん作ろう」

 腹の下の娘を、好きな女、美都だと思って腰を振りながら、俺は娘の子宮へと向かって、ゴム越しに子種を落とそうとする。

 かつては、毒物かなにかのようにしか思えなかった自分の遺伝子で、愛する女を孕ませたい。そう思えるくらいまでは、俺は自らの存在を肯定できるようになった。

「はァ・・気持ちよかった。どうもね」

 かつての俺は、彼女がいない素人童貞男の、切実な性欲を満たすために風俗に通っていた。

 いまの俺は、いつでも抱ける女がいる中での、選択肢の一つとして風俗に通っている。この違いは限りなく大きく、その幸せは山より高く海より深い。

 ソープから出て、コンビニで買ったビールを飲んで、いい気分で往来を歩いていると、後ろから誰かに肩を掴まれた。

「さっき見かけて、なんだか様子が変だと思って尾けてみれば・・。青木くん。君は見下げ果てたヤツだな。君はかつて大きな罪を犯しておきながら、彼女とイチャイチャするだけでは飽き足らず、エッチなお店にまで入っていたのか。なんとお下劣なヤツなんだ・・」

 自分こそ、こんな青髭に塗れたブサイク男を尾行するという気色の悪い行為をしていたことを棚にあげる江島がワナワナと唇を震わせた。

「みなさん、聞いてください。この青木くんは、工場で愛し合うカップルを追い出すという罪を犯しながら、それを反省もせず、彼女を作って楽しそうにしているばかりか、あまつさえエッチなお店を利用するという不届き者です。それに引き換え、私はかつて、実の姉を殺害するという罪を犯しながらも、今ではそのことを深く反省し、贅沢を慎み、楽しいことも我慢して、まいにち町内の清掃活動に勤しんでいます。犯罪に重いも軽いもない。愛し合うカップルを追い出すということは、家族を殺すのと同じことなのに、それを反省もせず、女性と乳くりあっている。こんな外道を野放しにしていいのでしょうか?この外道の存在は、会社の規律が緩む原因ではないでしょうか?この外道を社会的に抹殺しなければ、この国の将来は危うくなるのではないでしょうか」

 往来で演説をぶりながらも、江島は己の左腕を、使い古したハンカチでゴシゴシと拭っていた。姉の返り血がべっとりついて今も落ちない、その腕を。

 俺はそれ以上は何も言わず、江島を置いて帰路へとついていった。

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「あ、あ、あーーーー」

 ある日の作業中、悲壮な叫びが聞こえてきた方を振り向くと、五十代の派遣社員が、ラインの中で、股間から水滴をしたたらせているのが目に入ってきた。

 作業中にトイレに行ったことくらいで嫌味を言ってくる社員はここにはいないが、過去にそういうことがあり、それがトラウマになっていたのだろう。

作業中にトイレに行きたいと言い出せず、おもらしをしてしまう。そんなことも、非正規の派遣の世界じゃ珍しくはない。

「あも、きもうおほわったひごとのことべ、もういひどひひたいのべすが」

 工場の正社員に仕事のことで質問する派遣社員は、まだ四十前なのに歯が半分なくなっており、残った歯も根元がスカスカになって、押したら折れてしまいそうである。

 非正規の派遣労働者は歯が悪い。タバコを良く吸い、歯磨きもあまりせず、歯医者代を削ってパチンコに通う金を捻出しているので、若いうちから深刻な口腔崩壊を起こしてしまう。食べ物をうまく噛めなれば胃腸も悪くなり、ドブの腐ったような口臭をさせてしまう者も。

 髭は剃らずに鼻毛も伸ばし放題。靴下は穴だらけで左右別々。皮下脂肪が股間を覆うまで垂れていて、まるでふんどしのよう。

「この前、請負の方に入った女、イマイチだよなぁ。目元はまぁまぁだと思ったのによぉ、マスク取ったら全然じゃねーか」

 己が見た目を捨てているくせに、女の容姿にはうるさい。仕事でもそうだが、まず否定から入る癖があり、隙あらば誰かを追い落としてやろうと、あら捜しに躍起になっている。他人が犯した細かいミスを鬼の首を獲ったようにあげつらうが、己のミスは棚に上げている。

「来月のレースに投資するために、今月は昼を抜くことにしたんだ。ダイエットにもなって一石二鳥だよ」

「前の派遣先では、交通費を浮かすために、一駅歩いて工場まで行ってたんだぁ。ここは送迎バスがあるから、その手が使えないけどねぇ」

 目先の数百円、数千円を稼ぐことには全力を尽くすのだが、少しくらい金を払っても無駄な時間を減らし、空いた時間で何か資格の勉強でもして、将来の数十万、数百万に繋げていくということは考えない。

 底辺世界に埋没し、浮上の意志がない者=ココロキレイマンに共通した属性に、本当に自分の身になることをする「努力」と、ただ辛いことを耐えるだけの「我慢」の区別ができないということがある。

自分のやることの意味を考えようとしない。なんら技能の向上には繋がらなくても、とにかく苦しい思いさえしていればそれで満足してしまい、それを人に偉そうにする材料にしてしまうのだ。

それは彼らが悪いわけではなく、彼らが若い頃から何かを身に着け、成果をあげ、そして褒められるという流れ――良質な成功体験を積めなかったことがいけないのだが、努力と我慢の区別がつかぬ彼らが、己の価値観を、努力して這い上がろうとする者に押し付けてこようとするのならば同情はいらない。

「俺はヤツらと同じにはならない。必ずこの肥溜めから抜け出してやる。上に行って、本当の幸せを手に入れてやる」

 固い決意を胸に秘め、自宅では料理修行、会社ではココロキレイマンの打倒に励む俺の周りには、次第に「同士」とも呼ぶべき仲間たちが集まり始めていた。

「これまで自分の気持ちに嘘ついて、ずっといい子ちゃんやってきたけど、いい子でいたって、ちっともいいことなんかありゃしねえ。
もう、いい子ちゃんのフリなんかするのはやめだ。俺は自分の気持ちに素直に生きる」

 四十四歳、就職超氷河期世代の石川は、国立大まで出たが正社員での就職にはこぎつけず、若い頃から非正規の派遣労働の現場を転々としてきた。

 自分は真面目なだけが取り柄と思っていた石川は、派遣先でトラブルを起こすこともなく、残業も休出も嫌がらずにやった。五年前に親が倒れてからは、家にいる時間の多くを介護に捧げてきた。

 だけど、いいことなんか何もなかった。

 これといった趣味もなく、楽しみといえば家で一人酒を飲むことくらい。奥手な石川は女を口説くこともできず、また、派遣の自分は女を好きになっても相手にされないと思っていた。学生時代に友人はいたが、自然と縁が切れたり、自分が派遣である引け目から同窓会に顔を出せなくなったりして、いまは孤独だった。

「会社に何かあれば、真っ先に切られるのは俺たち派遣だ。それじゃなくても、社員にちょっと気に入られなかったり、作業がちょっと遅いってだけでクビになるってこともある。この工場に来てからもずっと不安だったけど、仲間ができて安心したよ」

 人の入れ替わりが激しい非正規の派遣労働の世界では、人と人同士の、横の繋がりが希薄になりがちである。勤務先で理不尽な扱いを受けたとき、弱者にとってもっとも大切な、団結するということができないために、辞めるか、潰れるかの二択を選ぶしかなくなる。

 互いに干渉しあうことなく、必要最低限の会話しかしない。仕事が終わればそれっきり。気楽といえば気楽ではあるが、本当にそれでいいのかという思いが、ずっと付きまとっていた。

 バラバラだった派遣社員の心を、一人の男が結び付けた。

「これまで生きてきて、面白いことなんて何もなかった。だけど、青木くん、影沼くんと仲良くなれてからは、毎日が楽しいよ。会社に行くのも、前ほどイヤじゃなくなった」

 一人の男の出現が、不幸の泥沼に、両足の膝まで浸かっていた男の運命を変えた。人生に完全に行き詰っていた石川を、明るく、前向きに生きられるようにしたのは、貧乏で不細工なヤツが清く正しく生きようとなんかしても、けして幸せにはなれない。貧乏で不細工なら心が歪んで当然であり、大事なのは、そんな自分に素直になって生きること。せっかく責任のない立場なのだから、もっと気楽に生きればいいという思想だった。

「これまで、俺がダメなのは全部、俺の根性が足りないせいだと思ってた。俺は頑張らなかったんだから、いい仕事が見つからないのも仕方ないし、彼女ができないのも仕方ないんだって、ずっとそう思ってた。でも、違ったんだな。そうやって自分を追い詰めるような考え方が、すべての不幸を招き寄せていたんだ。俺みたいなヤツだって、堂々と生きていいんだ。気楽に物事を考えて生きていいんだ」

 五十二歳の新川は中学卒業後、割烹料理店で修業をしていたが、親方や先輩の暴力、暴言に耐えきれずに逃げ出し、以後は清掃や警備など、非正規の低賃金労働の現場を転々としていた。

 これまで年収が二五〇万に届いたことがなく、女と付き合ったこともなかった新川は、自分がクソ面白くもない人生なのは、すべて社会人になって最初に勤めた板前の仕事を途中で投げ出したせいだと思い込み、根性なしの自分がこうなるのは仕方ないと思って、コソコソと日陰に逃げ込むように、冷たい地べたを這いつくばるようにして生きてきた。

 理不尽な思いをしたとき、すべて自分が悪いのだからと思って納得しようとするのは、実はもっとも楽な解決法である。人生の中で、戦うということをしなければ乗り越えられない苦難は必ずあるのに、それからも逃げて、ただ辛い現状を、努力とは似て非なる「我慢」しようとする方向に行く。

 食糧だけは豊富な日本なら、それでも確かに生命活動を連続させることはできる。だが、人として生きているとはいえない。

「社会に出て最初に勤めた店は伝統ある高級老舗で、味は確かだったけど、働く側にとっちゃ酷いもんだったよ。一日十二時間、立ちっぱなしの重労働で、休みは月に四日だけ。寮は相部屋、給料は最低賃金。プロの料理人になるために入ったのに、料理の仕方なんて、野菜の切り方くらいしか教えてもらえなくてさ。伝統とブランド名を盾にすればなんでもありだと思って、人をこき使いやがって。あんなところを辞めるのは恥でもなんでもないのに、これまで俺はそれを引け目に思って、女も貧乏も、すべてを諦める理由にしてた。まったく時間を無駄にしたよ」

 貧困は努力不足、自己責任であるという、後ろめたいことのある勝ち組が、負け組に己の不遇を納得させるために広めた風潮を鵜呑みにし、むしろそれを、己が戦わない理由として積極的に主張してきた男が、人生の折り返し地点を過ぎてようやく、重荷を降ろして道を歩み始めた。

負け組から自由であることを取ったら何も残らない。どうせ誰にも期待されていない負け組なのだから、好きに生きれば良いものを、己に枷を嵌め、あれをしてはいけないこれをしてはいけない、こう考えてはいけないそう考えてはいけないと、なぜか禁則事項を守ろうとすることばかりに目を向ける――。

 人に迷惑をかけないということばかりを考えて、守るものなど何もないのに、守るものがあるヤツと同じマインドで生きているヤツが、世の中には多すぎる。

 そんなヤツを一人でも多く、影沼と一緒に救ってやる。すべて自分が悪いのだから、何もかも諦めなければならないなどという、百害あって一利なしのくだらない考え方をやめて、金も権力もない代わりに持っている、大いなる自由を活かして様々なことに挑戦し、己の欲求を叶えていこうとする同士を増やしてやる。

「頑張ってもいいことなかったから引きこもった。引きこもってもいいことなんて何もなかったから外に出た。外に出ても、やっぱりいいことなんてなかった。この世のどこにも逃げ場はないんだって感じてた。でも、影沼くんと青木くんに出会って変わったんだ。楽しく生きるために、頑張る必要なんてない。みんなと同じように考える必要もないんだって、教えてくれたからね」

 三十六歳の沢木は、二十四歳のときに勤めていた会社を辞め、そのまま三十半ばになるまで、実家の自分の部屋で引きこもり生活を送っていた。

 会社を辞めた理由は、上司に厳しく注意されたからだったか、仕事がキツかったからだったか、はたまた、同僚の女子社員に告白してフラれたからだったか・・。今となっては、ハッキリとしたことは思い出せない。

 沢木が引きこもるようになったことに、一〇〇人が聞いて一〇〇人が同情するような、特別な理由があったわけではない。ただ、総合的に判断して、沢木は自分が人より劣っていると感じ、自分は頑張っても幸せにはなれないと確信して、心のドアを閉ざした。

「引きこもっているとき親に言われた、親に対して感謝の気持ちを持てって言葉が、ずっと引っかかってた。だってそうだろ。生きていたって楽しいことなんか何もないのに、どうやって自分を産んだ人間に感謝するんだよ。誰が産んでくれなんて頼んだんだよ」 

 沢木が問題にしているのは、衣食住にも事欠く発展途上国における「絶対的貧困」ではない。物質的な豊かさに満たされた先進国の中で、収入が少ない、学歴がない、女を持っていないということに悩む「相対的貧困」である。

 衣食住の保証された国の中での「相対的貧困」に苦しむ人間に、アフリカや北朝鮮で飢えている人に比べたらマシなのだから我慢しなさい、自分を幸せだと思いなさいなどといった言葉をかけるのは、例えば打撃不振に悩むプロ野球選手に、あなたは普通のサラリーマンの何倍も稼いでいるのだから、ちょっと打てなかったくらいでクヨクヨするのは辞めなさいと言うくらい、本質的に間違っている。

 自分と自分と他人を比較しなければ地獄も天国になることは誰でも知っているが、それから完全に逃げることは誰にも不可能である。問題はその比較対象であって、生活のステージがまったく違う世界の人間と比較された時点で、その人間にとっては死刑を宣告されたのと同じであることをわかっていないヤツが多すぎる。

 相対的貧困に悩む人間が、お前は生活の不安もなく、十分に恵まれているんだから自分を幸せと思え、前向きになれ、努力をしろ、と声をかけられたとき思うことは、絶対的貧困に苦しむ人間がそれをされたときとまったく同じ。

 「お前に何がわかる」、それだけでしかないのだ。

「勉強したって成績は伸びないし、いい会社には入れないし、女に告白してもフラれてばっかでさぁ。努力なんかしたって、何一つうまくいきやしないじゃないか。こんな俺が社会のために歯を食いしばって働かなきゃいけないなんて理不尽じゃん。働いたら負けだって、そう思ってた」

 身勝手な言い分ではある。しかし、感情論を抜きにして、それこそがニート、引きこもり問題の本質でもある。

 物質的な豊かさに満たされた先進国で、それを当たり前だと思って育ってきた人間は、ただ雨風を凌げ、食べるためだけには頑張れない。

 安定した収入があって。やりがいまではなくても、ストレスの少ない職場があって。

 気の合う友人がいて、夢中になれる趣味があって。

 恋人がいて、セックスができて。

 先進国の人間が幸せを実感するためには、それなりの高いハードルをクリアしなければならない。血の滲む努力をしてもそれが得られなかったときは、絶望して心が折れてしまうということは十分にあり得るのだが、「相対的貧困」という概念に理解がなく、持たざる者の正当な悩みを「甘え」の一言で済まそうとする人間が、この国にはまだまだ多すぎる。

「みんなこれまでの人生じゃ辛いことが多かっただろうけど、これからは楽しくなるよ。ココロキレイマンのくびきから解放された人間は無敵だ。貧乏で不細工で、何の才能もなかろうと悲観することはない。貧乏で不細工で無能でも、ココロキレイマンをやめれば必ず幸せになれるんだと、俺たちが“証明”してみせるんだ」

 破格の男が、俺たちを引っ張ってくれる。何も案ずることはない。俺たちを虐げてきた世の中の常識など気にすることはない。そんなものはぶち壊して、本能の赴くままに突き進めば必ず道は拓けると、影沼は言っている。

「さぁ、明日からは楽しい三連休だぞぉ。みんな何して遊ぶ?」

 一週間の仕事が終わると、俺たちは工場近くの公園で語らったり、花火をしたり、七輪で肉や魚を焼いたりして楽しんだ。

「ああもう、富田さん、お箸そんな持ち方だから、食べ物をポロポロこぼしちゃって。お箸のちゃんとした持ち方、親に教わらなかったの?」

 箸をフォークのように握って食事をしている四十二歳の富田に、四十一歳の石黒が、眉間に皺を寄せながら注意をした。

 子供のころ親から受けた愛情の量と、大人になってからの収入の額は比例する。

 絶対的な幸福を知らずに育った人間は、不幸が続いたとしても、「人生こんなものか」と諦めてしまい、少しの努力と工夫で今よりもマシになる機会があっても、それと気づかず放棄してしまう。

 シンデレラストーリーが持てはやされるのは、それが希少な例だからで、ほとんどの場合、愛情に恵まれなかった者は不幸となり、不幸は永劫に続く。

 不幸は連鎖する。不幸に育った子が人の親となっても、不幸しか知らない親は、子供に不幸しか伝えることができず、不幸は世代を跨いで続く。

 不幸は伝染する。不幸な者はその波長を通じて引かれ合い、負のバイアスを共感できる者同士でそれを増幅し合う。そしてよく知られるように、不幸な者は、それまでは幸福だった者をも不幸へと引きずり込む。

 不幸を人から人へ移す、負のスパイラルを断ち切る。それができるのは、ココロキレイマンではない。

「作田さん、地面に落ちたのを食べたらばっちぃよ。あと、前から思ってたんだけど、作田さん、トイレに入るときに手を洗うのに、トイレから出るときには手を洗わないのはオカシイよ」

「だ、だって、汚れた手でちんちんを触るのは、汚いから・・」

「作田さんのちんちんの方が、もっと汚いでしょ。おかしいよ、普通逆でしょ。服も昨日と同じだし、髪はボサボサ、髭はモジャモジャだしさ。作田さん、お風呂と洗濯、ちゃんとしてないでしょ」

「そ、それを言ったら、石黒さんだって、髪を自分で切って、変な段々がついた、マッシュルームみたいな頭みたいになってるのはオカシイじゃないかっ。メガネのつるが折れたのもセロテープで繋げてるだけでみすぼらしいし、虫歯も治さないでスキっぱだらけだし。人の、人のことばっか言って、自分はどうなんだよっ。ずるいよっ」

 一般的な衛生観念が欠落している。他人に厳しく自分に甘い。

 どちらも、非正規の派遣労働者にはよく見かける性質である。特に後者はココロキレイマンに多く、彼らは他人の失敗はどうでもよいことをいつまでも言うが、自分の失敗は棚に上げ、人に指摘されても聞く耳を持たない。

 だが、放っておけば間違いなく、ココロキレイマンに骨の髄まで侵されて、取返しがつかなくなっていた石黒のような人が、ココロキレイマンに疑問を感じ、まだココロキレイマンに染まり切る前に俺たちの仲間になってくれた。それが何よりも素晴らしい。

「いいんだ、いいんだ。なにもかももいいんだよ。いいから遊ぼう。みんなで遊ぼうよ」

 顔が悪く頭も悪いが、欲望は人一倍強く、自分のことしか考えない。仕事ができない、気が利かない。基本的なルールやマナーも守れない。人として当たり前のこともできない。

 だからどうした。

 仲間を欺き、陥れ、傷つけることさえしなければ十分。俺たちが人並みに楽しく生きようとすることに何の支障もない。 

「わぁい。大きなクロダイが釣れたぞぉ」

「いいなぁ。こっちはダボハゼばっかりだよ」

 みんなで河口に釣りに出かける。釣り場を指示するのは二十九歳の清田。カッとなりやすい性格で、これまで暴行の容疑で二度もブタ箱にぶち込まれて いるのが玉に瑕だが、釣りの腕前は確かで、素人でも爆釣必至の釣り場をすぐに見つけてくる。

 釣れた魚は俺が調理する。塩焼き、煮つけ、フライ、天ぷら。思い思いの味をみんなと味わい、喜びを分かち合う。

「かっ飛ばせー、前田さん!」

「石川さん、絶対抑えろよぉ!」

 人数が集まれば、グラウンドで草野球をする。中心になるのは、三十三歳、元高校球児で、県大会の四回戦まで進んだ経験を持つ飯田。

「やった!お、俺にも、ツーベースが打てた!は、初めて打てた!」

スポーツは観るのは好きだがやるのは苦手という者が多い非正規の派遣労働者たちだが、近頃は飯田の指導によってメキメキと腕を上げ、バッティングセンターでも快音を鳴らせるようになっていた。

「はぁはぁ、はぁっ。はぁっ」

 少年だった時代を、遠い昔に通り過ぎた男が、歳を取って重くなってしまった身体を揺らし、息を切らせて走り、夢中になって白球を追いかける。

「さぁみんな、エアコンの効いた車の中で、少し休憩しよう。ポカリもあるよ。風邪ひかないように、汗はしっかり拭いてな」

 運動の後の冷たい飲み物は何よりうまい。厭ったらしい労働で流す汗と違い、好きなスポーツで流す汗はサラサラしていて、ニオイもそれほどキツくない。すでに節々が痛み、翌朝の激しい筋肉痛を予感させるが、草野球に熱中する男たちは充足感に溢れ、目は澄み渡っていた。

 ココロキレイマンを駆逐する活動を続けていく中で気づいたのは、いまは非正規の派遣労働の世界で泥水を啜っている者たちも、けして初めからそうだったわけではなく、人生のどこかまでは輝いていた時期もあったということ。

 男は誰しも、もとは淀みなき少年の心を持っているもの。

 ある者は就職に破れ、またある者は夢に破れて、欲と恨みに塗れた大人の心に変異してしまった。

 俺の場合は、女だった。

 女。これにあまりにも受け入れられなさすぎると、男は歪んでいく。

 たかが女のことで笑うヤツもいるかもしれないが、冗談じゃない。俺を笑うヤツらは、地球上人類の半分、三十五億人に嫌われているかもしれないという恐怖を味わい、その汚い口を閉じろ。

 俺が友麻のバカに言いたいのは、あの女は己の容姿が女として最低限度の、これにフラれたらまともな女は諦めなくてはいけないというギリギリのラインにいたことを自覚しろ、ということである。

 これまでまともに女と付き合ったことのない男が、あんな下膨れの、前歯の突き出たビーバーみたいな女にただフラれるだけならまだしも、ストーカー扱いされ、ミソクソに貶されてフラれたら、自分の容姿はとんでもない化け物のようで、今後の人生において、まともな容姿の女を望むのは無理だと思い込んでもしまってもなんらおかしくはない。

 だが実際には、俺は少なくとも友麻には負けてはいない容姿の満智子と付き合うことができた。オカシイのは俺の容姿ではなく、友麻の思い上がりの方だったと証明できた。

 女は男の希望である。容姿に関わらず、すべての女は誰かの女神となれるが、容姿がイマイチにもかかわらず金持ち、イケメン、有能にしか股を開かない女、これは害悪にしかならない。

 アホの友麻は、自分が男に絶望を与えるだけの存在であったことを自覚し、死してもなお、己の所業を「反省」すべきである。そして、俺が友麻を殺害したことを「反省」することは、現時点ではあり得ない。

 ココロキレイマンを疑う男たちと遊んで暮らす日々は楽しい。だが、まだだ。

 美しい美都を腹の下に敷く。それでようやく、俺は友麻をこの世から葬ったことを悔い、ヤツに申し訳なかったと思うことができる。

 美都をこの手に抱く。そこまでできれば、すべての蟠りを捨て去って、まだ傷の痛みを知らなかったあのときの心を取り戻すことができる。

「なんかさぁ、最近、中学の頃を思い出すよ。いや・・小学三年ごろかな。生きるのが楽しくて楽しくて。夜になって布団に入るとき、目が覚めて、明日になるのが楽しみで楽しみで仕方なかった、あの頃みたいだよ」

 スミノフを片手に、夜空に上がった打ち上げ花火を見上げながら誰かが言うと、みんなが「戻りたいよな」「あの頃は良かったよな」と口々に言って、昔を懐かしんだ。

「戻れるさ。きっと戻れる」

 誰にともなく、俺が呟いた。

 そう、きっと戻れる。

 それぞれの理由で心に淀みを抱えてしまった者たちでも、再び少年の心を取り戻すことはできる。その方法は、何も持たない者に、人を憎まず、妬まず、謙虚であり愚痴をこぼさない心を持てなどと無茶を言うココロキレイマンではない。

 まず、己が負け組であり、人を憎み、妬み、傲慢で愚痴ばかりのどうしようもない人間であると認めさせる。それから、何の責任もなく、誰にも期待されない負け組なら負け組らしく、自由に、誰の目も気にせず生きればいいことに気づかせ、張りつめた気持ちを楽にさせる。

 自由であること、それはまさに、己がかつて通り過ぎた時代である、少年の持つ最大の属性であることを自覚すれば、男は少年に戻れるのである。

「間島さん、こんど一緒に、小学校近くの廃墟探検に行こうよ」

「ああ、いいよ。俺も前から行きたかったんだけど、一人では何だか怖くてね。でも飯田さんと一緒なら楽しそうだな」

  いくつになっても青春がしたい。そんなことも素直に言い出せなかった男たちが、影沼の出現によって、充実した交友ができるようになった。

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 自分の気持ちに素直になり、自由に生きる。それはときに、法律を破ることにも及んだ。

 週末、マスクで顔を覆い隠した俺たちは、隣県にまで足を延ばし、夜中に帰宅途中の女を、ワンボックスカーに連れ込んで強姦した。

「ぐへへへ。おで、女の人のおまんこみるの、初めてだよォ。わわ、毛がもさもさしてて、ヨーグルトをふき取った雑巾みたいなニオイがする。はわわァ、おっぱい、柔らかいィ。女の人の身体って、なんてすごいんだろう」

 先陣を切って女を脱がすのは、先日、石黒に食べこぼしを注意された富田。四十の坂を登り始めるまで女を一度も抱いたことのなかった、禿げて腹の突き出た男が、女の一番大事なところの、不浄にして淫猥な臭気を嗅いで恍惚顔を浮かべる。

「やめてっ。やめてくださいっ。ど、どうして。どうして私なんかを・・っ」

 俺たちが襲った女は年齢四十歳以上、顔面醜悪。体重は少なく見積もっても八十キロは超えていると思われた。

 おそらくは、自分が襲われることなどは欠片も想定していなかったであろう、太っていてブスの中年女。たとえ警察に駆け込んでも、強姦の被害者として同情は買いにくく、本気では捜査されないような、太っていてブスの女。

 しかし、太っていてブスの、年齢四十歳以上の女こそが、貧乏、不細工、無能の三重苦を背負い、かつそれを受け入れ、前向きに歩み始めた男たちをもっとも興奮させる、情欲の対象である。

「この子は僕のお嫁さん。ずっとずっと、大切にするんだ・・うっ、うっうっ」

「ちがわーい。この子はみんなのお嫁さんだ。みんなで、大切に、大切にするんだァ、うっ、うっ」

「この子に、僕の赤ちゃんを産んでもらうんだ。元気な、元気な赤ちゃんを、二人で育てるんだぁ。うっううっ、うっ」

 思いの丈を叫びながら、貧乏、不細工、無能の三重苦を背負った男たちが、年齢四十歳以上、太っていてブスの女の中に、己の遺伝子ミルクを注ぎ込む。

「ここに・・僕の赤ちゃんが宿るんだね。このかわいい垂れオッパイから、ミルクが出てくるんだね。パパも一緒に、ゴクゴクしていいかな?」

 好き勝手なことを言いながら、影沼の用意したバイアグラを飲んで、いきり勃ったものが収まらない五十三歳の前馬が、太っていてブスの女の、ナンのように平べったく垂れ下がった乳房、鏡餅のような段腹、萎びた桃のような尻を揉みしだいた。

「う、うぅゥゥうぅおっ。うううぅぅううおっ」

 太っていてブスの女。だが、家に帰れば愛する夫や子供たちが待っているのかもしれない四十歳以上の女が、貧乏、不細工、無能の男たちに身体を好きなままにされて泣き叫ぶ。

「その愛を、何もないこいつらに少しでも振り向けてくれていたら、こんなことにはならなかったのにな」

 一生涯を独身で終わる男には、自分が貧乏で不細工で無能にもかかわらず、女に高望みをしてきたどうしようもない男もいるが、皆がそうではなかった。今宵、レイプカーに集結した男たちの多くは、金もなく、顔も悪く、何の取り柄もない自分にも、せめてこのくらいはという女に狙いを定め、身の丈を弁えた恋愛を望んだ男たちだった。

 世の中の女が、たった一人でもチャンスをくれていたら、こいつらはこんなにならなかった。

 俺たちの中で、取り立てて美人でもない、ごく普通の女に三人以上アプローチして一人もヤレなかった男は、女を犯す権利を得る。

「お、俺の子供を産んでくれ・・」

 白目にイトミミズのような血管を走らせながら、後部座席に身を横たえるおばさんに覆いかぶさろうとする篠田のカウパーを垂らす先端には、経験の浅さを示すように、サーモン・ピンクの色素がたっぷりと残っている。

「い、いやぁっ。いやぁ、いやよぉ。い、あ、あうぅッ、あうぅッ」

 少女から女へ、女から母になり、その母の務めもまもなく終わろうとしている中年おばさんが、生涯で異性とまともな交流を持った時期が一度もなく、中身とちんぽは少年のまま中年おじさんになってしまった男たちに代わる代わる犯されている光景を見て、俺の分身はズボンの中で猛々しく反り勃っていた。

「へへ。へ・・・」

 篠田が夢中になっておばさんを犯す横で、俺も同じように、おばさんの口に赤黒い怒張をねじ込み、窮屈な姿勢で腰を揺すった。

「うっ。うぼゥぶっ、ぐっ・・・」

 ただでさえヒキガエルのような顔に、俺のでかいのを頬張ったおばさんの顔は醜い。醜いのだが、そのブスおばさんに嫌がられて、俺の隆起は蕩ける快楽を発し、背筋を甘美な電流が迸る。

 満智子と付き合って、俺は女と普通に愛し合いながらセックスをすることを知った。それはこの上ない幸せである。だが、時にはまた、地球上の半分、三十五億人の女に嫌われていると思っていたころの俺に戻ってヤリたいと思うこともある。

「い、いくぞっ。う、う、うっ、うーっ」

 自分自身を、友麻のように女として最低限度か、もしくはそれ以下の女にも嫌がられる気持ち悪い男と思ってザーメンを出したときの気持ちよさは、自分を普通の男と思い、普通に女と愛し合いながら出したときにも勝る。

「おぶっ。ぼろっ、ぶっ・・・」

 ブスおばさんの口角から、カルピスの原液よりも濃い俺の白濁がドロリと零れ落ちてきた。

「かっはぁっ。はぁ、青木くん、いっぱい出たねぇ。やっぱ若いなぁ。あっ、お、お、俺もっ。んっくゥ、くわぁっ、かっ」

 篠田も快楽の絶頂に達し、俺に勝るとも劣らぬ量の精液を、おばさんの膣口に吐き出す。

「お、おれ、もう一回っ」

「おれも、おれもっ」

 俺と篠田がおばさんの身体から離れると、じゃんけんで先勝し、すでに一度おばさんを味わった男たちが、あっという間に回復した男根をいきり勃たせて押し寄せる。

 この日に備えて、大好きなセンズリを一週間は我慢してきたという男たちは、久々に、あるいは初めて金を払わずにヤる女の中に、仲良く三発ずつ欲望を吐き出して満足した。

「うんうん。みんな楽しんでくれたみたいで何より。さァ。おばちゃんをそろそろ解放して、帰ってお酒でも飲もうか」

 俺も、彼女もいない男たちに遠慮しながらも二発のザーメンを放ったのだが、俺たちのリーダーである影沼は、おばさんにはまったく手を出さなかった。俺にはそのことが少し引っかかった。

「みんな、今日のおばちゃんの身体はどうだったかなァ?」

「すごくよかった!おっぱいも大きかったし、顔もそんなにゴリラっぽくなかったし!アナルにティッシュの滓もついてなかったし、息がドブ臭くもなかったし!」

 生物として最低レベルのそんな女とも、金を払わなければセックスできなかった男たちが、ただで三発も中出しできた歓喜に咽ぶ。

「うんうん、そうだろうそうだろう。これからも、ちょっとハリはなくなっているけど、シュークリームみたいに柔らかい熟女を車に連れ込んで、グチュグチュに犯していこうなァ」

 醜い中年女の身体を、さも素晴らしいもののように言いながら、影沼が自分で女を犯さないことが気になった。

 そういえば影沼は、俺が死んだ友麻を強姦したときも、俺が友麻を犯すところを眺めるだけで、自分が友麻を犯そうとする素振りはなかった。

 影沼が友麻の身体に興味を示さなかったのは、それは影沼が友麻よりももっといい女を、日常的に抱ける境遇にあるからではないだろうか。

 胸の奥に、近頃充実した生活を送る中で忘れかけていた、湿気含みの嫌な感情が沸き上がってくる。

 川辺美都――。

 世の中で価値のある若くていい女を、影沼はすでに手中に収めているのではないだろうか。

 影沼は贅沢な身の上から、腹の突き出た満智子の身体を有難がっている俺を見下して、あざ笑っているのではないだろうか。

「窓を開けないと。みんながおばちゃんとエッチしたニオイがこもっちゃって、俺までムラムラしてきちゃう」

 咥えたばこで車を運転する影沼の横顔に、俺が猜疑の視線を送っていることを、影沼は気づいていないようだった。
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