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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第185話

「午後の現場の家族は、俺の親だった。俺を追い出したアイツらだけど、俺が頑張っている姿を見たら、家に迎え入れてくれるかもしれないと思っていた。だが、アイツらは俺を無視しやがった。確かに、散々暴れて迷惑をかけたのは事実だ。だが、そもそも俺が苦しむことになったのは、アイツらが俺をこの世に生み出し、まともに育てなかったせいだ。それなのに、自分たちには一切責任がないような態度をとりやがって・・・。もう許さねえ、ぶち殺す」

 反抗期は誰にも訪れるものだが、生活の中でストレスを抱えやすいADHDの子供は、特にその傾向が強い。物事へのこだわりが強い彼らに親の考えを押し付けようとするのは逆効果で、火に油を注いでしまう結果になりかねない。ADHDの子供を持つ親には、鉄の忍耐と適切な対策が求められるが、シゲユキくんの両親に、それはできなかったようだ。

「思っていることを、全部話してごらん。その後にやるというなら、僕は止めはしない」

 かつて、米国のコロンバイン高校で銃乱射事件が起こったとき、犯人の少年二人がファンだったという大物ミュージシャンは、「事件前日に戻れるとして、少年二人にかける言葉はあるか?」という、マスコミのおそらくは悪意のある質問に対し、次のように答えた。

――何もない。ただ黙って、彼らの話を聞く。誰一人としてそれをしなかった。

 頭ごなしに正論を押し付けるだけで、人が変わることはない。犯罪を犯そうとまで思いつめている人間にとっては、正論そのものが敵になってしまっている場合もあるのだから。

 まずはすべて吐き出させる。空っぽになった器にしか、新しいものは入らないのだ。

「どいつもこいつも、俺に我慢我慢と言いやがってよ。我慢して我慢して、じゃあ、俺の幸せはいつ来るんだよ。我慢するだけで一生が終わっちまったらどうすんだよ。俺さえ我慢してれば、みんなが幸せだってか?ふざけんなよ!」

 堪え性のないADHDには、「我慢」という言葉が降り注ぐ機会が実に多い。しかし、ADHDの人生は挫折、失敗の連続である。二つの要素が変な具合に混ざり合うと、こうした歪んだ解釈にもなりかねない。

「社会的に成功したいとかは、別に望まねえよ。それどころか、人並みに勉強や仕事ができるようになりたいとも望まねえ。だけど、友達や恋人くらいはできたっていいじゃねえか。それさえあれば、どれだけ仕事で罵倒されたって耐えられるんだ。でも俺にそれはできねえ。神は俺に、生きる糧すら与えないのかよ」

 彼の悩み自体はごくありふれた、人が満たされて当たり前の欲求である。しかし、「何事も努力の思し召しのままに」の努力教国家である日本では、そういう悩みを打ち明けても、「いいから勉強しろ」と一蹴してしまう人も多い。それはまだいい方で、凄いことに「友達や恋人を作ること」すら、努力の枠内に押し込めて語り、説教の口実にしようとする人さえいる。

 「悩む」ことは悪である。一歩でも躓いて、社会のレールから脱落したらもうアウト。二度と這い上がれない。こんな世の中では、若者は生きづらくなるだけだ。

「タダで死んでたまるか。このままじゃ犬死にだ。どうせなら、最後に自分の想いをぶちまけて、でかいことして死んでやる。宅間みたいにでかいことしてから、死んでやるんだ」

「・・・・・もうじき日の出だ。続きはうちで聞こう。駅までおいで。迎えに行くから」

 シゲユキくんが一しきり自分の思っていることを語り終えたとみて、僕は「生き続ける」側に水を向けた。シゲユキくんはしばし考えた後に了承し、始発を待って僕の家に来てくれた。

「あっ・・・・」

 玄関を開け、室内に招じ入れたときにはまだ血走っていたシゲユキくんの目が、急に穏やかとなる。クロと対面したのである。

「なんだよ、アパートで猫なんか飼っていいのかよ。はは・・・可愛いな」

 凶悪犯罪者の生い立ちを調べてみると、どこかで動物を虐待していたという実例が見つかるケースが多い。やがてエスカレートし、人間に危害を加えるようになるのである。裏を返せば、動物を愛することができるなら、その人は根っからの悪人ではない。少なくともその可能性は高い。

「僕はもう寝るから。シゲユキくんも、休むといい」

 大会の規則では、一般人と同棲することは禁じられているが、一晩くらいならば、委員会もうるさいことは言ってこないだろう。今回は非常時でもある。少なくとも、ただちに僕を失格処分するといった話にはならないだろうという確信はあった。

 床に就き、昼頃起きて見ると、シゲユキくんはまだクロと戯れていた。シゲユキくんの膝に乗ってじゃれつくクロ。さっきよりも格段に、親密度が深まったようである。

「こいつ、本当にかわいいなあ。名前はなんていうんだい?」
 
「クロだよ」

「そっかあ。クロかあ。おい、クロ。楽しいなあ」

 弾けるようなシゲユキくんの笑顔とクロの姿を見て、僕に一つの提案が浮かんだ。

「シゲユキくん、クロを飼ってみるかい?」
 
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第184話

 
 自由が丘の新しい現場で、午後の作業が始まった。午後イチは一日で最も暑い時間帯である。休み休み行きたいところだが、お客さん相手の商売ではそうは言っていられない。疲れた体に鞭を打って、働かなければならない。僕も音を上げそうだったが、ここで意外なことが起こる。

「おっ。兄ちゃん、気合入ってんじゃねえか」

「はい。ガンガンやりますよ」

 新しい現場に入った途端、シゲユキくんが、人が変わったように働き始めたのである。まさに、突然スイッチが入ったという感じだった。

「シゲユキくん、無理はするなよ」

「ヘーキ、ヘーキ。たっちゃん、これ一緒に運ぼうぜ」

 一体、どういう風の吹き回しなのだろうか。休憩時間中に放たれた、彼の心の叫びとも言うべき言葉とも矛盾する態度に、僕も戸惑いを隠せない。

 関係ない話だが、もう一つ・・。現場の家族の様子が、どこかソワソワしているというか、気まずそうな感じなのが気にかかる。勝手なイメージだが、引っ越しというと、新天地での生活に心躍り、むしろ気分は高揚するように思うのだが、ここの家族からはまったくそうした雰囲気が感じられないのである。

 人それぞれ、色々な事情がある。シゲユキくんにしろ、家族にしろ、余計な心配なのかもしれない。だが、逃亡生活を続ける身の上としては、些細なことが気になって仕方がない。

 周囲に神経を張り巡らせながら仕事を続けていたが、結局最後まで変わったことは起こらず、無事に勤務が終わった。シゲユキくんの頑張りのお蔭で、予定よりも少し早い解放である。

「俺らはこれから産廃の処理に行かないといけないから駅まで送ってやれないけど、大丈夫か?」

「ええ。どうにか歩いていきますから」

「そうか。じゃあ、今日頑張ってくれたから、これ。ジュースでも買ってけよ」

 そういって、社員はシゲユキくんに小銭を渡す。

「朝は厳しいこと言って悪かったな。あまり気にすんなよ。俺らも時間が押してたから偉そうにあんなこと言ったけど、本当はサボりたいんだ。なーに、イタリア人なんかから見りゃ、クソ暑い夏に働いてるだけで、日本人はおかしく見えてるんだから、世界全体で見たら兄ちゃんなんか働き者の方なんだよ。今度、余裕あるときに来てくれたら、休み休みやらしてあげるからよ。じゃあな」

 気持ちのいい笑顔を残して、社員はトラックで去って行った。 

 世の中、無茶を言ってくる人ばかりではない。頑張れば認めてくれるし、話のわかる人もいる。怠け者や無能者といわれる人でも、意外と何とかやれることもある。

 シゲユキくんも、こうした経験から少しづつ自信を取り戻してくれればいいのだが、それはやはり日雇いの派遣では難しいか。一般派遣なら、人材に定着してもらおうと、会社側も色々気を使ってくれる場合が多いが、日雇いの派遣は、条件で揉めようが過酷な仕事でぶっ倒れようが後腐れがない使い捨てのため、どうしてもスタッフの扱いはぞんざいになりがちである。

 シゲユキくんはせめて一般派遣に戻ったほうがいいが、彼はいくつもの派遣会社でお払い箱になった「派遣難民」である。待遇がマシな大手は軒並みアウトになってしまっているし、彼自身、派遣に不信感を持ってしまっている。もしかしたら、ブラックリストのようなものも出回っているかもしれない。現状は中々厳しい。

「あの・・・たっちゃん、昼休み、ごめんな。俺、ちょっとムキになりすぎたよ。どうか嫌いにならないでくれよ」

 シゲユキくんが、今にも泣きだしそうな顔で頭を下げる。これまでの人生において、何度もトラブルで人間関係が壊れることを経験してきた彼は、どん底の状態で新しく得た友人である僕を失うまいと必死である。

「気にしてないよ。さあ、駅へと行こう」

 携帯の地図を見ながら、僕とシゲユキくんは連れ立って歩き始める。

「お、たっちゃん、夏祭りがやってるぞ。ちょっと覗いていこうぜ」

 シゲユキくんに手を引かれ、僕は出店が立ち並ぶ公園に入っていった。

「お面屋があるぞ。あ、顔マンコ怪獣だ。コイツ、宇宙恐竜っていうけど、全然恐竜っぽくないよな」

 シゲユキくんに不名誉な名前で呼ばれるのは、「ウルトラマン」シリーズに登場する怪獣、ゼットンである。

 昨年、国民栄誉賞を受賞したプロ野球の伝説的人物を見るとわかるように、発達障害は人や物に独特の呼び名をつけることがある。発想が自由なのだ。

「夏祭りなんか久々だよ。たっちゃん、ナンパでもしてみようぜ。たっちゃんはイケメンだから、きっと一人くらい持ち帰れるよ」

 僕を立てるシゲユキくんだが、シゲユキくんの容姿だって、なかなかどうして、男前ではないか。彼は今まで女性には縁がなかったそうだが、そんなに焦らなくても、いつかきっと素敵な彼女ができるだろう。しかし、彼は自分の容姿を極端に醜いものと思い込み、激しいコンプレックスを抱いているようである。

 実際は卑下することは何もないのに、思い込みで損をしている人は多い。他人から見れば単なるバカバカしい思い込みでも、本人にとっては確かな実体験の上で作られた考えだから、それは信念に近いものになってしまっている場合が多い。単に言ってあげるだけで直るものではなく、何かしらの根拠が必要だ。僕はいるだけでいいなら、ナンパもいいかもしれない。

「なんだよ、全然だめじゃねーか。ま、いくらたっちゃんがイケメンでも、こんな汗臭くっちゃ無理か。今日のたっちゃん、俺よりくせーぞ。はははは」

 ナンパはことごとく失敗に終わったのに、シゲユキくんは大はしゃぎである。二十歳を越えた大人で、こんなに無邪気な笑顔を浮かべられる人はそうはいない。発達障害は良くも悪くも天真爛漫、感情表現が実に豊かである。

 こんな笑顔を浮かべられるヤツが、どうしてこんなに追い詰められてしまうのだろう。人と同じようにできないことが、そんなにダメなのか?人とちょっと違う考えなのが、そんなにダメなのか?ツイッターの炎上騒ぎなどに象徴されるように、今の社会は、「行儀のよさ」を過剰に求めすぎてはいないか。

「今日は楽しかったよ。じゃ、またな。たっちゃん」

 駅について、僕とシゲユキくんは別れた。人間生きてりゃ、楽しいことだってある。シゲユキくんがそう思ってくれたなら良かったと、安心して床に着いたのだが、真夜中にかかってきた一本の電話で、また不穏な気配が訪れる。

「今、自由が丘にいる。午後に行った現場の家族を、これから殺す」

 シゲユキくんの声は、夏祭りのときとは打って変わった、暗い湿気を帯びていた。
 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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